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1-4.深夜の再会
案の定、手の傷は膿んだ。
ズキズキとした痛みに寝付けぬ夜。
不意に屋敷の中が騒がしくなった。
何かが起きている。
記憶を探るも、思い当たる節がない。
寝台の上。上体を起こして息を殺す。
音もなく扉が開いた。
黒い影がスルリと部屋に忍び込んでくる。
黒装束。フードを深く被り、口元を布で覆った少年。
ミッドナイト・リンクス――
思い至った正体に、思わず息を呑む。
暗闇に目が合った。
賊の目に驚きが走る。
だが、こちらが反応するより早く、一瞬で間合いを詰められた。
手袋をした手で口を塞がれる。
ナイフを首に当てられた。
「……静かにしろ」
低く落とされた声に、ハッとした。
(この声……!)
ドクリ、ドクリと心臓が脈打つ。
研ぎ澄まされた五感。
近い距離。
男の匂いが記憶を呼び覚ます。
「騒ぐな。騒げば殺す」
――死ぬな! お前にはまだ……!
男は、私の身体を引き起こし、寝台から下ろす。
ナイフを突きつけたまま、窓辺に移動した。
男が覗き込んだ窓の外。人の気配はない。
確かめた男がこちらを見下ろす。
ジッと観察した後に、諭すように告げる。
「俺が出ていくまで、ここで静かにしていろ」
「……静かにしていないとどうなるの?」
幼さを装っての問い。
眉根を寄せた男が答える。
「約束できないなら、お前を殺すしかない」
その台詞に、我慢できずに笑った。
「無理よ」
「なに……?」
不審を顕にする男に、「だって」と告げる。
「あなたに人は殺せないわ」
確信を持っての言葉。
まっすぐに見上げ、彼の名を呼ぶ。
「ダミアン」
「っ!」
男――ダミアンが瞬時に飛び退った。
視線が退路を図る。
(ほら。やっぱり、無理じゃない)
正体を言い当てられたのだ。
危険の芽は早々に取り除かないと。
だが、この男にはできない。
ますます笑いが込み上げる。
その時、廊下の向こうで声が上がった。
「いたか!?」
「いない! 向こうはまだだ!」
近づく足音。
私はダミアンを押しやり、寝台の陰に隠した。
一瞬躊躇した彼も、逃げ場がないと悟ったか、大人しく従う。
間もなく。
下男がノックもなしに部屋に飛び込んできた。
「お嬢様、賊を見ませんでしたかっ!?」
「賊?」
「侵入者です! 見慣れぬ者が来ませんでしたか?」
男の視線が部屋を見渡す。
異変がないと見て取ると、こちらの答えを待たずに部屋を飛び出していった。
締まりきっていない扉に近づき、そっと閉じる。
部屋は静けさを取り戻した。
息を潜めていた影が姿を現す。
警戒心を宿した覆面の少年。
私は笑みを浮かべた。
「もう大丈夫よ。ミッドナイト・リンクス」
彼の目が大きく見開かれる。
ズキズキとした痛みに寝付けぬ夜。
不意に屋敷の中が騒がしくなった。
何かが起きている。
記憶を探るも、思い当たる節がない。
寝台の上。上体を起こして息を殺す。
音もなく扉が開いた。
黒い影がスルリと部屋に忍び込んでくる。
黒装束。フードを深く被り、口元を布で覆った少年。
ミッドナイト・リンクス――
思い至った正体に、思わず息を呑む。
暗闇に目が合った。
賊の目に驚きが走る。
だが、こちらが反応するより早く、一瞬で間合いを詰められた。
手袋をした手で口を塞がれる。
ナイフを首に当てられた。
「……静かにしろ」
低く落とされた声に、ハッとした。
(この声……!)
ドクリ、ドクリと心臓が脈打つ。
研ぎ澄まされた五感。
近い距離。
男の匂いが記憶を呼び覚ます。
「騒ぐな。騒げば殺す」
――死ぬな! お前にはまだ……!
男は、私の身体を引き起こし、寝台から下ろす。
ナイフを突きつけたまま、窓辺に移動した。
男が覗き込んだ窓の外。人の気配はない。
確かめた男がこちらを見下ろす。
ジッと観察した後に、諭すように告げる。
「俺が出ていくまで、ここで静かにしていろ」
「……静かにしていないとどうなるの?」
幼さを装っての問い。
眉根を寄せた男が答える。
「約束できないなら、お前を殺すしかない」
その台詞に、我慢できずに笑った。
「無理よ」
「なに……?」
不審を顕にする男に、「だって」と告げる。
「あなたに人は殺せないわ」
確信を持っての言葉。
まっすぐに見上げ、彼の名を呼ぶ。
「ダミアン」
「っ!」
男――ダミアンが瞬時に飛び退った。
視線が退路を図る。
(ほら。やっぱり、無理じゃない)
正体を言い当てられたのだ。
危険の芽は早々に取り除かないと。
だが、この男にはできない。
ますます笑いが込み上げる。
その時、廊下の向こうで声が上がった。
「いたか!?」
「いない! 向こうはまだだ!」
近づく足音。
私はダミアンを押しやり、寝台の陰に隠した。
一瞬躊躇した彼も、逃げ場がないと悟ったか、大人しく従う。
間もなく。
下男がノックもなしに部屋に飛び込んできた。
「お嬢様、賊を見ませんでしたかっ!?」
「賊?」
「侵入者です! 見慣れぬ者が来ませんでしたか?」
男の視線が部屋を見渡す。
異変がないと見て取ると、こちらの答えを待たずに部屋を飛び出していった。
締まりきっていない扉に近づき、そっと閉じる。
部屋は静けさを取り戻した。
息を潜めていた影が姿を現す。
警戒心を宿した覆面の少年。
私は笑みを浮かべた。
「もう大丈夫よ。ミッドナイト・リンクス」
彼の目が大きく見開かれる。
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