湯原と水野のダンジョン創世記

焼納豆

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……コンコン……

 一際大きく重厚でありながらも、美しさ、品の良さを感じさせる真っ白な扉をノックして開くハライチ。

 天井にまで美しい絵が描かれており、窓から明るい光が差し込むとともに部屋にある照明も淡い光を放って、より気品のある雰囲気を演出している。

 どこの高級品だと思わせるほどの、ミド・ラスリでさえ見た事のない微細な加工が施されたレースがかかっている机と、その机に相応しい装飾が施された重厚でありつつも座り心地の良さそうな椅子があり、既に湯原セーギは入り口とは対面の椅子の中央、つまりは上座なのだが、そこに堂々と座っており、レイン、デルはその背後に控えるように立っている。

 ハライチは入室後どこかに消えると、お盆に乗せられた紅茶とお茶菓子を持って再び現れ、湯原セーギの前だけ・・に準備する。

 一瞬部屋の雰囲気と豪華な調度品に目が奪われたミド・ラスリ一行だが、その視線が座ったままの湯原セーギに向くと岩本と三原以外は眉を顰める。

「貴様、ラスリ王国のミド・ラスリ国王陛下の前で不敬だぞ!」

 騎士の一人が国王を前にして上座に座ったまま立ち上がらない事、メイドのような<淫魔族>が紅茶の準備を湯原セーギにしかしない事に腹を立てる。

「あぁ、気に入らなかったら出て行ってもらって結構だ」

 目の前に自分の分だけ準備された紅茶を口にしつつ、不遜に言い放つ湯原セーギ

 湯原セーギのこの態度も、ミド・ラスリ達の目的を全て把握しているハライチからこうしろと言われて行っているのだが、湯原セーギ本人としては口元がムズムズして仕方がなく、その様子はしっかりと背後に控える眷属達にはバレているようで、笑いを堪えている様な感情を察知している湯原セーギだ。

「……フン。その態度、何時まで持つかな?」

 目の前の存在セーギを鑑定させてレベル1である事を告げられたミド・ラスリは、この男が確実にダンジョンマスターであると判断したので、屈服させなければこのダンジョンを支配できないと考え、不機嫌ながらも対面の席に着く。

 ミド・ラスリからの事前の命令で、ダンジョン関連に対してのみ支配できる能力を持っていた・・・・・岩本は必死で能力を発動しようとするができる訳もなく、更に鑑定を行った騎士が目の前の眷属、ハライチを含めて鑑定を試みるのだが、誰一人として鑑定する事が出来なかった。

 湯原セーギに対する鑑定を妨害する事はこの場にいる眷属達にとってみれば非常に容易いのだが、ダンジョンマスターであると認識させる必要があるとハライチから言われているので、敢えて鑑定させたのだ。

「で、国王が何の用?って言うと思ったか?そっちの情報は全部筒抜けなんだよ。そう言えばお前の所の領地、城下町すら随分と寂れているようだな。当然だぞ?外敵から守るような事をせずに税だけ聴取されるのでは民としてはやってられないからな。で、その補填をこのダンジョンに求めてきた浅はかな国王。他に言いたい事があれば聞いてやる」

 一字一句ハライチからの指示に違わず口にしている湯原セーギだが、セリフと感情が一致していないので少々棒読みになり、レインが笑いを堪えられないのか深呼吸をしている音が聞こえている。

 湯原セーギサイドはこのような状況だが、ミド・ラスリとしては事情を言い当てられた事よりも尊大な態度に我慢が出来なくなっている。

「若造が……良く聞け。ダンジョンをこの場所に構えているお前ならば知っているだろう。以前この場所に存在していた巨大なダンジョン二つの事を……我がラスリ王国の先祖はその二つのダンジョンを完膚なきまでに破壊した。その時に得た素材から真の国王の証であるこの剣が伝承されておる」

 スラリと鞘から抜き去ったその剣からは、相当な呪いのような感情と共に強い力を感じる事ができる。

「どうだ。若造でもこの力を感じる事ができるだろう?それに、貴様と対極ではあるが別格の力を持つ召喚冒険者二人、騎士の精鋭もつれてきた。その尊大な態度が余の機嫌を損ねるたびに、この剣の錆になる可能性が高くなっている事を知るが良い!」

 この剣を見せた時に、湯原セーギを含む背後の者達も眉を顰めたので相当な効果があったと判断しているミド・ラスリだが、真実は違う。

 ダンジョンに入った瞬間に三体のアイズに全てを鑑定していたのだが、この剣の鑑定結果だけは再度確認する必要があると思える程の情報が上がってきていた。

<混沌の時代の原因と言われている、縁結びの聖地のダンジョンマスター二人の魂の一部が封印されている>

 と、鑑定された情報が上がってきたので、近距離でデルやレインによって再度鑑定する必要があるとハライチによって判断されたのだが、その結果はやはり正しく、とても悲しい気持ちになっていた。

 これこそがこの剣の呪いと言われているもので、その怨念とも言える強大な力が剣に封印されており、否が応でも敵であるラスリ王国の王族の為に力が使われてしまうのだ。

 自らの幸せを滅ぼした敵に対する思いによる力が、その敵の為に使われてしまうと言う理不尽な状況に思い至り、全員が眉を顰めた。

 予定ではこの場で少々煽った挙句に痛めつけてやろうと言う計画だったのだが、この情報が確定した直後にハライチが計画に修正をかけて、湯原セーギに指示を出す。

「ミド・ラスリ。言いたい事は理解した。明日こちらから出向いて返事をしよう」

「……良いだろう。だが待つのは一日だけだ。それ以上は譲歩せんぞ?」

 ミド・ラスリとしては、格下が自らの居城に出向いて来る事で脅しが効いたと確信して尊大な態度でこの城を去って行くのだが、岩本と三原は九死に一生を得たと安堵して、この城だけではなくこのダンジョンから一刻も早く待避しようとしている。

 ダンジョンから出て馬車に乗り込むミド・ラスリの機嫌はすこぶる良い。

「あの小僧、命拾いしたな。だが、今後永遠にラスリ王国の為にこき使ってやる」
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