【完結】狼な俺のフィアンセは、98歳〜真実の目で本性を見る少年は、老婆な婚約者を溺愛する

ジュレヌク

文字の大きさ
14 / 34

魔獣調査隊②

しおりを挟む

阿鼻叫喚。

地獄絵図。

正に、カオス状態だ。

突然、地面に穴があき、そこから無数の虫が飛び出して来た。

流石のウォルフも、地面にまでは、結界を張っていなかった。

しかも、魔物を排除対象として認識していた為、反応が遅れる。

地面に手を突き、一瞬にして結界を下にも張ってくれたが、中に入ってしまった物は仕方ない。

虫籠に、自分達が放り込まれた様なものだ。

極太の針を持つ蜂は、服の上からでもお構いなく毒を刺してきた。

皮膚に張り付く毛虫は、服の中まで侵入し毒を含む目にも見えない細かい毛を、無数に刺してくる。

羽虫は、耳、目、鼻、口へと張り付き、人から五感を奪った。

一人、また一人と倒れていく中、俺は、手当たり次第に空中を飛び回る虫を焼き払った。

まだ、気力のある者達も、果敢に得意な魔法で攻撃をしているが、騎士団の連中は、ほぼ壊滅状態だ。

指示を出したいが、口を開けた瞬間、大量の虫が口に入ってくるだろう。

くそ、このまま全滅するのか。

諦め掛けた俺の目に、ウォルフの姿が映る。

奴は、自前のカバンに手を突っ込むと、紐のついた丸い球を取り出した。

そして、その先端に火をつけると、ブンブン振り回し始める。


「皆、目を閉じて!息を止めて!」


ウォルフの指示に、皆が蹲り、顔を隠して頭を抱えた。

聞こえるのは、


ヒュンヒュンヒュンヒュン


と空気を切る音。




ゴホッゴホッゴホッ




蔓延する煙で咳き込むと、涙と鼻水が止まらなくなった。

そして、息を止めるのが限界になった時、一気に息を吸った。


「・・・あれ?」


予想外の出来事に、あちこちで何か問いたげな呟きが聞こえる。

煙は、見る影もなく、目の前に広がるのは、地面を埋め尽くすほどの虫の死骸。

瀕死の騎士団員達は、その中に埋もれてしまい、こんもりとした山を作っていた。


「早く、掘り起こして下さい!」


ウォルフの叫びに、助かった者達が、一斉にその辺りを掘り返し始める。

見つけ出した負傷者達を一箇所に集め、ポーションを無理矢理口に突っ込んだ。

飲める、飲めないじゃない。

鼻をつまみ、喉の奥に流し込むしか、コイツらを助ける術はない。

必死の救助とポーションのお陰で、全員命は取り留めた。

しかし、満身創痍。

もう、一歩も動く気力がない。

その日、俺達は、この場を離れず野営する事にした。

テントを張り、食事の用意をしている時、ウォルフが一人一人を回って何かを手渡していた。

俺の元に来た時、その手に持っていたのは、妙に可愛らしい小瓶だった。


「さっきは、助かった。しかし、あの煙は、なんだ?」


「イジューイン印の殺虫剤です」


「イジューイン?あぁ、お前の婚約者の」


「はい。民間の市販薬から医師の処方箋に対応する薬まで手広く研究開発されているんです。森に虫が出ると聞いたオトミー・・・婚約者が取り寄せてくれました」


イジューイン伯爵と言えば、医学博士として後進の育成にも尽力する志高い方と聞いている。

しかし、これ程の効果があるとは、一体何を原料にしている?


「自家製のハーブを中心に、ある種の花を澱粉で固めて作ると聞いています」


「そんなもんで、ここまで効くか?」


結界の外に出す事ができず、片隅に山のように積まれた虫の死骸が恐ろしい高さになっている。

再び動き出す事もなく、完全に息絶えているところを見ると、この殺虫剤には、通常では考えられない強力な効果があるんだろう。


「企業秘密を俺に聞かれても。あぁ、それと、コレを。本当は、調査対象の穴に入る前に渡す予定だったんですけど」


ウォルフが、あの小瓶を手渡して来た。


「コレは?」


「虫除けです」


「原料は?」


「こだわりますね。一応、レモンユーカリの葉だと聞いていますが。コレを振りかけておけば、暫くは、安全だと思います。結構匂いも良いんですよ」


無邪気に笑うウォルフが全幅の信頼を寄せるのなら、効果は証明済みなんだろう。

しかし、天然素材で、異常な効果を発揮するカラクリが何なのか?

気にならないと言えば嘘になるが、今は、ありがたく頂戴しよう。


「なので、明後日までには帰れますか?」


「何処からどう繋がって、『なので』なのかは分からないが、まだまだ帰れないぞ」


「やっぱり・・・」


他の奴らが足手纏いに感じてしまうのは、お前だけじゃない。

悪いが、もう暫く付き合ってくれ。
























「ウィザル、どうした、おっかない顔して」


「五月蝿い、バッファ!あっちへ行け!」


「ったく、公爵の三男坊は、態度わりぃなぁ」


同期で入ったバッファは、平民出の粗野な男だった。

無論、学園出身者じゃない。

片田舎でノホホンと暮らしていた、ただの農民だ。

それが、ある日村を襲った魔獣を一人で殲滅した事で、特別扱いを受けることになった。

本人の意思もあって、魔導士団に入団。

周りも一目置くだけに、余計、いけ好かない。

しかも、俺は、口も聞きたくないのに、しょっちゅう絡んでくる。

俺は、幼い頃から優秀だった。

生まれる順番さえ違えば、俺が、当主として一番適任だった。

三番目に生まれたばかりに、自分で道を切り開かざるを得なくなった。

それでも、起死回生とばかりに、首席卒業を引っ提げ、大手を振って入った魔導士団。

平民と同じ扱いな上に、十二歳の小僧より下に見られるとは、思ってもいなかった。

本当に、本当に、本当に、本当に、本当に、我慢ならない。

しかし、さっきの虫の件も、あの小僧が機転を利かせたお陰で全滅を免れた。

実力の違いだと見せつけられるような行為に、俺の憤りは、晴らす場所もない。

奴から渡された小瓶を、腹立ち紛れに投げ捨てた。



カシャン



呆気なく割れた容器に、少しだけ後悔をした。

この後、また、いつ虫が攻めて来るか分からない。

それへの唯一の対抗策を、自分で捨ててしまった。

今更、もう一つ下さいと頭を下げるわけにはいかない。


















『オトミー、お前は、自分の能力を何処まで知っておるのじゃ?』


「能力ですか?」


忠兵衛(ちゅうべえ)様の質問に、私は、首を傾げる。


「昔の文字を読めるくらいしか・・・」


『やはり、無意識で垂れ流しておるのか?』


「垂れ流すって・・・何をでしょうか?」


私は、思わず自分の衣服を確認した。

何か、液体が垂れているのだろうか?


『ちがうわ!其方には、癒やしの気を感じる。それが無自覚なら、尚更気をつけねばなるまい』


珍しく御立腹の忠兵衛様を前に、私は、どうしたら良いのか分からない。


『其方の焼くクッキーを食べると、肌艶が良くなるだけでなく、毛並みも良くなる』


「そうでしょうか?」


私は、確認のために、忠兵衛様を撫で回した。


『これ!やめろ!撫でるな!』


「確かに、以前より、ツヤツヤなような」


『何故、ワシで確かめる!』


「自分の髪は、毎日触れているので、違いがよくわかりません」


『ぬぉぉぉぉ、そこ、もうちょっと右を』


「はい。ここでしょうか?」


『フンフン、そうそう、次は、左も』


「はい」


あれ?何の話でしたっけ?

背中を掻いて欲しかっただけかしら?

ふふふ、忠兵衛様、寝てしまわれたわ。

私も、少し、お昼寝いたしましょう。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される

朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。 クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。 そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。 父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。 縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。 しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。 実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。 クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。 「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

パン作りに熱中しすぎて婚約破棄された令嬢、辺境の村で小さなパン屋を開いたら、毎日公爵様が「今日も妻のパンが一番うまい」と買い占めていきます

さくら
恋愛
婚約者に「パンばかり焼いていてつまらない」と見捨てられ、社交界から追放された令嬢リリアーナ。 行き場を失った彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな村だった。 「せめて、パンを焼いて生きていこう」 そう決意して開いた小さなパン屋は、やがて村人たちの心を温め、笑顔を取り戻していく。 だが毎朝通ってきては大量に買い占める客がひとり――それは領地を治める冷徹公爵だった! 「今日も妻のパンが一番うまい」 「妻ではありません!」 毎日のように繰り返されるやりとりに、村人たちはすっかり「奥様」呼び。 頑なに否定するリリアーナだったが、公爵は本気で彼女を妻に望み、村全体を巻き込んだ甘くて賑やかな日々が始まってしまう。 やがて、彼女を捨てた元婚約者や王都からの使者が現れるが、公爵は一歩も引かない。 「彼女こそが私の妻だ」 強く断言されるたび、リリアーナの心は揺れ、やがて幸せな未来へと結ばれていく――。 パンの香りと溺愛に包まれた、辺境村でのほんわかスローライフ&ラブストーリー。

傷跡の聖女~武術皆無な公爵様が、私を世界で一番美しいと言ってくれます~

紅葉山参
恋愛
長きにわたる戦乱で、私は全てを捧げてきた。帝国最強と謳われた女傑、ルイジアナ。 しかし、私の身体には、その栄光の裏側にある凄惨な傷跡が残った。特に顔に残った大きな傷は、戦線の離脱を余儀なくさせ、私の心を深く閉ざした。もう誰も、私のような傷だらけの女を愛してなどくれないだろうと。 そんな私に与えられた新たな任務は、内政と魔術に優れる一方で、武術の才能だけがまるでダメなロキサーニ公爵の護衛だった。 優雅で気品のある彼は、私を見るたび、私の傷跡を恐れるどころか、まるで星屑のように尊いものだと語る。 「あなたの傷は、あなたが世界を救った証。私にとって、これほど美しいものは他にありません」 初めは信じられなかった。偽りの愛ではないかと疑い続けた。でも、公爵様の真摯な眼差し、不器用なほどの愛情、そして彼自身の秘められた孤独に触れるにつれて、私の凍てついた心は溶け始めていく。 これは、傷だらけの彼女と、武術とは無縁のあなたが織りなす、壮大な愛の物語。 真の強さと、真実の愛を見つける、異世界ロマンス。

七人の美形守護者と毒りんご 「社畜から転生したら、世界一美しいと謳われる毒見の白雪姫でした」

紅葉山参
恋愛
過労死した社畜OL、橘花莉子が目覚めると、そこは異世界の王宮。彼女は絶世の美貌を持つ王女スノーリアに転生していた。しかし、その体は継母である邪悪な女王の毒によって蝕まれていた。 転生と同時に覚醒したのは、毒の魔力を見抜く特殊能力。このままでは死ぬ! 毒殺を回避するため、彼女は女王の追手から逃れ、禁断の地「七つの塔」が立つ魔物の森へと逃げ込む。 そこで彼女が出会ったのは、童話の小人なんかじゃない。 七つの塔に住まうのは、国の裏の顔を持つ最強の魔力騎士団。全員が規格外の力と美しさを持つ七人の美形守護者(ガーディアン)だった! 冷静沈着なリーダー、熱情的な魔術師、孤高の弓使い、知的な書庫番、武骨な壁役、ミステリアスな情報屋……。 彼らはスノーリアを女王の手から徹底的に守護し、やがて彼女の無垢な魅力に溺れ、熱烈な愛を捧げ始める。 「姫様を傷つける者など、この世界には存在させない」 七人のイケメンたちによる超絶的な溺愛と、命懸けの守護が始まった。 しかし、嫉妬に狂った女王は、王国の若き王子と手を組み、あの毒りんごの罠を仕掛けてくる。 最強の逆ハーレムと、毒を恐れぬ白雪姫が、この世界をひっくり返す! 「ご安心を、姫。私たちは七人います。誰もあなたを、奪うことなどできはしない」

男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~

百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。 放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!? 大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

処理中です...