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第五章
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「……レジーナ?」
レジーナの名を再び呼んだクロードの視線。レジーナを窺うように覗き込む碧の瞳に、レジーナは動けないでいた。クロードに握られているレジーナの手が、彼の熱に当てられて甘く痺れる。
ジワジワと頬にのぼる熱を意識して俯いたレジーナに、クロードの声が聞こえた。
――怒らせた、だろうか?
レジーナの表情が見えないことに不安を覚えたクロードの胸の内が伝わって来る。
レジーナが読み取ってくれるからと言葉を惜しんでしまった。己の欲を優先し、レジーナの気持ちを考えていなかった。己の思いばかりを押し付けた。謝罪をせねば。許されるまで。
悔恨するクロードが出した結論に、レジーナはたまらず口を開く。
「別に怒っているわけではないから、謝らないで。ただ……」
言いかけて、レジーナは言葉を飲み込んだ。黙ってこちらを見つめるクロードの視線を感じる。彼が、レジーナの「ただ」の先を待っているのが伝わってきた。
覚悟を決めて、レジーナはソロリと顔を上げた。凪いだ瞳でこちらを見下ろすクロードの表情を窺う。
「……クロード。あなた、さっきの言葉、本気で言ってるの?その、本気で……」
ずっと側に居てくれるの?
恥ずかしくて言葉にできず、再び俯いてしまったレジーナの耳に、クロードの声が聞こえた。
「レジーナ……」
クロードは、言葉だけでは伝えきれないと考えているようだった。だけど、言葉を惜しむこともしないと決めたらしい。レジーナが不安なら、レジーナが望むだけ、その心を打ち明けてくれるつもりでいる。
「俺は、終生、あなたの側に居たい」
「クロード……」
「俺の全てで、あなたを守ると誓う」
そう言って、クロードはレジーナの手を取ったまま片膝をつき、レジーナの前に頭を垂れた。
――あなたに忠誠を。
「ク、クロード?ちょっと待って、なにを……!?」
レジーナは嫌な予感がした。だって、これではまるで――
「お側に、生涯仕える誉れを……」
――俺の、不可侵の女神……
「っ!?」
レジーナは、思わずクロードの手を振り払った。先程までとは違う羞恥で顔が真っ赤になる。
(なによ!なによ、それ!だって、側にいるなんて言うから、私、てっきり……!)
てっきり、男と女として、クロードが自分のことを憎からず思ってくれていると思ったのだ。彼の心はレジーナへの好意を伝えてくれていたから。そして、レジーナはそれを「嬉しい」と思ってしまった。だから、期待して――
「っ!私に仕えるってなによ!?私、あなたに騎士として仕えて欲しいわけじゃないわ!」
「レジーナ……?」
「大体、不可侵って!クロード、あなた、私を問答無用で抱き上げるじゃない!」
レジーナはそんなことが言いたかったわけではない。ただ、自分の勘違いが恥ずかしくて、勘違いの原因をクロードのせいにしようとしていた。
(そうよ、クロードが紛らわしいのがいけないのよ……!)
だが同時に、レジーナは気づいてしまった。クロードの好意には、今までレジーナが他の男に向けられたような「欲望」が含まれていなかったことに。今更ながらに思い当たった事実に、レジーナの羞恥は最高潮に達する。最初から気づいてさえいれば――
「……すまなかった、レジーナ。今後は無断で触れることがないよう、重々気を付ける」
(違う!そうじゃなくて……!)
レジーナの八つ当たりを言葉通りに受け取めて頭を下げるクロード。レジーナは赤い顔のままブンブンと首を振った。そんなレジーナに、クロードの手が伸びて来る。
「レジーナ、触れてもいいだろうか?」
「駄目よ!」
咄嗟に避けたクロードの手、今は彼の心を読みたくない。宙に浮いてしまった彼の手を振り切って、レジーナは告げた。
「もう、いいわ。行きましょう、クロード。早くポーションを見つけないと」
歩き出したレジーナを、直ぐにクロードが追い抜いた。先に立って先導する彼が、時折レジーナを気にするように振り返る。それに気づきながらも、レジーナは顔を上げずにクロードの足元を見つめて歩き続けた。
(こういう時に相手の真意がわかっちゃうのって……)
知らず漏れたため息に、クロードがハッとしたように足を止めた。仕方なくレジーナも足を止め、彼を見上げた。
「レジーナ、俺は……」
レジーナの反応を窺うクロードの姿に、レジーナは自己嫌悪から再びため息をついた。苦笑して、クロードに告げる。
「……ごめんなさい、クロード。怒っているわけではないの。ただ、今はちょっと、そっとしておいて……」
精一杯のレジーナの言葉に、クロードがそれ以上を追及することはなかった。黙ったまま、前を向いて歩き出した彼の背中を、レジーナは追う。視界に、彼の大きな手を映しながら。
レジーナの名を再び呼んだクロードの視線。レジーナを窺うように覗き込む碧の瞳に、レジーナは動けないでいた。クロードに握られているレジーナの手が、彼の熱に当てられて甘く痺れる。
ジワジワと頬にのぼる熱を意識して俯いたレジーナに、クロードの声が聞こえた。
――怒らせた、だろうか?
レジーナの表情が見えないことに不安を覚えたクロードの胸の内が伝わって来る。
レジーナが読み取ってくれるからと言葉を惜しんでしまった。己の欲を優先し、レジーナの気持ちを考えていなかった。己の思いばかりを押し付けた。謝罪をせねば。許されるまで。
悔恨するクロードが出した結論に、レジーナはたまらず口を開く。
「別に怒っているわけではないから、謝らないで。ただ……」
言いかけて、レジーナは言葉を飲み込んだ。黙ってこちらを見つめるクロードの視線を感じる。彼が、レジーナの「ただ」の先を待っているのが伝わってきた。
覚悟を決めて、レジーナはソロリと顔を上げた。凪いだ瞳でこちらを見下ろすクロードの表情を窺う。
「……クロード。あなた、さっきの言葉、本気で言ってるの?その、本気で……」
ずっと側に居てくれるの?
恥ずかしくて言葉にできず、再び俯いてしまったレジーナの耳に、クロードの声が聞こえた。
「レジーナ……」
クロードは、言葉だけでは伝えきれないと考えているようだった。だけど、言葉を惜しむこともしないと決めたらしい。レジーナが不安なら、レジーナが望むだけ、その心を打ち明けてくれるつもりでいる。
「俺は、終生、あなたの側に居たい」
「クロード……」
「俺の全てで、あなたを守ると誓う」
そう言って、クロードはレジーナの手を取ったまま片膝をつき、レジーナの前に頭を垂れた。
――あなたに忠誠を。
「ク、クロード?ちょっと待って、なにを……!?」
レジーナは嫌な予感がした。だって、これではまるで――
「お側に、生涯仕える誉れを……」
――俺の、不可侵の女神……
「っ!?」
レジーナは、思わずクロードの手を振り払った。先程までとは違う羞恥で顔が真っ赤になる。
(なによ!なによ、それ!だって、側にいるなんて言うから、私、てっきり……!)
てっきり、男と女として、クロードが自分のことを憎からず思ってくれていると思ったのだ。彼の心はレジーナへの好意を伝えてくれていたから。そして、レジーナはそれを「嬉しい」と思ってしまった。だから、期待して――
「っ!私に仕えるってなによ!?私、あなたに騎士として仕えて欲しいわけじゃないわ!」
「レジーナ……?」
「大体、不可侵って!クロード、あなた、私を問答無用で抱き上げるじゃない!」
レジーナはそんなことが言いたかったわけではない。ただ、自分の勘違いが恥ずかしくて、勘違いの原因をクロードのせいにしようとしていた。
(そうよ、クロードが紛らわしいのがいけないのよ……!)
だが同時に、レジーナは気づいてしまった。クロードの好意には、今までレジーナが他の男に向けられたような「欲望」が含まれていなかったことに。今更ながらに思い当たった事実に、レジーナの羞恥は最高潮に達する。最初から気づいてさえいれば――
「……すまなかった、レジーナ。今後は無断で触れることがないよう、重々気を付ける」
(違う!そうじゃなくて……!)
レジーナの八つ当たりを言葉通りに受け取めて頭を下げるクロード。レジーナは赤い顔のままブンブンと首を振った。そんなレジーナに、クロードの手が伸びて来る。
「レジーナ、触れてもいいだろうか?」
「駄目よ!」
咄嗟に避けたクロードの手、今は彼の心を読みたくない。宙に浮いてしまった彼の手を振り切って、レジーナは告げた。
「もう、いいわ。行きましょう、クロード。早くポーションを見つけないと」
歩き出したレジーナを、直ぐにクロードが追い抜いた。先に立って先導する彼が、時折レジーナを気にするように振り返る。それに気づきながらも、レジーナは顔を上げずにクロードの足元を見つめて歩き続けた。
(こういう時に相手の真意がわかっちゃうのって……)
知らず漏れたため息に、クロードがハッとしたように足を止めた。仕方なくレジーナも足を止め、彼を見上げた。
「レジーナ、俺は……」
レジーナの反応を窺うクロードの姿に、レジーナは自己嫌悪から再びため息をついた。苦笑して、クロードに告げる。
「……ごめんなさい、クロード。怒っているわけではないの。ただ、今はちょっと、そっとしておいて……」
精一杯のレジーナの言葉に、クロードがそれ以上を追及することはなかった。黙ったまま、前を向いて歩き出した彼の背中を、レジーナは追う。視界に、彼の大きな手を映しながら。
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