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第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
セミルとユリカ
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「キャーーーーッ!!」
悲鳴を上げた彼女は、隠すように脚を閉じると、そのまま床を蹴ってキャスター付きのイスを後退させた。背に壁を向け、あたりを警戒するように視線をキョロキョロと彷徨わせている。
えっと、急にどうしたんだろう。彼女には俺のことが見えるのか? いや、この様子から察するに、見えはしないが、声は聞こえているという状態なのか?
ちょっと試してみよう。心に強く念じてみる。
(おパンツ見せてもらってもよろしいですか?)
あ、こっち見てる。すげー顔でこっち見てる。これは確実に聞こえてるな。
「セミー? どうしたのー? らしくない声出してー」
と、そこで部屋の扉が開いて、一人の女性が入ってきた。警戒している女性より一回り身長は小さいが、こちらも若い。十代後半といったところか。
「ユリ! 妖精さん! 妖精さんがいる! ……多分」
入ってきた女性の方を見ずに、セミさん? が答える。というか、妖精さん? 何だそれ。違うぞ俺の名前はーー。
「え、そうなの? どこ? どこ? 何て言ってるの? 妖精さん」
「多分、あそこ。でももう、どっか行ったかもしんない。それに、変なこと言ってきて……」
セミさんは、指先で俺を示す。うん、まだここにいるよー。バッチリとおパンツのくだりを聞かれていたようで、かなり恥ずかしい。ここ3日間、誰とも話さずにいたし、幽霊になったと思っていたからテンションがおかしくなっていたようだ。
「妖精さんの言うことは、大抵変なことだけど……。何て?」
「……パンツ見せろって」
(違うぞ。命令形ではない。紳士にお願いしているだけだ)
「! ほら、また妖精さんが喋ってる! 命令じゃないぞ、お願いだって」
「え、そうなの? 私には聞こえないなー」
キョロキョロしながらこちらへ来たユリさん? は、見えない何かを探るように、手で虚空をわしわしと掻いている。どうやら俺を探しているようだ。恐らく触れられないとは思うが、視界の邪魔になるので、俺は二人が見えやすい位置に移動する。
「っていうか、パンツ見せろ? 変なこと言う妖精さんだねー。妖精さんって、もっと示唆的というか、端的というか『アッチニイクナ』とか『ソレハダメ』とか、そういうことしか言わないと思っていたけど……」
「私もそう思ってた。けど、この妖精さんはもっと流暢というか、胡散臭いというか……」
(胡散臭いとは酷いな。そんなことないよ。俺は妖精さんだよー。ソレハダメ、ソンアコトヲイッテハダメ。ヨウセイサンキズツク)
「……きな臭いというか。」
そう言って、セミさんはこちらの方を見て、頭を抱える。
「ふーん。じゃあきっと、それは悪霊さんだね」
と、ユリさんは手を打つ。
「悪霊さん?」
(悪霊さん?)
「そ。妖精さんみたいに見えないし、声しか聞こえないけど、妖精さんほど善い存在でもないモノ」
「へー、そんなの居るんだ。初めて聞いた」
(悪霊さんかぁ。確かに今の俺は幽霊ぽいけど、悪さとかしないし、その分類はちょっとヤダなぁ)
「うん、だろうね。今、私が名付けたし」
(居ないんかい!)
「あ、ユリも知ってた訳じゃないのね。……うーん、じゃあ悪霊さんでいいか」
(良くないよ!)
「それで、悪霊さんは何の御用?」
セミさんが俺の叫びを無視して訊いてくる。
「パンツが見たければ勝手にどうぞ。できればユリのにしてね。ユリにはあなたの声が聞こえないみたいだし。というか、こっちからはそっちは見えないのだから、勝手に見ればいいじゃない」
(それは紳士協定に反する)
「紳士協定? なにそれ」
(道徳的なものだ。挨拶は大事)
「……あなたは随分と変わった妖精……えっと、悪霊さんなのね。いやにニンゲン臭いというか何というか。そんなにコレに興味がある?」
俺の呼称を訂正して、セミさんは自分の下半身を指し示す。
(あー、パンツのことは忘れてもらえると嬉しい。テンションが上っていただけなんで。今はもう大丈夫。落ち着きました。それで、いくつか聞きたいことがあるんだけど……)
「聞きたいこと?」
(とりあえず、二人の名前を訊いてもいい? ちなみに俺の名前は……)
悲鳴を上げた彼女は、隠すように脚を閉じると、そのまま床を蹴ってキャスター付きのイスを後退させた。背に壁を向け、あたりを警戒するように視線をキョロキョロと彷徨わせている。
えっと、急にどうしたんだろう。彼女には俺のことが見えるのか? いや、この様子から察するに、見えはしないが、声は聞こえているという状態なのか?
ちょっと試してみよう。心に強く念じてみる。
(おパンツ見せてもらってもよろしいですか?)
あ、こっち見てる。すげー顔でこっち見てる。これは確実に聞こえてるな。
「セミー? どうしたのー? らしくない声出してー」
と、そこで部屋の扉が開いて、一人の女性が入ってきた。警戒している女性より一回り身長は小さいが、こちらも若い。十代後半といったところか。
「ユリ! 妖精さん! 妖精さんがいる! ……多分」
入ってきた女性の方を見ずに、セミさん? が答える。というか、妖精さん? 何だそれ。違うぞ俺の名前はーー。
「え、そうなの? どこ? どこ? 何て言ってるの? 妖精さん」
「多分、あそこ。でももう、どっか行ったかもしんない。それに、変なこと言ってきて……」
セミさんは、指先で俺を示す。うん、まだここにいるよー。バッチリとおパンツのくだりを聞かれていたようで、かなり恥ずかしい。ここ3日間、誰とも話さずにいたし、幽霊になったと思っていたからテンションがおかしくなっていたようだ。
「妖精さんの言うことは、大抵変なことだけど……。何て?」
「……パンツ見せろって」
(違うぞ。命令形ではない。紳士にお願いしているだけだ)
「! ほら、また妖精さんが喋ってる! 命令じゃないぞ、お願いだって」
「え、そうなの? 私には聞こえないなー」
キョロキョロしながらこちらへ来たユリさん? は、見えない何かを探るように、手で虚空をわしわしと掻いている。どうやら俺を探しているようだ。恐らく触れられないとは思うが、視界の邪魔になるので、俺は二人が見えやすい位置に移動する。
「っていうか、パンツ見せろ? 変なこと言う妖精さんだねー。妖精さんって、もっと示唆的というか、端的というか『アッチニイクナ』とか『ソレハダメ』とか、そういうことしか言わないと思っていたけど……」
「私もそう思ってた。けど、この妖精さんはもっと流暢というか、胡散臭いというか……」
(胡散臭いとは酷いな。そんなことないよ。俺は妖精さんだよー。ソレハダメ、ソンアコトヲイッテハダメ。ヨウセイサンキズツク)
「……きな臭いというか。」
そう言って、セミさんはこちらの方を見て、頭を抱える。
「ふーん。じゃあきっと、それは悪霊さんだね」
と、ユリさんは手を打つ。
「悪霊さん?」
(悪霊さん?)
「そ。妖精さんみたいに見えないし、声しか聞こえないけど、妖精さんほど善い存在でもないモノ」
「へー、そんなの居るんだ。初めて聞いた」
(悪霊さんかぁ。確かに今の俺は幽霊ぽいけど、悪さとかしないし、その分類はちょっとヤダなぁ)
「うん、だろうね。今、私が名付けたし」
(居ないんかい!)
「あ、ユリも知ってた訳じゃないのね。……うーん、じゃあ悪霊さんでいいか」
(良くないよ!)
「それで、悪霊さんは何の御用?」
セミさんが俺の叫びを無視して訊いてくる。
「パンツが見たければ勝手にどうぞ。できればユリのにしてね。ユリにはあなたの声が聞こえないみたいだし。というか、こっちからはそっちは見えないのだから、勝手に見ればいいじゃない」
(それは紳士協定に反する)
「紳士協定? なにそれ」
(道徳的なものだ。挨拶は大事)
「……あなたは随分と変わった妖精……えっと、悪霊さんなのね。いやにニンゲン臭いというか何というか。そんなにコレに興味がある?」
俺の呼称を訂正して、セミさんは自分の下半身を指し示す。
(あー、パンツのことは忘れてもらえると嬉しい。テンションが上っていただけなんで。今はもう大丈夫。落ち着きました。それで、いくつか聞きたいことがあるんだけど……)
「聞きたいこと?」
(とりあえず、二人の名前を訊いてもいい? ちなみに俺の名前は……)
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