【完結】マシュマロな君を手に入れるまで

ジュレヌク

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第四話君を逃せない

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「ささ、グレー公爵令嬢、こちらへ」

「はい」


スサササササササササササササササ

ポムポムポムポムポムポムポムポム


僕の乳母、マイアーとマシュマロ姫が、物凄い勢いで先へと進む。

あっと言う間に距離が開き、もう人差し指くらいの大きさにしか見えない。

え?競走してるの?

あれで走ってないって、あの2人の足は、どうなっているんだろう。


「まっ……」


『待って』と口にしようとして、言葉をのみ込んだ。

そんな情けない姿を、彼女に見せたくない。

せめて、同じくらいに走れなければ、相応しいなどと言えないだろう。

ただ、マイヤーと同じスピードを出せるマシュマロ姫と、対等になれるのは、いつだろう?

なにせ、マイヤーは、僕の乳母になる前は、母上の護衛を務めていた。

一国の女王を二十四時間体制で守る女性騎士団。

その団長に、最年少で就任した経歴の持ち主だ。

最初に剣を教えてくれたのも彼女だし、生まれて初めて僕の骨を折ったのも彼女。

僕は、なんとかついていこうとスピードを上げた。

次々に脱落していくメイド達。

他のご令嬢は、既に後方に豆粒位にしか見えない。

なのに、声だけが、


「お待ちになってー」

「マシュー殿下、カムバーク」


と耳元で叫ばれてるみたいに響いてくる。

一体、どんな大声を出せば、こんなことになるんだろう?

メイド達に至っては、


「あぁ、また、マイヤー様のお仕置きを受けることになってしまう……」

「明日の鍛錬、怖い……」


と嘆きがそこかしこで呟かれている。

あー、マイヤー、厳しいからなぁ。

彼女について走るだけでも困難なのに、何故できないのか、不思議でならないらしい。


「ごめんね、先に行くよ」


護衛を兼ねている彼女達を振り切ることに多少の罪悪感を抱いたけど、今は、先を行く2人に追いつかないと!

そんな僕の気持ちに気づいたのか、マシュマロ姫がチラリと振り返り、足を止めてくれた。

そして、マイヤーに声を掛け、待つように言ってくれたようだ。

僕が辿り着くまでの間、2人は、二言三言言葉を交わしているようだ。

読唇術を使い、内容を読み取ると、



「まぁ!私としたことが!申し訳ございません」

「いえ、特に早いわけでは……」



ということらしい。

ごめん、意味が分からない。

特に早いわけでは……って、この高速移動のことを言ってるの?

僕は、いつも鍛錬で走る時、他の兵士達が僕より後ろを走るものだから、てっきり自分は他の人より早いのだと自惚れていた。

なんて、恥ずかしい。

あれも、忖度だったんだ。

僕を抜くわけにもいかず、ちんたら走る彼らは、鍛錬にもならないじゃないか。

僕は、申し訳なさと共に、今後一層厳しく指導してもらおうと心に決めた。

更にスピードをあげて近づくと、時間を持て余した2人は何やら見つめ合い、そして、固く握手をしていた。

なにそれ!

羨ましい!

僕は、物凄い敗北感で情けない顔をしていたと思う。

そんな僕に追い打ちをかけるように、マイヤーが、


「マシュー様も、お急ぎくださいませ」


と、声をかけてくる。

当たり前のように言わないでくれ。

後ろを見てみろ!

他のメイドは、皆、床に倒れ込んでいるじゃないか!

でも、僕は、


「ハァハァハァ、ハハハハハ」


久しぶりの気持ちよさを感じていた。

ドンドン先に行ってしまう二人には、僕に対する忖度なんてない。

本当に不思議そうな顔で、『何で付いてこれないの?』と言いたげに首を傾げている2人。

気を使うなといいながら、こんな風に気を使われなくて驚いてしまうだなんて、僕もまだまだだ。

まずは、二人に追いつくところから始めてみよう。

そして、いつか、僕がマシュマロ姫を軽々と抱き上げて、先頭を走れるくらいになれば良い。

やっと追いつくと、マイヤーが僕に目配せをして、彼女の右腕を掴んだ。

僕に、左腕を掴めということか?

出会ったばかりの女性の肌に触れるなど、紳士的な態度ではない。

ただ、これを逃せば、もう次がないと思わせる緊迫感が僕を襲った。


「し、失礼するよ」


マイヤーと僕に挟まれた彼女は、


「え?え?え?」


と驚きの声を上げている。

しかし、それを気にせず、僕らは一気に貴賓室へ走った。

ごめんね、マシュマロ姫。

でも、君を逃せない。

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