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後日談~うさぎの場所~
私の母は女の「てき」だ。
「メリッサ、牧師夫人はお元気か?」
「メリッサ、奥様は何かお困りじゃないか?」
「メリッサ、人参ができたんだ。奥様にもってってくれ」
行く先々、男を「とりこ」にする。
私は捨て子だ。
「ものごころついた」頃には一人で生きていた。
名前も年もわからない。
それが、牧師を名乗る男――父に拾われたのが三年前。
メリッサと名付けられ、「多分、七つくらい」と年を決められた。
今年で十になる。
父の隣には、牧師の妻を名乗る女――母がいた。
父と母は偽の夫婦。
「旅をするならこっちの方がいいと思って」
そういう理由で夫婦を演じている。
私は、旅する偽の牧師夫婦の子どもになった。
私の父は牧師を名乗るだけでなく、ちゃんと働く。
牧師のいない地域を周り、民の救済にあたっている。
らしい。
一月前にやってきたこの村には教会がない。
宿もない。
私たちは宿代わりの民家を借りて住んでいる。
滞在して一月。
今までの旅で一番長い滞在期間。
カゴいっぱいの人参を抱え、家に帰る。
帰ったら、母の腕の中に見慣れぬものがいた。
赤ちゃんだ。
どう見ても、人間の。
「お母さん、どうしたの、それ?」
「もらったのよ」
「駄目だよ。生き物は簡単に拾っちゃいけないって、お父さんが」
母はヒョイと肩を竦めるだけ。
私は、人参をテーブルの上に置いた。
母と赤ちゃんを見る。
「……どうやって育てるの? 家にはお金がたくさんないのに」
「大丈夫よ。あなたのお父さんは聖女様をたらしこむほどの美男子だから」
母の目がキラリと光る。
それが、なんだか怖い。
「お布施と献金でなんとかなるわ」
言ったきり、母は赤ん坊に夢中だ。
アブアブと、よく分からない会話をしている。
遊んでいると、父が帰ってきた。
赤ちゃんを見てびっくり。当然だ。
でも、その後。
母の言葉に私もびっくりした。
「あなたの子よ」
「は?」
母が告げる。
父が呆ける。
母が、「うるわしの」笑顔をする。
「ここに来る前に立ち寄った街があるでしょう? 小間物屋のレジェーヌって娘、覚えてる?」
「レジェーヌ? いや、すまん。覚えて――」
「彼女が連れてきたの。あなたの子ですって」
父が呆ける。
私は青ざめる。
父が、「あきれた」溜息をつく。
「そんなわけあるか」
「あら、本当に? まったく身に覚えがない?」
「あるわけないだろっ」
私は「ホッ」とした。
母が「ふーん?」と言う。
赤ちゃんが、「いみふめいの」言葉を話す。
「あら、泣くの?」
泣きそうな赤ちゃん。
母が何かをあげた。
父がびっくりしている。
母が赤ちゃんにあげたのはぬいぐるみ?
初めて見る。
羨まし――くはない。
だって、なんだかボロボロ。
可愛くもない。
だけど、赤ちゃんは気に入ったらしい。
引っ張って噛みついて、よだれでベトベトにする。
母がニコニコしている。
父はなんだか「ひそうな」顔をしている。
多分、「やめてくれ」って顔。
大事なものなのだろうか。
赤ちゃんはまだ、ぬいぐるみを食べている。
父が、「あきらめの」溜息をついた。
「ロイスの教会に連絡を入れる。……もし、母親が迎えにこなかったら」
「四人家族になるわね」
「……いいのか?」
「この子がいたら、旅を続けるのは難しいかしら」
母の言葉に、赤ちゃんが泣き出した。
母と父はなんだか難しい話を始めた。
赤ちゃんがぬいぐるみを放り出す。
私がぬいぐるみを拾う。
うさぎ――?
湿ったうさぎ。
私はこの子の場所を探した。
お日様の当たる場所。
早く乾くように。
「あ……」
母がさっきまで座っていた窓辺。
細い窓の縁に、うさぎを置いた。
「メリッサ、牧師夫人はお元気か?」
「メリッサ、奥様は何かお困りじゃないか?」
「メリッサ、人参ができたんだ。奥様にもってってくれ」
行く先々、男を「とりこ」にする。
私は捨て子だ。
「ものごころついた」頃には一人で生きていた。
名前も年もわからない。
それが、牧師を名乗る男――父に拾われたのが三年前。
メリッサと名付けられ、「多分、七つくらい」と年を決められた。
今年で十になる。
父の隣には、牧師の妻を名乗る女――母がいた。
父と母は偽の夫婦。
「旅をするならこっちの方がいいと思って」
そういう理由で夫婦を演じている。
私は、旅する偽の牧師夫婦の子どもになった。
私の父は牧師を名乗るだけでなく、ちゃんと働く。
牧師のいない地域を周り、民の救済にあたっている。
らしい。
一月前にやってきたこの村には教会がない。
宿もない。
私たちは宿代わりの民家を借りて住んでいる。
滞在して一月。
今までの旅で一番長い滞在期間。
カゴいっぱいの人参を抱え、家に帰る。
帰ったら、母の腕の中に見慣れぬものがいた。
赤ちゃんだ。
どう見ても、人間の。
「お母さん、どうしたの、それ?」
「もらったのよ」
「駄目だよ。生き物は簡単に拾っちゃいけないって、お父さんが」
母はヒョイと肩を竦めるだけ。
私は、人参をテーブルの上に置いた。
母と赤ちゃんを見る。
「……どうやって育てるの? 家にはお金がたくさんないのに」
「大丈夫よ。あなたのお父さんは聖女様をたらしこむほどの美男子だから」
母の目がキラリと光る。
それが、なんだか怖い。
「お布施と献金でなんとかなるわ」
言ったきり、母は赤ん坊に夢中だ。
アブアブと、よく分からない会話をしている。
遊んでいると、父が帰ってきた。
赤ちゃんを見てびっくり。当然だ。
でも、その後。
母の言葉に私もびっくりした。
「あなたの子よ」
「は?」
母が告げる。
父が呆ける。
母が、「うるわしの」笑顔をする。
「ここに来る前に立ち寄った街があるでしょう? 小間物屋のレジェーヌって娘、覚えてる?」
「レジェーヌ? いや、すまん。覚えて――」
「彼女が連れてきたの。あなたの子ですって」
父が呆ける。
私は青ざめる。
父が、「あきれた」溜息をつく。
「そんなわけあるか」
「あら、本当に? まったく身に覚えがない?」
「あるわけないだろっ」
私は「ホッ」とした。
母が「ふーん?」と言う。
赤ちゃんが、「いみふめいの」言葉を話す。
「あら、泣くの?」
泣きそうな赤ちゃん。
母が何かをあげた。
父がびっくりしている。
母が赤ちゃんにあげたのはぬいぐるみ?
初めて見る。
羨まし――くはない。
だって、なんだかボロボロ。
可愛くもない。
だけど、赤ちゃんは気に入ったらしい。
引っ張って噛みついて、よだれでベトベトにする。
母がニコニコしている。
父はなんだか「ひそうな」顔をしている。
多分、「やめてくれ」って顔。
大事なものなのだろうか。
赤ちゃんはまだ、ぬいぐるみを食べている。
父が、「あきらめの」溜息をついた。
「ロイスの教会に連絡を入れる。……もし、母親が迎えにこなかったら」
「四人家族になるわね」
「……いいのか?」
「この子がいたら、旅を続けるのは難しいかしら」
母の言葉に、赤ちゃんが泣き出した。
母と父はなんだか難しい話を始めた。
赤ちゃんがぬいぐるみを放り出す。
私がぬいぐるみを拾う。
うさぎ――?
湿ったうさぎ。
私はこの子の場所を探した。
お日様の当たる場所。
早く乾くように。
「あ……」
母がさっきまで座っていた窓辺。
細い窓の縁に、うさぎを置いた。
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