異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第21話 パーティを組みましょう

「これで全額一括返済に足りるだろうか?」

「あぁ!? ちょっと待ってろ……」

 柄シャツはしゃがみ込み、おれが撒いた札束を数え始める。

「ひぃ、ふぅ、みぃ……足んねーぞ! あと200万!」

 ちらり、とフィリアに瞳を向ける。こくり、と力強く頷いてくれる。

「それなら払えます。合わせれば、全額一括返済できます!」

 柄シャツはたじろいだ。スーツの男は鋭くおれを睨んでくる。しかしあくまで口調は丁寧だ。

「こんなことして、あなたになんの得があるんですかねえ? 女を助けてヒーロー気取りですか? そんなにいい所を見せたいんですかね?」

「だったら悪いか? 物入りなんだろう? さっさと金を受け取って、焼けてしまった事務所を再建するのが先決だろう?」

「あなたは、私らの顔も利益も潰した。その意味がわかりますか?」

「なにを言ってる。困ったときはお互い様で、本当は一括返済して欲しかったんだろう? おれが手助けして円満に全額返済できるんなら、そっちの望むところじゃないか」

「……大した度胸ですね」

「小さな度胸じゃグリフィンの前には立てないもんで」

「グリフィン?」

 すると柄シャツが「あぁあーーー!」と声を上げた。

「アニキ、こいつ、動画で見た! あれっすよ! リアルモンスレっすよ!」

「噂のリアルモンスタースレイヤーですか。こいつはとんだ大物が出てきたもんですね。そうとなれば話は変わってきます」

 スーツの男は、一歩下がったかと思うと、予想外のことをした。

「その節は、ありがとうございました!」

 礼儀正しくお辞儀をしたのだ。

 おれもフィリアも、柄シャツまで目が丸くなって動けなかった。

「お前も頭を下げねえか!」

 スーツの男にとっ捕まって、柄シャツも無理に頭を下げさせられる。

「あの場にはうちの若いのもいた。あんたがあの怪物を殺ってくれなきゃ、葬式に出すことになってました。感謝してますよ」

「あんたらみたいな反社に礼なんか言われたくない」

「そうでしょうね。ですがこれはケジメです」

「ケジメというなら、さっさと手続きをしてこの話を終わらせよう」

 あとはスムーズだった。銀行へ行き、おれが現金で払った分の残りを、フィリアの口座から連中の口座へと振り込む。そして完済証明書を発行させ、無事に手続きは終わる。

「なにかあればいつでも言ってください。私らの業界じゃあ、ひとつもらったらひとつ渡す。そういうルールです。古くは仁義と言いますが」

「そんなルールは知らない。反社の力は借りない」

「……気が変わったら、いつでもご連絡を」

 名刺を渡される。一瞥もせず、破いてみせる。地面に捨てるのはマナー違反なので、バックパックにしまうが。

 それきり男たちは去っていった。

 銀行から帰る道、フィリアはずっと俯いたままでいた。

「申し訳ありません。せっかくの賞金を、わたくしの都合のために……。政府の援助金も合わせれば充分に払えましたのに……」

「おれは気にしないよ。援助金で払うんじゃ、ちょっと違うもんね」

 フィリアはこの前言っていた。

 いつか故郷と国交が生まれるなら、ここから友情を育みたいと。違う世界の者同士が、互いに助け合った前例でもありたい、と。

 政府からもらったお金で華子婆さんを助けても、結局は、国の金が自国民を救うのに使われただけだ。フィリア自身で稼いだお金で成し遂げなければ、異世界同士の純粋な友情とは言えない。

「ですが一条様のお力を借りてしまっては、同じことです」

「同じじゃないよ。そもそもグリフィンを倒したのは、おれとフィリアさんなんだ。違う世界の者同士が協力して得たお金で、こちらの世界の誰かを救う……。ありじゃない?」

「それは、そうかもしれませんが……ほとんどは一条様の取り分であるべきでした」

「そこは気にしないでよ。おれは、誰かの想いを守って生きていけるならそれでいい。異世界リンガブルームではそうしてたし、こっちでも、そうしたいと思ってる。この生き方が、おれの居場所なんだ。一番楽しいんだ」

「しかし……」

「君の生き方を見て、君の夢を聞いて、思ったんだ。お金じゃ幸せは買えない。けど、その幸せを守るためにこそ、お金が必要なときがあるって……」

 例えば、飢えて泣いている子供にパンを買い与えるためのお金。

 パンがあれば笑顔にできるとも限らないけれど、パンを買えなきゃ絶対に笑顔にできない。幸せの前提条件なのだ。

「そういうお金なら、いくら使ったって構わない。そこに見返りは求めない。君だって、そうじゃないのかな?」

「それは、はい。ですが……」

「まだ納得できないなら、こうしない? あのお金は、おれたちの共有財産だったってことしよう」

 フィリアは息を呑んで立ち止まった。

「共有、財産……ですか?」

「それなら取り分なんて考えなくていい。どうかな?」

 フィリアの頬が朱に染まっていく。顔が見えないくらい俯いてしまう。

「はい……。そうですね。確かに共有財産なら、そうです。それなら、はい。一番かもしれません……」

「でしょ?」

「ですが一条様、本当に、わたくしと……財産を共有するような関係になっても、よろしいのですか?」

「正直言うと、今回のことがなくても言うつもりだったんだ。君が欲しいって」

「わ、わたくしなどを、求めてくださるのですか」

「嫌かな? おれたち相性いいと思うんだけど」

「それは、わたくしも思います。ですが、その、財産を共有しようなどと、回りくどい言い方は、少しずるいです」

「ずるい?」

「はい。ご自分の想いは、真っ直ぐに伝えるべきです。わたくしだって、貴方とならやぶさかではありませんが……ちゃんとした言葉でお聞きしたいです」

「わかった。ちゃんと言うよ」

「……はい」

 フィリアは顔を上げる。真っ赤になったまま、黄色い綺麗な瞳でおれを見つめる。

「フィリアさん、おれとパーティを組んで欲しい」

「はい、お受けいたしま――パーティ?」

「ん?」

「えっ? あの、パーティ?」

「うん。パーティ組めば、持ち物とか依頼報酬とか、共有財産になるでしょ?」

 フィリアは、なぜか怒ったような、恥ずかしがるような、でもやっぱり怒っているような複雑な表情の変化を見せた。

 でも結局、そういった感情を全部ため息にして吐き出してしまった。

「はい。パーティを組みましょう。はい」

「良かった、嬉しいよ」

「ですが一条様?」

「うん?」

「この国では、パーティ制は採用されておりませんよ!」

 言ってから、やっぱりぷんすかと怒ってさっさと先に行ってしまう。

「ちょっと待ってよ、フィリアさん! え? じゃあなんだと思ったの? いやそれより、これからのことも相談しよう。お金稼ぎのアイディアもたくさんあるんだからさ!」

 おれはフィリアを追いかけながら、これからの充実した日々を予感するのだった。
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