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第一部
誰がために筆は舞う 第四話
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そんなある日、いつも私の絵を買い付けてくれる仲買人がやってきた。
「そろそろ、新しい絵はないのかい。」
単刀直入に言われて、戸惑う。
「えぇ・・・、あの。」
私は、両手を握りしめて考えた。
満足な絵はまだ描けていない。
しかし、懐がいよいよ厳しくなっているのも事実だ。
小さな野菜畑を庭に作っているものの、微々たるもので、ムゥにもイワシくらい食べさせたい。
腕前が不調な中、注文を受けるには躊躇いがあったが、思い切ってやってみることにした。
仲買人は、いつものようにあがってきて、注文の品を説明していく。
そこで、お茶を出したのだが、お茶受けに描かれたウサギが、皿の中をぴょんぴょん動き回っていたのだ。
仲買人は驚き、声を上げた。
仲買人は、最初のうちこそ恐れを感じていたが、慣れてくるとその価値を見出して、ぜひこのような絵を売り出そう、と提案してきた。
私は、動く絵は紙には描けないこと、一度壊したり破いたりすると、絵は動かなくなることを話し、絵付けのようなものならできると説明する。
仲買人は、鵬夜に言われて私を監視してきたが、今後はあんたの絵を沢山買い付ける、と言ってきた。
「え!?
監視?私を?」
「そうとも。
お前さんの作品は愛用者が多くてね。
数はさほど多くないが、長く一定数の人間が大事にしている。
そこを切り崩せないものだから、面白くないんだよ。」
執念深い彼の顔を思い出して、ぞっとする。
「おそらくあんたの動く絵は売れる。
その分気をつけるんだぜ。」
仲買人の言葉に、私は恐る恐る頷いた。
私の絵は、瞬く間に有名になった。
帯留めに花を描けば、本物のように風にそよいで香りを立てた。
暖簾に愛らしい二匹の仔猫を描くと、通るたびに可愛らしい鳴き声をあげた。
鵬夜の絵はたちまち忘れ去られ、私の描いた絵が巷を席巻するようになった。
鵬夜は、怒り狂い、他の絵師たちを巻き込んで、私の絵の調査をしているそうだ。
十分注意していたのに、事件は起こってしまった。
私が、鶴毘にもらった絵筆で、花嫁衣装に美しい鶴の絵を描き、仕上がりを眺めていると、そこに鵬夜がきた。
絵師はあまりお互いの制作現場に踏み込まない。
制作中と伝えても、帰る様子を見せず、十分含むところがある。
私は鵬夜を警戒しつつ、お茶を出した。
「あの、御用は?
私、今、製作中なんです。
鵬夜さんにお構いできませんので。」
私はめげずに言ってみる。
鵬夜は湯呑みを傾けながら、描かれた絵が動くのを眺めていた。
そして、唐突に話し始める。
「紅葉さん、飛ぶ鳥落とす勢いのあんただが、動く絵なんて、少し卑怯なんじゃないか?」
「卑怯・・・、」
私は固まる。
「あんたの絵は、以前ほどの勢いがない。素人は誤魔化せても、同じ飯の種で生きている絵師の目は誤魔化せないよ。
奇抜さと幸運だけでてっぺんを独占されるのはたまらない。
あんたの絵は本物だと証明してほしい。」
「そろそろ、新しい絵はないのかい。」
単刀直入に言われて、戸惑う。
「えぇ・・・、あの。」
私は、両手を握りしめて考えた。
満足な絵はまだ描けていない。
しかし、懐がいよいよ厳しくなっているのも事実だ。
小さな野菜畑を庭に作っているものの、微々たるもので、ムゥにもイワシくらい食べさせたい。
腕前が不調な中、注文を受けるには躊躇いがあったが、思い切ってやってみることにした。
仲買人は、いつものようにあがってきて、注文の品を説明していく。
そこで、お茶を出したのだが、お茶受けに描かれたウサギが、皿の中をぴょんぴょん動き回っていたのだ。
仲買人は驚き、声を上げた。
仲買人は、最初のうちこそ恐れを感じていたが、慣れてくるとその価値を見出して、ぜひこのような絵を売り出そう、と提案してきた。
私は、動く絵は紙には描けないこと、一度壊したり破いたりすると、絵は動かなくなることを話し、絵付けのようなものならできると説明する。
仲買人は、鵬夜に言われて私を監視してきたが、今後はあんたの絵を沢山買い付ける、と言ってきた。
「え!?
監視?私を?」
「そうとも。
お前さんの作品は愛用者が多くてね。
数はさほど多くないが、長く一定数の人間が大事にしている。
そこを切り崩せないものだから、面白くないんだよ。」
執念深い彼の顔を思い出して、ぞっとする。
「おそらくあんたの動く絵は売れる。
その分気をつけるんだぜ。」
仲買人の言葉に、私は恐る恐る頷いた。
私の絵は、瞬く間に有名になった。
帯留めに花を描けば、本物のように風にそよいで香りを立てた。
暖簾に愛らしい二匹の仔猫を描くと、通るたびに可愛らしい鳴き声をあげた。
鵬夜の絵はたちまち忘れ去られ、私の描いた絵が巷を席巻するようになった。
鵬夜は、怒り狂い、他の絵師たちを巻き込んで、私の絵の調査をしているそうだ。
十分注意していたのに、事件は起こってしまった。
私が、鶴毘にもらった絵筆で、花嫁衣装に美しい鶴の絵を描き、仕上がりを眺めていると、そこに鵬夜がきた。
絵師はあまりお互いの制作現場に踏み込まない。
制作中と伝えても、帰る様子を見せず、十分含むところがある。
私は鵬夜を警戒しつつ、お茶を出した。
「あの、御用は?
私、今、製作中なんです。
鵬夜さんにお構いできませんので。」
私はめげずに言ってみる。
鵬夜は湯呑みを傾けながら、描かれた絵が動くのを眺めていた。
そして、唐突に話し始める。
「紅葉さん、飛ぶ鳥落とす勢いのあんただが、動く絵なんて、少し卑怯なんじゃないか?」
「卑怯・・・、」
私は固まる。
「あんたの絵は、以前ほどの勢いがない。素人は誤魔化せても、同じ飯の種で生きている絵師の目は誤魔化せないよ。
奇抜さと幸運だけでてっぺんを独占されるのはたまらない。
あんたの絵は本物だと証明してほしい。」
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