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モノケロガヤが私たちを連れて行ったのは、王族しか入れない、秘密の地下室。
部屋の中心には、光り輝く宝珠が、回転しながら浮いている。
宝珠の前には、お父様が無理矢理正装させられて、兵士に拘束されていた。
「宝珠と、鬼神棒。この二つを得る時が来た」
モノケロガヤは、感極まっている。
宝珠はよく見ると、キラキラ輝く細い糸が纏わりついていた。
死なずの鬼蜘蛛の糸。やっぱり宝珠にも仕掛けられていたのね。
シュラはさりげなく、モノケロガヤに質問する。モノケロガヤは、シュラが変身した姿だとは、気づいてないみたい。
「ねぇ、モノケロガヤ」
「なんでしょう、ウドレッダ姫」
「あの、キラキラした糸はなーに?」
「おや、見えるのですか、ウドレッダ姫」
「ええ」
「あれは死なずの鬼蜘蛛の糸と言いまして」
「へぇ……」
「繭玉を持つものの意に従い、糸にかけたものに望みの条件をつけられるのです」
「条件?」
「例えば鬼の長の鬼神棒に仕込んだ糸は、鬼の長が鬼神棒を使った時に、人を殺めやすくするようにと、条件をつけておりました」
やっぱり。悪鬼に堕とそうと、ね。
モノケロガヤは、宝珠の方を向いて、両手を広げて立っている。
その間に、ウドレッダ姫に変装したシュラは、持っていた繭玉をそっと落として、足で踏んづけた。
ピュン。
何かが弾ける、微かな音が懐から聞こえる。
私はすぐに懐に収まっている鬼神棒を見ると、鬼神棒に絡まっていた糸が、消し飛んでいるのが見えた。
ほ、これで鬼神棒をシュラに返せるわ。
シュラは、ウドレッダ姫の姿のまま、モノケロガヤに尋ねた。
「では、宝珠に絡まった糸はなんのために?」
「私と共に消滅するようにです、ウドレッダ姫」
「!?」
「宝珠に結びつけた糸の繭玉は、私の心臓の近くに埋めました。事が成せずに私が死んだら、宝珠もまた砕けるようにと」
心臓の近くに!?
じゃ、彼の胸を開かないと手に入れられないの!?
「なぜ、そんな?」
シュラも呆れたような顔で、モノケロガヤを見ている。
「私が神になれずに、一人滅びても、この世がその後も何事もなく続くなんて許せません。宝珠は砕け散れば、この王国は混沌に戻り、鬼の世界には、永遠の闇が訪れる。そうあらねば」
「まあ、勝手ねえ」
「私が生きている限りは、問題ありません。さあ、元皇太子よ。ウドレッダ姫に、所有権の譲位を宣言されませ」
「……」
「ご家族を失われますか?」
「モノケロガヤ……貴様を───殺してやりたい!!」
「この王国の恵みを一瞬で失い、国民が飢えと渇きに苦しみながら滅びていいのなら」
「く!!」
「できますまい? 慈悲深き元皇太子。初代ストロベリ王のように、あなたは民を見捨てる事ができぬお方ですから」
「く……この……!」
「権力争いの罠にかかり、クローディア様に、全てを背負わせる形であなた方は生き延びた。父親としても、王としても、あなたは惨めだ」
「!!」
「せめて、民を守ることを最後の矜持とすればよい。さあ、宝珠に向かって所有権の譲位を願いなさい」
「……」
「今は亡き、クローディア様に詫びるつもりで」
「!! ク、ク、クローディア……すまない」
お父様が、床に頭を打ちつけて私の名を呼ぶ。
お父様……お父様やめて!!
せめて繭玉を、モノケロガヤから取り出せたら……!
私に……できるかしら。
シュラの方をチラリと見ると、指を一本たてて、胸を裂くような動作をする。
私が?
そうだ……下手にモノケロガヤが死んだりしたら、宝珠が砕けてしまう。
私なら注意が向けられていない。
私が……私なら!!
額のお札を剥ぎ取り、私は鬼神棒をモノケロガヤに向けた。
お願い……成功させて!!
「む!?」
モノケロガヤが、気配を感じて慌てて私の方を振り向く。
「な、なぜだ!? 調伏が不完全だったのか!?」
すぐに印を切ろうとするモノケロガヤを、シュラが背後から羽交い締めにした。
「ウドレッダ姫!?」
モノケロガヤが、驚いて固まる。
彼の後ろから、私を覗き込むシュラは笑顔で声をかけてきた。
「クローディアならできる。やれ!」
「な!? 貴様……ウドレッダ姫ではないな!?」
「今頃気づいてもおせーの。繭玉の場所さえわかれば、こっちのもんだ」
「が! まさか、鬼の長はお前のほうか!? だ、誰か!!」
その声で、兵士たちが群がろうとする。けれど、ソラメカが取り憑いた兵士が素早く気絶させて、扉を閉めた。
「小娘! 早くしろ!! 加勢がくれば扉が破られる!!」
ソラメカの叫び声を聞きながら、私は全神経を鬼神棒に集中させた。
血を吹き出させれば、シュラが狂う原因になる。先ずはモノケロガヤの意識を奪う!!
「あが……が」
強く念じると、モノケロガヤが泡を吹いて、気絶した。
ふう、まずは一つ。
ぐったりしたモノケロガヤを床に寝かせ、ウドレッダ姫に変身したままのシュラが、私の手を握って、鬼神棒を向けさせた。
「俺たちの変身を解くぞ」
「ええ」
私たちは、元の姿に戻る。お父様が驚いて、私たちを振り向いた。
「クローディア!? お前……!」
「お父様、説明は後で。今はこれを!!」
私は鬼神棒で、モノケロガヤの胸を開くよう念じた。
血を抑えて……生きたまま、繭玉だけを取り出すの。
モノケロガヤの胸の皮膚が、ゆっくり開いていった。
初めて見る、人間の胸部。
思わず、怖くなる。
「心を乱すな。鬼神棒が暴走してしまう」
シュラが私の肩を抱いて、落ち着かせてくれる。そうよね……落ち着いて。
なんとか、血を一滴も流さずにすませないと。
繭玉は、どこ?
目を凝らすと、脈打つ心臓のすぐ下に、小さな繭玉が見えた。
あった!!
おいで……こっち。
繭玉は、ふわりと浮いて外に出てきた。
後は塞げばいいのね。
バン!!
その時、大きな音が響いた。
扉の外に増援の兵士たちが来たんだ。
「クローディア、気をしっかりもて」
「ええ」
開いた胸が塞がるように念じると、ゆっくりと胸の皮膚が合わさって傷が消えていく。
ふう……繭玉は……?
私の足元に、繭玉がゴロンと転がっている。
思いっきり足で踏みつけると、宝珠に絡まっていた糸が、音を立てて消失した。
ドンドン!!
扉の外から、兵士たちが叩いてくる。ソラメカが取り憑いた兵士の力では、もう抑え切れないほどの人数がきているみたい。
「ソラメカ、もういいわ」
「小娘?」
「お父様、お立ちください」
「クローディア」
「今は、お父様が王です。今こそ王権を取り戻す時です」
「し、しかし」
「お父様は、一部の臣下以外からは亡くなったと思われています。国民の前に、姿を見せましょう」
「!」
「私が、お父様を守ります。シュラも、鬼の長も承認してくれます」
お父様がシュラを見る。
シュラは、大きく頷いてくれた。
お父様は私を抱き締めると、宝珠に手をかざした。宝珠はお父様の手元に降りてくる。
バキバキ、バーン!
扉が破れて、兵士がなだれこんできた。私は鬼神棒を向けて、彼らの立つ床に足を埋めさせる。
「な、なんだ!」
「足が!!」
お父様が、そんな彼らに大声をあげた。
「反乱軍め!!」
「な!?」
「お、おい、宝珠を持ってるぞ。次の王だと、認められてるんだ!」
「テス王と一緒に失脚して、モノケロガヤが次の王になるんじゃなかったのか?」
「やべ……」
「貴様らの顔は覚えたぞ! モノケロガヤにくみした、私欲の塊どもめ!! 今日から私がくだす制裁に、怯えるがいい!!」
お父様は、動けない彼らの真ん中を抜けて、城壁に立った。
国民は皇太子が生きていたことに驚き、その日のうちに即位式が執り行われて、新たな王として即位した。
部屋の中心には、光り輝く宝珠が、回転しながら浮いている。
宝珠の前には、お父様が無理矢理正装させられて、兵士に拘束されていた。
「宝珠と、鬼神棒。この二つを得る時が来た」
モノケロガヤは、感極まっている。
宝珠はよく見ると、キラキラ輝く細い糸が纏わりついていた。
死なずの鬼蜘蛛の糸。やっぱり宝珠にも仕掛けられていたのね。
シュラはさりげなく、モノケロガヤに質問する。モノケロガヤは、シュラが変身した姿だとは、気づいてないみたい。
「ねぇ、モノケロガヤ」
「なんでしょう、ウドレッダ姫」
「あの、キラキラした糸はなーに?」
「おや、見えるのですか、ウドレッダ姫」
「ええ」
「あれは死なずの鬼蜘蛛の糸と言いまして」
「へぇ……」
「繭玉を持つものの意に従い、糸にかけたものに望みの条件をつけられるのです」
「条件?」
「例えば鬼の長の鬼神棒に仕込んだ糸は、鬼の長が鬼神棒を使った時に、人を殺めやすくするようにと、条件をつけておりました」
やっぱり。悪鬼に堕とそうと、ね。
モノケロガヤは、宝珠の方を向いて、両手を広げて立っている。
その間に、ウドレッダ姫に変装したシュラは、持っていた繭玉をそっと落として、足で踏んづけた。
ピュン。
何かが弾ける、微かな音が懐から聞こえる。
私はすぐに懐に収まっている鬼神棒を見ると、鬼神棒に絡まっていた糸が、消し飛んでいるのが見えた。
ほ、これで鬼神棒をシュラに返せるわ。
シュラは、ウドレッダ姫の姿のまま、モノケロガヤに尋ねた。
「では、宝珠に絡まった糸はなんのために?」
「私と共に消滅するようにです、ウドレッダ姫」
「!?」
「宝珠に結びつけた糸の繭玉は、私の心臓の近くに埋めました。事が成せずに私が死んだら、宝珠もまた砕けるようにと」
心臓の近くに!?
じゃ、彼の胸を開かないと手に入れられないの!?
「なぜ、そんな?」
シュラも呆れたような顔で、モノケロガヤを見ている。
「私が神になれずに、一人滅びても、この世がその後も何事もなく続くなんて許せません。宝珠は砕け散れば、この王国は混沌に戻り、鬼の世界には、永遠の闇が訪れる。そうあらねば」
「まあ、勝手ねえ」
「私が生きている限りは、問題ありません。さあ、元皇太子よ。ウドレッダ姫に、所有権の譲位を宣言されませ」
「……」
「ご家族を失われますか?」
「モノケロガヤ……貴様を───殺してやりたい!!」
「この王国の恵みを一瞬で失い、国民が飢えと渇きに苦しみながら滅びていいのなら」
「く!!」
「できますまい? 慈悲深き元皇太子。初代ストロベリ王のように、あなたは民を見捨てる事ができぬお方ですから」
「く……この……!」
「権力争いの罠にかかり、クローディア様に、全てを背負わせる形であなた方は生き延びた。父親としても、王としても、あなたは惨めだ」
「!!」
「せめて、民を守ることを最後の矜持とすればよい。さあ、宝珠に向かって所有権の譲位を願いなさい」
「……」
「今は亡き、クローディア様に詫びるつもりで」
「!! ク、ク、クローディア……すまない」
お父様が、床に頭を打ちつけて私の名を呼ぶ。
お父様……お父様やめて!!
せめて繭玉を、モノケロガヤから取り出せたら……!
私に……できるかしら。
シュラの方をチラリと見ると、指を一本たてて、胸を裂くような動作をする。
私が?
そうだ……下手にモノケロガヤが死んだりしたら、宝珠が砕けてしまう。
私なら注意が向けられていない。
私が……私なら!!
額のお札を剥ぎ取り、私は鬼神棒をモノケロガヤに向けた。
お願い……成功させて!!
「む!?」
モノケロガヤが、気配を感じて慌てて私の方を振り向く。
「な、なぜだ!? 調伏が不完全だったのか!?」
すぐに印を切ろうとするモノケロガヤを、シュラが背後から羽交い締めにした。
「ウドレッダ姫!?」
モノケロガヤが、驚いて固まる。
彼の後ろから、私を覗き込むシュラは笑顔で声をかけてきた。
「クローディアならできる。やれ!」
「な!? 貴様……ウドレッダ姫ではないな!?」
「今頃気づいてもおせーの。繭玉の場所さえわかれば、こっちのもんだ」
「が! まさか、鬼の長はお前のほうか!? だ、誰か!!」
その声で、兵士たちが群がろうとする。けれど、ソラメカが取り憑いた兵士が素早く気絶させて、扉を閉めた。
「小娘! 早くしろ!! 加勢がくれば扉が破られる!!」
ソラメカの叫び声を聞きながら、私は全神経を鬼神棒に集中させた。
血を吹き出させれば、シュラが狂う原因になる。先ずはモノケロガヤの意識を奪う!!
「あが……が」
強く念じると、モノケロガヤが泡を吹いて、気絶した。
ふう、まずは一つ。
ぐったりしたモノケロガヤを床に寝かせ、ウドレッダ姫に変身したままのシュラが、私の手を握って、鬼神棒を向けさせた。
「俺たちの変身を解くぞ」
「ええ」
私たちは、元の姿に戻る。お父様が驚いて、私たちを振り向いた。
「クローディア!? お前……!」
「お父様、説明は後で。今はこれを!!」
私は鬼神棒で、モノケロガヤの胸を開くよう念じた。
血を抑えて……生きたまま、繭玉だけを取り出すの。
モノケロガヤの胸の皮膚が、ゆっくり開いていった。
初めて見る、人間の胸部。
思わず、怖くなる。
「心を乱すな。鬼神棒が暴走してしまう」
シュラが私の肩を抱いて、落ち着かせてくれる。そうよね……落ち着いて。
なんとか、血を一滴も流さずにすませないと。
繭玉は、どこ?
目を凝らすと、脈打つ心臓のすぐ下に、小さな繭玉が見えた。
あった!!
おいで……こっち。
繭玉は、ふわりと浮いて外に出てきた。
後は塞げばいいのね。
バン!!
その時、大きな音が響いた。
扉の外に増援の兵士たちが来たんだ。
「クローディア、気をしっかりもて」
「ええ」
開いた胸が塞がるように念じると、ゆっくりと胸の皮膚が合わさって傷が消えていく。
ふう……繭玉は……?
私の足元に、繭玉がゴロンと転がっている。
思いっきり足で踏みつけると、宝珠に絡まっていた糸が、音を立てて消失した。
ドンドン!!
扉の外から、兵士たちが叩いてくる。ソラメカが取り憑いた兵士の力では、もう抑え切れないほどの人数がきているみたい。
「ソラメカ、もういいわ」
「小娘?」
「お父様、お立ちください」
「クローディア」
「今は、お父様が王です。今こそ王権を取り戻す時です」
「し、しかし」
「お父様は、一部の臣下以外からは亡くなったと思われています。国民の前に、姿を見せましょう」
「!」
「私が、お父様を守ります。シュラも、鬼の長も承認してくれます」
お父様がシュラを見る。
シュラは、大きく頷いてくれた。
お父様は私を抱き締めると、宝珠に手をかざした。宝珠はお父様の手元に降りてくる。
バキバキ、バーン!
扉が破れて、兵士がなだれこんできた。私は鬼神棒を向けて、彼らの立つ床に足を埋めさせる。
「な、なんだ!」
「足が!!」
お父様が、そんな彼らに大声をあげた。
「反乱軍め!!」
「な!?」
「お、おい、宝珠を持ってるぞ。次の王だと、認められてるんだ!」
「テス王と一緒に失脚して、モノケロガヤが次の王になるんじゃなかったのか?」
「やべ……」
「貴様らの顔は覚えたぞ! モノケロガヤにくみした、私欲の塊どもめ!! 今日から私がくだす制裁に、怯えるがいい!!」
お父様は、動けない彼らの真ん中を抜けて、城壁に立った。
国民は皇太子が生きていたことに驚き、その日のうちに即位式が執り行われて、新たな王として即位した。
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