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第二章 卒業課題
2-5 Side L
放課後の第三研究室、境目の森で白水銀を採取して帰ったキーガン達研究室のメンバーは疲れ切っていた。流石に教師であるケスティングと、終始彼に守られ続けていたロッテの二人は除くが――
ケスティング教授が学園の会合に出て行った今、この場で唯一、元気の残っているロッテが口を開いた。
「……あの、大丈夫ですか?」
ロッテは、三人の先輩達を見回す。研究室の椅子に崩れ落ち、机に顔を伏せてしまっている彼らからは「ああ」だの、「まぁ、何とか」だの、頼りない返事が返ってきた。
(だから言ったのに……)
ロッテは内心の呆れを押し隠し、彼らへの謝罪を口にする。
「すみません。私ばかり楽をさせてもらって」
「ああ、いや。ロッテが気にする必要はないよ。……君はまだ一年なのだし」
「そうだよー。どちらかと言うと、私は教授に腹が立ってる!本当にロッテのことしか守ろうとしないんだから!」
ベルタの憤慨に、ロッテは「それもどうなのだろう?」と思った。通常、学生メンバーの探索に教授は同行しない。けれど今回は一年生であるロッテのサポートとして特別に参加してくれたのだ。採取方法を知らなった三人に代わり、白水銀を採取したのも彼。帰路、思いのほか復活の早かったグリーンアイヴィーに襲われて苦戦した彼らが、助力を拒んだ教授を責める気持ちも分かるが。
(文句を言うくらいなら、最初からウィル先輩に頼っておけば良いのに)
ロッテは、キーガン達の言うウィルバートの「魔物のような眼」を気にしていなかった。それよりも、ロッテが学園に入学する前から噂になっていた「天才魔導師ウィルバート」に興味津々だった。学園内で話しかけても悉く無視されるのだというウィルバートに近づくにはどうすればいいか。ロッテが考えたのは、既にウィルバートと交友関係のある人間から近づこうというものだった。だから、「ウィルバートが出入りしている」という噂のあった第三研究室を選んだのだ。
(なのに、ウィル先輩には全然会えないし……)
結局、今日初めて顔を会わすまで、ロッテは彼と研究室ですれ違うことさえなかった。それが、今日は彼と実際に言葉を交わすことが出来たのだから、大きな進歩だ。ただ、彼の反応があまり良くなかったことが気にかかる。
(失敗したなぁ。ウィル先輩がメリル先輩と仲が良かったなんて)
メリルを追い出したのはキーガン達だが、同じ研究室に居るロッテも、彼らの仲間だと思われているだろう。
(……あの二人、付き合ってるのかな?)
学園内に男女二人のパーティがないわけではないが、かなり珍しい組み合わせではある。組むとしても、兄妹や恋人同士といった親しい間柄なことがほとんどで、「ただの先輩後輩」で組むというのは聞いたことがなかった。
(うーん。でも、ウィル先輩の実力なら、別に大人数でパーティを組む必要はないよね?)
だとすると、パーティを追い出されたメリルにウィルバートが同情して、という線は十分に考えられる。
(……けど、まぁ、別にどちらでもいいか)
彼らが恋人同士であろうとなかろうと、ロッテには大した問題ではなかった。ウィルバートが最後に選ぶのはロッテだからだ。
ロッテは恵まれた容姿をしている。そして、バカではない。自身の容姿を活かして、男性に好かれる術は心得ていた。まだ幼い頃は、それで同性を敵に回してしまうこともあったが、今はそうならないよう上手く立ち回ることができる。実際、同性の先輩であるベルタとの仲は良好だ。
(ただ、メリル先輩は微妙、だったのよね)
男性陣にウケの良いロッテを無駄に攻撃するのは得策ではない。それを知るベルタはロッテの「仲の良い先輩」という立ち場を選んだ。けれど、メリルはロッテに興味が無いのか、あくまでただの先輩としてロッテに接し、彼女に阿ることはしなかった。
(だから、邪魔。引き留める必要もないと思ったんだけど……)
その結果がウィルバートを遠ざけてしまったかと思うと、ロッテは少しだけ落ち込んだ。チラリと、メリルを追い出した張本人であるキーガンに視線を向ける。
「ああ、クッソ。ムカつくなぁ、あの女。あいつの声のせいで、ずっと調子悪ぃんだよ……!」
未だメリルへの恨み節を零す男を冷めた思いで見つめながら、ロッテは労りの言葉を口にした。
「大丈夫ですか、キーガン先輩?……メリル先輩も、何も言霊まで使わなくても良かったですよね?」
「あー、ロッテは優しいよなぁ。マジで癒されるわ。……あいつが居なくなってやっとここも快適になったってのに、探索で鉢合わせるとか、最悪だろ」
おかげで帰りに時間がかかった。そのせいでグリーンアイヴィーに襲われてしまったと逆恨みするキーガンに、ロッテは適当な相槌を打って返した。内心で、盛大にため息をつきながら。
(分かってたけど、この人って本当に馬鹿、単純過ぎる……)
そもそも、キーガンがメリルを毛嫌いするのは、剣士である彼に魔力耐性がまるでないからだ。ベルタやエリアス、そしてロッテもたまにメリルを「うるさい」と思うが、耐性がそこそこあるため、キーガンほどには感じない。逆を言えば、この中で一番メリルの言霊が効き、その恩恵を受けていたのは、キーガンなのだ。
彼は、自身の調子の悪さをメリルのせいにしていたが、それも、「メリルのせい」ではなく、「メリルの声援がなかったせい」。恐らく、キーガン以外のみなが気づいているが――ひょっとしたら、メリル本人は気づいていなかったかもしれないが――、無駄にプライドの高いキーガンに、それを指摘する者はいなかった。ロッテも、そんな面倒なことはしたくない。
だから、何も知らない顔で彼らの対立を煽るのだ。
「……不安です。もし、メリル先輩も卒業課題に賢者の石を選んでいたら、また、鉢合わせしてしまうかもしれませんよね?」
邪魔なメリルが、今度は学園から消えてくれればいいのにと願いながら。
ケスティング教授が学園の会合に出て行った今、この場で唯一、元気の残っているロッテが口を開いた。
「……あの、大丈夫ですか?」
ロッテは、三人の先輩達を見回す。研究室の椅子に崩れ落ち、机に顔を伏せてしまっている彼らからは「ああ」だの、「まぁ、何とか」だの、頼りない返事が返ってきた。
(だから言ったのに……)
ロッテは内心の呆れを押し隠し、彼らへの謝罪を口にする。
「すみません。私ばかり楽をさせてもらって」
「ああ、いや。ロッテが気にする必要はないよ。……君はまだ一年なのだし」
「そうだよー。どちらかと言うと、私は教授に腹が立ってる!本当にロッテのことしか守ろうとしないんだから!」
ベルタの憤慨に、ロッテは「それもどうなのだろう?」と思った。通常、学生メンバーの探索に教授は同行しない。けれど今回は一年生であるロッテのサポートとして特別に参加してくれたのだ。採取方法を知らなった三人に代わり、白水銀を採取したのも彼。帰路、思いのほか復活の早かったグリーンアイヴィーに襲われて苦戦した彼らが、助力を拒んだ教授を責める気持ちも分かるが。
(文句を言うくらいなら、最初からウィル先輩に頼っておけば良いのに)
ロッテは、キーガン達の言うウィルバートの「魔物のような眼」を気にしていなかった。それよりも、ロッテが学園に入学する前から噂になっていた「天才魔導師ウィルバート」に興味津々だった。学園内で話しかけても悉く無視されるのだというウィルバートに近づくにはどうすればいいか。ロッテが考えたのは、既にウィルバートと交友関係のある人間から近づこうというものだった。だから、「ウィルバートが出入りしている」という噂のあった第三研究室を選んだのだ。
(なのに、ウィル先輩には全然会えないし……)
結局、今日初めて顔を会わすまで、ロッテは彼と研究室ですれ違うことさえなかった。それが、今日は彼と実際に言葉を交わすことが出来たのだから、大きな進歩だ。ただ、彼の反応があまり良くなかったことが気にかかる。
(失敗したなぁ。ウィル先輩がメリル先輩と仲が良かったなんて)
メリルを追い出したのはキーガン達だが、同じ研究室に居るロッテも、彼らの仲間だと思われているだろう。
(……あの二人、付き合ってるのかな?)
学園内に男女二人のパーティがないわけではないが、かなり珍しい組み合わせではある。組むとしても、兄妹や恋人同士といった親しい間柄なことがほとんどで、「ただの先輩後輩」で組むというのは聞いたことがなかった。
(うーん。でも、ウィル先輩の実力なら、別に大人数でパーティを組む必要はないよね?)
だとすると、パーティを追い出されたメリルにウィルバートが同情して、という線は十分に考えられる。
(……けど、まぁ、別にどちらでもいいか)
彼らが恋人同士であろうとなかろうと、ロッテには大した問題ではなかった。ウィルバートが最後に選ぶのはロッテだからだ。
ロッテは恵まれた容姿をしている。そして、バカではない。自身の容姿を活かして、男性に好かれる術は心得ていた。まだ幼い頃は、それで同性を敵に回してしまうこともあったが、今はそうならないよう上手く立ち回ることができる。実際、同性の先輩であるベルタとの仲は良好だ。
(ただ、メリル先輩は微妙、だったのよね)
男性陣にウケの良いロッテを無駄に攻撃するのは得策ではない。それを知るベルタはロッテの「仲の良い先輩」という立ち場を選んだ。けれど、メリルはロッテに興味が無いのか、あくまでただの先輩としてロッテに接し、彼女に阿ることはしなかった。
(だから、邪魔。引き留める必要もないと思ったんだけど……)
その結果がウィルバートを遠ざけてしまったかと思うと、ロッテは少しだけ落ち込んだ。チラリと、メリルを追い出した張本人であるキーガンに視線を向ける。
「ああ、クッソ。ムカつくなぁ、あの女。あいつの声のせいで、ずっと調子悪ぃんだよ……!」
未だメリルへの恨み節を零す男を冷めた思いで見つめながら、ロッテは労りの言葉を口にした。
「大丈夫ですか、キーガン先輩?……メリル先輩も、何も言霊まで使わなくても良かったですよね?」
「あー、ロッテは優しいよなぁ。マジで癒されるわ。……あいつが居なくなってやっとここも快適になったってのに、探索で鉢合わせるとか、最悪だろ」
おかげで帰りに時間がかかった。そのせいでグリーンアイヴィーに襲われてしまったと逆恨みするキーガンに、ロッテは適当な相槌を打って返した。内心で、盛大にため息をつきながら。
(分かってたけど、この人って本当に馬鹿、単純過ぎる……)
そもそも、キーガンがメリルを毛嫌いするのは、剣士である彼に魔力耐性がまるでないからだ。ベルタやエリアス、そしてロッテもたまにメリルを「うるさい」と思うが、耐性がそこそこあるため、キーガンほどには感じない。逆を言えば、この中で一番メリルの言霊が効き、その恩恵を受けていたのは、キーガンなのだ。
彼は、自身の調子の悪さをメリルのせいにしていたが、それも、「メリルのせい」ではなく、「メリルの声援がなかったせい」。恐らく、キーガン以外のみなが気づいているが――ひょっとしたら、メリル本人は気づいていなかったかもしれないが――、無駄にプライドの高いキーガンに、それを指摘する者はいなかった。ロッテも、そんな面倒なことはしたくない。
だから、何も知らない顔で彼らの対立を煽るのだ。
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邪魔なメリルが、今度は学園から消えてくれればいいのにと願いながら。
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