異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する

眠眠

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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜

あ■■■■

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「あくりょー、さん」

 逃亡したクリストファーくんと違い、グレージーちゃんは落ち着いている。

(そうだよ。その名前に聞き覚えはないかな? あ、それとも「あっくん」のほうが馴染みがあるかな。ヒメちゃんは俺のこと、そう呼んでたんだけど)

「あっ、くん?」
(そうだよ。あっくんだよー)

 小首を傾げて何やら思案するグレージーちゃん。ぐるんと首を捻った後、彼女はぷるぷると首を左右に振って口を開いた。

「あっくん、違う」
(ん? 違くないよー。あっくんだよー)
「あっくん、違う」
(ノー、チガクナイヨー。アイムあっくん。ユーハーヒメちゃんデスかー?)
「違う、あっくんはー」

 そう言って、彼女はスケッチブックを取りページをめくる。

「こう!」

 そう言って俺に突き出したページには、棒人間が描かれていた。

(何それ? 棒人間?)
「あっくん!」
(棒人間にしか見えない)
「あっくん!」

 ほほを膨らませてあっくんと連呼する彼女。俺に伝わっていないのが分かるらしく、ちょっと涙目である。

 そういえば、ヒメちゃんも絵心無かったなぁ。大半のページを余らせたままスケッチブックを放り出していたし。そういうところは似ているのだけれど、この反応だと本当に別人なのかもしれない。

 だって、俺、実体ないし。俺の知っているヒメちゃんなら、俺のことを絵で伝えようとは思わないはず。つまり、グレージーちゃんの言う「あっくん」は俺ではない。たまたま、あっくんという名の知り合いが、ヒメちゃんそっくりの彼女にもいたのだろう。残念だ。「あっくん」という名に反応してくれたときはちょっと期待したんだけど、やはり死神さんの言う通り、"同じ魂"を持つ者、ということか。

(ん。分かった。それがあっくんだな)
「! うん!」

 俺に伝わったことが分かるやいなや、ニコニコと笑うグレージちゃん。こういうところもヒメちゃんに似てるんだけどな。

(君がヒメちゃんじゃないということも分かったことだし、改めて自己紹介しようか。俺の名前はーー)
「あくりょーさん」

 知ってる、という顔でグレージーちゃんが言う。

(ん? ああ、違うよ。それは俺の名前じゃないんだ。俺の本当の名前はーー)
「あくりょーさん」
(だから、違うって)
「……りょーさん?」

 それはもっと違う。

 俺を指さして「あくりょーさん」と連呼するグレージーちゃん。どうしよう。間違って覚えられてしまった。このままではこの世界でも悪霊さんと認知されてしまう。

 世界が変わって今までの関係はリセットされたんだ。ここは一つ、心機一転、俺も本名で物語に関わりたいと思う。大丈夫だ。タイトルなんて管理者ページから3クリックで変えられる。新章になったことだし、ついでにタイトルも改めさせていただこう。

(いいかい。グレージちゃん。これから、大事な話をするよ?)
「ダイジ?」
(そう。大事)

 雰囲気を察知して神妙になる彼女。いいぞ、ちゃんと俺の話を聞いてくれている。

(いいかい、俺の本当の名前は……)
「ホントのナマ、エ……」
(あーー)

「本当ですよ! 亡霊の声が聞こえたんです!」
「はー、とうとう頭がおかしくなったか」
「おかしくなってません! 話を聞いてください!」
「話は聞いてるよ。というか、そうギャンギャン騒ぐな。寝不足で頭が痛いんだ」

 俺の言葉を遮るように、扉を開けて二人の人間が入ってきた。
 ひとりはさっき出ていったクリストファーくんで、もうひとりは知らない。白衣を来た長身で眼鏡のお兄さんだ。ちょうど俺(が生きていたとき)と同年代か、少し年上だろう。

「で、どこからだ?」
「スピーカーの傍からです。最初は誰かのいたずらかと思いました」
「俺はお前のいたずらだと思っているが?」
「真面目に聞いてください」
「聞いているよ」

 ベッドにどっかと座りため息をつくお兄さん。話が通じていない様子に、クリストファーくんは苛立っている。

「あ、レイジーは聞こえてたよね。さっきの声。ちょっと、先輩に説明してあげてくれる?」

 グレージーちゃんは先輩と呼ばれた彼が入ったときから、ベッドの隅に退避し、布団ガードの構えをしている。

「ね、レイジーも聞こえたよね?」
「……きこ、えた」
「ーーはぁ。すっかり仲がよろしくなったことで」

 こくんと頷き彼の言葉を肯定する彼女。そんな二人を先輩と呼ばれた男は鼻で笑う。

「今は、そんな話をしていません。というか、元はと言えば先輩が押し付けたんじゃないですか、彼女の世話は」
「まあな。ガッコー出たてのお坊ちゃんには順当な仕事だろ?」
「そうは思いませんけど。というか、何で生環せいかんの仕事が宙空こっちまで周ってくるんですか。おかしいでしょう」
「そんなことは俺も知らんよ。大方、うちの教授がうまいこと他部所よそに言いくるめられたんだろうよ。まったく。こっちだって迷惑してんだ。ガキがぐだぐだ抜かすな」
「その雑用を僕に押し付けといて何言ってるんですか」
「あー、はいはい、うるっせえなぁ。それで、その亡霊とやらの声がするんでしたっけ? レイネット様。そんな声、全然聞こえないんですけどー」

 しばらく沈黙。クリストファーくんは辺りをキョロキョロと見ている。

「おかしいですね。さっきは聞こえてたんですが」
「大方、二人仲良く夢でも見てたんだろ? そーゆー・・・・のは大概にしろよ、レイネット様。わかってるとは思うけど、ここ、監視されてるからな? 全部、筒抜けだぞ?」
そーゆー・・・・の? 何言ってるんですか? さっぱり意味が分かりません」

 クリストファーくんは真顔で言い切り、彼の先輩は一瞬だけ間の抜けた顔をした。

「あー、そうか。まだガキでしたか。すいません。俺の早とちりでしたレイネット様」
「さっきから何を言ってるんですか、先輩。それより、亡霊の声なんですけど、どうやら僕と彼女のことを知ってーー。どうしたんだ、レイジー?」

 話を遮られたクリストファーくん。見ると、グレージーちゃんが彼の袖を引っ張っている。

「なまえ、ちがう」
「え? 名前が違う?」
「そう」
「どういうこと?」
「ぼうれい、なまえ、ちがう」
「……えっと?」
「何だ? こいつは何を言ってやがる?」

 先輩の言葉にびくっと身体を震わせる彼女。どうやら彼女、先輩には懐いていないらしい。

「あ、あくりょー」
「ん? ああ、亡霊が名乗った名前のこと? 確かに、さっきの声の主は自身を悪霊と名乗っていたけど、そんなの亡霊でも大差ないんじゃ?」
「なまえ、ちがう。だから、でて、こない。 おこ?」

 グレージーちゃんは首を傾げながら言う。

「おい、通訳。説明しろ」
「おそらく、さっきの亡霊は名前を間違われたから怒って出てこないと、レイジーは言いたいんだと思います」
「ふん。それが『悪霊』ってか? 名前には聞こえんなー」

 先輩はじろりと彼女を睨む。ぴゅんとグレージちゃんは布団ガードに頭を引っ込めてしまった。

「っち。まあいいや。それで事態が進むならさっさとそうしろ。俺は少しでも寝たいんだからな」
「分かりましたよ。えーっと、名前を間違えてしまってすいません。悪霊さん。まだここに居ますか?」

 む。三者三様の視線を感じる。ここは期待に応えねばな。

(おう、ここに居るぞ)
「! ほら、先輩! 本当に居るじゃないですか! 何が夢ですか!」
「……は? 何言ってるんだ、お前?」

 俺の声が聞こえて喜ぶクリストファーくんと、彼を訝しげに見る先輩さん。

「何って、今、声が確かにしたじゃないですか! ね、レイジーも聞こえたよね」
「きこえた」
(おう、俺にも聞こえたな。まあ、自分の声だし聞こえるのは当たり前なんだけどもね)
「ほら! また!」
「……」

 相変わらず先輩さんは目つきを変えない。この様子だと、彼には俺の声が聞こえて無さそうだな。

「ほら、先輩。やっぱり、俺の言ったことが正しかったじゃないですか! 謝ってください。さっき『とうとう頭がいかれたか親の七光りのウスラポンカチ』と言ったことを謝ってください!」
「クリス。お前にはその、悪霊とやらの声が聞こえるんだな?」
「ええ!」

 胸を張って肯定するクリストファーくん。彼の様子を見た先輩は少し神妙にして口を開いた。

「……そうか。すまなかったな、くりす。お前、ちょっと疲れてるんだな。明日は休んでいいぞ。教授には俺が言っとくから」
「……はい?」
「ちょっと、仕事を押し付けすぎたな。悪かった。あいつの世話も俺がしとくから、無理にする必要はないからな」
「え、ちょっと先輩、急にどうしたんですか?」
「もう今日は帰って休め。なんだったら、お酒でも飲みに行くか? 奢ってやるぞ? ほら」

 先輩に肩を捕まれ、クリストファーくんはそのまま引きずられるように部屋を出ていってしまった。

「クリス、どうした?」
(つかれてないことは確かだと思う)

 彼女の疑問に、俺は否定形で答えておいた。
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