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一話
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一度目の人生は婚約者のためを思って彼女に少し注意をしただけなのにそれを咎められ、でっちあげられた罪によってローズマリーは絞首刑にされた。
「貴様はエミリアを亡き者にしようと暗殺者を雇い彼女に害をなそうとしたらしいな!」
「そんな、そんなことは決してしておりません!!どうか信じてください殿下!」
しかしそんな彼女の声に彼は聞く耳を持たなかった。彼にとってはかわいいかわいい彼女の言葉がただ一つの真実として写っていた。
二度目の人生を繰り返したと気づきた瞬間ローズマリーは混乱した。また死ななくてはならないの、と泣いた。しかし始まってしまったものにはどうしようも無いので、今回は婚約者としての振る舞いにおかしなところがあっても指摘せず、極力彼女にも近付かないようにした。
そのはずなのに、結局ローズマリーは死んだ。
三度目が始まった時はただひたすら絶望し、その時が来る前に自ら命を絶った。今度こそ、全てを終わりにさせたかった。
しかし、そう上手くは行かないようで四度目の人生がまた始まってしまった。
ならば今度は彼女に出会う前に国外へ逃げてしまえばいいと、全ての始まりだった夜会に行かずローズマリーは必要最低家の荷物を持ち辻馬車に乗った。
しかしその道中で馬車は何者かに襲われローズマリーはまた死亡した。
そうして迎えた五度目の人生。もう、どうしようも無いのかもしれないとローズマリーは思った。
この一年を繰り返して、遅かれ早かれ最後には死ぬ運命にあるのだ。どんなに足掻いてもまるで神様がそれを嘲笑うかのようにローズマリーを死に追い詰める。
ならばと彼女はひとつの決心をした。
一度目の人生ででっちあげられた罪を、実際にしでかしてしまおうと。
そうすれば幾分か、自分の死に納得できるのではないだろうか。
自分が殺されてもおかしくないことをしてきたという実感があれば、もう仕方の無いことだと諦められる気がするのだ。
そう、ローズマリーは既に狂っていた。五度も同じ一年間を繰り返して平気でいられるはずがなかった。
もう、精神は疲弊しきっていて、まともな思考なんて出来るはずがない。それが、ローズマリーにとって今一番の最善策だと思わずにはいられなかった。
ローズマリーがループしていることに気がつくのは、決まってこの夜会の準備中である。
既に決まっていた深い緑色のドレスを見つめて、彼女はため息をついた。
本来なら婚約者である彼から送られてくるはずのドレスは、今回も矢張りローズマリーのところではなく彼女の元へと行ったようだった。
しかしふとそこで今までとドレスの色が違うことに気がつく。今までは淡い水色だったはずなのに、今回は何故か緑色のドレスだったのだ。それに首を傾げるものの、些細な変化なのでローズマリーは無視することにした。ほんの少し違うことがあるくらいで何かを期待することにしたのはもうとっくの昔に諦めているのだ。
物憂げに視線を更に下げれば、侍女のリリアが優しく問いかける。
「お嬢様、緊張されておいでですか?」
「緊張……、?そんなものじゃないわ」
「え?」
ぽつりと漏らされた声はリリアの耳には届いていなかったようでなんて言いましたか?と首をかしげられる。
それに彼女は苦笑していいえ、と答えた。
「なんでもない。そうね、多分緊張しているのかも」
「まあ」
お嬢様でも緊張することがあるのですね、と微笑みながら慣れた手つきでするすると髪をまとめていく。
「でも大丈夫ですよ、なにせお嬢様には王太子殿下がいるではないですか」
「王太子殿下?何故?」
「何故ってそれは────」
目を瞬かせるローズマリーにリリアは何かを言いかけたが、そこで扉をノックされ言葉を遮られた。
「お嬢様、お迎えが来ておりますが準備の方は如何ですか?」
「もう終わりました!」
扉の先で聞こえてきた声にリリアが反応する。そうして彼女はローズマリーを立たせ、にこにこと人好きのする笑みを浮かべながら「さ、あなたの婚約者の元へ向かいましょうか」と言った。
一体どういうことだろうか、とローズマリーはリリアの顔を眺める。
彼は迎えに来ることは無かったはずなのだ。一度も、エスコートをしてくれたことはあるものの邸まで迎えに来るなんてことはなかった。
違和感を覚えつつ素直にローズマリーは部屋を出る。
そうして向かったロビーにいた人物にローズマリーは驚愕した。
なぜならそこにいたのは彼女の婚約者だったはずのエドガー・フォン・ルシアンナではなく、その兄であるレオンハルト・ノア・ルシアンナだったからだ。
「貴様はエミリアを亡き者にしようと暗殺者を雇い彼女に害をなそうとしたらしいな!」
「そんな、そんなことは決してしておりません!!どうか信じてください殿下!」
しかしそんな彼女の声に彼は聞く耳を持たなかった。彼にとってはかわいいかわいい彼女の言葉がただ一つの真実として写っていた。
二度目の人生を繰り返したと気づきた瞬間ローズマリーは混乱した。また死ななくてはならないの、と泣いた。しかし始まってしまったものにはどうしようも無いので、今回は婚約者としての振る舞いにおかしなところがあっても指摘せず、極力彼女にも近付かないようにした。
そのはずなのに、結局ローズマリーは死んだ。
三度目が始まった時はただひたすら絶望し、その時が来る前に自ら命を絶った。今度こそ、全てを終わりにさせたかった。
しかし、そう上手くは行かないようで四度目の人生がまた始まってしまった。
ならば今度は彼女に出会う前に国外へ逃げてしまえばいいと、全ての始まりだった夜会に行かずローズマリーは必要最低家の荷物を持ち辻馬車に乗った。
しかしその道中で馬車は何者かに襲われローズマリーはまた死亡した。
そうして迎えた五度目の人生。もう、どうしようも無いのかもしれないとローズマリーは思った。
この一年を繰り返して、遅かれ早かれ最後には死ぬ運命にあるのだ。どんなに足掻いてもまるで神様がそれを嘲笑うかのようにローズマリーを死に追い詰める。
ならばと彼女はひとつの決心をした。
一度目の人生ででっちあげられた罪を、実際にしでかしてしまおうと。
そうすれば幾分か、自分の死に納得できるのではないだろうか。
自分が殺されてもおかしくないことをしてきたという実感があれば、もう仕方の無いことだと諦められる気がするのだ。
そう、ローズマリーは既に狂っていた。五度も同じ一年間を繰り返して平気でいられるはずがなかった。
もう、精神は疲弊しきっていて、まともな思考なんて出来るはずがない。それが、ローズマリーにとって今一番の最善策だと思わずにはいられなかった。
ローズマリーがループしていることに気がつくのは、決まってこの夜会の準備中である。
既に決まっていた深い緑色のドレスを見つめて、彼女はため息をついた。
本来なら婚約者である彼から送られてくるはずのドレスは、今回も矢張りローズマリーのところではなく彼女の元へと行ったようだった。
しかしふとそこで今までとドレスの色が違うことに気がつく。今までは淡い水色だったはずなのに、今回は何故か緑色のドレスだったのだ。それに首を傾げるものの、些細な変化なのでローズマリーは無視することにした。ほんの少し違うことがあるくらいで何かを期待することにしたのはもうとっくの昔に諦めているのだ。
物憂げに視線を更に下げれば、侍女のリリアが優しく問いかける。
「お嬢様、緊張されておいでですか?」
「緊張……、?そんなものじゃないわ」
「え?」
ぽつりと漏らされた声はリリアの耳には届いていなかったようでなんて言いましたか?と首をかしげられる。
それに彼女は苦笑していいえ、と答えた。
「なんでもない。そうね、多分緊張しているのかも」
「まあ」
お嬢様でも緊張することがあるのですね、と微笑みながら慣れた手つきでするすると髪をまとめていく。
「でも大丈夫ですよ、なにせお嬢様には王太子殿下がいるではないですか」
「王太子殿下?何故?」
「何故ってそれは────」
目を瞬かせるローズマリーにリリアは何かを言いかけたが、そこで扉をノックされ言葉を遮られた。
「お嬢様、お迎えが来ておりますが準備の方は如何ですか?」
「もう終わりました!」
扉の先で聞こえてきた声にリリアが反応する。そうして彼女はローズマリーを立たせ、にこにこと人好きのする笑みを浮かべながら「さ、あなたの婚約者の元へ向かいましょうか」と言った。
一体どういうことだろうか、とローズマリーはリリアの顔を眺める。
彼は迎えに来ることは無かったはずなのだ。一度も、エスコートをしてくれたことはあるものの邸まで迎えに来るなんてことはなかった。
違和感を覚えつつ素直にローズマリーは部屋を出る。
そうして向かったロビーにいた人物にローズマリーは驚愕した。
なぜならそこにいたのは彼女の婚約者だったはずのエドガー・フォン・ルシアンナではなく、その兄であるレオンハルト・ノア・ルシアンナだったからだ。
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