湯原と水野のダンジョン創世記

焼納豆

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 淀島、水元、そして召喚冒険者の全てにチェーの分裂体が張り付いており、その言葉のすべてを把握しているハライチとミズイチ。

「これは……神保のダンジョンがゴーストを引き上げていると言う事は、余裕が無くなっているのですね」

「ハライチ、ここは少々危険を冒しても少し思い切った調査が必要ではないでしょうか?そもそも何故あれほどに神保が力を欲しているのかも良くわかりませんし……今の状態を維持するだけならば、特にダンジョンマスターとして危険は一切なく過ごせるはずですから」

 チェーや地上に配備しているスキート達、更には1階層の町に住んでいる冒険者の話も全て知り得ているので、このダンジョンの安全を確保するべく情報を日々精査している二人。

「そうですね。淀島が神保のダンジョンに連絡を取るので動きがあるでしょうから、意識がそちらに向く……この隙に侵入する事にしましょう。ですが、相当レベルが高いダンジョンである事だけは間違いないので、スラエ様本体に出て頂きましょう」

 眷属の一体であるスラエ本体を投入するほど慎重に行動する必要があると判断している二人は、今このダンジョン内であれば主の安全は確実に担保できると何度も確認した上で、二人に事情を説明してスラエを神保のダンジョンに派遣する。

 分裂体とは異なり別格の強さを持つ本体だが、眷属故に一度消滅すると二度と復活する事は無い危険を孕んでいるので、主に事情を説明する必要があったのだ。

「そっか。わかった。カーリはそれでも良い?そもそもスラエはカーリの眷属だからね」

「大丈夫です。スラエちゃん。宜しくお願いしますね。ですが、危ないと思った時は安全第一。情報よりもスラエちゃんの方が大切ですからね?そこだけは絶対に守ってください除きよ?」

 ピョンピョン跳ねているスラエは、その後1階層に転移してダンジョンから一気に去って行く。

 同時に既に分裂体を出して調査しているチェーを除き、スラビとビーの分裂体が更なる情報収集の為にダンジョンの外に放たれる。

「これだけ外に出すと得られる情報も膨大だろうけど、大丈夫?」

「そ、そうでしたねセーギ君。私達では絶対に処理できませんよ。ミズイチちゃん、ハライチちゃん、大丈夫ですか?」

「「ありがとうございます。全く問題ございません」」

 嬉しそうに微笑みながら優雅に一礼するハライチとミズイチ。

 この情報収集は、何も湯原と水野のダンジョンだけが実施している事ではなく、今力のない淀島と弦間のダンジョンは除外されるのだが、神保や美智のダンジョンの他、ラスリ王国も行っている。

 神保としては自らが派遣しているウルビアが一体死亡した事を掴み慌てて支配下にある三つのダンジョンの調査をしたところ、岩本と三原によって水元が始末された事を知る。

 残る二つのダンジョンに改めて虎の子のゴーストを大至急派遣する手配を行ったのだが、その際にミズイチ達の予想通りに意識が大きくそちらに削がれ、スラエの侵入に気が付く事は出来なかった。

 スラエは、元はスラビの力である収納による能力コピーを使って、湯原と水野のダンジョンで岩本が付けていた魔道具の力を得ているので、侵入時に神保のダンジョンに大きな糧を与えていないのだが、やはりレベル99の眷属と言う力から、完全にゼロにする事は出来ていないのだが……

 気が付かれずに相当力の弱い分裂体を各所に設置して神保のダンジョンを後にするスラエ。

 各自が情報収集を行っている為に直接的な戦闘は起きなかったのだが、先ずは神保が何故力を欲しているのかを調査している時に、過去の出来事を含めて全て理解する事が出来たミズイチとハライチ。

「これは……セーギ様やカーリ様のお優しい性格を考えると、神保のダンジョンを潰す事はできませんね」

 ハライチ達が得た情報は、先ずは神保のダンジョンがレベル99に達しており、その眷属達もレベル99に至っている事。

 そのレベルにあるにもかかわらず更なる力を求めているのは、今の主であるセーギとカーリが治めるダンジョンにもともと存在していたダンジョン、番のダンジョンマスターの仇討ちだと言う事を知ってしまった。

 混沌の時代と言われているダンジョンマスターの暴走の原因は、仲の良い二人のダンジョンマスターが神保の庇護下の元で力を得て幸せに過ごしていたのだが、欲に溺れた召喚冒険者やラスリ王国が手を組んで番の一方を殺害したためだ。

 残された一方が弔い合戦とばかりに大陸中を破壊して最終的にはその身を滅ぼされたのが混沌の時代の始まりであり、とある日の神保の行動……小さな仏像のようなものに語り掛けている神保の言葉を拾ったスラエの分裂体によって更なる内情が伝わっていた。

 神保も残されたダンジョンマスターと共闘しようと申し出たのだが、弔いの為に自分だけで対処すると言い張ったマスターの意志を泣く泣く尊重したのだ。

 その当時の召喚冒険者は残っておらず、関係者としてはラスリ王国の王族だけが世代を超えてその血を受け継いでいる。

 どうやら神保は、そのラスリ王国とその国家に属する者に対して復讐を企んでいるらしく、完膚なきまでに叩き潰す為に慎重にレベルを上げ続けていたようだ。

 周辺のダンジョンを配下にしていたのも、ラスリ王国と戦闘中に自らのダンジョンに攻め込まれないようにする為でもあり、ラスリ王国側と繋がって敵に力を与えないようにする為でもある。

セーギ様はこの世界独自の環境・常識を尊重されるお方ですので、人族に討たれてしまうダンジョンマスターについてはやむを得ない事象と判断されるのかもしれませんね」

「私達の動きを決定するために、やはり事情は説明しましょう、ハライチ」
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