読心令嬢が地の底で吐露する真実

リコピン

文字の大きさ
17 / 50
第三章

3-6

しおりを挟む
見違える姿で大部屋に戻ってきたクロードの姿にレジーナが満足し、エリカの上げた驚きの声に悦に入りそうになった時、リオネルの鋭い警告の声が聞こえた。

「レジーナ!その男から離れろ!」

言って、一瞬でレジーナとの距離を詰めたリオネルが、レジーナを庇うようにしてクロードの前に立つ。リオネルの行動に思考が追い付かなったレジーナはあっけにとられたが、彼が剣を抜こうとしていることに気づき、慌ててリオネルを止めた。

「リオネル!?止めて、何をするつもりなの!」

「レジーナ、君も気づいているだろう?この男はかつての英雄、クロードに酷似している。この男が真実、かつての英雄だとすれば、今やこいつは国に仇なす反逆者、帝国の間者だ」

リオネルの言わんとすることが分かったレジーナは、黙って彼の後ろを離れ、クロードの隣へと並んだ。

「レジーナ、止せ!そいつは王国騎士としての職務を放棄し、帝国へ亡命した男だぞ!」

そこまで言ったリオネルが、ハッとしたように言葉を切った。途端、瞳に憎しみの炎を燃え上がらせ、震える声でレジーナをなじる。

「やはり、やはり君は私たちを裏切っていたのか?もしや、帝国の力を借りて……!?」

敵意を剥き出しにするリオネルがそう口にした根拠、クロードが帝国に寝返ったとされる話は、王国内では既に周知の事実となっている。レジーナ自身、その話を――若干のきな臭さを覚えながらも――事実として受け止めていた。クロードの真実に直接触れるまでは。

「……その前提が間違っていたとしたら?クロードは亡命なんてしていない。ずっと、ここに居たのよ」

「馬鹿な!何を言っている!?」

レジーナの言葉にも、リオネルは聞く耳を持たない。クロードの出奔、帝国への寝返りを証言したのが当時の騎士団長、リオネルの父なのだから、それも当然だが。

レジーナは自身の義父になる予定であった現プライセル家当主の顔を思い浮かべながら、告げる。

「クロードは、『亡命した』とされていただけ」

「裏切り者を庇うつもりかっ!?」

「庇うも何も、それが真実だわ」

クロードのビジョンから見えたのは、国が彼を危険視していたという事実。平民である「英雄クロード」が力をつけ過ぎ、国民からの熱狂的な人気を得たことを、国は恐れた。彼の失踪後、帝国への亡命という汚名が不自然なほどの早さで広まったことを鑑みれば、クロードの失脚がプライセルの独断ではなく、国主導で行われた可能性は高い。

そして、今なお、彼を崇拝する声が完全には消えていないという事実が、国の懸念が決してただの杞憂では無かったことを示している。

「……クロードは国を裏切ってなんかいない。それどころか、命じられた任務に忠実に、ずっとこの地でダンジョンを支えていたのよ」

愚かな忠誠だと思う。死を望まれてのめいになど従う必要はない。逆らって、逃げ出して、それこそ帝国へでもどこでも亡命してしまえばよかったのだ。

内心の苛立ちを隠して淡々と告げたレジーナに、「待て」と制止をかけたフリッツが近づいて来る。

「レジーナ、今の言葉はどういう意味だ。ダンジョンを支えるだと?」

リオネルの隣に並び立ったフリッツの問いに、レジーナは頷いた。

「四年前に枯れたとされるダンジョン、それを今日この日まで支えていたのはクロードの魔力です」

「何を馬鹿な……」

ダンジョンは、その内に潜る人や魔物が自然に発する僅かな魔力を吸収することで発達していく。ある程度の規模に成長した後は、再び収束していくのだが、カシビアほどのダンジョンを支えるには、当然、相当量の魔力が求められる。最盛期には、何百、何千人分もの魔力を必要としただろう。

「信じがたいかもしれません。ですが、殿下、事実、国が枯れたと発表したこのダンジョンは、辛うじてではありますが、まだ生き残っていたでしょう?」

レジーナの言葉に黙り込んだフリッツに代わり、リオネルが怒りに任せて吐き捨てる。

「ここがカシビアだという保証はどこにもない!その男が勝手にほざいているだけだろうっ!?」

リオネルの言葉に、レジーナは首を横に振る。

「ここで真偽をどうこうしようとは思っていないわ。ただ……」

言って、リオネル以外の全員に視線を向けた。

「ダンジョンを支えていたクロードの魔力が尽きた今、ここはもってあと数日……」

レジーナの言葉の衝撃に、フリッツとアロイス、それからエリカが驚きの声を上げた。それを見て、少なくともリオネル以外には話が通じそうだと判断したレジーナは言葉を続ける。

「それもあって、三日以内にここを脱出したいと考えています。……先程の、『提案を受け入れる』という話は、覆らないということでよろしいですか?」

その問いかけに逡巡を見せる男たちの中、レジーナは、エリカだけがキラキラとした視線を向けていることに気がついた。

(……違う)

レジーナではない。彼女が見つめているのは、レジーナの隣に立つクロードだった。




しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

処理中です...