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第三章 素材採取
3-2 Side W
「えっ!?お部屋、一部屋しか空いてないんですかっ!?」
ペシオの街の宿の受付、空き部屋が一つしかないという宿の亭主の言葉に、メリルは驚愕の声をあげた。そんな彼女の表情を、ウィルバートはじっと見つめる。
カウンターに身を乗り出さんばかりのメリルに、亭主は鷹揚に頷いて見せた。
「まぁ、毎月、竜玉泉が湧く日はこんなもんだよ。他の宿も似たり寄ったり、一部屋でも空いてた分、お客さん達はラッキーだよ」
「そんな……」
「毎月のことだからねぇ。慣れた人間なら、まず予約をとってから来るんだが。……嬢ちゃんたちは魔法学園の学生さんかい?一年生?」
亭主の言葉に微妙な顔で首を横に振ったメリルが、ウィルバートへジトリとした目を向ける。
「……ウィル君、ひょっとして、宿が混むこと知ってたんじゃない?」
以前に採取に訪れたことがあるウィルバートなら知っていてもおかしくない、そう思たのだろう。メリルの問いに、ウィルバートは無表情に頷いた。
「ああ。そう言えば、そうだったかもしれません。うっかり、失念していました」
「うっかりって……」
「うっかりですよ、うっかり。……仮に、僕が覚えていたとしても、ここに来るのを決めたのは三日前ですから、予約には間に合いません」
ウィルバートが淡々とそう告げると、メリルはグッと言葉に詰まった。そのあと、どうすべきか迷う様子を見せたメリルに代わり、ウィルバートが亭主に声をかける。
「すみません。その一部屋、お借りします」
「はいよ」
さっさと話しを進めてしまえば、メリルが何かを言いたげに隣でオロオロし始めた。それにウィルバートは気づいていたが、そしらぬ振りを貫き通す。
(これで、少しくらいは、意識してくれるといいんだけど)
彼女の戸惑いが、世間一般的な「男女の相部屋」に対する戸惑いである内はまだだめだ。ウィルバートだから、自分だから意識してもらわねば。そのためにも、まずは今日一日、できる限りのアプローチは仕掛けていこう。
そう決めたウィルバートは、宿帳への記入を終え、メリルを振り向く。
「それじゃあ、先輩。夜までまだ時間がありますから、行きましょうか?」
「行く?えっと、どこに行くの?」
「デートですよ、デート。折角の観光地なんですから、楽しみましょう?」
ウィルバートの言葉に目を丸くしたメリル。ウィルバートは内心の笑いをかみ殺して、神妙な顔でメリルに右手を差し出した。
「人も多いですから、手を繋いでください。はぐれるといけません」
それからの数時間を、ウィルバートは大いに楽しんだ。まず、何をしても、メリルの反応が違う。今までなら、同じ飲み物に口をつけようと、同じ食べ物をシェアしようと、「ありがとう!」のノリで笑って受け入れていたメリルが、躊躇いと恥じらいを見せるのだ。
ペルシオ名物だという炭酸水を回し飲みしようとして固まり、竜玉泉の地熱で蒸したという菓子を半分に割っただけで照れる。魔法学園では野外やテント泊での演習もあるため、そういったことに抵抗の無いメリルが自分にだけ見せる反応に、ウィルバートは多いに満足していた。
(来て良かった……)
これで少しは、男女としての二人の仲も近づいたのではないだろうか。内心の浮かれ具合をいつもの表情の下に押し隠して、近づく夜の帳に、ウィルバートはそろそろ本来の目的を果たそうかと、メリルに尋ねる。
「……先輩、黄龍晶の採取方法は知っていますか?」
「うん。授業で先生が映像を見せて下さったから一応は知ってるよ。あとは、採取済みのものでデモ的なことはさせてもらったから」
大丈夫だというメリルに、ウィルバートは頷いた。地形が特異とは言え、採取慣れしているメリルであれば、何も問題はないだろう。手を繋いだまま――漸く慣れたメリルが何も言わないのを良いことに――竜玉泉へと向かった。
地面に出来た大きな窪みにいくつかの間欠泉が噴き出す中、その中央にひときわ大きな噴出口があった。竜玉泉。竜の至宝より湧き出すとされるその熱水は他と比べ黄味がかった色をしている。同じく、黄龍晶を採取しに来たのであろう冒険者や学生らしき人達で賑わう中に、ウィルバートは見たくはなかったものを見つけてしまう。
隣を歩いていたメリルが足を止めた。ウィルバートが見下ろせば、彼女の視線が自分が見たものと同じものに向けられている。
(……まぁ、同じ卒業課題を作ってる以上、被るだろうなとは思ってたけど)
竜玉泉の真ん前を陣取るように立つ四人の学生達、見間違いようのないキーガンの赤い髪に、ウィルバートは小さく嘆息する。
繋いでいたメリルの手が、そっと離れていった。
ペシオの街の宿の受付、空き部屋が一つしかないという宿の亭主の言葉に、メリルは驚愕の声をあげた。そんな彼女の表情を、ウィルバートはじっと見つめる。
カウンターに身を乗り出さんばかりのメリルに、亭主は鷹揚に頷いて見せた。
「まぁ、毎月、竜玉泉が湧く日はこんなもんだよ。他の宿も似たり寄ったり、一部屋でも空いてた分、お客さん達はラッキーだよ」
「そんな……」
「毎月のことだからねぇ。慣れた人間なら、まず予約をとってから来るんだが。……嬢ちゃんたちは魔法学園の学生さんかい?一年生?」
亭主の言葉に微妙な顔で首を横に振ったメリルが、ウィルバートへジトリとした目を向ける。
「……ウィル君、ひょっとして、宿が混むこと知ってたんじゃない?」
以前に採取に訪れたことがあるウィルバートなら知っていてもおかしくない、そう思たのだろう。メリルの問いに、ウィルバートは無表情に頷いた。
「ああ。そう言えば、そうだったかもしれません。うっかり、失念していました」
「うっかりって……」
「うっかりですよ、うっかり。……仮に、僕が覚えていたとしても、ここに来るのを決めたのは三日前ですから、予約には間に合いません」
ウィルバートが淡々とそう告げると、メリルはグッと言葉に詰まった。そのあと、どうすべきか迷う様子を見せたメリルに代わり、ウィルバートが亭主に声をかける。
「すみません。その一部屋、お借りします」
「はいよ」
さっさと話しを進めてしまえば、メリルが何かを言いたげに隣でオロオロし始めた。それにウィルバートは気づいていたが、そしらぬ振りを貫き通す。
(これで、少しくらいは、意識してくれるといいんだけど)
彼女の戸惑いが、世間一般的な「男女の相部屋」に対する戸惑いである内はまだだめだ。ウィルバートだから、自分だから意識してもらわねば。そのためにも、まずは今日一日、できる限りのアプローチは仕掛けていこう。
そう決めたウィルバートは、宿帳への記入を終え、メリルを振り向く。
「それじゃあ、先輩。夜までまだ時間がありますから、行きましょうか?」
「行く?えっと、どこに行くの?」
「デートですよ、デート。折角の観光地なんですから、楽しみましょう?」
ウィルバートの言葉に目を丸くしたメリル。ウィルバートは内心の笑いをかみ殺して、神妙な顔でメリルに右手を差し出した。
「人も多いですから、手を繋いでください。はぐれるといけません」
それからの数時間を、ウィルバートは大いに楽しんだ。まず、何をしても、メリルの反応が違う。今までなら、同じ飲み物に口をつけようと、同じ食べ物をシェアしようと、「ありがとう!」のノリで笑って受け入れていたメリルが、躊躇いと恥じらいを見せるのだ。
ペルシオ名物だという炭酸水を回し飲みしようとして固まり、竜玉泉の地熱で蒸したという菓子を半分に割っただけで照れる。魔法学園では野外やテント泊での演習もあるため、そういったことに抵抗の無いメリルが自分にだけ見せる反応に、ウィルバートは多いに満足していた。
(来て良かった……)
これで少しは、男女としての二人の仲も近づいたのではないだろうか。内心の浮かれ具合をいつもの表情の下に押し隠して、近づく夜の帳に、ウィルバートはそろそろ本来の目的を果たそうかと、メリルに尋ねる。
「……先輩、黄龍晶の採取方法は知っていますか?」
「うん。授業で先生が映像を見せて下さったから一応は知ってるよ。あとは、採取済みのものでデモ的なことはさせてもらったから」
大丈夫だというメリルに、ウィルバートは頷いた。地形が特異とは言え、採取慣れしているメリルであれば、何も問題はないだろう。手を繋いだまま――漸く慣れたメリルが何も言わないのを良いことに――竜玉泉へと向かった。
地面に出来た大きな窪みにいくつかの間欠泉が噴き出す中、その中央にひときわ大きな噴出口があった。竜玉泉。竜の至宝より湧き出すとされるその熱水は他と比べ黄味がかった色をしている。同じく、黄龍晶を採取しに来たのであろう冒険者や学生らしき人達で賑わう中に、ウィルバートは見たくはなかったものを見つけてしまう。
隣を歩いていたメリルが足を止めた。ウィルバートが見下ろせば、彼女の視線が自分が見たものと同じものに向けられている。
(……まぁ、同じ卒業課題を作ってる以上、被るだろうなとは思ってたけど)
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繋いでいたメリルの手が、そっと離れていった。
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