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Ⅰ 【完結】八歳年上で色気過多な幼馴染みの冒険者を捕まえるお話【27472字】
Ⅰ 9. Side M
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9
「…フィリス」
誰も居ない空間に、最愛の人の名を呼ぶ。返る返事はないとわかっていても―
眠るフィリスを一人残して部屋を出るのには、躊躇いがあった。それでも、彼女を連れ去るのに必要な―出来れば彼女が目を覚ます前に終わらせたい―準備のため、宿を出た。彼女を逃がさないための「深睡眠」、部屋には「封印」、宿の出入口全てに「警報」を設置して。
雑事をこなして馬車を手配し、宿に戻った頃には昼を大幅に過ぎていた。流石に目を覚ましているだろうフィリスを、さて、何と言って連れ出そうかと考えながら宿へ足を踏み入れたところで、それまで漠然と感じ続けていた不安が、確信に近い恐怖に変わった。
―まさか…
慌てて駆け上がった階段、閉じた扉、だけどそこに掛けたはずの魔力の気配が消え失せている。言い様のない恐怖が募る。開いた扉の先、寝台にも、何処にも、フィリスの姿が見当たらない。
「…フィリス」
―逃げられた
こんなにも、あっさりと。
呆けたのは一瞬、直ぐに踵を返す。宿を飛び出し、馬車用に手配していた馬に飛び乗った。己の身体と馬体に「身体強化」をかけて、走り出す。
途中、馬が走れなくなれば乗り替えて、「暗視」を使って、昼夜を問わず走り続けた。そうして二日をかけても、フィリスの姿を捉えることは出来ないまま。目的地がわかっていることだけは救いか。念のための保険もかけてある。
結局、王都に辿り着くまでに彼女の姿を捉えることは出来なかった。彼女との間にどれほどのロスがあるのか、急く思いを押し込める。大通り、呼び止めた男に尋ねれば、「カスターヌ・アメルン両家の式」を執り行う教会の場所は容易に知れた。だが、流石に挙式時間まではわからないという男に、おざなりの礼を述べ、再び、馬を駆る。
―間に合えっ
たどり着かなければ、何としてでも。フィリスが、他の男の隣に立つ前に。何としてでも―
漸く見えた丘の上の教会、走る馬から飛び降りて駆け込んだ。力任せに開け放った扉の音に、壇上、振り向いた花嫁の姿。菫色のドレス、ベールの向こう、彼女がどんな表情をしているのかはわからない。隣に立つクリストフに、両手をとられて―
「っ!」
薄汚い欲望に、妬心が火をつける。
「駄目だ!フィー!」
他の男の手をとらないで。
「駄目だよ!君はもう、俺のものだから!」
ごめん、ごめんね。
「俺は君を抱いた。子どもだって出来てるかもしれない」
卑怯な手で、君を泣かせても、
「籍だって入れたんだから、他の男と結婚するなんて許されない。フィーの夫は、俺でしょう?」
逃がさないから、逃げないで―
「フィー、フィリス。お願い、もう諦めてよ。諦めて、お願いだから、俺のものになって?」
微動だにしない花嫁の姿に、脅迫が懇願に変わる。それでも、動かないフィリス。通じない、切り捨てられた。彼女は俺を許していない。込み上げる恐怖に吐きそうになる。
―だけど、ごめん
それでも、君を、諦められない―
フィリスの手をとる男、攻撃の矛先をクリストフへと変えて、視線を移す。暴れ出しそうな魔力の圧を抑え込み、口を開こうとしたところで―
「っぶふっ!ご、ごめんなさい!もう無理!」
突然弾けた笑い声。部屋の左奥、祭壇横から聞こえたその声に―聞き間違いようのないその響きに―、思考が停止する。魔力が、霧散した。
「…フィリス」
誰も居ない空間に、最愛の人の名を呼ぶ。返る返事はないとわかっていても―
眠るフィリスを一人残して部屋を出るのには、躊躇いがあった。それでも、彼女を連れ去るのに必要な―出来れば彼女が目を覚ます前に終わらせたい―準備のため、宿を出た。彼女を逃がさないための「深睡眠」、部屋には「封印」、宿の出入口全てに「警報」を設置して。
雑事をこなして馬車を手配し、宿に戻った頃には昼を大幅に過ぎていた。流石に目を覚ましているだろうフィリスを、さて、何と言って連れ出そうかと考えながら宿へ足を踏み入れたところで、それまで漠然と感じ続けていた不安が、確信に近い恐怖に変わった。
―まさか…
慌てて駆け上がった階段、閉じた扉、だけどそこに掛けたはずの魔力の気配が消え失せている。言い様のない恐怖が募る。開いた扉の先、寝台にも、何処にも、フィリスの姿が見当たらない。
「…フィリス」
―逃げられた
こんなにも、あっさりと。
呆けたのは一瞬、直ぐに踵を返す。宿を飛び出し、馬車用に手配していた馬に飛び乗った。己の身体と馬体に「身体強化」をかけて、走り出す。
途中、馬が走れなくなれば乗り替えて、「暗視」を使って、昼夜を問わず走り続けた。そうして二日をかけても、フィリスの姿を捉えることは出来ないまま。目的地がわかっていることだけは救いか。念のための保険もかけてある。
結局、王都に辿り着くまでに彼女の姿を捉えることは出来なかった。彼女との間にどれほどのロスがあるのか、急く思いを押し込める。大通り、呼び止めた男に尋ねれば、「カスターヌ・アメルン両家の式」を執り行う教会の場所は容易に知れた。だが、流石に挙式時間まではわからないという男に、おざなりの礼を述べ、再び、馬を駆る。
―間に合えっ
たどり着かなければ、何としてでも。フィリスが、他の男の隣に立つ前に。何としてでも―
漸く見えた丘の上の教会、走る馬から飛び降りて駆け込んだ。力任せに開け放った扉の音に、壇上、振り向いた花嫁の姿。菫色のドレス、ベールの向こう、彼女がどんな表情をしているのかはわからない。隣に立つクリストフに、両手をとられて―
「っ!」
薄汚い欲望に、妬心が火をつける。
「駄目だ!フィー!」
他の男の手をとらないで。
「駄目だよ!君はもう、俺のものだから!」
ごめん、ごめんね。
「俺は君を抱いた。子どもだって出来てるかもしれない」
卑怯な手で、君を泣かせても、
「籍だって入れたんだから、他の男と結婚するなんて許されない。フィーの夫は、俺でしょう?」
逃がさないから、逃げないで―
「フィー、フィリス。お願い、もう諦めてよ。諦めて、お願いだから、俺のものになって?」
微動だにしない花嫁の姿に、脅迫が懇願に変わる。それでも、動かないフィリス。通じない、切り捨てられた。彼女は俺を許していない。込み上げる恐怖に吐きそうになる。
―だけど、ごめん
それでも、君を、諦められない―
フィリスの手をとる男、攻撃の矛先をクリストフへと変えて、視線を移す。暴れ出しそうな魔力の圧を抑え込み、口を開こうとしたところで―
「っぶふっ!ご、ごめんなさい!もう無理!」
突然弾けた笑い声。部屋の左奥、祭壇横から聞こえたその声に―聞き間違いようのないその響きに―、思考が停止する。魔力が、霧散した。
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