【完結】マシュマロな君を手に入れるまで

ジュレヌク

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第一話達観王子とマシュマロ姫

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突然だけど、僕は、マシュマロが大好きだ。

あの白くて、フワフワとしていて、口の中でシュワシュワと溶ける感じが大好きだ。

ジーッと遠くに並べられたお菓子達を見つめて、現実逃避しているのは、今、この状況が、僕にとって非常に居心地が悪いからに他ならない。

今日は、王太子の婚約者候補が集められたパーティー。

綺麗に着飾った女の子達が、ウフフとかオホホとか言いながら、全く笑っていない獲物を狙う獣のような目で僕を見てくる。

そう、僕が、その王太子だ。

まだ、十二歳なのに、今後の人生が決まってしまった。

何故なら、父と母には、僕と姉上以外に子供がいないからだ。


「ごめんなさいね」


と母が言う。


「すまない」


と父が言う。   

謝って欲しいなんて、一度も言ってないのに、あまりに何度も謝るものだから、王太子って不遇職なのかと思ってしまう。


「〇〇侯爵家次女、〇〇と申します」


一人一人、女の子が、挨拶をしては周りに侍っていく。

さっさと席に戻ればいいのに。

人垣に囲まれて、ビュッフェテーブルが見えなくなってきた。

僕は、マシュマロを並べて作られた『welcome』の文字が、視界から消えていくのを悲しく感じた。


「マシュー殿下、この前の剣術大会の優勝おめでとうございます」


一人が言うと、周りから、

おめでとうございます

おめでとうございます

おめでとうございます

おめでとうございます

と、コールが湧く。

五月蝿いから、もう少し黙っていて欲しい。


「ありがとう。(出来レースだけどね)」


一応、返事はしたけど、僕の心の声が聞こえる人は、居ただろうか?

いや、いたら、こんなに囲まれはしないだろう。

良く姉君に、

『達観し過ぎて気持ち悪い。貴方、本当に、十二歳?』

と言われるけど、王太子に、本気で挑む馬鹿はいないと思う。

対戦相手は、皆、上手く手を抜いていないように見せつつ負けるのが、未来の従者への近道だとでも思っているんだ。

これなら、まだ、近衛隊のキックトック隊長の方が分かりやすくて良い。

五十手前の彼は、ボッコボッコのギッタンギッタンに十二歳の僕を叩きのめした後で、


「ハーッハッハッハ、マシュー殿下も、まだまだですなぁ!」


と、高らかに笑うのだ。

あ、決して、痛ぶられるのを喜ぶ性癖じゃない。

そこは、重要だから、重ねて否定させてもらう。

僕だって、対戦相手達の気を使う気持ちも、加減の難しさも、わかっているつもりだ。

だけど、手加減される側の気持ちも分かってもらえると嬉しい。

ちょっと、馬鹿にされている気分になるんだ。

姉上に相談したら、


「良いものがあるわ!これは、貴方にとってのバイブルになるはずよ」 


と、巷で流行っているという恋愛小説を貸してくれた。

僕と同じような悩みを持つ王子が、天真爛漫な平民の女の子に恋をするお話だった。

王宮内の息苦しさに、お供も付けずに街へ繰り出した王子が、花屋の娘と出会うところからお話が始まる。


「貴方、だあれ?ここじゃ見ない顔ね!私が街を案内してあげるわ」


膝上丈のワンピースを着た女の子は、迷子でウロウロしていた王子に声を掛ける。

先ず、お供を連れずに場外に行くことは不可能だ。

もし仮に、僕が同じ事をしようとしても、蟻すら入れない鉄壁の防衛網に阻まれ、すぐに捕まる。

次に、膝上丈とか、ハレンチ極まりない服装を許している時点で、両親もろくでもない人間だと知れる。

そんな服、何処で買ったんだ?

自分で切ったなら、ただの露出狂だ。

そして、見も知らない男に突然話しかける節操のなさに、警戒心が湧く。

何かを売りつけるのか、はたまた、変な店に勧誘するのか?
 
最初の台詞を見ただけで、馬鹿馬鹿しくて本を返した。

自分の妻となる女性が、初対面の男性に軽々しく声を掛け、脹脛(ふくらはぎ)を恥ずかしげもなく見せて歩く。

想像しただけで、ゾッとした。

姉上は、『石頭ねぇ』と言うけれど、僕の理解を超えた世界だった。

それなのに、学園に入ると、小説の中のような少女が寄ってきた。

一人や二じゃない。

本に感化されているのは分かったけど、あんな格好で学園を練り歩いたからには、多分、輿入れ先がなくなるだろうなぁと哀れに思った。

全く、出版社も、罪なことをしたものだ。


「ふぅ」


とうとう、僕の視界からマシュマロが、見えなくなってしまった。

切なくなって視線を下ろすと、そこに、マシュマロで出来たお姫様が立っていた。
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