【完結】狼な俺のフィアンセは、98歳〜真実の目で本性を見る少年は、老婆な婚約者を溺愛する

ジュレヌク

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貧乏くじを引いたオウムと秘密の書

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久しぶりにオトミーが、我が家に遊びに来た。

ファント先生とオトミーの刺繍に、母も一枚噛むらしい。

母が準備に忙しくしている間、俺は、彼女を家の庭に案内した。

晴れやかな天気で、咲き誇る花の香りが気分を沸き立たせる。

笑顔が絶えないオトミーに、俺は、ある話をした。


「国立歴史図書館ですか?」


オトミーの問いに、俺は、頷いた。


「そこに、前世の記憶を持った人物が書き記した書物が所蔵されているらしい」


「まぁ!」


手を打って喜ぶオトミー。

自分の身に起こる不可思議な現象を解決する糸口になるかも知れないと、目を輝かせている。

しかし、どんな内容かも分からず、大した収穫が得られない可能性もある。

あまり期待させて、落胆させるのも可哀想だ。


「オトミー、ただの『本』だからな」


念押しすると、直ぐさま、ブンブン頭を上下に振り始める。

俺の意図に気づいて、一生懸命大丈夫だと伝えているんだろう。

オトミーの悩みをどうにかして解消してやりたい俺は、彼女と同じような存在が居ないかを調べた。

そして、百年以上前に、魔導士団に前世持ちが居たと言う情報を得た。

その人が、自身が編み出した魔法と、それが作り出された経緯を記した物を残していたらしい。

国立歴史図書館は、この国の歴史を後世に語り継ぐ為に重要と考えられる書物を集めた場所だ。

その書物も、特別保護対象の書籍として保管されている。

貴重な書物だけに簡単に閲覧は出来なかったが、それ以外の突破口が無いなら行くしかない。

俺は、今自分が持ち得る全ての手駒を曝け出して、その権利を得る事に成功した。


「あぁ、今すぐ行きたいわ」


俺は、駆け出そうとするオトミーの手を掴んで、四阿に設けたベンチに座らせた。


「それが、実は、見ることが出来るのは、俺だけなんだ」


「え?」


「国の特別保護対象になっていて、本当なら、閲覧不可。今回は、無理を言って見せて貰えることになった」


俺が団長に直談判し、秘密裏に本を見せて貰えることになっている。

ただ、安くはない対価を支払わされる事になった。



「交換条件ですか?」


「あぁ」


「どんな?」


「本を読ませて貰う代わりに、俺は、次の魔物調査に同行する事にした」


「いけません!」


オトミーは、顔を真っ青にして立ち上がった。

魔物調査は、討伐とは違い実質的戦闘はない。

ただ、最近活発化する動向を探る為、『暗黒の森』と呼ばれる魔物の生息地に足を踏み入れることになる。

危険がないと言えば、嘘だろう。


「私の為に、そんな危険な任務に行くなんて!ウォルフ様は、まだ、12歳なのですよ!それなのに、それなのに・・・」


言葉が続かず、オトミーは、唇を噛んで涙を堪えている。


「オトミー、俺は、学園に通ってなければ、最初から最前線に送られる身だ。こうやって、お前と幸せな毎日を送れるだけでも奇跡に近い。だから、せめて、俺に出来る事をお前にしてやりたいんだ」


言い聞かせるように、優しく頭を撫でながら顔を覗き込むと、我慢しきれなかった涙が、ポロリと落ちた。


「ごめん。俺は、お前を泣かせてばかりだな」


情け無さに胸が痛くなるが、引くわけにはいかない。

泣き止むまで、俺は、辛抱強く待った。

少し時間が掛かったが、最後に、オトミーがポツリと、


「私、ウォルフ様に、愛されていますのね」


と呟き微笑んだ。

これ以上ないと思っていた愛しい思いが、また、胸の中で膨れ上がった。


「ウォルフ様、せめて、コレを」


オトミーは、自分が身につけていたブレスレットを外すと、俺の手首に着けた。

小さなガラス玉が繋がったソレは、中に不思議な光を宿していた。


「コレは?」


「小さい頃、お父様が買ってくださった物です。オモチャのように見えますが、一応、水晶の表面に護符が刻まれているんです」


よく見れば、球体一つ一つに見た事もない文字が入っている。


「お父様が、蚤の市で吸い寄せられるように買ってしまったと。帰って直ぐ私に下さったのですが・・・私、この文字が読めるんです」

「文字が?」

「はい。この文字は、『仁(じん)』。多分、前世の記憶が関わっていると思うんです」


俺は、光に翳し他の文字も見た。

どれも複雑で、俺には、何と読むのか見当もつかない。


「もし、その本に、同じような文字があれば、著者の方と私の前世は、繋がっているかも知れません」


「なるほど」


少しでも、手掛かりは多い方が良い。


「借りて行くよ」


「はい」


オトミーは頷いた後、ブレスレットに手を重ねた。


「少し離れ離れになるけど、ウォルフ様を守ってね」


すると、ほんのりと明るさが増し、文字もくっきりと浮き立つように見えた。

きっと、オトミーに出会う為に、このブレスレットは、イジューイン伯爵を呼び寄せたのだろう。

そして、次は、何を呼び寄せるのか?

俺とオトミーの歯車が、やっと回り出した気がした。








































「このデカイのが、話してたウォルフ・スタンガン。ウォルフ、この小さいのが、図書館長のパロット・ミヤマだ」


「小さい言うな」


とソプラノで怒鳴るのは、小柄なオウムの女性だった。

ブラウンの髪に、一部だけ赤くなった前髪が、飾り羽のように垂直に持ち上がり後ろへと流れている。

着ている服は、図書館員用のズボンとローブ。

胸元のネームプレートに、小さく『館長』と書かれている以外、他の図書館員との違いはない。

言われなければ、新米司書だと思い込んでいただろう。


「お前さんかい?埃の被った古書を読みたがる酔狂な変人ってのは?」


「え?あ、はぁ、変人とは違うと思いますが、その通りです」


「こんなモン読みたがる奴が、変人以外いるもんか」


ミヤマ館長が金庫から出してきたのは、何重にも鎖が巻き付いた分厚く大きな本だった。






カタカタカタカカタカタカタカ





テーブルの上で、小刻みに動き続ける本は、まるで、それ自体が生きているようだ。


「ここに所蔵されたのが五十年以上前。著者の孫に当たる方の寄贈だったが、先方でもコレを開いた者はいないらしい」


「何故ですか?」


「その鎖、鍵が付いていないだろ?て事は、粉砕するか、何らかの解除方法が存在するって事だ」


コレを書いた魔導士は、余程中を見られたくなかったのか?

て言うか、見られない物に対して、団長は、俺に対価を要求するのか?

ドラコ団長を見ると、眉を右だけクイッと上げて、フンと鼻を鳴らした。

言いたいことがあるなら、さっさと言ってくれ。


「遺言で、『この本を開けられた者に、私の秘密を全て譲り渡す』と書かれていたそうだ。著者は、卓越した能力者で、彼にしか使えない魔法も多数あった。今では滅んだ魔術と呼ばれるソレらを相続する権利は、コレを開けた者にあるって訳だ」


「今までに挑戦した人は?」


「俺だけだ」


「え?」


「良いところで失敗して、本に失神させられたがな。それ以外の人間は、近付いただけで魔力酔いを起こした」


下手な魔導士が触れれば、体内の魔力が暴走して、ぶっ倒れるらしい。

今、管理を行っているミヤマ館長は、強力な防御魔法を張れる天才。

彼女が四六時中張り付き、結界を張り続けるお陰で安全が保たれているらしい。

ここの館長を押し付けられたのも、他に適任者が居なかったに過ぎない。


「誰もヤレる奴が居ないから、アタシがやってるだけ。ったく、とんだ、貧乏くじだよ。こんな物騒な物、捨てられるものなら捨ててるね」


魔力を暴走させる凶器並みの遺物。

俺は、一瞬躊躇った。

しかし、オトミーの為にも、ここで引き返すわけにはいかない。

一歩踏み出し近づくと、



ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ



本が、一層激しさを増して机の上で跳ね出した。

ミヤマ館長も杖を取り出して、いつ暴発するか分からない俺の魔力に意識を集中している。

いざとなれば、俺を気絶させ、強固な結界の中に隔離するつもりなんだろう。

しかし、俺は、不思議と恐怖感が湧かなかった。



おいで


おいで



頭の中で、声がする。

呼ばれるまま、ブレスレットをした手を本に翳せば、




シャララララララララララ




鎖が解けて、俺の手首に絡まった。

そして、風もないのに本のページが、




パラパラパラパラパラパラパラパラ



とめくられ、輝く文字が溢れ出した。

渦を巻くように虚空へと上り、さらに輝きを増す。

俺も、団長も、館長も、全員が強烈な閃光にやられて目を閉じた。

どれくらい時間が経っただろう。

恐る恐る目を開けると、そこには、何も無かった。

しかし、俺には、分かる。

手が、焼けるように熱く、指先から手首、二の腕から肩まで、何かに絡まれている感覚がある。

袖を上げてみると、腕全体に鎖を描いた刺青が入っていた。






開けてみろ






頭の中に、また、声が響いた。

掌に意識を集中させると、先程鎖でグルグル巻きにされていた筈の本が、突然現れる。

咄嗟に手を握ると、本は、消えた。

もう一度繰り返すと、また、本が現れる。


「マジかよ。こんなあっさり手に入れやがるか?」


団長の憎々しげな声が、部屋に響いた。

しかし、残念ながら・・・


「団長、手に入れたんですけど・・・読めません」

全くの、宝の持ち腐れだった。
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