しゃあ!器用貧乏だけど禁断の二段打ちで生き残る

どるき

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1回戦第1試合

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 週明けから始まる春の戦技大会。
 まずは予選1回戦として4人一組のリーグ戦が開始となった。
 八郷学園における戦技の授業はその日の最後に毎日2単位ある。
 各クラスの代表が集まる決勝トーナメントとは異なりクラス単位の予選はこの時間を用いて開催されるわけだ。
 この日はリーグ戦の第1試合。
 静子には江との試合が予定されていた。
 他の生徒の試合を見学しながら出番を待っていると彼女のもとに江がやってきた。
 試合前だというのに何の話かと小首を傾げる静子をよそに江はおもむろに頭を下げる。

「ちょっと良いか宮本。予め誤っておく。オレは手加減が苦手だから痛い思いをさせてしまうと思う」
「そう……」

 一見すると謙遜。
 だがその真意は手加減なしの暴力を振るうという意味。
 さほど親しくないからこそ静子もそれを察してしまう。
 以前の彼女なら怯えていたかもしれない。
 生き別れた姉たちに泣きついたかもしれない。
 だが自信に満ちている今の静子は臆さなかった。

「わたしも負けないように頑張るから、お互い恨みっこなしにしましょう」
「そう言ってくれると助かる」

 すぐに立ち去った江は「いくら酷い目にあわせても良い言質が取れた」とほくそ笑んでいる。
 静子もそそくさと立ち去る彼の仕草に「やはり」と心を読んでいた。
 読心の魔法は比較的静子が得意としている胆術の領分だが、そんな魔法など必要がない。
 このあたりは孤児院育ちの経験が生きているようだ。

「次は江と宮本の試合だ」

 戦技のクラス担当教師、柴沼に呼び出された二人がリングに上がる。
 リングと言っても決勝トーナメントで使われる闘技場ではなく校庭にラインで引いた簡易的なモノだ。
 自信満々の顔で戦う前から勝ち誇った表情をしている江と比べると静子は弱々しい。
 他の生徒は江が勝利すると見ているだろう。

「お願いします」

 授業の一環でもあるということで試合前の挨拶を済ませた二人は向かい合う。
 静子は眼鏡の蔓を指で整えると自然体で力みを抜き、江は持ち得意としている拳法の構えを取った。

「眼鏡は外さなくて良いのか?」
「コレは特別なヤツだからご心配なく」
(そこまで言うのなら壊してみせようか)

 今まで静子は戦技の腕比べで眼鏡を外さなかったことはない。
 そもそも眼鏡がなければ戦闘など不可能な人間が八郷学園に入学できるわけがないのがある種の常識である。
 そんな学園での試合で眼鏡をあえてかけているわけだ。
 おそらく特殊な効果のある魔道具なのだろうと江は予想した。
 壊すは言いすぎだし顔を躊躇なく狙えるほど加虐的でもない。
 だが弾き飛ばしてその効果を封じるくらいはアリだと彼は判断した。
 右手を前に突き出した半身の姿勢から接近した江が見せたのは蛇の型。
 文字通り腕を蛇に見立てて相手を鋭く狙う拳法に魔法の力を上乗せした体術で静子眼鏡を狙いすます。

(いきなり眼を狙うなんて)

 皆は鋭い指先が静子の顔を捉えたと思っただろう。
 だが実際には動きを見きった静子に阻まれていた。
 法術の一種──防御魔法アプヴェーア。
 防御範囲は魔法の力量に比例されるのだが静子が使った場合には大皿一枚程度の大きさである。
 それだけあれば撃ち込む箇所さえわかれば防ぐのには充分である。

(最優先で防ぐということは重要なのは明白。必死にガードしているんだったら他の部分を痛めつけてやろう)

 江は静子の作戦は大事に守っている眼鏡にあり、それを守るために全力を尽くしていると予想した。
 だったらそれ以外の部分はおろそかになっているハズ。
 地力で上回っている以上はガードが緩い場所を狙って切り札を出す暇を与えなければ勝ちは揺るがないという考えである。
 本来ならばそこまで警戒する必要もないと侮りつつも、初戦ということで、見抜いた以上は利用しよう。
 そんな腹づもりで江が放った次の魔法は幻朧拳。
 実際の打撃に幻影の攻撃を重ねることで防御を困難にする体術で江の得意技だ。
 狙い場所の一つはもちろん顔面。
 こうなれば盾は顔に集中するしかないため、あとは体格差で上半身を殴り続けて制してしまおうとしていた。

「イー、アル、サン、スー!」

 豪快に振り回す左右の腕を使った幻朧拳のラッシュ。
 傍目には静子が一方的に殴られているようにしか見えないだろう。
 何故なら静子はスウェーバックも腕を使ったガードもしていない。
 見たところ棒立ちで江の連打を食らっていた。
 1/3はアプヴェーアで防いだとしても残りは直撃。
 男子の中でも体格の良い江が本気で殴れば華奢な静子は一発でもアウト。
 誰もがそう思っていたのだが──

「アプヴェーア・エガシ・オイ!」

 魔法の発動とともに起きた爆発が包んだのは江だった。

「な⁉」

 対魔法処理が施された戦技用体操服でなければ黒焦げになるほどの爆発を起こしたのは静子のモノ。
 これまで殴りつけていた体術のダメージが全て爆発として跳ね返されたのだからひとたまりもない。
 彼女が使った魔法は障壁魔法アプヴェーアの派生で受け止めた魔法力を蓄積してカウンター魔法の発動に使用するというモノだった。
 魔法自体の難易度は高くはないが実戦で的確に使用するのは困難なシロモノのため、試合を見ていたクラスメイトの反応は「運勝負に勝っただけ」という軽く見た評価と「難しい魔法を成功させたダークホース」という重く見た評価で二極化である。

「トドメ!」

 よろけた江にはトドメとして距離を離してのラギ。
 爆発のダメージでふらつく彼には静子の弱い熱線魔法でも致命となって勝敗が決した。
 バタンと地面に倒れた江は気絶しているのだろう。
 ピクリとも動かない。

「次の試合の前に試合が終わっているやつは江の手当をしてやれ」

 柴沼の指事に応じた瑠音は江のダメージ具合を直接確認しつつ、これがまだ静子が覚えた秘策の一部に過ぎないことに身を引き締めていた。
 まずは1勝。
 静子がこの学園に入学して初めての勝利だった。
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