元王子クロイツとその弟子達

焼納豆

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ナスカ王国の王族

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 ドレアと騎士達は、異常な状態を発見する事もリージョやリサを発見する事も出来ずに無駄足になり、ふてくされながらナスカ王国に戻っている。

「あの二人がSSランカーだと?何の冗談だ。今回の出兵は無駄骨だったが、あの二人がこの短時間で無傷の状態で倒せる魔獣など、Sランクの魔獣ではなかったのだ。納品された物も極上だとの噂だが、所詮まがい物だ!」

「ドレア陛下の仰る通りです。若しくは何らかの毒や異常状態にあり想像以上に弱体化していたか……それ以外には有り得ませんな」

 間もなく祖国であるナスカ王国に到着すると言う所まで戻ってきている、国王ナスカとそのお付きの騎士であるアルファ達は、立ち寄る町・村に至るまで史上初のSSランカー誕生で湧き上がっている状態に嫌気がさし、更にはその場で聞かされるSSランカー二人の師匠であるクロイツの称賛の声に怒りが増している。

 この長旅の道中、この噂以外にも自分達が把握していなかった他のSランク魔獣の目撃情報も聞こえてきたのだが、既にその全てが始末された後だと言うのだ。

 事実自力で発見できた魔獣は良くてBランクに分類されている魔獣だけであり、その相手が単体でいた事から多少危ない場面もあったが騎士達の力で問題なく討伐する事は出来ていた。

 この程度でSランクの魔獣を始末しようとしていたのだから情けない限りだが、クロイツ一行を認める事の出来ないドレア達はその討伐した魔獣をギルドに納品して相当買いたたかれた事も恨みを募らせる一つの要因になっている。

 実際納品時には、他国であるが故に王族としての威厳も使えずに怒り散らしていた……

「これが、このグレートオーガが金貨5枚(50万円)だと?バカにしているのか?通常であればBランクの依頼でさえ白金貨1枚(100万円)のはずだぞ?」

「そう申しましてもドレア陛下!この状態……ほぼ素材としては使えない状態ですし、今ギルドにはSランク魔獣の貴重な素材がほぼ完全と言っても良い形で納品されているのですよ?金貨5枚(50万円)でも破格の買い取りだとご理解いただけないのであれば、残念ですが今回のお取引は遠慮させて頂きます」

「ぐぬぬぬ・・・」

 ギルド職員の言葉からもわかる通りに、ドレアがナスカ王国の国王であるとわかった上での交渉になっているので、これ以上騒ぐ事が出来ないドレアだ。

 結局この素材は指定された金額で納品する事になり、道中の経費にすらならない金額しか手に入れる事が出来なかった。

 確かにSランクの貴重な素材がギルドにあるのも事実なのだが、最も金額が低くなった要因はその状態であり、接戦であったためにグレートオーガに相当な傷をつけて仕留めていたので価値としては下の下になってしまっていたのだ。

 これ以上ごねるのであれば、最も高価と言われている魔核に攻撃をしないと言った配慮が出来る状態ではなかった事が原因だと言ってやろうと考えていた受付なのだが、そこまで突っ込む前にドレア側が偶然矛を収めた結果になった。

 全てが想定通りに行かないドレア一行が王城に戻ると、そこには珍しく・・・妹であるリーナがいた。

 リーナからしてみればしょっちゅう顔を合わせて<傀儡>による指令を出していたのだが、ドレア達は記憶には一切残っていない。

 スキルが無いので素のままで会いに来ていたのだが、当然その行動には理由があり、クロイツ対策として幹部を集めた場所に同席してもらう事も一つだが、王族としての血筋による力に賭けてみたのだ。

 自分自身も<傀儡>と言う有り得ない力を有し、兄であるクロイツも謎に包まれてはいるのだが有り得ない力を持っている事は間違いないので、残りのドレアもリーナ自身にはわかりようのない力を有しているはずだと思い、その力でクロイツ達の対処をすると言う最後の賭けに出る事にした。

 その際、自分の護衛である闇の奴隷商の者達が巻き添えになる事もやむを得ないと考えており、最悪は商会長の地位を譲っても良いとさえ考えている。

 それほどにクロイツの脅しは良く効いていたので、先ずは自分の隠し事を話す事にした。

「お兄様。実は今まで隠していた事がります。赤の紋章……あの存在の作成・管理・販売をしていた商会の元締めは私です。元は私達の両親ですが、私が極秘事項として引き継いだのです」

 本当は<傀儡>を使って強引に奪ったのだが、もうその力はないので敵にならないような言い回しにするべく気を使っているリーナ。

 一方のドレアは、赤の紋章の生成や管理と聞いても嫌悪感を表すでもなく黙っているので、この反応はどう判断すれば良いのかわからないリーナはドレアが今の話を不快に思って攻撃してきた場合、何も力を持っていなければ自らの護衛で始末できる可能性はあるが、それは最終手段だと思い、思い切って商会長と言う立場の移譲まで提案する事にした。

「ですが、ご承知の通りに今の商会は立ち行かなくなっております。その原因は、クロイツによるものです。ですから、力のない私はここで商会長と言う立場を去り、お兄様にその地位を引き継いでいただこうかと考えました」

「そ、そうか!それは聡明な判断だったな。正直に言えばもう少し早く言ってもらいたかったところだが、事情があるのだろう。良くわかった。後は任せておけ!」

 突然機嫌が良くなったドレアを見て、これならば幹部を集めた会場に参加させることも容易いと安堵したリーナだ。

 闇の奴隷商幹部の集いに参加する事はドレアが何か特殊なスキルや異能を持っている事が大前提になっているのだが、実際はまごう事なき無能なので、リーナの期待している対クロイツの最終兵器にはなり得ないのだが……

「実は勝手に商会長の交代の為の手続きを開始しておりまして、数日後には全ての幹部がここナスカ王国に集合します。この情報は恐らくクロイツにも漏れており、そこが商会の運命を左右する最終決戦の場になるかと思いますが……」

「そうか、そんな事か。全てを任せておくと良いぞ、このドレア様にな!」

 自信満々な兄の姿を見て、やはり何か特殊な能力を持っていると確信したリーナは安堵した。
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