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フィオ視点
帰還を信じて
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※フィオ視点
あれからニ年……アーチロビンは帰って来なかった。
何度も彼が落ちた海を探したけれど、見つけたのは海面に浮かんでいたフェイルノの羽根一枚だけ。
彼が、最後まで守ろうとした小さな港町には、シールドが届かないため、都市部へと退避勧告が出ていたそうなの。
でも、動けないお年寄りや、体の不自由な人々の移動が間に合っていなかった。
アーチロビンのおかげで、魔王の城の瓦礫の直撃を受けず、町とみんなの生活は守られたの。
彼らしい……一度壊れたものは、簡単には戻らないことを、知っているから。
都市部とか、地方とか、大きい、小さいも関係ない。彼は、本当に優しい人。
でも、そこまでした彼は、どこへ行ってしまったのか。
魂が冥府に去った気配はなく、魔導士ティトは、龍穴を抜けて龍脈を巡っている可能性があると、教えてくれた。
龍脈……全世界を巡る力の流れ。龍は怪我を負うと、龍穴を抜けて龍脈に入り込み、傷を癒すのだという。
龍穴は世界中にあって、龍脈はその数も多い。
いつ出て来るのか、どこから出て来るのか、本当に龍脈の中にいるのか、全然わからないけれど……。
彼はきっと戻って来る。
そう信じて、出来ることをすることに決めたの。
大魔導士イルハートは、アーチロビンは死んだと決めつけて、あっさり彼のおじいさんを解放した。
魔導士ティトがすぐに助けて、一緒に暮らしてる。長い間、互いを思い続けた二人がようやく結ばれて、私もみんなもとても嬉しい。
聖騎士ギルバートは、暗黒騎士ヴォルディバの後を継いで、将軍に昇格。
今は軍を統括する立場にある。
ケルヴィン殿下は、ネプォン王と離婚して女王として即位したヘレン女王を補佐するため、宰相に就任。
私は……私はオベリア様の強い推薦を受けて、大聖女になった。
でも、あくまでアーチロビンが見つかるまでと約束して。
後継を育て、日々大聖女の勤めも果たしてる。
それは、いつか、アーチロビンと一緒に生きるため。
後悔なんてしない。
彼を愛し、彼に愛されたあの日々を決して忘れないもの。
今日も忙しい合間を縫って、彼が落ちた海の近くの浜辺に来ている。
場所はゾンビダラボッチと戦った、トゥンカル・ミズ国の端にある、小さな港町の浜辺。
彼が、最後まで諦めずに救ったあの港町。
今はちょうど夜。
夜の海はとても静か。
「アーチロビン」
波打ち際に立ち、海に向かって呼びかける。
目を閉じると、オメガゴーレムに襲われそうになった時に、助けに来てくれた彼の姿が思い浮かんだ。
『来たよ、俺だ』
耳に残る彼の声。
また、あの声を聞きたい。
必ず……必ずもう一度。
「あら、大聖女様じゃない」
ふと、知った人の声がした。
感傷に浸る私のそばに、ある人が近づいて来る。
「シャーリー……様」
「たった一人で、お忍びなんて、不用心ですこと」
「シャーリー様こそ、なぜここへ?」
「当然、あんたに会うためよ。積み重なった恨みつらみを、聞いてもらわないとね!」
「ゾンビ因子を浄化して、常人に戻れたのに、まだご不満があるのですか」
「オベリア様すらできなかったことをやってくれて、感謝してるわ。でも、代わりに霊力を失って今や庶民よ!?」
「……」
「おまけに、私が咬んでゾンビ化させてしまった神官たちに、一年間の奉仕活動までさせてくれちゃって。本当、屈辱でしかない」
「それで許してくれた彼女たちに、感謝すべきでは?」
「うるっさいわね! 下っ端が上役の被害者になったから、て、償わなきゃいけないなんて考え方がおかしいのよ!」
「そうは思いません」
「生意気! 本当に生意気!!」
「シャーリー様は、今はネプォン元国王とお過ごしだと聞いております」
「は! あいつは、ちっさい小悪党に成り下がったけど、勘だけは鋭いわ。そのうち、イルハートも捕まえて、三人でやり直すのよ」
「まだ彼女を追いかけ回して……」
「あの女だけ、いい目に遭わせるわけないわ。ヴォルディバだって……」
「ヴォルディバを見つけたのですか?」
「消息不明よ」
「そう……ですか」
「あいつの恨みの分も、仲間を捨てたイルハートに償わせないとね」
「ネプォン元国王も、同罪では?」
「あ、あいつはいいの」
「……」
「イルハートに、自慢してやるわ。ネプォンはもう、私の恋人だし」
「イルハートは、大して悔しがらないと思います。彼女はネプォン元国王を、愛してはいなかったのですから」
「んなわけあるかよ!!」
いきなりネプォン元国王の声がした。
彼までついてきたのね。
シャーリーも、彼の登場に驚いている。
「黙って聞いていれば、いい加減なことを抜かしやがって。イルハートはな、俺なしじゃ生きていけねぇ女だ」
「ネプォン!? いつの間に?」
「シャーリーが、コソコソ寝室を出て行く姿を見つけたからだ。何かあると思ってきてみれば、この女か」
ネプォン元国王は、私の顎を指先で掴むと上を向かせてくる。
「へぇ……ますます美人になったな。気に入った」
「ネプォン! 私の目の前で浮気するの!?」
「黙れ、シャーリー。俺は欲しいと思った女は奪う主義だ」
……なんて迷惑な思考なの。
ゾッとする。
「離してください。迷惑です」
「大聖女になったからと、お高くとまるんじゃねぇ。飽きるまで、俺に奉仕させてやる」
「嫌です」
私は素早く詠唱して、シールドで自分の周りを覆った。
私の顎を掴んだ手が弾き返されて、ネプォン元国王は、悔しそうに睨んでくる。
でも、すぐに港町の灯りを指差して、勝ち誇ったように笑った、
「しょうがねーな。なら、あの街を焼き払うか」
「え!?」
「俺の子分が街で待ってんだよ。俺が戻らない時は、火をつけろと命令してある」
「な!!」
「さ、シールドを解いて俺と来い。もう、あの馬鹿弓使いもいないんだ」
「絶対、い……」
「街の連中の命を、あんたが握ってんだぜ? 大聖女様」
「……!!」
「あんたのせいで、連中は死ぬ。耐えられるのか?」
「これが元勇者なんて……!」
「グダグダ言ってないで、さっさと服を脱ぎな。品定めしてやるからさ」
「いい加減にしてください!!」
私がそう叫んだ時だった。
ドス!!
私とネプォン元国王の間に、光り輝く一本の矢が刺さる。
!!
この矢は!?
チャプン、チャプン。
波を掻き分けて近づいて来る音。
ドス! ドスドス!!
矢は何本も飛んで来て、地面に刺さっていく。それはネプォン元国王を下がらせ、私の周りを結界のように囲んだ。
「な、なんだ! この矢は……まさか!!」
ネプォン元国王が、怯えたような顔で波打ち際を見る。
思わず、私も同じ場所を見た。
そこには、海水を全身から滴らせながら、鋭い眼光で弓を構える人物の姿。
……生きていた!?
あまりの嬉しさと愛おしさで、動けなくなる。
アーチロビンは、厳しい表情のままネプォン元国王を睨みつけた。
「下がれ。今度は喉を狙う」
彼に迫力のある声で恫喝されて、ネプォン元国王は震えながら後ろに下がった。
「お、お、覚えてやがれ! 行くぞ! シャーリー!!」
「ま、ま、待ってネプォン!! 置いていかないでぇ!!」
二人は途中で何度もぶつかりながら、転がるように逃げて行く。
静かになった浜辺に、二人だけになった。
「フィオ、ダイジョウブ?」
彼の肩に乗った、オウムのフェイルノが話しかけてくる。
アーチロビンは、どんどん私に近づいて来た。
夢じゃない!!
私も彼に駆け寄る。
「アーチロビン!!」
「フィオ!!」
最後は飛び込むようにして彼に抱きつき、固く抱き締め合う。
「……来て……くれた」
「ああ、来たよ。フィオが呼んでくれたから」
いつか聞いた言葉と同じ。胸が熱くてたまらない。
「遅くなって、ごめん。フィオ」
「どこ……いた……の?」
「龍脈の中を巡っていた。すごい力の流れで、なかなか龍穴から出られなくて。フィオの声を頼りに、やっと出て来られた」
「待ってた……ずっと……待っ……」
「俺も、会いたかった」
それを聞いて、人の姿の時は一本しか出ない尻尾が、九本全部出てきて、アーチロビンに巻きつく。
どこにもいなくならないように。
離れられなくなるように。
夜明けが来ても、私たちは離れなかった。
あれからニ年……アーチロビンは帰って来なかった。
何度も彼が落ちた海を探したけれど、見つけたのは海面に浮かんでいたフェイルノの羽根一枚だけ。
彼が、最後まで守ろうとした小さな港町には、シールドが届かないため、都市部へと退避勧告が出ていたそうなの。
でも、動けないお年寄りや、体の不自由な人々の移動が間に合っていなかった。
アーチロビンのおかげで、魔王の城の瓦礫の直撃を受けず、町とみんなの生活は守られたの。
彼らしい……一度壊れたものは、簡単には戻らないことを、知っているから。
都市部とか、地方とか、大きい、小さいも関係ない。彼は、本当に優しい人。
でも、そこまでした彼は、どこへ行ってしまったのか。
魂が冥府に去った気配はなく、魔導士ティトは、龍穴を抜けて龍脈を巡っている可能性があると、教えてくれた。
龍脈……全世界を巡る力の流れ。龍は怪我を負うと、龍穴を抜けて龍脈に入り込み、傷を癒すのだという。
龍穴は世界中にあって、龍脈はその数も多い。
いつ出て来るのか、どこから出て来るのか、本当に龍脈の中にいるのか、全然わからないけれど……。
彼はきっと戻って来る。
そう信じて、出来ることをすることに決めたの。
大魔導士イルハートは、アーチロビンは死んだと決めつけて、あっさり彼のおじいさんを解放した。
魔導士ティトがすぐに助けて、一緒に暮らしてる。長い間、互いを思い続けた二人がようやく結ばれて、私もみんなもとても嬉しい。
聖騎士ギルバートは、暗黒騎士ヴォルディバの後を継いで、将軍に昇格。
今は軍を統括する立場にある。
ケルヴィン殿下は、ネプォン王と離婚して女王として即位したヘレン女王を補佐するため、宰相に就任。
私は……私はオベリア様の強い推薦を受けて、大聖女になった。
でも、あくまでアーチロビンが見つかるまでと約束して。
後継を育て、日々大聖女の勤めも果たしてる。
それは、いつか、アーチロビンと一緒に生きるため。
後悔なんてしない。
彼を愛し、彼に愛されたあの日々を決して忘れないもの。
今日も忙しい合間を縫って、彼が落ちた海の近くの浜辺に来ている。
場所はゾンビダラボッチと戦った、トゥンカル・ミズ国の端にある、小さな港町の浜辺。
彼が、最後まで諦めずに救ったあの港町。
今はちょうど夜。
夜の海はとても静か。
「アーチロビン」
波打ち際に立ち、海に向かって呼びかける。
目を閉じると、オメガゴーレムに襲われそうになった時に、助けに来てくれた彼の姿が思い浮かんだ。
『来たよ、俺だ』
耳に残る彼の声。
また、あの声を聞きたい。
必ず……必ずもう一度。
「あら、大聖女様じゃない」
ふと、知った人の声がした。
感傷に浸る私のそばに、ある人が近づいて来る。
「シャーリー……様」
「たった一人で、お忍びなんて、不用心ですこと」
「シャーリー様こそ、なぜここへ?」
「当然、あんたに会うためよ。積み重なった恨みつらみを、聞いてもらわないとね!」
「ゾンビ因子を浄化して、常人に戻れたのに、まだご不満があるのですか」
「オベリア様すらできなかったことをやってくれて、感謝してるわ。でも、代わりに霊力を失って今や庶民よ!?」
「……」
「おまけに、私が咬んでゾンビ化させてしまった神官たちに、一年間の奉仕活動までさせてくれちゃって。本当、屈辱でしかない」
「それで許してくれた彼女たちに、感謝すべきでは?」
「うるっさいわね! 下っ端が上役の被害者になったから、て、償わなきゃいけないなんて考え方がおかしいのよ!」
「そうは思いません」
「生意気! 本当に生意気!!」
「シャーリー様は、今はネプォン元国王とお過ごしだと聞いております」
「は! あいつは、ちっさい小悪党に成り下がったけど、勘だけは鋭いわ。そのうち、イルハートも捕まえて、三人でやり直すのよ」
「まだ彼女を追いかけ回して……」
「あの女だけ、いい目に遭わせるわけないわ。ヴォルディバだって……」
「ヴォルディバを見つけたのですか?」
「消息不明よ」
「そう……ですか」
「あいつの恨みの分も、仲間を捨てたイルハートに償わせないとね」
「ネプォン元国王も、同罪では?」
「あ、あいつはいいの」
「……」
「イルハートに、自慢してやるわ。ネプォンはもう、私の恋人だし」
「イルハートは、大して悔しがらないと思います。彼女はネプォン元国王を、愛してはいなかったのですから」
「んなわけあるかよ!!」
いきなりネプォン元国王の声がした。
彼までついてきたのね。
シャーリーも、彼の登場に驚いている。
「黙って聞いていれば、いい加減なことを抜かしやがって。イルハートはな、俺なしじゃ生きていけねぇ女だ」
「ネプォン!? いつの間に?」
「シャーリーが、コソコソ寝室を出て行く姿を見つけたからだ。何かあると思ってきてみれば、この女か」
ネプォン元国王は、私の顎を指先で掴むと上を向かせてくる。
「へぇ……ますます美人になったな。気に入った」
「ネプォン! 私の目の前で浮気するの!?」
「黙れ、シャーリー。俺は欲しいと思った女は奪う主義だ」
……なんて迷惑な思考なの。
ゾッとする。
「離してください。迷惑です」
「大聖女になったからと、お高くとまるんじゃねぇ。飽きるまで、俺に奉仕させてやる」
「嫌です」
私は素早く詠唱して、シールドで自分の周りを覆った。
私の顎を掴んだ手が弾き返されて、ネプォン元国王は、悔しそうに睨んでくる。
でも、すぐに港町の灯りを指差して、勝ち誇ったように笑った、
「しょうがねーな。なら、あの街を焼き払うか」
「え!?」
「俺の子分が街で待ってんだよ。俺が戻らない時は、火をつけろと命令してある」
「な!!」
「さ、シールドを解いて俺と来い。もう、あの馬鹿弓使いもいないんだ」
「絶対、い……」
「街の連中の命を、あんたが握ってんだぜ? 大聖女様」
「……!!」
「あんたのせいで、連中は死ぬ。耐えられるのか?」
「これが元勇者なんて……!」
「グダグダ言ってないで、さっさと服を脱ぎな。品定めしてやるからさ」
「いい加減にしてください!!」
私がそう叫んだ時だった。
ドス!!
私とネプォン元国王の間に、光り輝く一本の矢が刺さる。
!!
この矢は!?
チャプン、チャプン。
波を掻き分けて近づいて来る音。
ドス! ドスドス!!
矢は何本も飛んで来て、地面に刺さっていく。それはネプォン元国王を下がらせ、私の周りを結界のように囲んだ。
「な、なんだ! この矢は……まさか!!」
ネプォン元国王が、怯えたような顔で波打ち際を見る。
思わず、私も同じ場所を見た。
そこには、海水を全身から滴らせながら、鋭い眼光で弓を構える人物の姿。
……生きていた!?
あまりの嬉しさと愛おしさで、動けなくなる。
アーチロビンは、厳しい表情のままネプォン元国王を睨みつけた。
「下がれ。今度は喉を狙う」
彼に迫力のある声で恫喝されて、ネプォン元国王は震えながら後ろに下がった。
「お、お、覚えてやがれ! 行くぞ! シャーリー!!」
「ま、ま、待ってネプォン!! 置いていかないでぇ!!」
二人は途中で何度もぶつかりながら、転がるように逃げて行く。
静かになった浜辺に、二人だけになった。
「フィオ、ダイジョウブ?」
彼の肩に乗った、オウムのフェイルノが話しかけてくる。
アーチロビンは、どんどん私に近づいて来た。
夢じゃない!!
私も彼に駆け寄る。
「アーチロビン!!」
「フィオ!!」
最後は飛び込むようにして彼に抱きつき、固く抱き締め合う。
「……来て……くれた」
「ああ、来たよ。フィオが呼んでくれたから」
いつか聞いた言葉と同じ。胸が熱くてたまらない。
「遅くなって、ごめん。フィオ」
「どこ……いた……の?」
「龍脈の中を巡っていた。すごい力の流れで、なかなか龍穴から出られなくて。フィオの声を頼りに、やっと出て来られた」
「待ってた……ずっと……待っ……」
「俺も、会いたかった」
それを聞いて、人の姿の時は一本しか出ない尻尾が、九本全部出てきて、アーチロビンに巻きつく。
どこにもいなくならないように。
離れられなくなるように。
夜明けが来ても、私たちは離れなかった。
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