異世界 恋愛短編 コメディ

リコピン

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Ⅰ 【完結】八歳年上で色気過多な幼馴染みの冒険者を捕まえるお話【27472字】

Ⅰ 1.

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焦っていた。二十年生きてきた中で、たぶん、一番。

三日後に迫った、最愛の妹の結婚式。彼女が成人―十六歳―を迎えたその日にプロポーズ、半年後に式を挙げたいと宣ったロリコン野郎の幼馴染みに思うところは多々あるものの、まあ、それでも、三つ年上の生真面目男が妹を、ロクシーヌだけを一筋に想い続けていたのは知っていたから。仕方ない。妹を託すに相応しい相手ではあるだろうと、泣く泣く、あの子の手を離したのが半年前。

元から、時間に余裕なんて無かった。魔物素材を使った日用品から武器防具まで、「カスターヌ商会に扱えぬ物無し」とまで言われる国内最大手商会の跡取り次男坊と、国外にまで熱狂的ファンを持つ「名匠バルトルス・アメルン」の愛娘の一人。そんな二人の婚姻である。半年で何もかもを調えるには、圧倒的に時間が足りなかった。それを、「待て」の出来ない新郎クリストフが、「半年でも長い」と無茶を言い、それだけなら無視すれば済むところを、ロクシーヌまでも巻き込んで、「早くクリストフと結婚したい」と可愛い可愛い妹に言われてしまえば、もう諦めるしかないではないか。

だから、死にもの狂いで頑張った。

ロクシーヌの意見を存分に取り入れた―新郎の瞳に合わせた―菫色のウエディングドレス。「式はこじんまりと身内だけで」という彼女の希望に沿って、選んだのは地元の馴染みの教会―当日は、溢れるほどの季節の花で飾り立ててやろうと思っている。カスターヌ家の仕事の関係上、披露宴はド派手なものになってしまったが、本人もこればかりはやり遂げなければと気合いを入れていたから、心配はしていない。日頃物静かなロクシーヌは、だけど、やる時はやる子なのだ。

幸い、父親が武具やら防具やらをカスターヌ商会に卸している関係で、両家は家族ぐるみで仲がいい。幼い頃から両方の家を行き来していたこともあって、クリストフの両親、カスターヌ当主夫妻とは中々に良好な関係を築けていると思う。だから、だからこそ、たった半年での嫁入り支度が何とかなったのだ。こういう場面では役に立たない男性陣は放っておいて、女性陣で一致団結。花嫁の夢見る結婚式の要素を最大限取り入れて、邁進し続けた。力業の分かさんだ費用は、もちろん、クリストフに吐き出させたが。

そうして、何とか形になった二人の結婚式一週間前。ずっと懸念事項であった問題が、とうとう現実、というかタイムオーバーを迎えた時点で、カスターヌ家当主、ヨーゼフに呼び出された。ヨーゼフは妹の将来の義父である前に、カスターヌ商会お抱え冒険者である私の雇い主でもある。呼び出したヨーゼフに命じられたのは「カスターヌ家長男マティアスの捜索」だった。捜索、と丁寧に言ってみたが、実際には「連絡つかないマティアスを見つけて、首根っこ掴んででも式に参列させて欲しい」と言われたのだ。

カスターヌ家長男マティアス。今年、二十八になる彼は十年前、「冒険者になるから」と、至極あっさりと弟に跡継ぎの座を譲り、家を出奔してしまった。いや、その後もちょくちょく帰ってきてはいたから、出奔とは言えないかもしれないけれど。当時の彼の決断には彼の家族だけでなく、私もそこそこ驚いたのを覚えている。

それまで商会のお抱え冒険者の真似事をしていた彼は、確かに剣にも魔法にも秀でてはいたが、決して脳筋というわけではなく、どちらかというと女性達の間をフラフラしているような「色男」だった。周囲に眉をひそめられるほどではないが、両親が私生活に口出しをする程度には遊んでいたと思う。

そんな彼がギルドに所属し、十年で冒険者のランクをSランクにまで上げたということは、やはり彼にはそっち方面の才能があったということなのだろう。たまに魔物のレア素材を持って実家や父の工房にフラリと現れる彼のことを―それでもやっぱり凄腕の冒険者には見えないが―密かに尊敬し、近しい者として誇りにも思っている。

当然、マティアスには新郎の家族として、式に参列して欲しい。それは、両家共通の願いで、拠点をフラフラと変えるマティアスには早々に、二人の婚約の知らせと「一度帰って来い」という手紙が出されている。ただ残念なことに、これには彼からの返事も帰還もなかったため、次は確実に届くようにと、三ヶ月前、手の空いている商会の冒険者が彼の居場所を突き止め、結婚式の「招待状」を本人に直接手渡した。その場で彼から「了承」の返事は貰ったそうだが、ギルドの任務中だという彼を無理やり連れ帰るわけにもいかず、手紙を届けた男は一人帰還し、ヨーゼフにその旨を報告している。

それでも、最初の一月は、あまり心配はしていなかった。ギルドへの依頼は様々、辺境への討伐だってある。一月かそこら連絡が無いからといって慌てるほどではない、皆、そう考えていたと思う。しかし、それが二月になる頃、流石に何らかの連絡―いつ頃帰って来られるか―くらいは無ければ不安だと考えたヨーゼフが再びマティアスに遣いを出したところ、何と、マティアスは依頼のあった街から姿を消していた。

任務はとうに完了済み。彼がどこに移動したのかはわからないという報告に、唖然としたのは新郎新婦の二人ではなく、両家の親と私だった。「急な式だから」「参列出来なくても仕方ない」という式の当事者達に、イヤイヤイヤと首を振り、マティアスの意味のわからない行動に頭を抱えた。たった一人の弟の晴れ舞台なのだ。というか、可愛い可愛いロクシーヌの一生に一度の晴れ舞台なのだ。完璧に、そう完璧に仕上げたかった。両家にとって円満な、これ以上ないほどの良縁で、ロクシーヌは望まれて嫁ぐのだと。マティアスの不在は―式はともかく―披露宴ではあらぬ誤解、噂を呼ぶ可能性だってある。要らぬ苦労をロクシーヌに味わわせるなんて―

だから、商会お抱え冒険者達によるマティアス捜索が空振りし続け、式一週間前になってヨーゼフにその任を依頼された時は、一も二もなく頷いた。式の準備はもう両家の母親に任せておけば大丈夫なところまで来ている。例え、ヨーゼフからの依頼がなくても自分から動いていただろう。

商会の隊商護衛の依頼よりも、希少素材探索の方が得意だと自負する私。肉弾戦よりも、情報戦、例え相手がS級冒険者だろうと、絶対に見つけてみせる。不安げに見送るロクシーヌに、必ず二人で返ってくると約束して、家を飛び出した。式まで一週間。ブライズメイドを努める身としては、前日までには帰還したいところ。正味六日の狩りに、獲物は一人だけ。一筋縄ではいかない依頼を、やり遂げると誓う。





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