不遇弓使いの英雄譚ー無敵スキル『絶対反転』を得て救世主となる

たからかた

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四章

白狐の面影

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シャーリーもイルハートも、この状況で何もせず、呑気なおしゃべりをしている。

「早速、お触りしてんのねぇ」

「触るだけにしてよ! まったく」

「まあ、あのお嬢ちゃんがぼうやから離れるきっかけになれば、やりやすくなるけどぉ」

「イルハート? 誰のことを言ってるの?」

「ふふ……なんでもないわ、シャーリー。いざという時は───すれば、───は手に入るぅ……」

なんの話だ? イルハートのやつ。
何か企んでるな。

相変わらずのポーカーフェイスで、素知らぬふりがうまい。

フィオと顔見知りであると、こいつらにばれないために、ネプォンを止めることもしないだろう。

だが……だが……!!

ベタベタしてくるネプォンに、俺の限界も近い。

本当に頭にくる!

心底嫌がってる相手に無理矢理触れるのは、欲望優先の無神経な下衆野郎のすることだ。

こういう衝動は、普通理性で抑えるものだろ!?

フィオに変身して、わかった。勝手に触れようとしてくる男の手は、こんなに嫌なものなんだな。

好意がない限り、ただただ迷惑で、気持ちの悪いものでしかない。

……俺も、気をつけよう。

ん? 今度はなんだ?

ネプォンは、俺の肩を抱き寄せて唇を突き出してきた。

ま、まさか……!

「ねぇ、キスしよう」

ゾワゾワ!!
全身に鳥肌がたつ。

気持ち悪いこと、言うんじゃない!!

「やめてください!! 本当に嫌なんです!」

ガタン! ガタガタ!
動揺したために、馬車が制御不能になり始める。

「ちょっとー、ちゃんとしてよぉ」

「お尻が痛くなるじゃない、グライア神官。あんた、まともにやれないの?」

イルハートもシャーリーも、迷惑そうに声をかけてくるだけ。

お、お、お前ら……!!

完全に他人事、無関心。
女同士はこういう時、助け合うと思っていた。

だが、こいつらは違う。
呑気にあくびをしたり、景色を見たり。

『知ったことじゃない。迷惑だけはかけないで』と言わんばかり。

ここにいるのが、フィオじゃなくて本当によかった。

こんなことをされるなんて。おまけに、誰にも助けてもらえないなんて辛すぎる。

揺れる馬車の中で、しつこくキスしようとするネプォンに、俺はもう一度言った。

「やめてください!!」

「そんなに、嬉しいんだ?」

「違います!! あなたが、嫌いだから嫌なの!!」

「またまた、嬉しいくせに」

いつ、そんなこと言った!?
お前の頭は、どんだけお花畑なんだよ!!

ネプォンは、俺の拒絶を気にもしていない。

「俺は魔王を倒した英雄だぜ? そんな俺と過ごせるんだ。喜べよ」

何が喜べだよ。
相手が誰だろうと、『嫌なものは嫌』に決まってる。

どう思うかまで、なんでお前が決めるんだよ。

手綱を握る手が、プルプル震え始める。
フィオ、ごめん。

フィオは、暴力に訴えることはしないだろうけど、忍耐も限界だ。

俺なりに言葉を尽くしたよ。
態度にも出した。
でも、こいつの行動は止まらない。

ネプォンは、吐きそうになる俺の隣で、呑気に顔を寄せてくる、

「顔が赤いね、その顔はキス待ちしてるんだろ?」

顔が赤いのはなぁ───俺の怒りのボルテージが上がってきてるからだ!

もう、無理だ。

やめろと言ってるのに……この! 下衆以下のクソ野郎!!

ガタン!
馬車が小石に乗り上げて、ネプォンがその勢いのまま、俺に顔を近づけてくる。

「寄るな!! セクハラ野郎!!」

ゴツん!!

咄嗟に俺は、奴の顔に渾身の肘鉄をいれてしまった。

やばい!

ネプォンは鼻血を吹き、両手で顔を抑えている。

「いってぇ!!」

思いの外クリーンヒットしてしまった。ま、まずい。本気を出してしまった。

しかも、口調が……乱れた。

ビクビクする俺の後ろで、シャーリーが盛大に吹き出した。

「あははは! 最高! グライア神官、見直したわ!!」

腹を抱えて笑い転げる彼女に、ネプォンが腹立たしそうに喚く。

「うるせぇ! 黙れ! シャーリー!!」

「バチが当たったのよ! あんたのラック値も、落ちたんだわ」

「喧しい! んなわけあるか!! おい、お前───!」

ネプォンが、肩を掴んでくる。怒らせたか。
前はお前が俺の顔を殴って、鼻血吹かせてたよな。

「すみません、つい……」

俺は一応、すまなさそうに謝罪した。
ネプォンは、怒りの眼差しで睨んでくる。

「治せ! 今すぐだ!」

ギク!

「い、今は馬車を走らせてますから、後から」

「ふざけんな! 大聖女候補として、霊力が高いなら、できるだろーが!!」

やばい。俺はフィオじゃないから、癒しの魔法はかけられない。

どうするか───。

「やんなくていいわよ、グライア神官。そのままがお似合いよ、ネプォン」

と、シャーリーが言うと、またネプォンと喧嘩しだした。

このままじゃ、いずれバレてしまう。

……ん?

ガサッ、タタッ、タタッ。
なんだ? 獣の走る音?

その時、視界の端に真っ白い何かが見えた。
草木に隠れながら、距離をとって馬車と並走している何か。

ドクン……ドクン。

心臓が早鐘を打ち始める。
まさか……まさか!

横から細く白い光が、高速でスーッと飛んでくると、フェイルノを隠した上着の中に入ってきた。

!!

思わずネプォンたちの方を見たけど、気づかれていない。

俺は、こっそり上着の中のフェイルノを覗き込んだ。

フェイルノは、目を光らせて俺を見上げる。

「アーチロビン」

小声ではっきりと、フィオの声でフェイルノは俺を呼んだ。

フィオ!!

思わず俺も名前を呼びそうになるのを、全身に力を入れてグッと堪える。

帰ってきた……帰ってきたんだ!!

「ただいま、アーチロビン」

「……おかえり!」

俺は手綱を握る手に、さらに力を入れて小声で応える。

横を見ると、一瞬だけこっちを見ながら走る白狐の姿が見えた。

尻尾が九本……九尾の白狐の姿。
獣形をとって走ってきたんだ。

「何、よそ見してんだよ!」

ネプォンが、俺の肩をもう一度掴む。
奴の怪我を治すまで、この場が収まらないだろうな。

俺はフィオの祈りの書を膝の上に開くと、上着の中のフェイルノをチラリと見つめる。

フェイルノは、フィオの声で詠唱を始めた。

「癒しの泉を司る聖なる天使、ユキア。女神ルパティ・テラの名の下に、泉の雫を分け与えたまえ、ピュアキュア」

俺は口パクで、タイミングを合わせる。

祈りの書がカッと光って、ネプォンの傷が一瞬で治った。

ネプォンは、鼻を拭って血を拭き取ると、俺の方を細目で睨みつける。

「可愛い顔して、嫌な奴だ。黙って大人しく抱かれりゃいいものを。『女』はそういう生き物なのに」

だそうだ。
アホか、こいつ。

何をどうすれば、そんな結論になるのかわからない。

単に、“拒否しない女”にばかり出会ってきただけでは?

「俺に迫られて、喜ばねー女なんか、ゴミ以下だからな!!」

耳元で怒鳴られて、心底軽蔑する。
ああ、そうかい。

悔しいから、怒鳴るんだろ?

そう思っていると、前方に不透明な膜が貼られたエリアが見えてきた。

俺は馬車をとめる。

結界か……?

大魔導士イルハートが、ロッドを光らせて調べていた。

「結界よ、ネプォン。この先へ進めば、ゾンビダラボッチを倒すまで出られないわぁ」

彼女にそう言われたネプォンは、結界を見つめて質問する。

「絶対出られない、だな? イルハート」

「ええ」

「よし、シャーリー」

「何よ」

「さっさと入れ。そして、ニ度と出てくるな」



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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