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朱夏
夏休みが始まる!
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今宵、庭の花たちからの声はもう届かない。
初夏が過ぎ、芍薬の花は盛りを終え、花の精は静かに眠りについていた。
巡り来る次の季節が訪れるまで、来年に備え地下茎のなかで眠りに落ちる。
部屋の窓を開けると、夜空には夏の星座が広がっている。
蒼音と茜音と小町は、寄り添いながら夏の夜空を眺めていた。
都会の夜空では星達の全容を図り知ることは難しい。
けれども、想像を掻き立てられる程の星の群れが、大河を織りなしている。
こうして天の川銀河を仰いでいると、自分たちが宇宙空間に放り出されて、まるでその一部になったような錯覚を覚えた。
宛どもなく宇宙空間に漂う、塵や分子の一つになった気分がした。
ううん、本当のところ自分は、生まれる前はただの塵だったのかもしれない。
偶然なのか、必然なのか、僕は僕としてここに存在することを許された。
僕らは奇跡に溢れている。
人智を遥かに凌駕する宇宙を眺めていると、蒼音はついそんなことを考えてしまった。
考えれば考えるほど答えの出ない疑問。
それでも悩まずにはおられない。
どうして僕はこの世に生まれてきたのだろう?
どうして茜音は僕のところにきたのだろう?
どうしてどうして・・・
眠れなくなるような疑問の渦、昇っても昇ってもたどり着けない螺旋の階段。
それでも朝は来た。
いつものようにベッドの中で目覚めた。
燦々と輝く太陽の日差しを受けて、二人は寄り添いながら目覚めた。
今日は一学期の終業式。
蒼音と茜音はいつものように、元気に登校していった。
終業式の集会の後に大掃除をして、通信簿と夏休みの宿題や課題をもらってその日は終了した。
これで、八月いっぱいまで楽しい夏休みを満喫するだけだ。
子供たちは明日から始まる夏休みに浮かれはしゃいでいる。
「園田君、夏休みは関西のおばあちゃんのところに行くの?」
琴音が夏休みの予定を聞いてきた。
「ううん、多分夏休みに行く予定はないかな。
お母さんの仕事の都合で、秋の連休に行くかもしれないんだ。
桜井さん夏休みはどこか行くの?」
「あたしも特に家族で遠出の予定はないかな。
お兄ちゃんが高校への受験生だしね。
涼介は?家族でどこか行くの?」
「俺?夏休みの予定はだいだい決まってるよ。
剣道の稽古を頑張るつもりだよ。
けど、琴音は稽古あんまり無理できないな、捻挫が治りかけたところだもんな。
あ、でも俺だって毎日稽古があるわけじゃないから、みんなで遊びに行ったりしようぜ。
な園田君!クワガタ捕りに行こうぜ。あと子供会のイベントもあるから一緒に参加しよう」
涼介は気前よく、蒼音に誘いの言葉をかけてくれた。
「ごめん、桜井さん・・・
捻挫したせいで、剣道の稽古できないね。
秋に大会が控えているのにね。
菅沼君も気を使わせちゃってごめん。
だけど僕、楽しみにしてるよ夏休み!みんなで想い出つくりたい」
「勿論よ園田君。
茜音ちゃんも一緒にみんなで想い出つくろうね」
琴音は茜音にもちゃんと小声をかけてくれた。
「ところで・・・
園田君は、これからも俺たちのこと“君”や“さん”付けで呼ぶつもりかよ?」
涼介は核心に触れたが、そういう自分こそ未だに“園田君”なのだった。
「そ、そんなこと急に言われても、すぐに呼び方を変えるのはちょっと無理だよ。
慣れてないし余計にぎこちなくなるし。
暫くこのままでいいよ。
いいでしょう桜井さんも?」
彼等が出会ってひと月とわずか・・・
いきなり名前で呼び合うなど、蒼音にとってそれはまだまだ気恥ずかしいことなのだ。
彼のこれまでの人生を振り返ってみても、互いを名前で呼び会える親友はいないに等しかった。慣れるも何も、経験がないことへのためらいの気持ちの方が強かった。
「うんあたしは構わないよ。
だってあたしも園田君っていう方が呼びやすいし」
「そうかな~俺は君付けで呼ぶなんて、きどってる感じがするけど
・・・まあいいや。
呼び方なんてなんだっていいよな。
それよりも夏休みはめいっぱい遊ぼうぜ!」
『うん遊ぼう!』
またしても茜音は教室内で声をあげてしまった。
三人はどうしたものかと顔を見合わせたが、とりあえず周囲に茜音の声は聞こえなかったようだ。
下校時間ということもあって、クラスメイトたちは賑やかにじゃれあいながら下校の途についていた。
初夏が過ぎ、芍薬の花は盛りを終え、花の精は静かに眠りについていた。
巡り来る次の季節が訪れるまで、来年に備え地下茎のなかで眠りに落ちる。
部屋の窓を開けると、夜空には夏の星座が広がっている。
蒼音と茜音と小町は、寄り添いながら夏の夜空を眺めていた。
都会の夜空では星達の全容を図り知ることは難しい。
けれども、想像を掻き立てられる程の星の群れが、大河を織りなしている。
こうして天の川銀河を仰いでいると、自分たちが宇宙空間に放り出されて、まるでその一部になったような錯覚を覚えた。
宛どもなく宇宙空間に漂う、塵や分子の一つになった気分がした。
ううん、本当のところ自分は、生まれる前はただの塵だったのかもしれない。
偶然なのか、必然なのか、僕は僕としてここに存在することを許された。
僕らは奇跡に溢れている。
人智を遥かに凌駕する宇宙を眺めていると、蒼音はついそんなことを考えてしまった。
考えれば考えるほど答えの出ない疑問。
それでも悩まずにはおられない。
どうして僕はこの世に生まれてきたのだろう?
どうして茜音は僕のところにきたのだろう?
どうしてどうして・・・
眠れなくなるような疑問の渦、昇っても昇ってもたどり着けない螺旋の階段。
それでも朝は来た。
いつものようにベッドの中で目覚めた。
燦々と輝く太陽の日差しを受けて、二人は寄り添いながら目覚めた。
今日は一学期の終業式。
蒼音と茜音はいつものように、元気に登校していった。
終業式の集会の後に大掃除をして、通信簿と夏休みの宿題や課題をもらってその日は終了した。
これで、八月いっぱいまで楽しい夏休みを満喫するだけだ。
子供たちは明日から始まる夏休みに浮かれはしゃいでいる。
「園田君、夏休みは関西のおばあちゃんのところに行くの?」
琴音が夏休みの予定を聞いてきた。
「ううん、多分夏休みに行く予定はないかな。
お母さんの仕事の都合で、秋の連休に行くかもしれないんだ。
桜井さん夏休みはどこか行くの?」
「あたしも特に家族で遠出の予定はないかな。
お兄ちゃんが高校への受験生だしね。
涼介は?家族でどこか行くの?」
「俺?夏休みの予定はだいだい決まってるよ。
剣道の稽古を頑張るつもりだよ。
けど、琴音は稽古あんまり無理できないな、捻挫が治りかけたところだもんな。
あ、でも俺だって毎日稽古があるわけじゃないから、みんなで遊びに行ったりしようぜ。
な園田君!クワガタ捕りに行こうぜ。あと子供会のイベントもあるから一緒に参加しよう」
涼介は気前よく、蒼音に誘いの言葉をかけてくれた。
「ごめん、桜井さん・・・
捻挫したせいで、剣道の稽古できないね。
秋に大会が控えているのにね。
菅沼君も気を使わせちゃってごめん。
だけど僕、楽しみにしてるよ夏休み!みんなで想い出つくりたい」
「勿論よ園田君。
茜音ちゃんも一緒にみんなで想い出つくろうね」
琴音は茜音にもちゃんと小声をかけてくれた。
「ところで・・・
園田君は、これからも俺たちのこと“君”や“さん”付けで呼ぶつもりかよ?」
涼介は核心に触れたが、そういう自分こそ未だに“園田君”なのだった。
「そ、そんなこと急に言われても、すぐに呼び方を変えるのはちょっと無理だよ。
慣れてないし余計にぎこちなくなるし。
暫くこのままでいいよ。
いいでしょう桜井さんも?」
彼等が出会ってひと月とわずか・・・
いきなり名前で呼び合うなど、蒼音にとってそれはまだまだ気恥ずかしいことなのだ。
彼のこれまでの人生を振り返ってみても、互いを名前で呼び会える親友はいないに等しかった。慣れるも何も、経験がないことへのためらいの気持ちの方が強かった。
「うんあたしは構わないよ。
だってあたしも園田君っていう方が呼びやすいし」
「そうかな~俺は君付けで呼ぶなんて、きどってる感じがするけど
・・・まあいいや。
呼び方なんてなんだっていいよな。
それよりも夏休みはめいっぱい遊ぼうぜ!」
『うん遊ぼう!』
またしても茜音は教室内で声をあげてしまった。
三人はどうしたものかと顔を見合わせたが、とりあえず周囲に茜音の声は聞こえなかったようだ。
下校時間ということもあって、クラスメイトたちは賑やかにじゃれあいながら下校の途についていた。
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