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(11)商会の統合

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 ロイが勤務しているギルドは、このソシケ王国の王都のギルドだ。

 その王都中に激震が走る。

 王都内にある大きな商会、食料、魔道具、衣料品、雑貨品、武具、嗜好品が売られ、冒険者や一般の民、更に最近は貴族でさえ良く利用している商会が店舗数を一気に減らした上で統合すると宣言したのだ。

 王城付近にある貴族達の別邸では、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっている。

「突然だぞ。何か情報は聞いていたのか?」

「そんな事より、これからも薬草を定量入手できるのか直ぐに確認してこい!」

「困りましたわ。あそこの紅茶は非常に美味しいのですよ?統合して店舗数が減れば、扱う量も減るでしょう?今のうちに買いだめしておきなさい」

「ひょっとしたら、統合によって競争相手がいなくなり価格が上昇するかもしれない。今は有り得ないくらい安価だからな。その伏線の可能性もある。今のうちにある程度の量を確保しておけ」

 各自が思い思いの事を言っているのだが、彼らの言っている事は結局今後自分達が欲する物が安定して手に入るのか否かに尽きる。

 王城の近くに別邸を構えている貴族の中で、唯一そのような動揺を見せなかったのがロイの実家であるハイス子爵家。

 子爵家はかねてから贅沢をする事もなく、更には領地の経営状態が右肩上がりの為に王都の商会が統合されて減少しようが影響ないのだが、もう一つ彼等が把握していない理由がある。

 もちろんロイの力で、商会と言う形ではないのだが、行商人と言う体を装ったカードから顕現した一部の者が定期的に領地に商品を販売している。

 まさか一行商人が王都にある名もなき巨大商店と繋がっているとは思いもしないハイス子爵家は、陰ながらその恩恵を享受している事に気が付かない。

 その喧騒の中でも更に特に普段と変わらないのが二人。

 一人目はその喧騒の原因を作った人物であるロイと、二人目はロイ大好きの姉であるリーン。

「ロイ君!今日の依頼はまた龍の爪だから直ぐに終わるよ。お昼には帰ってくるから、その後は一緒にご飯を食べて、消耗品の買い出しに行こう?」

 新しいギルドマスターを始めとして同僚の受付達も、リーンの実力とギルドへの貢献具合、そして何よりその手綱を握れるのがロイだけと知っているので、明らかに業務時間中なのだがリーンからの申し出は積極的に受けるように伝えており、ロイもその言葉をありがたく受け取っている。

「わかったよ、姉ちゃん」

「やった!じゃあ行ってくるね、ロイ君!!」

 この場に多数の職員がいるのだが、ロイだけと会話してロイだけに挨拶して去って行くいつも通りのリーンを見た職員が、ロイに声をかける。

「ロイ、相変らずリーン様は凄いな。ザグリエ町まで行って帰って半日の時点でおかしいが、更に古龍の爪まで手に入れるって……」

「あ、アハハハハ、そうだね」

 自分が顕現させるカード達を基準に考えると、今のリーンであっても戦闘においては最弱と言えるダイヤ部隊の一人にすら手も足も出ないのだが、その基準で考えると世間の常識から大きくかけ離れているのに気づかされ、リーンを強化しすぎたかと少々不安になっていた。

「俺は生きた龍を直接見た事は無いが、古龍と仲良くなるなんてあり得ないよな。一度で良いから安全な状態で直接生きている古龍を見てみたいもんだ」

 逆隣の同僚からもこのような事を言われて、やっぱり色々やりすぎたと反省しているロイ。

 そこからやはり話は商会の統合に移行する。

 受付に来ている冒険者達も、ギルド職員に対して武具の購入やらメンテナンスやらに不安があるようで少しでも情報を得ようと話してくるのだが、職員達もそのあたりの情報を持っていないので、明確な回答は出来ずにいた。

 その日の夜、相変らず山のような物資をリーンから渡されているロイはいつも通りにダイヤ部隊に収納してもらい、その流れで商会統合の報告を受けている。

ご指示・・・頂きました通り、王都に展開していた商会を統合して配置していたダイヤ部隊を戻しております」

「そっか、ありがとう。今後俺が旅に出た先で必要に応じて商会支部を作るから、そこに配置させたいしね。急な話でごめんね」

「もったいないお言葉です。ところで我が主、あれだけの商会を統合したのですから店舗を拡張しておりますが、未だ名もなき商会では今後問題があるのではないでしょうか?」

「でもさ?俺ってあまりセンスないからな。ダイヤキングに一任するよ」

 ロイは、この一言を後に大きく後悔する事になる。

 自らの唯一の能力であるカード達が、どれほど自分に陶酔しているのかを理解できていなかったのだ。

 数日後……今日は休暇のロイだが、朝も早くから直接家に押しかけて来たリーンの相手をさせられている。

「ロイ君。町中の騒ぎになっている商会、名前がシンロイ商会って言うんだってね。私感動しちゃった。なんだかロイ君を崇めているみたいじゃない?今後贔屓にしようかな」

 リーンとの会話の中で初めて商会の名前を聞いたロイは完全に固まるが、一度公にしてしまった名前を即日変更すると色々と詮索されるので泣く泣く受け入れる。
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