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承『記憶喪失の《討伐者》』
第48話 最終決戦3「分からない」
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「私はトールの力を完全に使えるが、お前はまだ未熟者。合成実験の最終段階の直前に逃げ出したお前には、何も使えない」
奴は真っ白な空間を飛びながら、俺に向かってそう言ってくる。この空間には何も無いが、どこかから光が射し込んでいる。音も反響する、壁もないはずなのに。床はある、だから立ってられる。
「私はこれから煙突の電源を入れに行く。トールの雷の力を使って、電気の力で煙突を動かす。お前には分からないかもしれないが、この世界は雷の力で装置が動かせるのだよ」
専門的な知識は一切分からない。が、奴がやろうとしていることが間違っているのは分かる。何回考えても、答えは変わらない。間違っている、生物の心をひとつにするのは。それでは、人の意味が無い。生命の意味が無い。
「私はこの液体で空間をねじ曲げることに成功した。更には今のように、空間を作り出すことも可能だ。また、空間にいる生物の仕組みを操作することも可能。これで私は生き延びた」
奴は地面に降り立ってからフードを取り、俺に顔を見せた。奴の顔は若々しく、俺とあまり年齢が変わらないようにも見える。短髪で青い目をしているが、それよりもシワもない。俺と同い歳くらいの人間が、こんな非人道的な計画を立てていたとなると、ゾッとする。
「誰がお前と同い歳だと言った? 私は二百年前からこの星で暮らしている。紫の液体を手にした時から、姿も声も変えて、世界の帝王として生きた」
そうだ、そうだったな。空間にいる生物の仕組みを操作することも可能とか言ってたな。それを自身に使って、自らの身体を若々しく変化させたんだな。
「今日は私が生まれてから、ちょうど二百年経った。そして、アムスカリスの花計画を実行した日にもなる。世界が私の掌の上に召喚される日でもある。素晴らしき計画を始め--」
「やっぱり許せない」
俺はまた、無意識のうちに呟いていた。奴は目の前にいる、奴にも俺の声は届いただろう。
奴は形相を変えて声も荒らげ、俺の胸倉を掴みながらこう言った。
「私の計画の美しさがまだ分からぬか! 全ての生物が私の掌の上で暮らす、戦争も何も起きない。平凡な世の中の素晴らしさにまだ気づかないか!」
奴は俺の胸倉を掴んだまま高く真上に飛び、俺を地面に強く叩き落した。頭から落ちた俺は、受け身も何も取れず、地面に強く頭をぶつけてしまった。
意識が朦朧としたまま奴の目を見つめるも、奴の怒りはもちろん収まらず、倒れ込んだ俺に馬乗りになって、顔面を殴り続ける。
「この野郎、私が世界の帝王だ! 世界の帝王が、世界中の生物を掌握するだけだ! 世界の帝王は絶対なのだ!」
奴は紫の液体を使い過ぎたのか、気が狂ったように俺を殴り続ける。抵抗もできない、何発も何発も顔面を殴られる。声も出せない、声を出したところで、この声を聞けるのは奴しかいないのだから。助けなんて呼べない。
「気は済まないが、これ以上お前に構ってられない。アムスカリスの花を咲かせに行かなければ」
奴は俺の顔面を蹴った後、どこかに去っていった。
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真っ白な空間に、俺一人が残された。血だらけの顔面をマントで拭き、だだっ広い空間を走り回るも、出口は存在しない。
この空間に、終わりなんてものは無い。
「誰か……誰か……」
助けを呼んでみるも、声が届いている感じはしない。白い空間に閉じ込められた、その事実だけが存在する。終わりは存在しないが。
手元にあるのは……血を拭ったマント、2本の剣、攻撃手段としても使える丸い盾、少しの攻撃を防ぐための鎧。これで、この世界から抜け出せるか……いや無理だ。白い空間に来たのが初めてなのに、ここから抜け出せという方が困難だ。
床に思いっきり剣を突き刺してみるも、一向に割れる予感はしない。割れてしまえば、何も無い空間に真っ逆さまに落ちるかもしれないが、今何もしないよりはいいだろう。しかし、割れる予感はしない。それどころか、この剣の方が先に折れそうだな。
皆が奴と戦っているかもしれないのに、俺は無力だ。皆が何をしているかも見れない、音も聞こえないから、何も介入できない。
それどころか、一種の絶望を感じた。もう二度とここから抜け出せないのではないか、二度と元の世界に戻れないのではないかとか。初めて感じた。
今までは何があっても、謎の好奇心に満ち溢れていた。レインマークの門番を殺した時も、相手が人間だと思って殺した。モンスターとの合成実験を受けた人だから殺したのではない、最初から殺すつもりだった。今までも、何かと人を殺すのに躊躇はなかった。人を殺したいという欲望がどこかにあった。
一緒に暮らしていたガイアさんやシアンを殺そうという気持ちもあった、謎だろう、俺もよく分かっていない。トールが殺意を持っていたのか、それとも俺が殺そうとしていたのか。本当に分からないまま、殺意を押し殺して生活していた。
分からない、自分が。
いざ死も生もない無の空間に閉じ込められると、途端に恐怖を覚える。そうして過去を振り返り、ガイアさんたちに殺意を持っていたことを改めて認識する。手も震える。最低だ、殺したい欲はあるのに、自分が何者か分からないのに、でも殺したいという欲はある。
ああ、分からない。分からない。走馬灯のような物も頭の中で流れ始める。死ぬ訳じゃないのに、頭の中で今までの記憶が流れ始める。今までの記憶、いや、スカイと名付けられてからの記憶だ。強制労働所にいた時の記憶は無い。
ストラート村でガイアさんやシアンと出会い、白蛇を倒した。キミカと出会い、ドラゴンに会って、まだほぼ知らない世界の真理を知った。ここからゴブリンの襲撃を受け、レインマークを襲撃し、ロックに出会って。
ヘイトリッドたちと共にアミティエを訪れ、ライムートでマキシミを倒して、ドラゴンの塔に訪れて。リバイル村でルカやディールと出会って、世界の帝王の計画を知って……今に至る。
これは、スカイとしての記憶だ。被検体番号0818としての記憶じゃない。それより前のでもない。
俺はスカイ。
自分にそう言い聞かせて、目を閉じた。
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目を開けると、俺は草原の上で寝ていた。目の前にはロックとガイアさん。周囲の森は燃えており、次第に雨も降り始めた。ここは穴から少し離れた場所で、世界の帝王とやらの姿も見えない。
「起きたか、世界の帝王が煙突を動かし始めた」
煙突の方を見ると、既に紫色の煙が宙に舞っていた。紫の液体がガスとなって、世界中に拡散されていく様だ。
「灯台もと暗しなのか、煙は私たちの方には来ない。早めに終わらせないと、この世が帝王の物になる」
ロックは俺に説明した後、手を差し伸べた。彼の手を握って、立ち上がる。草原という地面がある。白い空間じゃない、仲間もいる上、限界もある。
奴の計画は俺たちが止める。真の平和は、俺たちが築いてみせる。
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「私はトールの力を完全に使えるが、お前はまだ未熟者。合成実験の最終段階の直前に逃げ出したお前には、何も使えない」
奴は真っ白な空間を飛びながら、俺に向かってそう言ってくる。この空間には何も無いが、どこかから光が射し込んでいる。音も反響する、壁もないはずなのに。床はある、だから立ってられる。
「私はこれから煙突の電源を入れに行く。トールの雷の力を使って、電気の力で煙突を動かす。お前には分からないかもしれないが、この世界は雷の力で装置が動かせるのだよ」
専門的な知識は一切分からない。が、奴がやろうとしていることが間違っているのは分かる。何回考えても、答えは変わらない。間違っている、生物の心をひとつにするのは。それでは、人の意味が無い。生命の意味が無い。
「私はこの液体で空間をねじ曲げることに成功した。更には今のように、空間を作り出すことも可能だ。また、空間にいる生物の仕組みを操作することも可能。これで私は生き延びた」
奴は地面に降り立ってからフードを取り、俺に顔を見せた。奴の顔は若々しく、俺とあまり年齢が変わらないようにも見える。短髪で青い目をしているが、それよりもシワもない。俺と同い歳くらいの人間が、こんな非人道的な計画を立てていたとなると、ゾッとする。
「誰がお前と同い歳だと言った? 私は二百年前からこの星で暮らしている。紫の液体を手にした時から、姿も声も変えて、世界の帝王として生きた」
そうだ、そうだったな。空間にいる生物の仕組みを操作することも可能とか言ってたな。それを自身に使って、自らの身体を若々しく変化させたんだな。
「今日は私が生まれてから、ちょうど二百年経った。そして、アムスカリスの花計画を実行した日にもなる。世界が私の掌の上に召喚される日でもある。素晴らしき計画を始め--」
「やっぱり許せない」
俺はまた、無意識のうちに呟いていた。奴は目の前にいる、奴にも俺の声は届いただろう。
奴は形相を変えて声も荒らげ、俺の胸倉を掴みながらこう言った。
「私の計画の美しさがまだ分からぬか! 全ての生物が私の掌の上で暮らす、戦争も何も起きない。平凡な世の中の素晴らしさにまだ気づかないか!」
奴は俺の胸倉を掴んだまま高く真上に飛び、俺を地面に強く叩き落した。頭から落ちた俺は、受け身も何も取れず、地面に強く頭をぶつけてしまった。
意識が朦朧としたまま奴の目を見つめるも、奴の怒りはもちろん収まらず、倒れ込んだ俺に馬乗りになって、顔面を殴り続ける。
「この野郎、私が世界の帝王だ! 世界の帝王が、世界中の生物を掌握するだけだ! 世界の帝王は絶対なのだ!」
奴は紫の液体を使い過ぎたのか、気が狂ったように俺を殴り続ける。抵抗もできない、何発も何発も顔面を殴られる。声も出せない、声を出したところで、この声を聞けるのは奴しかいないのだから。助けなんて呼べない。
「気は済まないが、これ以上お前に構ってられない。アムスカリスの花を咲かせに行かなければ」
奴は俺の顔面を蹴った後、どこかに去っていった。
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真っ白な空間に、俺一人が残された。血だらけの顔面をマントで拭き、だだっ広い空間を走り回るも、出口は存在しない。
この空間に、終わりなんてものは無い。
「誰か……誰か……」
助けを呼んでみるも、声が届いている感じはしない。白い空間に閉じ込められた、その事実だけが存在する。終わりは存在しないが。
手元にあるのは……血を拭ったマント、2本の剣、攻撃手段としても使える丸い盾、少しの攻撃を防ぐための鎧。これで、この世界から抜け出せるか……いや無理だ。白い空間に来たのが初めてなのに、ここから抜け出せという方が困難だ。
床に思いっきり剣を突き刺してみるも、一向に割れる予感はしない。割れてしまえば、何も無い空間に真っ逆さまに落ちるかもしれないが、今何もしないよりはいいだろう。しかし、割れる予感はしない。それどころか、この剣の方が先に折れそうだな。
皆が奴と戦っているかもしれないのに、俺は無力だ。皆が何をしているかも見れない、音も聞こえないから、何も介入できない。
それどころか、一種の絶望を感じた。もう二度とここから抜け出せないのではないか、二度と元の世界に戻れないのではないかとか。初めて感じた。
今までは何があっても、謎の好奇心に満ち溢れていた。レインマークの門番を殺した時も、相手が人間だと思って殺した。モンスターとの合成実験を受けた人だから殺したのではない、最初から殺すつもりだった。今までも、何かと人を殺すのに躊躇はなかった。人を殺したいという欲望がどこかにあった。
一緒に暮らしていたガイアさんやシアンを殺そうという気持ちもあった、謎だろう、俺もよく分かっていない。トールが殺意を持っていたのか、それとも俺が殺そうとしていたのか。本当に分からないまま、殺意を押し殺して生活していた。
分からない、自分が。
いざ死も生もない無の空間に閉じ込められると、途端に恐怖を覚える。そうして過去を振り返り、ガイアさんたちに殺意を持っていたことを改めて認識する。手も震える。最低だ、殺したい欲はあるのに、自分が何者か分からないのに、でも殺したいという欲はある。
ああ、分からない。分からない。走馬灯のような物も頭の中で流れ始める。死ぬ訳じゃないのに、頭の中で今までの記憶が流れ始める。今までの記憶、いや、スカイと名付けられてからの記憶だ。強制労働所にいた時の記憶は無い。
ストラート村でガイアさんやシアンと出会い、白蛇を倒した。キミカと出会い、ドラゴンに会って、まだほぼ知らない世界の真理を知った。ここからゴブリンの襲撃を受け、レインマークを襲撃し、ロックに出会って。
ヘイトリッドたちと共にアミティエを訪れ、ライムートでマキシミを倒して、ドラゴンの塔に訪れて。リバイル村でルカやディールと出会って、世界の帝王の計画を知って……今に至る。
これは、スカイとしての記憶だ。被検体番号0818としての記憶じゃない。それより前のでもない。
俺はスカイ。
自分にそう言い聞かせて、目を閉じた。
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目を開けると、俺は草原の上で寝ていた。目の前にはロックとガイアさん。周囲の森は燃えており、次第に雨も降り始めた。ここは穴から少し離れた場所で、世界の帝王とやらの姿も見えない。
「起きたか、世界の帝王が煙突を動かし始めた」
煙突の方を見ると、既に紫色の煙が宙に舞っていた。紫の液体がガスとなって、世界中に拡散されていく様だ。
「灯台もと暗しなのか、煙は私たちの方には来ない。早めに終わらせないと、この世が帝王の物になる」
ロックは俺に説明した後、手を差し伸べた。彼の手を握って、立ち上がる。草原という地面がある。白い空間じゃない、仲間もいる上、限界もある。
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