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第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
ユリカの過去
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それからしばらくしたある日のこと。
「悪霊さん居る? 居るならちょっと着いてきてほしいんだけど」
リビングにて、ユリカに声をかけられた。家にいる時、基本的に俺はリビングに居るようにしている。ユリカの部屋には入らないことにしているし、セミルの部屋にも用があるとき以外は入らないようにしている。
(ユリカ? 俺に用なんて珍しいな。でもいいのか? セミルは居ないぞ?)
セミルは外出しているので、意思疎通はできない。一方的に話を聞くだけになってしまう。
「ちょっと独り言というか、話を聞いてもらいたいだけだから、セミは居なくていいんだけど。うーん、これで悪霊さんが居なかったら、ちょっと恥ずかしいな」
照れるように、ユリカは言う
「まあ、いいや。えっとね。もし居るなら、ちょっと外に行くから付き合って。ただ、聞いているだけでいいから」
(そういうことなら、まあ……)
ユリカはそう言ってリビングを出ていく。ユリカの背中にはリュックがあった。いつぞやマダム達へのお土産を運ぶのに使用したものよりかは小ぶりのものである。お弁当でも入っているのだろうか。
「これに乗っていくよー」
外には軽トラではなく、ジープが置いてあった。真新しいもので、わざわざ取寄せしたのだろうか。運転席に彼女は乗り込み、バンバンと助手席を叩く。俺は助手席に移動する。
「乗ったかなー? 5秒前、5,4,3,2,1,出発するよー」
そう言って、彼女はジープを走らせた。どこか、目的地があるのだろうか。マダム屋敷とは反対方向へ、道なりに進む。割と早いスピードだ。俺は移動物体の上に移動すると通常より早く移動できるが、これはその速度よりもかなり早い。うっかり落ちたりしないようにしないとな。
「いやー、急に呼び出しちゃってごめんね」
(いや、暇してたから別にいいんだが)
日課の瞑想をしていただけだ。気にするな。
「悪霊さんと二人きりって、初めてだよねー」
(そうだなー)
「まあ、意思疎通できないし当たり前っちゃ、当たり前なんだけどさ」
えへへ、とユリカは軽く笑う。
その後、ユリカは口を開くことなく、ただ道を進むだけであった。目的地に着いてから話し出すのか、話すことをまとめているのか、あるいはやっぱり反応のない俺に話すのは無意味だろうと思ったのか。最後だったら少し哀しい。
10分くらい道なり進んだところでジープは道を外れ、草原を一直線に進みだした。
「私がね、生まれた頃の話なんだけど……」
そう言って、ようやくユリカは語りだした。
私がね、生まれた頃の話なんだけど……。私はここからちょっと離れたところにある、別のムラで生まれたんだ。育ててくれたのはユシアってヒト。端末の操作も身体の再生方法も彼から教わった。ユシアは縫製が趣味でね、針と布を毎日触っていたから、私も自然それに興味を持った。基本的な技術とか、服やバッグの作り方とかはユシアに全部教わった。いきなり服を作ろうとして、全然思ったとおりのカタチにならなくってね……。グシャグシャになった布の塊とか、何個も作ったっけ。
簡単な、作れるイメージが湧くものからつくってご覧とユシアに言われてね。小さな櫛入れを作ったな。今も持ってる。擦り切れる度に補修して、最初の面影はないけれど、大切にしてる。ユシアにすごくいいねと褒められたからかもしれない。
生まれたから二十年くらいは、ずっとユシアと一緒に居たな。ムラの外にもあまり興味はなくて、ユシアのことばかり考えてた。ユシアと話したり、ユシアに褒められたりするのが好きで、だからこそ私も縫製に興味を持って、いろいろと作っていたのかも。ようやくマトモな服を作れるようになったとき、作った服をユシアにプレゼントした。彼はとても喜んでくれてね。私もとても嬉しかった。
それからも、ユシアのために色々作ってみた。最初の方は、ただ喜んでくれた。やがて、もっとこうしたら良いかなとアドバイスをくれるようになった。さらに数年後は、すごいな完璧だとしか言わなくなった。そして最後の方は、特に何も言わずに、ありがとうと受け取るだけになった。
そんなある日、ユシアは家から出ていってしまった。私に何の言葉もなく。朝起きたら居なくなってた。彼の荷物が少しだけなくなってた。メッセージを送っても返事はなかった。知り合いにユシアのことを訊いてみたが、どこにいるかは誰も知らないようだった。ただ、知り合いとはメッセージのやり取りをしているようで、無事であることは分かった。彼はただ、私との関係のみを断っていた。
最初は怒って、次に泣いて、また怒って、また泣いて。彼のことを考えると、二つの感情が混ざり合う。混ざり合ったエネルギーで服をまた作って、私の作品が取り寄せできるようになるたび、私のことを思い出せば良いと思った。そうして、服を何枚も作ったある日のこと。知り合いからユシアの死を告げられた。
自死らしい。メッセージの送り先リストから、彼の名が消えていた。死んだものはそうなると聞いた。彼の自死の理由を知人に尋ねたが、分からないようだった。ただ、あいつも数百年生きてるし、そうなってもおかしくはないと言っていた。彼が自死した理由は分からない。何通りもの想像はできるが、永久に答えは分からない。出口のない迷路のようなものだ。しかし、だからこそ、彼は死んだのだと言える。それに出口を感じたのだから。
そして私は理由がなくなったので、服を作るのを辞めた。時間を退屈に感じるようになったのは、それからだと思う。
暇つぶしに世界を旅することに決めた。数十年かけて二十のムラをめぐり、数多くの変人と知り合った。マッドやマダムたちとも、その旅で初めて遭った。ノーコちゃんはまだ居なかったな。その頃のマッドは洗脳で多くのニンゲンの長みたいになっててね。私もどうだと誘われたっけ。もちろん断ったよ。無理矢理洗脳されることはなかったな。洗脳されてたヒト達も、自ら洗脳されたがっているように見えたし、私はそんなことはなかったから。私の服を着ているヒトとも出会ったな。嬉しかったけど、次を期待されるとちょっとだけ気が重くなった。
コロシアムで、久しぶりに興奮した。血湧き肉躍るとはまさにこのこと。ショットガンをぶっ放し、ナイフで切り裂いて相手を制圧する。この心地良さは何とも言い難い。負けたとしても、死力を尽くしきった爽快感はまったく後腐れがなく、とてもスッキリした。数年くらいここで時間を潰したかな。セミルと出会ったのは、この頃のことだ。
セミルと初めて会ったとき、彼女は私の対戦相手だった。ランキングで言えば私が上位で彼女が下位。経験も私が上だったし、最初は圧勝。脚を動けなくして、脳天を撃ち抜いてやりました。次も私の勝利。でも、今度は楽に勝たせて貰えなかったな。私も結構ダメージ喰らってたし、辛勝って感じ。その次もそんな感じで私の勝利。
四戦目で初めて負けたな。セミのやつ、今まで使ってなかった強力な爆弾を持ち込んできてね。それで相打ち覚悟で吹っ飛ばされた。で、ぎりぎり向こうのほうが先に回復しての場外負け。さすがに悔しかったよね。ってか、あの戦法はずるいよ。勝率ほぼ5割の運否天賦になるんだもの。こんなクソ戦法で勝って嬉しいのかって訊いたら、勝ちは勝ちとか言ってセミはにししと笑ってやがった。
で、そのときに一緒に住まないかって聞かれた。どうしてなのかな。あんなムカつく負け方したあとに、私はうんって言ったんだ。ただ、セミルは私の作った服を着ていて、それがとても良く似合ってた。多分、今まであったヒトの中で誰よりも。今と変わらない笑顔で、私に勝ったときも笑ってたっけ……。
それからずっと、二人で暮らしてる。セミルに頼まれたからまた服を作ってね。喜んでくれて嬉しかった。喧嘩することもあったけど、セミルの性格もあってかすぐに仲直りした。長く一緒に暮らしていけたのも、このためだと思う。他人と一緒に暮らすことはユシア以来何回かあったけど、セミルと居たときが一番心地よかった。セミルは素直に自分のことを話してくれるから。
「それからのことは、まあ悪霊さんもご存知のことかなと思うんだけど……。この辺りでいいかな」
そう言って、ユリカはジープを止めた。辺りが途端に静寂に包まれる。周りは草原であり、彼女はそこに降り立つ。ジープから少しだけ歩くと、彼女はぺたんと腰をおろした。この辺りが目的地、ということなのだろうか。
「さてと、悪霊さん。私はこれから自死しようと思います。なので、最後までお付き合い願えればと思います」
……は? 今、何て言った?
「悪霊さん居る? 居るならちょっと着いてきてほしいんだけど」
リビングにて、ユリカに声をかけられた。家にいる時、基本的に俺はリビングに居るようにしている。ユリカの部屋には入らないことにしているし、セミルの部屋にも用があるとき以外は入らないようにしている。
(ユリカ? 俺に用なんて珍しいな。でもいいのか? セミルは居ないぞ?)
セミルは外出しているので、意思疎通はできない。一方的に話を聞くだけになってしまう。
「ちょっと独り言というか、話を聞いてもらいたいだけだから、セミは居なくていいんだけど。うーん、これで悪霊さんが居なかったら、ちょっと恥ずかしいな」
照れるように、ユリカは言う
「まあ、いいや。えっとね。もし居るなら、ちょっと外に行くから付き合って。ただ、聞いているだけでいいから」
(そういうことなら、まあ……)
ユリカはそう言ってリビングを出ていく。ユリカの背中にはリュックがあった。いつぞやマダム達へのお土産を運ぶのに使用したものよりかは小ぶりのものである。お弁当でも入っているのだろうか。
「これに乗っていくよー」
外には軽トラではなく、ジープが置いてあった。真新しいもので、わざわざ取寄せしたのだろうか。運転席に彼女は乗り込み、バンバンと助手席を叩く。俺は助手席に移動する。
「乗ったかなー? 5秒前、5,4,3,2,1,出発するよー」
そう言って、彼女はジープを走らせた。どこか、目的地があるのだろうか。マダム屋敷とは反対方向へ、道なりに進む。割と早いスピードだ。俺は移動物体の上に移動すると通常より早く移動できるが、これはその速度よりもかなり早い。うっかり落ちたりしないようにしないとな。
「いやー、急に呼び出しちゃってごめんね」
(いや、暇してたから別にいいんだが)
日課の瞑想をしていただけだ。気にするな。
「悪霊さんと二人きりって、初めてだよねー」
(そうだなー)
「まあ、意思疎通できないし当たり前っちゃ、当たり前なんだけどさ」
えへへ、とユリカは軽く笑う。
その後、ユリカは口を開くことなく、ただ道を進むだけであった。目的地に着いてから話し出すのか、話すことをまとめているのか、あるいはやっぱり反応のない俺に話すのは無意味だろうと思ったのか。最後だったら少し哀しい。
10分くらい道なり進んだところでジープは道を外れ、草原を一直線に進みだした。
「私がね、生まれた頃の話なんだけど……」
そう言って、ようやくユリカは語りだした。
私がね、生まれた頃の話なんだけど……。私はここからちょっと離れたところにある、別のムラで生まれたんだ。育ててくれたのはユシアってヒト。端末の操作も身体の再生方法も彼から教わった。ユシアは縫製が趣味でね、針と布を毎日触っていたから、私も自然それに興味を持った。基本的な技術とか、服やバッグの作り方とかはユシアに全部教わった。いきなり服を作ろうとして、全然思ったとおりのカタチにならなくってね……。グシャグシャになった布の塊とか、何個も作ったっけ。
簡単な、作れるイメージが湧くものからつくってご覧とユシアに言われてね。小さな櫛入れを作ったな。今も持ってる。擦り切れる度に補修して、最初の面影はないけれど、大切にしてる。ユシアにすごくいいねと褒められたからかもしれない。
生まれたから二十年くらいは、ずっとユシアと一緒に居たな。ムラの外にもあまり興味はなくて、ユシアのことばかり考えてた。ユシアと話したり、ユシアに褒められたりするのが好きで、だからこそ私も縫製に興味を持って、いろいろと作っていたのかも。ようやくマトモな服を作れるようになったとき、作った服をユシアにプレゼントした。彼はとても喜んでくれてね。私もとても嬉しかった。
それからも、ユシアのために色々作ってみた。最初の方は、ただ喜んでくれた。やがて、もっとこうしたら良いかなとアドバイスをくれるようになった。さらに数年後は、すごいな完璧だとしか言わなくなった。そして最後の方は、特に何も言わずに、ありがとうと受け取るだけになった。
そんなある日、ユシアは家から出ていってしまった。私に何の言葉もなく。朝起きたら居なくなってた。彼の荷物が少しだけなくなってた。メッセージを送っても返事はなかった。知り合いにユシアのことを訊いてみたが、どこにいるかは誰も知らないようだった。ただ、知り合いとはメッセージのやり取りをしているようで、無事であることは分かった。彼はただ、私との関係のみを断っていた。
最初は怒って、次に泣いて、また怒って、また泣いて。彼のことを考えると、二つの感情が混ざり合う。混ざり合ったエネルギーで服をまた作って、私の作品が取り寄せできるようになるたび、私のことを思い出せば良いと思った。そうして、服を何枚も作ったある日のこと。知り合いからユシアの死を告げられた。
自死らしい。メッセージの送り先リストから、彼の名が消えていた。死んだものはそうなると聞いた。彼の自死の理由を知人に尋ねたが、分からないようだった。ただ、あいつも数百年生きてるし、そうなってもおかしくはないと言っていた。彼が自死した理由は分からない。何通りもの想像はできるが、永久に答えは分からない。出口のない迷路のようなものだ。しかし、だからこそ、彼は死んだのだと言える。それに出口を感じたのだから。
そして私は理由がなくなったので、服を作るのを辞めた。時間を退屈に感じるようになったのは、それからだと思う。
暇つぶしに世界を旅することに決めた。数十年かけて二十のムラをめぐり、数多くの変人と知り合った。マッドやマダムたちとも、その旅で初めて遭った。ノーコちゃんはまだ居なかったな。その頃のマッドは洗脳で多くのニンゲンの長みたいになっててね。私もどうだと誘われたっけ。もちろん断ったよ。無理矢理洗脳されることはなかったな。洗脳されてたヒト達も、自ら洗脳されたがっているように見えたし、私はそんなことはなかったから。私の服を着ているヒトとも出会ったな。嬉しかったけど、次を期待されるとちょっとだけ気が重くなった。
コロシアムで、久しぶりに興奮した。血湧き肉躍るとはまさにこのこと。ショットガンをぶっ放し、ナイフで切り裂いて相手を制圧する。この心地良さは何とも言い難い。負けたとしても、死力を尽くしきった爽快感はまったく後腐れがなく、とてもスッキリした。数年くらいここで時間を潰したかな。セミルと出会ったのは、この頃のことだ。
セミルと初めて会ったとき、彼女は私の対戦相手だった。ランキングで言えば私が上位で彼女が下位。経験も私が上だったし、最初は圧勝。脚を動けなくして、脳天を撃ち抜いてやりました。次も私の勝利。でも、今度は楽に勝たせて貰えなかったな。私も結構ダメージ喰らってたし、辛勝って感じ。その次もそんな感じで私の勝利。
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で、そのときに一緒に住まないかって聞かれた。どうしてなのかな。あんなムカつく負け方したあとに、私はうんって言ったんだ。ただ、セミルは私の作った服を着ていて、それがとても良く似合ってた。多分、今まであったヒトの中で誰よりも。今と変わらない笑顔で、私に勝ったときも笑ってたっけ……。
それからずっと、二人で暮らしてる。セミルに頼まれたからまた服を作ってね。喜んでくれて嬉しかった。喧嘩することもあったけど、セミルの性格もあってかすぐに仲直りした。長く一緒に暮らしていけたのも、このためだと思う。他人と一緒に暮らすことはユシア以来何回かあったけど、セミルと居たときが一番心地よかった。セミルは素直に自分のことを話してくれるから。
「それからのことは、まあ悪霊さんもご存知のことかなと思うんだけど……。この辺りでいいかな」
そう言って、ユリカはジープを止めた。辺りが途端に静寂に包まれる。周りは草原であり、彼女はそこに降り立つ。ジープから少しだけ歩くと、彼女はぺたんと腰をおろした。この辺りが目的地、ということなのだろうか。
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