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起 『Sランクの少年は、国から追放されました。』
第1話 Sランクはこの世に存在してはいけない
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【魔法】は、科学よりも発展していたことがある。錬金術師となる者もいれば、魔女と呼ばれる者もいた。最初は迎えられていた【魔法】だが、徐々に人類に恐れられ、最期は【魔女狩り】などが起こり、そこで魔法は途絶えた。
この物語は、魔法が途絶える前のお話。とある王国は【魔法】を使い、戦争には勝ち続け、最強の王国となった。
何度も言うが、あくまでもこの話は昔のこと。今は科学が発展している。
とある石のおかげで。
----------
僕が暮らしている”ランセル王国”の国民は皆、【ランク】によって区別されている。
僕……エストは今日、15歳の誕生日。国民は15歳の誕生日を迎えると”鑑定式”という、それはそれは重大なイベントがある。そこで”ランクを鑑定”する。
その日を境に、人生は大きく変わる。
【ランク】が高ければ、その分高い職に就くことができる上に【魔法】を使うことができる人もいる。例えば……炎をそこら中に巻き起こしたり、一気に農作物を育たせたりと、まさに魔法。
【ランク】が低ければ……人生は終わったと考えてもいい。軍隊に徴収され、自由もなく永遠に死を求め続ける。魔法など使えない……と母に教えられた。
この国は【ランク主義】だ。ランクが高ければ有能、低ければ無能。それだけ。
実際のところ、僕の父も母も【Cランク】で、ちょうど真ん中のランクと言ってもいいだろう。軍隊行きは上手く免れ、農家として生活している。もちろん、魔法は使えない。その上、魔法を習う機会もない。
----------
《エスカル村にて少女 行方不明に》
《ランセル王国城大反乱事件から今日で9年》
《Aランクのタスクさん 死去》
街の掲示板……僕の村にこの情報が入ってくるまで、3日はかかる。
僕の住む村は、田舎と言われれば誰もが思い浮かべるであろう……そんな辺鄙の地だ。
今でもキツネやタヌキが出てくる上に”怪物”もいる。巷での呼称だが、文字通り……としか言いようがない。巨大な獣であったり、狂気に充ちた人型の生物であったりと様々。国は何故か対処せず放置しているため、僕らが田を荒らされないように自分自身で守り抜かなければいけない。
「エスト、早く行こうぜ」
とある少年が僕に話しかけてくる。
彼の名前は、ドン。ドンッと構えていそうな名前とは裏腹に、僕と同じ、茶髪で痩せ細った身体をしている幼馴染。その上僕と同じ誕生日……つまり今日は、彼にとっても鑑定の日だ。
「あぁ、行こう……」と僕はすぐさま返事をした。
見慣れない街の風景を眺めつつ、王の城へ歩み始めた。何人かの少年少女が城の中に入っていく。おそらくだが、僕らと同じく……鑑定を受けに来たのだろう。
----------
「これから、鑑定を始める」
緑色の宝石が付いた金色の王冠に、鶴のような白いマントをつけて、立派な白ひげを生やしている。誰が見ても分かる、王だ。
「失礼します」
緊迫した状況の中、鑑定師が到着した。”神本”という……名前通り、神から授かった本を手にしている。その本に向かって名前を言うと、そのランクとなるアルファベットが浮かび上がる……らしい。
僕もよく分かっていない、全て両親から聞いた情報だ。
鑑定の順番は直前になって知らされる。ドンは3番目、僕は最後だった。
「行ってくるよ」
誰もが緊張する中、彼は俺にそう囁いた。この声の感じからして、名前通り”ドン”と構えていそうな……とても勇気を心に秘めている声だった。
いや、1人だけ明らかに緊張していない人物がいる。王の周りにいた警備の人間が、皆その金髪の少年に向かって敬語で話しかけている。彼は王の息子か? それとも鑑定師や側近の息子か?
彼に情報など何一つ分からないが、彼の周りは既に【Aランク】のオーラで満ち溢れている。
運命。城の中で、鑑定が始まった。
まずは2人ずつ行う。
「レオル・クラーク」【Bランク】
「ミライ・カリアです」【Cランク】
【Bランク】となった彼は喜びからか、拳を天に突き上げている。王の目の前でやったことに気がついた彼はすぐさま拳を下ろし、王に向かって深く敬礼をした。
【Cランク】となった彼女は、高ランクとなれなかった悲しみと低ランクにならなかった喜びが混同しているのか、はたまた何も思っていないのか、虚ろな目をしたまま自分の席へ戻っていった。
次はドンたちの番。
「ドン・アラです」【Gランク】
「あああぁぁぁ……!」
【Gランク】と鑑定されたドンは……落ち込んでいる。このまま地獄に落ちてしまうのではないかというくらいに、深くその地面に向かって発狂しながら頭を打ち付けていた。
近くの警備の人に止められたが、その顔は直視できないほどに真っ黒に染まっていた。僕は彼にかける言葉など見つからなかった。
「ソルト・ルクセンバンク」【Aランク】
「よっしゃぁっ!」
【Aランク】と鑑定された金髪の少年は文字通り喜んでいる。彼は先に言った、唯一緊張していない人物。どうやら側近の子供らしい、周りの人間たちが彼を取り囲むように祝福している。
当の本人は【Gランク】となったドンを憐れむかのような、または見下すような目をしながら自分の席に戻った。
「最後、こっちへ来なさい」
鑑定師に呼び出された。
【Gランク】となった彼を直視できないまま、僕の番が訪れてしまった。低ランクだったらどうしよう、逆に高ランクでもどうしよう、そう悩み迷いつつも僕は鑑定師の元に向かった。
「エスト・エルアです……」【?ランク】
「ん?」
「どうした……」
周囲がざわつく。それもそのはず、ランクが神本に浮かび上がってこない。
鑑定師は困った様子を見せながらも、僕に話しかけた。
「エストさん。もう一度、この本に名前を」
「はい……。エスト・エルアです」【Sランク】
「S……って?」
また周囲がざわついた。
A、B、C、D、E、F……が一般的に鑑定でよく見られるランクである。F以降はそもそも存在しないと言われていたが【Gランク】が目の前で出た上に【Sランク】まで出てしまった。王も鑑定師も前例がないようで、落ち着きの欠片も見せず焦り散らかしている。
「……Sランクって見たことないな」
「もしかしてお前、Gランクのあいつ以下か?」
警備の人も鑑定を終えた人も”怪物”でも見るかのような目をしながら僕のことを睨んでいる。
村育ちの人間として分かる、この目は”怪物”を見る目だ。僕自身、何回もこの目をしたことがある。それが今、僕に向けられている。
未だに何が起きたかなんてさっぱり分からない。僕自身分かっていないのだから、周囲の人間が分かるはずもない。更に慣れているはずの王や鑑定師も少しうろたえている。前代未聞の事態に、皆”怪物”を睨む目から攻撃的な目に徐々に変化していく。
「Sランクは、ここから出ていけ」
「この国に必要ない」
「こいつを見ているだけで、むしゃくしゃする」
言いがかりが酷いが、僕に抵抗する術もない。両手を上げ、彼らの言い分を聞こうとしたところで、王が一声を上げた。
「出てしまったものは仕方がない。ドン・アラ、エスト・エルアは庭に招待しよう。側近が案内する」
----------
ドンと僕は、庭に着いた。王城の庭というからには、煌びやかな噴水や彩りのある花畑が広がっていると思っていたが、違う。ただの森。
王は僕たちを睨みつけながら、話し始めた。
「我々ランセル王国は魔法の力で成り上がってきた。優秀な人材のおかげでな」
僕らは王の話をじっくりと聴く。
「低脳のD、E、Fまでは修行を重ねさえすれば、魔法を使うことができる上に魔法が効く。が、それ以下は……魔法も使えなければ、魔法が効かない。《洗脳魔法》もだ」
【Gランク】と鑑定された彼は、何かを察してしまったように、怯えながらその場で崩れ落ちた。顔面が黒く汚れてよく見えないが、多少涙を流している。
「低ランクの人間には《洗脳魔法》をかけ、兵士として戦争をさせていた。強力な魔法が使えなくとも、ナイフ1本持たせるだけでよかった。が、《洗脳魔法》が効かない奴らは……ただの邪魔だ」
「ご苦労だった、今までの人生に合掌!」
パンッ……と王が手を合わせると、突然周りの木々から巨大な黒い犬が大量に現れた。赤い眼と鋭い牙を有している。見るからに怪物だが、手懐けられているのか、襲う気配はない。
「怪物は危険な存在だ。だが、時と場合によっては強力な道具にだってなる。お前らとは違って」
その瞬間、すべての怪物がドンに向かって走り出した。ドンは腰が抜けて立てない様子だった。僕もすぐ彼に向かって手を伸ばしたが、間に合わなかった。
「助けてくれぇぇぇ……」
そのままドンは、犬に喰いちぎられて死んだ。飛び散る血しぶきで染まった牙。真っ黒な臓器が辺り一面に広がる。残ったのは、"元"ドンの肉片と……真っ黒な光景と悪臭。
「ドンッ……」
ダメだ。息ができない。肉片から目を背けようとしても、前にも後ろにもドンを喰い殺した怪物がいる。怪物らは明らかに次は僕を喰おうと待機している。
王は手馴れているように拍手しながら、僕の耳元でこう言った。
「さて、次は君の番だ」と。
----------
何故か王は僕のことを殺さずに、また話し始めた。
「10年前くらいになる……私の父も王だった。父は初めて【Sランク】と鑑定された少女を殺さずに研究対象として残した。だが結局魔法も使えず、魔法も効かず……ということで父はヤツを処分した」
僕が初めてではないことにホッとはしたものの、その少女は処分された……らしい。となると、この流れでいくと僕と処分されるだろう。
「その後……すぐだった。あの事件で私は父を失ったのだ」
王は説明を続ける。
「ちょうど9年前に起きた『ランセル王国城大反乱事件』で私の父と、鑑定師とその家族が何者かによって殺された。父は亡くなる直前にこう呟いた、『Sは残してはならない』とな」
その事件の存在は知っている。その時の国王が暗殺され、鑑定師とその家族も殺害された事件だ。未だ犯人は分かっておらず、未解決事件として語り継がれているが……S? この話から察するに【Sランク】のことだろうが……。
僕はその時、まだ6歳だ。鑑定すらされていない。
「あの少女は既に父が処分した。ここ9年間で1回もSランクと鑑定された者はいない。残すは……君だけだ」
周りの怪物の雄叫びが響き渡る。ここで僕もドンと同じように喰われて死ぬのか。
「Sランクはこの世に存在してはいけない」
僕のことを睨みつつ、ジリジリと距離を詰めながら、王は呟く。
僕の人生のどこがいけなかったのだろう、暴れん坊な性格でもなく、他人を責めることなく生きてきたはず。僕は元からここで殺される運命なのか。
いや、違うはずだ。
「お願いします、頼むから命だけは……お願いします……お願いします」
僕が思いついた唯一の方法、それは王に対して心から懇願することであった。姿勢も深く、地面に頭を打ち付けるくらいに深く、王に向かってお辞儀をした。
が、王は笑みを浮かべながら、はたまた嬉しそうな声でこう叫んだ。
「Sランクが居なければ、私の父が死ぬことは無かった。私の人生を狂わせたのは、Sランクの人間だ!」
僕には全く理解ができない。王は狂っている。Sランクの少女が王の父親を殺したでも言うのか、そんなはずがない。これ以上、話は通じないことは僕でも分かる。
逃げるしかない、足を引きずらせながら僕は逃げる。ズボンを濡らしながらも、顔面がヨダレまみれになろうとも走り続けた。
どこか遠くへ……どこか知らない場所へ……。
もう元には戻れない。
もう……。
「あ」
「助けてっ……」
必死に逃げていたため、前に崖があることも気付かず、そのまま真っ逆さまに落ちていった。
そうか、人生はここで終わりか。そう悟った僕はゆっくり目を閉じ、後世に期待を込めた。
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「おはよう、エストくん」
「私のこと、わかる?」
「その前に……覚えてる?」
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【魔法】は、科学よりも発展していたことがある。錬金術師となる者もいれば、魔女と呼ばれる者もいた。最初は迎えられていた【魔法】だが、徐々に人類に恐れられ、最期は【魔女狩り】などが起こり、そこで魔法は途絶えた。
この物語は、魔法が途絶える前のお話。とある王国は【魔法】を使い、戦争には勝ち続け、最強の王国となった。
何度も言うが、あくまでもこの話は昔のこと。今は科学が発展している。
とある石のおかげで。
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僕が暮らしている”ランセル王国”の国民は皆、【ランク】によって区別されている。
僕……エストは今日、15歳の誕生日。国民は15歳の誕生日を迎えると”鑑定式”という、それはそれは重大なイベントがある。そこで”ランクを鑑定”する。
その日を境に、人生は大きく変わる。
【ランク】が高ければ、その分高い職に就くことができる上に【魔法】を使うことができる人もいる。例えば……炎をそこら中に巻き起こしたり、一気に農作物を育たせたりと、まさに魔法。
【ランク】が低ければ……人生は終わったと考えてもいい。軍隊に徴収され、自由もなく永遠に死を求め続ける。魔法など使えない……と母に教えられた。
この国は【ランク主義】だ。ランクが高ければ有能、低ければ無能。それだけ。
実際のところ、僕の父も母も【Cランク】で、ちょうど真ん中のランクと言ってもいいだろう。軍隊行きは上手く免れ、農家として生活している。もちろん、魔法は使えない。その上、魔法を習う機会もない。
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《エスカル村にて少女 行方不明に》
《ランセル王国城大反乱事件から今日で9年》
《Aランクのタスクさん 死去》
街の掲示板……僕の村にこの情報が入ってくるまで、3日はかかる。
僕の住む村は、田舎と言われれば誰もが思い浮かべるであろう……そんな辺鄙の地だ。
今でもキツネやタヌキが出てくる上に”怪物”もいる。巷での呼称だが、文字通り……としか言いようがない。巨大な獣であったり、狂気に充ちた人型の生物であったりと様々。国は何故か対処せず放置しているため、僕らが田を荒らされないように自分自身で守り抜かなければいけない。
「エスト、早く行こうぜ」
とある少年が僕に話しかけてくる。
彼の名前は、ドン。ドンッと構えていそうな名前とは裏腹に、僕と同じ、茶髪で痩せ細った身体をしている幼馴染。その上僕と同じ誕生日……つまり今日は、彼にとっても鑑定の日だ。
「あぁ、行こう……」と僕はすぐさま返事をした。
見慣れない街の風景を眺めつつ、王の城へ歩み始めた。何人かの少年少女が城の中に入っていく。おそらくだが、僕らと同じく……鑑定を受けに来たのだろう。
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「これから、鑑定を始める」
緑色の宝石が付いた金色の王冠に、鶴のような白いマントをつけて、立派な白ひげを生やしている。誰が見ても分かる、王だ。
「失礼します」
緊迫した状況の中、鑑定師が到着した。”神本”という……名前通り、神から授かった本を手にしている。その本に向かって名前を言うと、そのランクとなるアルファベットが浮かび上がる……らしい。
僕もよく分かっていない、全て両親から聞いた情報だ。
鑑定の順番は直前になって知らされる。ドンは3番目、僕は最後だった。
「行ってくるよ」
誰もが緊張する中、彼は俺にそう囁いた。この声の感じからして、名前通り”ドン”と構えていそうな……とても勇気を心に秘めている声だった。
いや、1人だけ明らかに緊張していない人物がいる。王の周りにいた警備の人間が、皆その金髪の少年に向かって敬語で話しかけている。彼は王の息子か? それとも鑑定師や側近の息子か?
彼に情報など何一つ分からないが、彼の周りは既に【Aランク】のオーラで満ち溢れている。
運命。城の中で、鑑定が始まった。
まずは2人ずつ行う。
「レオル・クラーク」【Bランク】
「ミライ・カリアです」【Cランク】
【Bランク】となった彼は喜びからか、拳を天に突き上げている。王の目の前でやったことに気がついた彼はすぐさま拳を下ろし、王に向かって深く敬礼をした。
【Cランク】となった彼女は、高ランクとなれなかった悲しみと低ランクにならなかった喜びが混同しているのか、はたまた何も思っていないのか、虚ろな目をしたまま自分の席へ戻っていった。
次はドンたちの番。
「ドン・アラです」【Gランク】
「あああぁぁぁ……!」
【Gランク】と鑑定されたドンは……落ち込んでいる。このまま地獄に落ちてしまうのではないかというくらいに、深くその地面に向かって発狂しながら頭を打ち付けていた。
近くの警備の人に止められたが、その顔は直視できないほどに真っ黒に染まっていた。僕は彼にかける言葉など見つからなかった。
「ソルト・ルクセンバンク」【Aランク】
「よっしゃぁっ!」
【Aランク】と鑑定された金髪の少年は文字通り喜んでいる。彼は先に言った、唯一緊張していない人物。どうやら側近の子供らしい、周りの人間たちが彼を取り囲むように祝福している。
当の本人は【Gランク】となったドンを憐れむかのような、または見下すような目をしながら自分の席に戻った。
「最後、こっちへ来なさい」
鑑定師に呼び出された。
【Gランク】となった彼を直視できないまま、僕の番が訪れてしまった。低ランクだったらどうしよう、逆に高ランクでもどうしよう、そう悩み迷いつつも僕は鑑定師の元に向かった。
「エスト・エルアです……」【?ランク】
「ん?」
「どうした……」
周囲がざわつく。それもそのはず、ランクが神本に浮かび上がってこない。
鑑定師は困った様子を見せながらも、僕に話しかけた。
「エストさん。もう一度、この本に名前を」
「はい……。エスト・エルアです」【Sランク】
「S……って?」
また周囲がざわついた。
A、B、C、D、E、F……が一般的に鑑定でよく見られるランクである。F以降はそもそも存在しないと言われていたが【Gランク】が目の前で出た上に【Sランク】まで出てしまった。王も鑑定師も前例がないようで、落ち着きの欠片も見せず焦り散らかしている。
「……Sランクって見たことないな」
「もしかしてお前、Gランクのあいつ以下か?」
警備の人も鑑定を終えた人も”怪物”でも見るかのような目をしながら僕のことを睨んでいる。
村育ちの人間として分かる、この目は”怪物”を見る目だ。僕自身、何回もこの目をしたことがある。それが今、僕に向けられている。
未だに何が起きたかなんてさっぱり分からない。僕自身分かっていないのだから、周囲の人間が分かるはずもない。更に慣れているはずの王や鑑定師も少しうろたえている。前代未聞の事態に、皆”怪物”を睨む目から攻撃的な目に徐々に変化していく。
「Sランクは、ここから出ていけ」
「この国に必要ない」
「こいつを見ているだけで、むしゃくしゃする」
言いがかりが酷いが、僕に抵抗する術もない。両手を上げ、彼らの言い分を聞こうとしたところで、王が一声を上げた。
「出てしまったものは仕方がない。ドン・アラ、エスト・エルアは庭に招待しよう。側近が案内する」
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ドンと僕は、庭に着いた。王城の庭というからには、煌びやかな噴水や彩りのある花畑が広がっていると思っていたが、違う。ただの森。
王は僕たちを睨みつけながら、話し始めた。
「我々ランセル王国は魔法の力で成り上がってきた。優秀な人材のおかげでな」
僕らは王の話をじっくりと聴く。
「低脳のD、E、Fまでは修行を重ねさえすれば、魔法を使うことができる上に魔法が効く。が、それ以下は……魔法も使えなければ、魔法が効かない。《洗脳魔法》もだ」
【Gランク】と鑑定された彼は、何かを察してしまったように、怯えながらその場で崩れ落ちた。顔面が黒く汚れてよく見えないが、多少涙を流している。
「低ランクの人間には《洗脳魔法》をかけ、兵士として戦争をさせていた。強力な魔法が使えなくとも、ナイフ1本持たせるだけでよかった。が、《洗脳魔法》が効かない奴らは……ただの邪魔だ」
「ご苦労だった、今までの人生に合掌!」
パンッ……と王が手を合わせると、突然周りの木々から巨大な黒い犬が大量に現れた。赤い眼と鋭い牙を有している。見るからに怪物だが、手懐けられているのか、襲う気配はない。
「怪物は危険な存在だ。だが、時と場合によっては強力な道具にだってなる。お前らとは違って」
その瞬間、すべての怪物がドンに向かって走り出した。ドンは腰が抜けて立てない様子だった。僕もすぐ彼に向かって手を伸ばしたが、間に合わなかった。
「助けてくれぇぇぇ……」
そのままドンは、犬に喰いちぎられて死んだ。飛び散る血しぶきで染まった牙。真っ黒な臓器が辺り一面に広がる。残ったのは、"元"ドンの肉片と……真っ黒な光景と悪臭。
「ドンッ……」
ダメだ。息ができない。肉片から目を背けようとしても、前にも後ろにもドンを喰い殺した怪物がいる。怪物らは明らかに次は僕を喰おうと待機している。
王は手馴れているように拍手しながら、僕の耳元でこう言った。
「さて、次は君の番だ」と。
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何故か王は僕のことを殺さずに、また話し始めた。
「10年前くらいになる……私の父も王だった。父は初めて【Sランク】と鑑定された少女を殺さずに研究対象として残した。だが結局魔法も使えず、魔法も効かず……ということで父はヤツを処分した」
僕が初めてではないことにホッとはしたものの、その少女は処分された……らしい。となると、この流れでいくと僕と処分されるだろう。
「その後……すぐだった。あの事件で私は父を失ったのだ」
王は説明を続ける。
「ちょうど9年前に起きた『ランセル王国城大反乱事件』で私の父と、鑑定師とその家族が何者かによって殺された。父は亡くなる直前にこう呟いた、『Sは残してはならない』とな」
その事件の存在は知っている。その時の国王が暗殺され、鑑定師とその家族も殺害された事件だ。未だ犯人は分かっておらず、未解決事件として語り継がれているが……S? この話から察するに【Sランク】のことだろうが……。
僕はその時、まだ6歳だ。鑑定すらされていない。
「あの少女は既に父が処分した。ここ9年間で1回もSランクと鑑定された者はいない。残すは……君だけだ」
周りの怪物の雄叫びが響き渡る。ここで僕もドンと同じように喰われて死ぬのか。
「Sランクはこの世に存在してはいけない」
僕のことを睨みつつ、ジリジリと距離を詰めながら、王は呟く。
僕の人生のどこがいけなかったのだろう、暴れん坊な性格でもなく、他人を責めることなく生きてきたはず。僕は元からここで殺される運命なのか。
いや、違うはずだ。
「お願いします、頼むから命だけは……お願いします……お願いします」
僕が思いついた唯一の方法、それは王に対して心から懇願することであった。姿勢も深く、地面に頭を打ち付けるくらいに深く、王に向かってお辞儀をした。
が、王は笑みを浮かべながら、はたまた嬉しそうな声でこう叫んだ。
「Sランクが居なければ、私の父が死ぬことは無かった。私の人生を狂わせたのは、Sランクの人間だ!」
僕には全く理解ができない。王は狂っている。Sランクの少女が王の父親を殺したでも言うのか、そんなはずがない。これ以上、話は通じないことは僕でも分かる。
逃げるしかない、足を引きずらせながら僕は逃げる。ズボンを濡らしながらも、顔面がヨダレまみれになろうとも走り続けた。
どこか遠くへ……どこか知らない場所へ……。
もう元には戻れない。
もう……。
「あ」
「助けてっ……」
必死に逃げていたため、前に崖があることも気付かず、そのまま真っ逆さまに落ちていった。
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