破滅のアダムとイヴ 〜Sランクと記憶喪失と東京と〜

新進真

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承『記憶喪失の《討伐者》』

第31話 決戦5「行くぞ」

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 さて、作戦を考えるか。

 10m離れた先に奴がポツンと1人で立っている。ここは城から少し離れた草原で、周りにモンスター達はいない。奴は現状コウモリの姿をしていて、いつ飛び立つ分からない。
 上空にはドラゴンが滞空しており、そこに3人もいる。極力彼らに被害が出ないよう戦いたいが……難しいか。

 残念ながら、俺自身にそれといった特別な能力はない。モンスターの位置を特定することもできなければ、モンスターの力を使うこともできない。ある程度の跳躍力、剣の技術、体力のみで戦うしかない。それでも一般の人間より有利に戦えるだけありがたいか。

 にしても、この跳躍力たちはどこで手に入れたのか。ガイアさんとの訓練か、とは言っても彼に特殊能力はない。
 記憶喪失になる前の俺が、何か特殊な訓練でもしていたんだな。そう無理矢理納得するしかない。

 決めた、作戦は……いらない。ここで奴を倒せれば、それでいい。

 俺は背中に差してあった2本の剣を抜き、それぞれ両手で構えた。

《ジャガーノート》

 奴の姿がまた変化した。コウモリの姿から、巨人程ではないが、5mくらいの巨体となった。
 更に奴は片腕を上げた。何かを呼び寄せるような仕草をしている。

 ザザッ……
 ザザッ……

 突如、瓦礫の山付近にいたはずの大量のモンスターが奴の周りに集まり、次第に俺と奴を円状に囲っていく。

「これで、逃げられないよな?」

 なるほど、奴の狙いはこれだったのか。俺を逃げられないようにするために、モンスターを呼び寄せたというのか。それにしても、モンスターを円状に設置するという、ここまで正確にモンスターの位置を操作できるのか。これは厄介だな。

 円状に配置されていないモンスターは……奴の足元に何かを置いている。

 あ、瓦礫だ。モンスターらは丁寧に瓦礫や岩を、それも奴の足元に置いていっている。

「よくできました、ゴブリン」

 奴は粉々になった城の瓦礫や岩を軽々しく持ち上げると、片手でそれを握りつぶした。手を開くと、その瓦礫や岩は粉々になっていた。
 一体奴は……何がしたかったんだ。



 次の瞬間、粉々になった岩をまた軽々しく上に投げた。上には……ドラゴンがいる!

「避けろ!」
 間一髪、ドラゴンは避けることが出来た。

「赤マントよ、名前は何だ?」
 唐突に奴は質問してくる。既に奴の右手には、次の岩がセットされている。

「スカイ……だ」と答えるしかない。
 自身の本当の名前は知らない。今の仮の名前しか答えることはできない。

「ならば……スカイ。平和とは何だ?」
 難しいな、平和か。平和は、争いもなく世界全体が幸福に満ち溢れていること……でいいのか。

「平和を実現させるためには……どうすればよい?」
 これも難しいが、争いごとを起こさなければいい。どうすれば争いが起きないか、その問題もまた難しいがな。

「甘いな」と奴は一言。
 そしてまた、上にいるドラゴンに向かって岩を投げようとしていた。

「待て!」
 俺は無意識のうちに、奴に向かって叫んでいた。

「平和がどうとか関係ない、モンスターを洗脳するのは今すぐ止めろ! そして村を襲わせるのも止めろ!」

「止めない……と言ったら?」
 奴はニヤリと笑っている。腹が立つな、その顔。

「俺がこの手で倒す!」
 俺は両手で持っていた2本の剣をまた背中に差した。

「倒す……と言いながら、剣を背中にしまうとは。矛盾もいいところだ」

 奴の一言一句とその顔に腹が立つ。剣をしまったのには、れっきとした理由がある。

 剣が必要ないからだ。

 俺は背中から剣ではなく、友情の証である盾を取り出した。

「盾は攻撃を防ぐためにある、つまり逃げるということか?」

「いいや、お前を倒す。ここで、俺の手で!」

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「おい、スカイをどうにか助けられないのか」

「いや、下手に手を出すと……最悪の結果になるかもしれない。ここは様子を見よう」

「大丈夫だ、あの人間には……恐ろしい力がある」

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 盾は攻撃を防ぐためにある、それは事実だ。だが、俺は過去にも攻撃のために使用したことが何度もある。今回もそのつもりだ。

 俺は盾を構えずに、右手で持った。円形の盾、つまりは投げやすい。他の兵士が持つような、長方形の盾ではない。それに、この盾は他の盾よりも頑丈にできている、壊れる心配はない。

「来い、スカイ!」

 奴の声と共に、俺は奴の足元に走り飛び込んだ。すぐさま前転し、後ろに回り込む。そして右手に持っていた盾を、奴の膝に後ろから突き刺すように強く当てる。
 すぐに盾を抜き、奴の左腕にしがみつき、肘に強く突き刺す。その上、腕を登るようにして、肩から首にかけてまた強く突き刺す。
 わずかな時間で、これだけの関節に当てれたのなら上出来だろう。

 剣であれば、奴は身構える。だが、俺が持っているのは盾、たかが知れてる。だから奴は身構えることもなく、ほぼ棒立ちな状態であった。

 恐らく奴は油断しがちな性格なのだろう。口を滑らすことも多ければ、このように敵目前にしても棒立ち。

 これで終わりだ。
 盾を抜かずに、自分の背中から剣を抜き、奴の首筋に強く突き刺す。これで終わりなはずだ。

「ふっ」

 奴の肩の力が抜けた。そしてそのまま……奴は後ろに倒れ込もうとした。
 俺は今奴の背後にいる。このままでは潰される……。

 盾を抜いている時間はない。盾を抜くようなこともせず、後方宙返りをした。

 ドバーン……
 砂埃が辺りに舞う。あれだけの巨大な人間が倒れ込んだのだ。あれに巻き込まれていたら即死だったな。

《巨人》

 突如、砂煙の中から巨大な手が出現した。巨人の力を使ったのか?
 その手は俺の両足を掴み、高く持ち上げた。

 んん……うわっ……くそ……

 奴の力が強すぎて、この巨大な手から逃げることができない。両足共にガッチリと掴まれており、逃げ出ようと剣を奴の手に突き刺しても、ビクともしない。

 砂埃が消え、辺りを見渡すと、俺は既に高さ10mの所にいた。奴は巨人の力を使い、15m程の大きさとなっていた。

「逃げられないだろう」

 奴は巨人化しているからか、声も低くなっており、とてもじゃないほど聞き取れない。

「さらば、スカイ」

 奴は俺を投げた。
 先の岩を軽々しく投げるように、空めがけて俺を投げたのだ。
 これをされては俺も抵抗しようがない。

 そのまま上空に投げられてしまった。

 どうすれば助かる、どうすれば無事に着地できる。落下傘はさっき使った。残りの落下傘はドラゴンに括り付けてあり、今俺は持っていない。白蛇との戦闘の時は、白蛇の体が柔らかいために助かったが、今回は近くにマキシミもいない。それぐらい高く遠くに投げられてしまった。

 先までいたドラゴンも既に居ない。3人をを避難させるためにどこかに降り立ったのか。

 これは死ぬ運命か。なら仕方ない。運命というのは残酷、死ぬ時は死ぬさ。
 もう少し、尊い人生を歩めばよかったな。死因は巨人に投げられて落下死。もう少し真面目な死に方がよかったな。

 意識も朦朧としてくる。

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 目を開けると、そこには白い世界が広がっていた。ここは、天国か。いや、地獄か。俺は何であんなにも人を殺したんだ。罪のない人まで。

 その時はカッとなっていた。いや、どっちだろう。人を殺すのに興味があった。ない、と言えば嘘になる。

 楽しかった。

「まだ死ぬべきではない」

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「まだ死ぬべきではないぞ」
 目を開けると、いつの間にかドラゴンの背中に乗っていた。3人は乗っておらず、俺1人だけ。

「3人は近くの森で降ろしてきた。そうしたら、マキシミに吹き飛ばされているのが見えた。だから助けに来た」

 俺は生きていた、それもドラゴンに助けられて。
 まだ終わりじゃない、奴……マキシミを倒せば一旦終わる。
 
 あの巨人を倒す。俺と、ドラゴンで。

「行くぞ」

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