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聖痣の姫と偽りの騎士
前夜
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新技水楓を身に着けたヒメノだが結局上手く行ったのは最初の一回だけ。
初めての勝利の勢いでその後3度手合わせをしたわけだがそれからは出す前にガクリンが主導権を握って水楓を出させなかったからだ。
そんな立ち回りを出来たのはガクリンもヒメノとの組打ち稽古を通して成長していたのと、心配している通りにヒメノにも特訓の疲れが溜まっていたからなので仕方なし。
キリも良いと115戦目を終えた時点で出発前最後の稽古は終わりとなり、そのままヒメノはアズミと一緒に本日二度目のお風呂に向かいゆっくりと疲れを落とした。
その頃、旅の準備をしているもう一人の男は場末のクラブで琥珀色の液体を注いだグラスを傾けていた。
周囲には職場での彼を知る人間はいない。
このクラブは極道紛いの人間やちょっとした小金持ちなど、王宮の役人とは真逆の職業が集まる店だった。
故に役人として地位がある彼が内緒話をするのには都合がいい。
コテコテの騎士甲冑に身を包んだりしたら不自然だが、その場に溶け込むような格好をすれば彼を怪しむ者などここには居ないだろう。
「出発は明日だったね。今年は国に土産を持っていくんだから、しくじるんじゃないよ」
そんな彼の横で色鮮やかなカクテルを飲む謎の艷やかな女性。
一見すると娼婦のような彼女は彼とは旧知の間柄のようで、周囲の客はチラリと二人を見ても色を売り買いする仲としか思わないため余計に詮索しないでいた。
「そういうカンマキこそ私が居ない間も引き続きお姫様探しを頑張ってくれたまえ」
「お前さんは良いよなあ。あちしとしてはそんな面倒な人探しよりも、桜町で客引きでもしている方が楽なのに」
「そういうお前は手段が目的になってどうするんだ」
「趣味と実益を兼ねた立派な諜報活動と言ってほしいんだけど。それに立場上あちしは滅多なことじゃ表に出ちゃいけないし、何より滅茶苦茶弱いから人探しなんて向いていないと思うのに」
「それでもパチゴーやオイスタにいる他の連中を統率する必要があればお前の出番だろう。愚痴らずやれって」
「わかったわよ」
彼は渋るカンマキにねぎらいの意味でポケットマネーを手渡して、彼女はそれを受け取ると首を縦に振る。
これで自分がいない間に人探しは終わっているだろう。
そう考えながら彼はカンマキとの情報交換を手短に済ませて立ち去ろうとした。
そんな彼に彼女は問う。
「ところでさ……連絡が途絶えてそろそろ20日を超えて、あちしからの呼びかけにも応答なし。上は何が何でも見つけろって言うけれど、正直なところあの子たちって死んだんじゃないかな?」
「何を根拠にそんなことを言える」
「単なる邪推だって。あちしやお前さんみたいな外暮らしが長い古参はお姫様のことを軽く見てるからね」
「それ以上の邪推は辞めたほうがいい」
「おお……こわい、こわい」
「それにお前の予想は残念ながらハズレだ。当たっていたらこの程度で済むわけがない」
「たしかに今のお前さんはわざわざ隠れてお姫様を襲う理由はないものな。だから謝るついでに一つだけお節介」
「ん?」
「宝を目の前にして欲張りすぎるんじゃないよ。春を売る仕事柄、偶然舞い込んだお宝を握りしめてやって来る男は山ほどみたが、そういうやつほどその宝が元で身を滅ぼすのさ。今のお前さんからは同じ匂いがするよ」
「忠告どうも。だがその匂いとやらは偶然の一致さ。女を買いに行く前の男が己を慰めるわけがないし、私は大仕事の前には禁欲するんだ」
「左様か。だったらこっちに戻ってきたときにはサービスしてやるよ。これから一ヶ月も我慢してたら爆発しちまうじゃないか」
「大仕事といっても土産を届け終えるまでだから禁欲はそれまでだぞ。帰りの道中でお前以外にいくらでも相手なんて買えるし、いらんお世話だ」
「そう言うなよ。つれないな」
「そこまで言うのなら帰ってきたら店に行ってやるよ」
「毎度あり」
カンマキが探しているというお姫様。
それはもちろん本物ではなく何かの比喩。
カンマキは行方のつかめないお姫様は既に彼の手で殺されており、探しものである姫の持ち物を彼が盗んだのかとたずねていた。
それを否定した彼はカンマキと再会の約束をすると、二人分の会計を済ませてクラブを後にした。
飲み残した自分の酒を眺めながらカンマキは思う。
スラムの孤児から騎士家系の養子になり近衛騎士団の幹部に名を連ねる役人にまで上り詰めたうえに、今度は古くからの里親が探していた宝の護送まで任される彼の順調な人生にそろそろしっぺ返しが来るのではないかと。
彼が死のうが何をしようが彼女にはどうでもいい。
だが彼が帰ってきたあかつきには、ひとつ恩を売っておきたいと彼女は勘定していた。
初めての勝利の勢いでその後3度手合わせをしたわけだがそれからは出す前にガクリンが主導権を握って水楓を出させなかったからだ。
そんな立ち回りを出来たのはガクリンもヒメノとの組打ち稽古を通して成長していたのと、心配している通りにヒメノにも特訓の疲れが溜まっていたからなので仕方なし。
キリも良いと115戦目を終えた時点で出発前最後の稽古は終わりとなり、そのままヒメノはアズミと一緒に本日二度目のお風呂に向かいゆっくりと疲れを落とした。
その頃、旅の準備をしているもう一人の男は場末のクラブで琥珀色の液体を注いだグラスを傾けていた。
周囲には職場での彼を知る人間はいない。
このクラブは極道紛いの人間やちょっとした小金持ちなど、王宮の役人とは真逆の職業が集まる店だった。
故に役人として地位がある彼が内緒話をするのには都合がいい。
コテコテの騎士甲冑に身を包んだりしたら不自然だが、その場に溶け込むような格好をすれば彼を怪しむ者などここには居ないだろう。
「出発は明日だったね。今年は国に土産を持っていくんだから、しくじるんじゃないよ」
そんな彼の横で色鮮やかなカクテルを飲む謎の艷やかな女性。
一見すると娼婦のような彼女は彼とは旧知の間柄のようで、周囲の客はチラリと二人を見ても色を売り買いする仲としか思わないため余計に詮索しないでいた。
「そういうカンマキこそ私が居ない間も引き続きお姫様探しを頑張ってくれたまえ」
「お前さんは良いよなあ。あちしとしてはそんな面倒な人探しよりも、桜町で客引きでもしている方が楽なのに」
「そういうお前は手段が目的になってどうするんだ」
「趣味と実益を兼ねた立派な諜報活動と言ってほしいんだけど。それに立場上あちしは滅多なことじゃ表に出ちゃいけないし、何より滅茶苦茶弱いから人探しなんて向いていないと思うのに」
「それでもパチゴーやオイスタにいる他の連中を統率する必要があればお前の出番だろう。愚痴らずやれって」
「わかったわよ」
彼は渋るカンマキにねぎらいの意味でポケットマネーを手渡して、彼女はそれを受け取ると首を縦に振る。
これで自分がいない間に人探しは終わっているだろう。
そう考えながら彼はカンマキとの情報交換を手短に済ませて立ち去ろうとした。
そんな彼に彼女は問う。
「ところでさ……連絡が途絶えてそろそろ20日を超えて、あちしからの呼びかけにも応答なし。上は何が何でも見つけろって言うけれど、正直なところあの子たちって死んだんじゃないかな?」
「何を根拠にそんなことを言える」
「単なる邪推だって。あちしやお前さんみたいな外暮らしが長い古参はお姫様のことを軽く見てるからね」
「それ以上の邪推は辞めたほうがいい」
「おお……こわい、こわい」
「それにお前の予想は残念ながらハズレだ。当たっていたらこの程度で済むわけがない」
「たしかに今のお前さんはわざわざ隠れてお姫様を襲う理由はないものな。だから謝るついでに一つだけお節介」
「ん?」
「宝を目の前にして欲張りすぎるんじゃないよ。春を売る仕事柄、偶然舞い込んだお宝を握りしめてやって来る男は山ほどみたが、そういうやつほどその宝が元で身を滅ぼすのさ。今のお前さんからは同じ匂いがするよ」
「忠告どうも。だがその匂いとやらは偶然の一致さ。女を買いに行く前の男が己を慰めるわけがないし、私は大仕事の前には禁欲するんだ」
「左様か。だったらこっちに戻ってきたときにはサービスしてやるよ。これから一ヶ月も我慢してたら爆発しちまうじゃないか」
「大仕事といっても土産を届け終えるまでだから禁欲はそれまでだぞ。帰りの道中でお前以外にいくらでも相手なんて買えるし、いらんお世話だ」
「そう言うなよ。つれないな」
「そこまで言うのなら帰ってきたら店に行ってやるよ」
「毎度あり」
カンマキが探しているというお姫様。
それはもちろん本物ではなく何かの比喩。
カンマキは行方のつかめないお姫様は既に彼の手で殺されており、探しものである姫の持ち物を彼が盗んだのかとたずねていた。
それを否定した彼はカンマキと再会の約束をすると、二人分の会計を済ませてクラブを後にした。
飲み残した自分の酒を眺めながらカンマキは思う。
スラムの孤児から騎士家系の養子になり近衛騎士団の幹部に名を連ねる役人にまで上り詰めたうえに、今度は古くからの里親が探していた宝の護送まで任される彼の順調な人生にそろそろしっぺ返しが来るのではないかと。
彼が死のうが何をしようが彼女にはどうでもいい。
だが彼が帰ってきたあかつきには、ひとつ恩を売っておきたいと彼女は勘定していた。
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