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第四章 夏合宿で開いた門
4.
4.
「明莉ちゃん、起きて」
「あれー?花守さんだ。何だこれ、夜這い?」
「ブフッ」
暗闇にはっきりと浮かぶ花守さんのどアップ、但し苦笑気味。見えないけれど、その背後に居るんだろう人物が盛大に吹き出した。
「何で?アロハも居る」
「…お前、俺のことアロハって呼んでんのか?」
「違う。ちゃんと部長(笑)って呼んでる。お休みなさい」
そんな失礼な呼び方を本人相手にするわけない。
「待て待て、寝るな。おい、秀、そいつもっと強めに起こせ」
「明莉ちゃん、ごめん、起きて」
「花守さん、いや、もう夜這いな関係だから花守さんとかよそよそしすぎる。秀だな。秀がそう言うなら、起きなくもない」
そう、起きることは決してやぶさかではないのだ。ただ、眠気が。
「って言いながら寝るなよ!お前、すげぇ、寝起き悪いな」
花守さんの夜這いだけならニヤニヤ出来る夢なのに。BGMがうるさい。音量を下げたい。布団を頭から被ろうとしたところで―
「…アカリ」
「はい!お早うございます!起きてます!」
何だ!?何が!?敵襲?夜襲?あれ?今日は私が見張り番だった?いや、今日は師匠が寝ずの番、いや、違う、ここは―?
「…」
「わあっ!?」
何で目の前に花守さんのどアップが!?あれ?いや、これ、さっきも思ったような??
「おはよう、明莉。緊急事態。シャキッとして」
「起きた。ごめん、大丈夫。緊急事態?」
「そう、夜中にごめんね?今から皆で町の方に避難するから、着替えて外に出れるようにしてくれる?」
―何で?何から避難するの?
聞きたいことは山ほどあるけれど、彼の表情が余裕の無さを伝えてくる。
「…了解です」
よくわからなくても、こういう時は、リーダーの指示に従う。
直ぐに着替えて外に飛び出せば、そこには既に合宿メンバーが全員揃っていた。遅れたことを詫びて、彼らの輪に加わる。
「よし、全員揃ったな?移動すんぞ」
「舗装されてる方の道路を通るからそれほど危険はないけど、懐中電灯は点けて、足元に注意してね」
言った部長と花守さんは最後尾にまわり、三年生の男の先輩二人の先導でゾロゾロと歩き出す。懐中電灯にくわえ月明かりもあるから、歩くこと自体に苦労は無い。
歩調を落とし、最後尾の二人に近づく。
「花守さん。私、状況がよく掴めてないんだけど、何が緊急事態なの?」
「…」
「?」
珍しい。花守さんが言い淀んだ。替わりに聞こえた答えは背後から。
「…熊が出たんだよ」
「熊??」
「そう。さっき、民宿の傍でな。俺と秀が見つけた。あのボロ屋じゃ心もとねぇから、町の方まで避難する」
「…」
花守さんを見て確認するけど、否定も肯定もなく、返ってきたのは苦笑い。
「とっとと足動かせ。一時間はかからないだろうが、喋りすぎるとへばるぞ」
周囲が黙々と歩く中、これ以上の詮索はまずいのかもしれない。皆に倣って、黙々と歩いた。
部長の言葉通り、一時間後には島の反対側の町にたどり着き、運よく空いていた観光客用の民宿に泊まれることになった。
「おし、じゃあ、疲れてんだろうから、お前らさっさと部屋に入って寝ろ。俺と秀は警察なんかに目撃情報を話す必要あるから暫く出てくるけど、気にせず寝てろよー」
言うだけ言うと、さっさと宿を出ていく部長と花守さん、それを見送って―
「わー!待って待って、チサ!チサも行くつもり?」
他の皆が部屋に向かったのと反対に、二人の後からシレッと宿を出ていこうとするチサを慌てて引き留める。
「また追い払われた。確かめに行く」
「追い払われたって、いつかの河川敷の話?また何か、ヤバイのを花守さんが見つけちゃったってこと?」
「多分」
なるほど。あの何か誤魔化されてる感はそれだったのか。昼間の山登りでは見当たらなかったから完全に油断していた、『幽霊』的な何か。
「えー、うー、そうかー。わかった、私も行く」
「…」
覚悟を決めれば、静かに頷くチサ。二人で宿を抜け出し、町外れへと向かう。
「部長達を見つけて追いかける?」
「…南風荘まで戻る。わざわざ避難させたのは、きっとあの辺りが出現場所だから。そこからは『気配探知』で」
「わかる?」
「花守の言う『霊』の気配が拾えるかはわからない。半径500メートルまで近づけば花守達の気配は拾える」
「わかった。じゃあ、行こう」
町の明かりが遠ざかり、道を照らすのは、小さな懐中電灯の光が二つ。月まで陰りだした。
―大丈夫、行ける
暗闇を、二人並んで歩く―
「明莉ちゃん、起きて」
「あれー?花守さんだ。何だこれ、夜這い?」
「ブフッ」
暗闇にはっきりと浮かぶ花守さんのどアップ、但し苦笑気味。見えないけれど、その背後に居るんだろう人物が盛大に吹き出した。
「何で?アロハも居る」
「…お前、俺のことアロハって呼んでんのか?」
「違う。ちゃんと部長(笑)って呼んでる。お休みなさい」
そんな失礼な呼び方を本人相手にするわけない。
「待て待て、寝るな。おい、秀、そいつもっと強めに起こせ」
「明莉ちゃん、ごめん、起きて」
「花守さん、いや、もう夜這いな関係だから花守さんとかよそよそしすぎる。秀だな。秀がそう言うなら、起きなくもない」
そう、起きることは決してやぶさかではないのだ。ただ、眠気が。
「って言いながら寝るなよ!お前、すげぇ、寝起き悪いな」
花守さんの夜這いだけならニヤニヤ出来る夢なのに。BGMがうるさい。音量を下げたい。布団を頭から被ろうとしたところで―
「…アカリ」
「はい!お早うございます!起きてます!」
何だ!?何が!?敵襲?夜襲?あれ?今日は私が見張り番だった?いや、今日は師匠が寝ずの番、いや、違う、ここは―?
「…」
「わあっ!?」
何で目の前に花守さんのどアップが!?あれ?いや、これ、さっきも思ったような??
「おはよう、明莉。緊急事態。シャキッとして」
「起きた。ごめん、大丈夫。緊急事態?」
「そう、夜中にごめんね?今から皆で町の方に避難するから、着替えて外に出れるようにしてくれる?」
―何で?何から避難するの?
聞きたいことは山ほどあるけれど、彼の表情が余裕の無さを伝えてくる。
「…了解です」
よくわからなくても、こういう時は、リーダーの指示に従う。
直ぐに着替えて外に飛び出せば、そこには既に合宿メンバーが全員揃っていた。遅れたことを詫びて、彼らの輪に加わる。
「よし、全員揃ったな?移動すんぞ」
「舗装されてる方の道路を通るからそれほど危険はないけど、懐中電灯は点けて、足元に注意してね」
言った部長と花守さんは最後尾にまわり、三年生の男の先輩二人の先導でゾロゾロと歩き出す。懐中電灯にくわえ月明かりもあるから、歩くこと自体に苦労は無い。
歩調を落とし、最後尾の二人に近づく。
「花守さん。私、状況がよく掴めてないんだけど、何が緊急事態なの?」
「…」
「?」
珍しい。花守さんが言い淀んだ。替わりに聞こえた答えは背後から。
「…熊が出たんだよ」
「熊??」
「そう。さっき、民宿の傍でな。俺と秀が見つけた。あのボロ屋じゃ心もとねぇから、町の方まで避難する」
「…」
花守さんを見て確認するけど、否定も肯定もなく、返ってきたのは苦笑い。
「とっとと足動かせ。一時間はかからないだろうが、喋りすぎるとへばるぞ」
周囲が黙々と歩く中、これ以上の詮索はまずいのかもしれない。皆に倣って、黙々と歩いた。
部長の言葉通り、一時間後には島の反対側の町にたどり着き、運よく空いていた観光客用の民宿に泊まれることになった。
「おし、じゃあ、疲れてんだろうから、お前らさっさと部屋に入って寝ろ。俺と秀は警察なんかに目撃情報を話す必要あるから暫く出てくるけど、気にせず寝てろよー」
言うだけ言うと、さっさと宿を出ていく部長と花守さん、それを見送って―
「わー!待って待って、チサ!チサも行くつもり?」
他の皆が部屋に向かったのと反対に、二人の後からシレッと宿を出ていこうとするチサを慌てて引き留める。
「また追い払われた。確かめに行く」
「追い払われたって、いつかの河川敷の話?また何か、ヤバイのを花守さんが見つけちゃったってこと?」
「多分」
なるほど。あの何か誤魔化されてる感はそれだったのか。昼間の山登りでは見当たらなかったから完全に油断していた、『幽霊』的な何か。
「えー、うー、そうかー。わかった、私も行く」
「…」
覚悟を決めれば、静かに頷くチサ。二人で宿を抜け出し、町外れへと向かう。
「部長達を見つけて追いかける?」
「…南風荘まで戻る。わざわざ避難させたのは、きっとあの辺りが出現場所だから。そこからは『気配探知』で」
「わかる?」
「花守の言う『霊』の気配が拾えるかはわからない。半径500メートルまで近づけば花守達の気配は拾える」
「わかった。じゃあ、行こう」
町の明かりが遠ざかり、道を照らすのは、小さな懐中電灯の光が二つ。月まで陰りだした。
―大丈夫、行ける
暗闇を、二人並んで歩く―
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