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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
凶弾
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「広いベッドで寝たいですね」とクリスくんが零したので、あまり荒れていない住宅を俺たちは探した。すぐにきれいな建物が見つかったのは幸運だった。鍵はかかっておらず、扉はすんなりと開く。床にはホコリが雪のよう積み重なっていた。2年分のホコリだろう。
クリスくんとレイジーちゃんは土足で家に上がる。ホコリが酷いから、ではなく、もともと土足で上がる文化だからだ。建物は2階建てで、階段を登ると寝室があった。幸いベッドは2つあったようで、クリスくんはほっと胸を撫で下ろす。
「悪霊さん。寝室だけ掃除してくれますか?」
(分かった)
「あと、窓を開けましょうか。ホコリが肺に入りそうです」
俺は久しぶりにエアダスター悪霊となり、寝室を掃除する。もともとベッドに置いてあった布団もホコリだらけであり、このままでは使い物にならないので、クリスくんは別の布団を探しに行った。
「あったあった。レイジー、あっちに使えそうな布団があったよ。取ってきてくれる?」
「うん、分かった」
俺たちはしばらく寝室の整備に勤しんでいた。
「……これで、何とか休めそうですね」
一通り掃除を終えたクリスくんは、ばふんとベッドにダイブする。今日はかなり歩き回ったし、大分お疲れのようだ。
「クリス、疲れてる?」
「そうだね、今日は疲れた。レイジーは疲れてないの?」
「うん、まだまだ動けるよー」
「そうですか……」
レイジーちゃんは自分のベッドでぴょんぴょん跳ねる。ミシリ、とベッドが悲鳴を上げた。レイジーちゃん、それ以上跳ねるのはやめよう。ベッドが壊れる。一方、クリスくんは枕に顔を埋めたまま微動だにしない。もはや動く気力もないらしい。
(レイジーちゃん、クリスくん大分お疲れだから、元気の出ることをしてあげようか)
「元気の出ること?」
(そうだな。ちょうど、クリスくんはうつ伏せだし、マッサージをしてあげるのが良いんじゃないかな?)
本当の意味の。
「マッサージって?」
そうか、レイジーちゃんはマッサージの意味を知らなかったか。仕方ない、お父さん(仮)が教えてあげよう。
(いいかい、レイジーちゃん。マッサージっていうのはだな、こう筋肉を解すようにーー)
「不幸な未来しか見えないので止めましょう悪霊さん」
不穏な気配を察知したのか、クリスくんに止められてしまった。でもまあ確かに、レイジーちゃん力が強すぎるからな。うまく手加減できずにクリスくんが骨折でもしたら目も当てられない。
「それに、大丈夫ですよ。考え事をしてただけですから」
クリスくんはぐるりと周って天井を仰ぎ見る。
(考え事って?)
「これからのことですね。レイジーの記憶も戻らなかったし、ヴェルニカ壊滅の原因も確かめられませんでした。リーシャの居るバラクラードで有用な情報が得られなかったら、どうしようかなと」
彼は上半身を起こす。
(目立たないよう隠れつつ、今日見つけた金属片の調査をするのはどうだ? あるいは、姫様と何とか連絡を取り合うとか。向こうでも調査は進めているようだし)
「それもありですね。ただ、それだけだと受け身になるので、さっき撮影した映像を匿名で公開しましょう」
(そんなことして大丈夫か?)
アップロードした人が特定されるんじゃなかろうか。
「そのへんはうまくやりますよ。映像の方はすぐに規制がかかるかもしれませんが、それでも情報の拡散は防げないでしょう。モンスターの居ないヴェルニカの噂が広まるんです。ヴェルニカに来たがる人が増えるはずです。そうなったらどうなるか、反応を見ようかなと」
なるほどね、裏で手を引く人物に行動を起こさせるんだな。
「そうですね。……うん? レイジーどうしたの?」
レイジーちゃんはとてとてとクリスくんの傍まで行く。そして、黙ったままクリスくんの顔をじっと見ていた。クリスくんもレイジーの顔をじっと見ている。
一、二、三。
三秒沈黙。
チュ。
と。何の前触れもなく、レイジーちゃんがクリスくんに唇にキスをした。
「クリス、元気になるおまじない、だよ」
にこにこと、レイジーちゃん優しい笑顔を浮かべる。
クリスくんはしばらく呆けて、そっと自分の唇を触り、一泊おいて、顔が林檎のように赤くなった。
「な、な、な」
混乱したのか、珍しく呂律が周っていないご様子。
「何でレイジーこんなことをー!?」
ベッドの上を後ずさりつつ、クリスくんが叫ぶ。
「えっと、クリスが元気なさそうだから、元気だして貰いたくって……。キスすると元気が出るって教わったから」
「一体誰がそんなことをーー、いや言わなくても分かります。どうせ悪霊さんですね、間違いなく悪霊さんです、そんなことをレイジーに吹き込むのは悪霊さんしかいません! やいこら悪霊さん! 一体全体、何でまたーー」
(いや、俺じゃないよ)
酷い言われようである。前科があるので俺を疑うのも分かるが、キス云々は違う。神に誓って俺ではない。
「えっと、ソフィに教わったんだけど……、違ったかな? 三秒見つめ合ったら、キスしてもいいって合図だって……」
クリスに話しかけるレイジーちゃん。レイジーを見て、クリスくんの顔は瞬間湯沸かし器の如く熱くなる。
なるほど、これは姫様の差金か。グッジョブである。ここをのらずして何が悪霊か!
(大丈夫。レイジーちゃん、それで合ってるよ! 2回キスすれば効果は2倍だ!)
「そっか!」
「ちょ、悪霊さん、適当言わないでくださいよ! レイジー違うからね。ソフィの言うことも、悪霊さんの言うことも、聞いちゃいけません!」
「でも、クリス、さっきよりも元気出た気がするよ?」
「そんなこと無いです!」
ぶんぶんと首を振るクリスくん。うん、怒りがにじみ出ているせいか、俺から見てもさっきより元気が出ている気がするな。でも、この反応。もしかするとーー。
(レイジーちゃん、レイジーちゃん、クリスは照れてるんだよ。だから、心にも無いこと言ってるんだ)
「照れてるって?」
(照れてるって言うのはね、好ーー)
「はい、もう、この話はお仕舞いです! 明日も早いんだからさっさと寝るよ、レイジー!」
「えー。」
(えー。)
強権を発動して無理やり話を打ち切ろうとするクリスくん。
「我儘言わないの! 悪霊さんは見張りです! モンスターの気配はありませんでしたが、一応注意して下さいね。何かあったら遠慮なく起こして下さい」
まったく、どっちが我儘言ってるんだか。
(分かった分かった。……なるほど。俺を追い出して二人きりになろうっていう魂胆か。クリスくんも抜け目なーー)
「早く行って下さい!」
枕が飛んできた。クリスくん、そろそろ本当に切れそうだ。仕方ない。こちらのほうが大人なんだ。大人しく言うことをきいてあげよう。
(分かったよ、行ってくる)
「まったくもう……」
俺は窓からすいーと外に出ていった。後ろを振り返ると、クリスくんが投げた枕を取りに来るのが見えた。
窓の外は暗闇が広がっていた。俺は夜目が利くので見えないこともないが、普通の人だと一寸先は闇といったところだろう。僅かな月明かりがヴェルニカの町並みを照らしだす。この家は高台にあるため、都市の城壁を眺めることができた。周りの道は広いし、ここからなら何かが近づいてもすぐに分かるだろう。
いやー。それにしても、姫様グッジョブである。「キスは元気になるおまじない」か。なるほどなるほど。俺も、そんなふうにレイジーちゃんを誘導すれば良かったんだな。
さてさて、俺の知る限りターゲット二人の初キッスである。クリスくんの様子を見る限り嫌がってはいないと思うのだが、ラブラブ状態でないとミッションクリアの条件としてはカウントされない。ラブラブ状態の定義は分からないけど、果たして結果は……。
1/100
視界に浮かぶラブラブキッスのカウンターは見事、0から1に増えていた。
いよっしゃああああ! やったぜ! 正直、カウンターを0から1にすることが最大の難関だと思っていたが、見事、突破だ! 後は数さえこなせばミッションクリア! いやー、最初の方はペットと飼い主みたいな関係だったから、すごい不安だったけど、何とかなりそうで良かった良かった。
と、そんな風に俺が浮かれていると、背後の窓からピシリ、という甲高い音が聞こえた。
次いで、何かが倒れる音がする。
なんだろうと思って窓ガラスに近寄ると、小さい穴が開いていた。
「クリス……?」
レイジーちゃんの声が聞こえる。
嫌な予感がして、俺は再び二人のいる部屋へと戻った。
クリスくんが、頭から血を流して倒れていた。
(クリス、くん……?)
血はそれほど多くない。こちら側と、向こう側。頭の2箇所から、血が出ていた。とぷとぷと、きれいな血が、彼の頭部より流れ出ていた。
(は? なんだ? なんだこれは? 何でクリスくんが倒れてるんだ? さっきまで俺と話してて、俺は見張りで外に行って? あれ? あれ? なんだ? おかしいな、いったい何が起こっている?)
混乱する俺をよそに、レイジーちゃんはクリスくんに駆け寄る。
「悪霊さん、クリスが……」
再び、ピシリ、という窓ガラスの割れる音がする。それと同時に仰向けになってレイジーちゃんが倒れた。
ドサリ、という乾いた音が部屋に響く。二人の体は重なるように倒れていた。
ツーと、彼女の額から血が溢れる。溢れだす。
(レイジー!)
俺はレイジーの駆け寄った。声を掛けるが、彼女は目を覚まさない。回復力は常人の何倍もある彼女だっが、目を開ける素振りすら見せない。
(まさか、頭部のダメージは回復できないのか……?)
そして、それよりもヤバイのがクリスくんだ。彼はもとより常人並みの回復力しか備えていない。そんな彼が、頭にダメージを受けている。彼の傷と状況を鑑みるに……、狙撃されたとしか思えない傷が、彼の頭部に遺されていた。
(死神さーー)
死神さん、と叫ぼうとして、彼女の言葉を思い出す。
「えー、回復ー? ちょっとした傷だったり、二日酔い程度なら治せるけどもー。私、死神だから難しいのは無理かなー」
「と、いうことなんで、私の手助けはありませんので。あくまで、『悪霊さんの力』で頑張って下さいね」
(『俺の力って……』)
彼の頭から流れ出る血は止まらない。止められない。俺の力じゃ、止めることができない。
いや、そもそも、彼は……すでに、
死んでるんじゃないのか?
ようやくその考えに至った俺は、ーーその、信じたくない考えが想起してしまった俺は、そっと、彼の顔を覗き込んだ。
半開きになった彼の瞳は、すでに光を失っていた。
(あ、ああ、あ……)
酷く情けない声がする。その声が誰の声かは分からない。分かろうとしなかっただけかもしれない。
『ミッション失敗』。脳裏でそう囁く声がする。
『ミッション失敗』『ミジンコ転生』『本当の死』。
俺の頭はその声で一杯になる。
やがて、その声に潰されるように俺はクリスくんの真上で意識を失った。
クリスくんとレイジーちゃんは土足で家に上がる。ホコリが酷いから、ではなく、もともと土足で上がる文化だからだ。建物は2階建てで、階段を登ると寝室があった。幸いベッドは2つあったようで、クリスくんはほっと胸を撫で下ろす。
「悪霊さん。寝室だけ掃除してくれますか?」
(分かった)
「あと、窓を開けましょうか。ホコリが肺に入りそうです」
俺は久しぶりにエアダスター悪霊となり、寝室を掃除する。もともとベッドに置いてあった布団もホコリだらけであり、このままでは使い物にならないので、クリスくんは別の布団を探しに行った。
「あったあった。レイジー、あっちに使えそうな布団があったよ。取ってきてくれる?」
「うん、分かった」
俺たちはしばらく寝室の整備に勤しんでいた。
「……これで、何とか休めそうですね」
一通り掃除を終えたクリスくんは、ばふんとベッドにダイブする。今日はかなり歩き回ったし、大分お疲れのようだ。
「クリス、疲れてる?」
「そうだね、今日は疲れた。レイジーは疲れてないの?」
「うん、まだまだ動けるよー」
「そうですか……」
レイジーちゃんは自分のベッドでぴょんぴょん跳ねる。ミシリ、とベッドが悲鳴を上げた。レイジーちゃん、それ以上跳ねるのはやめよう。ベッドが壊れる。一方、クリスくんは枕に顔を埋めたまま微動だにしない。もはや動く気力もないらしい。
(レイジーちゃん、クリスくん大分お疲れだから、元気の出ることをしてあげようか)
「元気の出ること?」
(そうだな。ちょうど、クリスくんはうつ伏せだし、マッサージをしてあげるのが良いんじゃないかな?)
本当の意味の。
「マッサージって?」
そうか、レイジーちゃんはマッサージの意味を知らなかったか。仕方ない、お父さん(仮)が教えてあげよう。
(いいかい、レイジーちゃん。マッサージっていうのはだな、こう筋肉を解すようにーー)
「不幸な未来しか見えないので止めましょう悪霊さん」
不穏な気配を察知したのか、クリスくんに止められてしまった。でもまあ確かに、レイジーちゃん力が強すぎるからな。うまく手加減できずにクリスくんが骨折でもしたら目も当てられない。
「それに、大丈夫ですよ。考え事をしてただけですから」
クリスくんはぐるりと周って天井を仰ぎ見る。
(考え事って?)
「これからのことですね。レイジーの記憶も戻らなかったし、ヴェルニカ壊滅の原因も確かめられませんでした。リーシャの居るバラクラードで有用な情報が得られなかったら、どうしようかなと」
彼は上半身を起こす。
(目立たないよう隠れつつ、今日見つけた金属片の調査をするのはどうだ? あるいは、姫様と何とか連絡を取り合うとか。向こうでも調査は進めているようだし)
「それもありですね。ただ、それだけだと受け身になるので、さっき撮影した映像を匿名で公開しましょう」
(そんなことして大丈夫か?)
アップロードした人が特定されるんじゃなかろうか。
「そのへんはうまくやりますよ。映像の方はすぐに規制がかかるかもしれませんが、それでも情報の拡散は防げないでしょう。モンスターの居ないヴェルニカの噂が広まるんです。ヴェルニカに来たがる人が増えるはずです。そうなったらどうなるか、反応を見ようかなと」
なるほどね、裏で手を引く人物に行動を起こさせるんだな。
「そうですね。……うん? レイジーどうしたの?」
レイジーちゃんはとてとてとクリスくんの傍まで行く。そして、黙ったままクリスくんの顔をじっと見ていた。クリスくんもレイジーの顔をじっと見ている。
一、二、三。
三秒沈黙。
チュ。
と。何の前触れもなく、レイジーちゃんがクリスくんに唇にキスをした。
「クリス、元気になるおまじない、だよ」
にこにこと、レイジーちゃん優しい笑顔を浮かべる。
クリスくんはしばらく呆けて、そっと自分の唇を触り、一泊おいて、顔が林檎のように赤くなった。
「な、な、な」
混乱したのか、珍しく呂律が周っていないご様子。
「何でレイジーこんなことをー!?」
ベッドの上を後ずさりつつ、クリスくんが叫ぶ。
「えっと、クリスが元気なさそうだから、元気だして貰いたくって……。キスすると元気が出るって教わったから」
「一体誰がそんなことをーー、いや言わなくても分かります。どうせ悪霊さんですね、間違いなく悪霊さんです、そんなことをレイジーに吹き込むのは悪霊さんしかいません! やいこら悪霊さん! 一体全体、何でまたーー」
(いや、俺じゃないよ)
酷い言われようである。前科があるので俺を疑うのも分かるが、キス云々は違う。神に誓って俺ではない。
「えっと、ソフィに教わったんだけど……、違ったかな? 三秒見つめ合ったら、キスしてもいいって合図だって……」
クリスに話しかけるレイジーちゃん。レイジーを見て、クリスくんの顔は瞬間湯沸かし器の如く熱くなる。
なるほど、これは姫様の差金か。グッジョブである。ここをのらずして何が悪霊か!
(大丈夫。レイジーちゃん、それで合ってるよ! 2回キスすれば効果は2倍だ!)
「そっか!」
「ちょ、悪霊さん、適当言わないでくださいよ! レイジー違うからね。ソフィの言うことも、悪霊さんの言うことも、聞いちゃいけません!」
「でも、クリス、さっきよりも元気出た気がするよ?」
「そんなこと無いです!」
ぶんぶんと首を振るクリスくん。うん、怒りがにじみ出ているせいか、俺から見てもさっきより元気が出ている気がするな。でも、この反応。もしかするとーー。
(レイジーちゃん、レイジーちゃん、クリスは照れてるんだよ。だから、心にも無いこと言ってるんだ)
「照れてるって?」
(照れてるって言うのはね、好ーー)
「はい、もう、この話はお仕舞いです! 明日も早いんだからさっさと寝るよ、レイジー!」
「えー。」
(えー。)
強権を発動して無理やり話を打ち切ろうとするクリスくん。
「我儘言わないの! 悪霊さんは見張りです! モンスターの気配はありませんでしたが、一応注意して下さいね。何かあったら遠慮なく起こして下さい」
まったく、どっちが我儘言ってるんだか。
(分かった分かった。……なるほど。俺を追い出して二人きりになろうっていう魂胆か。クリスくんも抜け目なーー)
「早く行って下さい!」
枕が飛んできた。クリスくん、そろそろ本当に切れそうだ。仕方ない。こちらのほうが大人なんだ。大人しく言うことをきいてあげよう。
(分かったよ、行ってくる)
「まったくもう……」
俺は窓からすいーと外に出ていった。後ろを振り返ると、クリスくんが投げた枕を取りに来るのが見えた。
窓の外は暗闇が広がっていた。俺は夜目が利くので見えないこともないが、普通の人だと一寸先は闇といったところだろう。僅かな月明かりがヴェルニカの町並みを照らしだす。この家は高台にあるため、都市の城壁を眺めることができた。周りの道は広いし、ここからなら何かが近づいてもすぐに分かるだろう。
いやー。それにしても、姫様グッジョブである。「キスは元気になるおまじない」か。なるほどなるほど。俺も、そんなふうにレイジーちゃんを誘導すれば良かったんだな。
さてさて、俺の知る限りターゲット二人の初キッスである。クリスくんの様子を見る限り嫌がってはいないと思うのだが、ラブラブ状態でないとミッションクリアの条件としてはカウントされない。ラブラブ状態の定義は分からないけど、果たして結果は……。
1/100
視界に浮かぶラブラブキッスのカウンターは見事、0から1に増えていた。
いよっしゃああああ! やったぜ! 正直、カウンターを0から1にすることが最大の難関だと思っていたが、見事、突破だ! 後は数さえこなせばミッションクリア! いやー、最初の方はペットと飼い主みたいな関係だったから、すごい不安だったけど、何とかなりそうで良かった良かった。
と、そんな風に俺が浮かれていると、背後の窓からピシリ、という甲高い音が聞こえた。
次いで、何かが倒れる音がする。
なんだろうと思って窓ガラスに近寄ると、小さい穴が開いていた。
「クリス……?」
レイジーちゃんの声が聞こえる。
嫌な予感がして、俺は再び二人のいる部屋へと戻った。
クリスくんが、頭から血を流して倒れていた。
(クリス、くん……?)
血はそれほど多くない。こちら側と、向こう側。頭の2箇所から、血が出ていた。とぷとぷと、きれいな血が、彼の頭部より流れ出ていた。
(は? なんだ? なんだこれは? 何でクリスくんが倒れてるんだ? さっきまで俺と話してて、俺は見張りで外に行って? あれ? あれ? なんだ? おかしいな、いったい何が起こっている?)
混乱する俺をよそに、レイジーちゃんはクリスくんに駆け寄る。
「悪霊さん、クリスが……」
再び、ピシリ、という窓ガラスの割れる音がする。それと同時に仰向けになってレイジーちゃんが倒れた。
ドサリ、という乾いた音が部屋に響く。二人の体は重なるように倒れていた。
ツーと、彼女の額から血が溢れる。溢れだす。
(レイジー!)
俺はレイジーの駆け寄った。声を掛けるが、彼女は目を覚まさない。回復力は常人の何倍もある彼女だっが、目を開ける素振りすら見せない。
(まさか、頭部のダメージは回復できないのか……?)
そして、それよりもヤバイのがクリスくんだ。彼はもとより常人並みの回復力しか備えていない。そんな彼が、頭にダメージを受けている。彼の傷と状況を鑑みるに……、狙撃されたとしか思えない傷が、彼の頭部に遺されていた。
(死神さーー)
死神さん、と叫ぼうとして、彼女の言葉を思い出す。
「えー、回復ー? ちょっとした傷だったり、二日酔い程度なら治せるけどもー。私、死神だから難しいのは無理かなー」
「と、いうことなんで、私の手助けはありませんので。あくまで、『悪霊さんの力』で頑張って下さいね」
(『俺の力って……』)
彼の頭から流れ出る血は止まらない。止められない。俺の力じゃ、止めることができない。
いや、そもそも、彼は……すでに、
死んでるんじゃないのか?
ようやくその考えに至った俺は、ーーその、信じたくない考えが想起してしまった俺は、そっと、彼の顔を覗き込んだ。
半開きになった彼の瞳は、すでに光を失っていた。
(あ、ああ、あ……)
酷く情けない声がする。その声が誰の声かは分からない。分かろうとしなかっただけかもしれない。
『ミッション失敗』。脳裏でそう囁く声がする。
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