王子様は恋愛対象外とさせていただきます【改稿中】

黒猫子猫

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11.言葉の裏

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 折角のアルエ王子との交流の最中であっただけに、ルイーズは無視したいと一瞬だけ思ったが、相手の身分もあるので仕方なく振り返る。

 予想通り、王太子レオンハルトが一人立っていた。
 国王は別の客の応対をしており、彼の周りに群がっていた令嬢たちは、遠巻きに見ているだけだ。

 何ということだろう。
 王太子は、あんなに可愛い女の子たちを置き去りにしてきたのだ。

 そう思うと、自然とルイーズの顔は硬くなる。

「これは王太子殿下。いかがされましたか?」
「自分の弟に女がいつまでも絡んでいたら、心配になるものだと思うが」
「私を女と認めて下さって、ありがとうございます――」

 ルイーズは冷然と笑った。
 レオンハルトが一瞬たじろいだように見えたが、怯んだところでもう遅い。

 最高のひとときを邪魔した王太子は、容赦などしてやるものか。

「お言葉を返すようですが、何事も経験が必要かと存じます。私も弟にはよく言い聞かせておりますよ。いついかなるときも、女性と接する際は優しく、恥をかかせるようなこともしてはならないと――」

 どこかの誰かさんのように、可憐な乙女たちを置き去りにして恥をかかせるなど、ありえない。

「――そして、アルエ殿下は私たちのような者にも、気配りをしてくださいました。今、弟ともども感激していた次第です。ですから、ご心配も杞憂かと存じます」

 むしろ、こんな尊大な男が将来の国王であることのほうが、たいへん心配である。

 直接彼の名は出さなかったが、ルイーズの嫌味が通じたのか、レオンハルトの口もとがぴくぴくと引きつった。

「饒舌じゃないか。さっきは挨拶程度で、さっさと下がっていったのにな?」

 これにはルイーズもうっと詰まった。

「そ、それは……気のせいでは?」
「ない。いつまで弟と話しているんだ」

 苛立った様子のレオンハルトに、ルイーズはまたしても閃き、苦虫を噛み潰した顔になってしまう。
 要するに、王太子は可愛い令嬢たちだけでなく、愛くるしい弟も独占したいのだ。長々と自分たちが話しているのを見て、弟を奪われるとでも思ったのだろう。

 自分は王宮でいつでも会えるのに、これはずるい。

「恐れながら、王太子殿下」
「なんだ」

「心配のあまり、アルエ殿下と他者が話しているのがお気にめさないのならば、アルエ殿下が会場に見えられたとき、まず王太子殿下がお傍に呼んで差し上げれば良かったのではありませんか?」

 会場に来たアルエは一人ぼっちで、誰も近づこうとする様子はなかった。それならば自分たちが挨拶に出向いても、何も問題はないはずだ。

 レオンハルトも可愛い弟が心配なら、声をかけて自分の傍に置いておけば良かっただけである。それでも間違いなく自分はアルエに挨拶に行っただろうが。

 きっぱりと言い切ったルイーズの言葉は、元々声の通りがいい上に、周囲の人々が様子を伺っていたものだから、彼らの耳にまで届いてしまった。ひっと蒼褪める人々の視線に、王太子を真っすぐに見返していたルイーズは気づかない。

 レオンハルトは目を見張ったまま黙り込み、やがて視線を外して苦い顔をした。

「お前に言われるまでもない。来い、アルエ。父上にご挨拶しろ」
「……はい、兄上。えぇと……伯爵、でいいのかな?」

 呼び名に困ったらしいアルエに、ルイーズは優しく微笑んだ。

「私は代理ですし、いっときの事ですから。どうぞお好きなようにお呼びください」
「そう……。じゃあ、ルイーズさん、またね」

「はい、アルエ殿下!」

 リュンクスともども頭を垂れて、二人の王子たちを見送ったルイーズは、周囲の騒めきなど一切気にならなかった。有頂天で、苦笑している弟に話しかけた。

「リュン、アルエ殿下が私の名前を覚えてくださったわ! こんなに幸せなことがあって、いいのかしら!」
「良かったですね。姉上は……大物になると思いますよ」

 姉の性格と嗜好を良く知るリュンクスは、両王子との会話を聞いていても驚かない。

 こうなるだろうなとは思った。それでも実際に相対すれば委縮しがちになるのが普通だろうが、姉はまったく動じない。

 レオンハルトは社交的な男だったが、時に周囲が怯えるような冷徹さを垣間見せる。そんな王太子に面と向かって物申せる者は稀有だ。特にアルエ王子の事に関しての発言など、まず誰もできない。

 アルエ王子は今や誰もが腫物のように扱い、王臣でも言葉を選ぶような相手だと、リュンクスは知っている。だから、アルエもさぞ戸惑っただろうが、姉の名を覚えてくれたようだ。

 これはリュンクスにとって喜ばしいことだった。

 大切な姉が喜ぶのが一番である。

 だから、ルイーズがアルエには別れの挨拶をしたのに、名前すら呼ばれなかったレオンハルトが不貞腐れた顔をしていたのも、どうでもいいと切り捨てた。
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