破滅のアダムとイヴ 〜Sランクと記憶喪失と東京と〜

新進真

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承『記憶喪失の《討伐者》』

第55話 最終決戦10「観察者」

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「諦めて、私と共に生きよう。大切な人とも会えるぞ、私の身体の中で」

 奴の攻撃を食らっては死んで、食らっては死んで。これをもう五十回くらいは繰り返した。奴も疲れ果て、俺に至っては精神が腐れ切った。

 何度死んでも、何度死んでも復活して、何度でも殺される。精神的にも身体的にも苦しいが、それでも諦めきれない。

 無数の剣に身体を貫かれても、無限に発射されるビームに身体を焼かれても、奴の拳で首だけが取れても、内臓だけがくり抜かれても、単に殴られて死んでも、諦めきれない。

 どうにかここから出る方法はないか、奴の計画を終わらせる方法はないか、模索しながら何度も何度も殺される。奴も疲れ果てたのか、その場から1歩も動かずに、ビームだけで俺のことを殺してくる。

「お前も中々しぶといな、気に入った。お手製の雷で、永遠に殺してやろう」

 奴は両手を上に掲げた。
 次の瞬間、俺の目の前に激しい音を立てながら雷が落ちた。真っ黒の世界に、閃光が走る。

「私はトールの力も持っている。お前とは違ってな」

 雷が俺の身体に直撃した。ヘイトリッドが味わった苦しみを、もろに受けることとなる。身体が焼け切ったと思ったら、また新たに身体が構築される。しかし、復活してもすぐに雷が俺の身体に落ちる。結局、復活しては雷で殺され、復活してはまた殺される。ただの永久機関と成り果てた。

「お前はこの地獄から抜けられない。この魂の中で、永遠に雷に打たれ続けるのだ」

 奴の言葉通り、俺は雷を浴び続けた。復活してすぐに避けようとしても、無数の雷が俺を追い続ける。ヘイトリッドはただ見ていることしかできない。助けようにも、救いがない。

 俺は立ち止まって、雷を受け続けた。その場に寝っ転がって、復活しても無限に雷を浴びることにした。ここから抜け出すには、有り得ない発想が必要と思ったからだ。
 もはや生きることを諦めたかのように見えるかもしれないが、逆だ。生きたいからこそ、不思議な形で模索している。

 目を瞑り、なすがままに身を委ねた。
 奴の姿は見えなくなっていた。多分、外に出たんだろう。

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 目を開けると、まだ真っ黒の世界にいた。しかし、様子が変だ。真っ黒な世界ということには変わりはない。ただ、ヘイトリッドやドラゴンたちがこの場に居ない。他の取り込まれた人間やモンスターが居ないのは分かるが、この場には俺しかいない。

 それに、無限に落ちていた雷がいつの間にか止んでいた。ここは先までいた世界と違うのか? それとも、完全な孤独になるように閉じ込められたか?

「いいや、我が呼んだ」

 目の前に現れたのは、黄色く光る球体。ここから声が聞こえる。

「我はトール。雷の力を司る、神だ」

 俺の中にも、奴の身体の中にもいるとされているトールが、変わった形で俺の目の前に現れた。球体で、口もついていないが声は聞こえる。今まで脳内に直接語りかけていた奴の存在があるから、そこまで驚きはしないが。

 奴はトールのことを”化け物”や”モンスター”と呼称していた。しかし、トールは自身のことを”神”と名乗っている。

「我はこの世のみをまとめ上げる神だ。理由があって深くは語れない。何者かが我のみを世に召喚し、何らかの方法でふたつに魂を分けられた」

 目の前のトールは本物の神らしい。
 世界の帝王がトールをどうにかこの世に呼び出して、どうにか俺と奴にトールの魂を合成した。恐らく、あの紫色の液体を使ったんだろう。空間をねじ曲げ、神となる存在を呼んだんだろう。

 ならば、何故トールは奴に抵抗しなかったんだ。神の力を使って、悪用するのは目に見えている。

「神の掟、現世に関与してはならない。神は観察者、ただ眺めるだけの存在だ」

 今、俺に話しかけているのは関与ではないのか。何なら神の掟とかいう意味の分からない法を詳しく解説しているが、それとこれは別か?

「深く考えるな。お前はこの世で生まれた存在ではない。我の管轄外の存在だ」

 ん? この世で生まれた存在ではない、それは何を意味するのか? ここで生まれた存在じゃないのなら、俺はどこで生まれたのか。宇宙か? 空の上か?
 トールは俺の出自について詳しく説明することもなく、別の話を続けた。

「我はあくまで観察者。世に干渉せずに、観察するだけの者。我の力を悪用する者が居ようとも、我の意思の外で動く者が居ようとも、外から眺めるだけ。故に力を使う者が居ても、首輪を付けずに野放しにしておく」

 黄色く光る球体は、徐々に人の形へとなっていく。人の形に見えるだけ、目も無ければ口もない。人の形を型どっただけの、黄色い像。それが俺の目の前で突っ立っている。

「お前の中にいる我は起きた。雷のお陰で」

 本能的に俺の手が勝手に動く。俺の右手は人型の黄色い像の胸の部分に当たった。
 その瞬間、何かが目覚めるように、俺の頭の中に電流が走った。ビリリ、ビリリと何度も流れる。脳を活性化させるように、俺の真の力を解放させるように何度も。

「何をするにもお前の自由。だからお前が決めろ。観察者としての、願いだ」

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 巨大な奴の身体に異変が起こった。奴めがけて、雷が落ちた。巨大な奴にはもちろん効かない。人間が当たれば死にかけるが、奴には効かない。

 しかし、それは普通の雷ではない。
 俺の雷だ。俺の力で召喚した雷だ。

 俺は奴の体内にいたヘイトリッドと数十体のドラゴンと共に外に出る。外に出る方法は、俺自身だ。奴の巨大な身体の眼球から外に飛び出す。奴の虹色に点滅して光る、奇妙な世界から飛び出すことに成功した。

 周りにはまだ仲間がいた。
 ロックも、シアンもキミカも、ガイアさんもディールも、スケルトンも白蛇も、その他大勢の仲間が俺たちを出迎える。

「スカイ、生きていたのか……!」
「アレアもどうやってここに……?」
「凄いよ! スカイ!」

 皆が駆け寄って、俺やヘイトリッドが戻って来たことを祝福する。スケルトンや白蛇も、ドラゴンが戻って来たことに大喜び。

「お前ら、どうやって外に出た? 殺してやる、二度と復活しない身体にして、殺してやる!」

 巨大な奴は無数の剣を召喚し、俺たちの方へ向ける。

 ここからは……世に存在してはいけない、俺とヘイトリッドと、数十体のドラゴンたちの番だ。花は咲かさせない、俺たちが花を枯らしてやる。

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