眩しい君の隣へ。

初恋

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第14話 安堵の代償

数日たった,土曜の夜。
バイトは休みを取って,考えた末,私は明に電話を掛けた。

「明,今,家?」
『そうだけど』

電話をとってくれたこと。
いつもいるって分かってても,今いてくれたこと。
両方にほっとする。

「今から家,行っていい?」
『鍵なら空いてる』
「うん,分かった」

若槻は,眩しい。
私の気まぐれが無くちゃ,知り合いになんてならなかった。
いつも,学校の真ん中にいて。
何でも出来て。
私と同じ所が沢山あるのに,私は皆から敬遠されて。
あんな風になりたかったんだなって,思い出した。
だから,私じゃ見合わない。
私は,明の彼女だから。

『別れちゃえ』

今の私じゃ,並べない。
いつか並べるかも分からないけど,今のままじゃ努力も出来ない。
眩しいよ,若槻は。
眩しいけど,並べるようになりたい。
だから

「明,私と別れて」

私は家についてすぐ,胡座をかいていた明に,そう言った。
明が怖い顔をする。

「一花,何いってんの」
「私,好きな人が出来たの。その人の,彼女になりたいの。だから…っ」

明の彼女ではいられない。
そう言おうとして,出来なくなる。
明が私に近づいた。
身体が強ばる。
叩かれる,そう予感して目を瞑ったら。
ドンッと腹部を蹴られた。
喉の奥で悲鳴があがって。
予想出来てなかった痛みに,私はよろける。
散らかった部屋。
よろけて足をついたところで,何かをふんずけて私は転んだ。
痛い。
そんなことを思っている暇もない。
治っていない首もとの痣,新しく狭い部屋の壁にぶつけた肩。
恐る恐る見上げると,私の長い髪の毛を,慣れたように掴み上げた。
髪の毛が長い分,痛みはまし。
けれど,頭皮が引っ張られるのは,それなりの恐怖がある。
あぁ,ずっと守ってたのに。
どんな時も,明にとって掴みやすい髪。
それでも私は切らなかった。
ままが,綺麗って褒めてくれたから。
でも…
昔は,お母さんもこうじゃなかった。
お父さんに裏切られて,おかしくなった。
私のこと,心の底では忘れてないんだと思う。
私一人に,たった一月であんなにお金はいらない。
それでもあんな大金置いていくのは,それなりに心配してくれてるからだと思う。
それを信じてたから,私は髪を伸ばしてた。
伸びすぎたりして,自分で切ったりしても。
この長さは変えなかった。
もう変える。
私は目についた,食品の封でも開けたらしい,転がった鋏を手に取った。
明の手を傷つけても仕方がないくらい,目を瞑って勢いまかせに髪を切る。
思ったより短くなって驚いたけど,もういい。
急いで横に身体をスライドした私は,ドアの前まで走ると,もう一度言った。

「明,私と別れて」
「~っふざけるな! どうせお前もバカにしてたんだろ! 親にも見捨てられて,大学にも行かず,単位も落としそうで。バイトも続かなくて」
「そんなこと」
「いっつも澄ました顔して! …ずっと俺のことだけ考えてれば良かったのに!」

明が社会に劣等感を抱いていることは,本当は気付いてた。
そこも私に似ていて。
だから,安心するから側にいた。
利用してたのはお互い様だ。
私がいない方が,明のためになるって分かってたのに。

「お前なんて,いらない!」

代償が大きかったけど,そう言ってもらえて,私は安堵する。
これは,別れるってことで,いい?
ふらふらする足で,元々の全身傷だらけの身体で,私は外に出た。
明のアパートの駐車場に向かって,何でか赤いランプが沢山集まろうとしていた。
そのキラキラと,騒がしい音を聞いて。
私はその場に立ちすくむ。
ボーッと眺めていたら,私はその車から降りてきた大人の男に,色々言われた挙げ句車に乗せられた。
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