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淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
「この度は長旅、誠にお疲れさまでした。エルザ様」
「あたりまえのこと言わないでよ! ジーン、あなたに何がわかるっていうのっ!?」
お茶と菓子をワゴンで運んでいったわたしが言うと、彼女はいつものようにヒステリックにわめき散らしてきた。
「申しわけありません。ですが、わたしたち庶民では知れない苦労があったと存じます」
動じずにこうべを垂れれば、団子髪に結った頭へ柔らかなクッションが投げつけられる。痛くはない。いつものことだ。
「ホント、あなたって可愛くないわ。『鉄仮面のジーン』の異名は伊達じゃないわね」
「……ザウィール産のお茶をご用意しています。部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
「そのくらい察しなさいよ、メイドなら」
許可が下り、わたしは内心の痛みに耐えつつおもてを正す。
絢爛なシャンデリアに風よけのタペストリー、天蓋つきのベッド。絨毯からシーツまで、彼女にとってふさわしいものが用意された室内は、豪華だ。わたしにはまぶしすぎる。
「そろそろクロー王子と結婚できるわね。今回は魔族の獅子王を退治してきたけど、その功績もたたえられるんじゃないかしら」
「喜ばしいことですね」
お湯でカップを温めたりするわたしを、彼女はいやな光をたたえた碧眼でねめつけてきた。
「何人かはこの館から連れていくつもりなの。侍女として」
「さようでございますか」
「でも、あなたはいらない。お父様の友人の娘、だかなんだか知らないけど、没落貴族の娘なんて連れて行けやしないわ」
「覚悟はできております」
「強がってるわね、相変わらず。ま、いいわ。どうせ男へ股を開く毎日になるんでしょうし……かわいそうに、ジュネリーヌってば」
一瞬、本名で揶揄され、私の指が震えたのを彼女は見たのだろうか。せせら笑ってくるエルザ様へ、それでも冷静を努めてカップを渡した。
「それより今度の誕生日会が楽しみ! 聖女のアタシを見に、いろんな方が来るのよ」
「はい。準備は万全にと考えておりますので、ご安心下さい」
「そうだ、あの鳥はおもてに出さないでね。金色で奇麗だけど気味が悪いし、なつかないし」
私はうなずく。ナッツなどをはじめとした菓子をテーブルに置き、背筋を正した。
「なぁに? とっとと行きなさいよ。何かあれば呼ぶから」
「……失礼しました」
一礼し、軽くなったワゴンを押して外に出る。扉を閉めたのち、軽いため息を出してしまい、慌てて周囲へ視線をやった。部屋の近くには誰もいない。
「聖女エルザと勇者ご一行、か」
ぽつりとつぶやく。
このゼレンターグ王国に住むものならば、誰もが知る名前。魔族と戦う立派な勇士と、癒やしの力を持つ聖女――私の主人エルザ様。
七名の魔王と部下たる魔族とのいさかいが続く中、傷を癒やせる聖女は貴重だ。
彼らにとって私は、私たち女中や小間使いは、単なる群衆に過ぎない。有象無象に生きている蟻と同じ。
光り輝く舞台に躍り出ることは、どうあがいてもできないのだ。
◆ ◆ ◆
「今日はパン屑しかないの、ごめんなさい」
私の部屋には珍客がいる。金色の、ハチドリにも似た美しい鳥だ。鳥は立派な冠羽と輝く羽毛をくゆらせ、なんでもないというようにうなずいてみせる。
「やっぱりあなたは賢いのね。人の言葉がわかっているのかしら」
私は微笑み、鳥籠の中へ粗末な硬いパン屑を皿のまま差し出した。
メイドは基本的に相部屋だが、私の相方は先日結婚をし、館から出て行った。今のところ、部屋には私と鳥しかいない。
この鳥は、以前、旅の道中でエルザ様が見つけてきたものだ。最初は飼う、とわめいていたエルザ様だけれど、どうしてもなつかず今は私が面倒を見ている。
「……私がここを出ることになっても、あなたが幸せになれるように配慮するわ」
刹那、パンを食べていた鳥の黒い目が、私をじっと見つめた気がした。
気のせいよね、とつぶやいてケープにくるまる。床に置いた壊れた鏡に自分の容姿が映る。
つり目がちな赤い瞳に同色の髪の毛。肌だけは二十歳のわりには一丁前に白く、しかし浮かべた笑顔はかなり硬い。心の底から笑えたことなど、もう十年以上昔のことだ。
今日は一日『男へ股を開く毎日になる』というエルザ様の言葉が、頭から離れなかった。
本来なら、主人に紹介状を書いてもらえれば、次の奉公先も見つかるだろう。でも私は彼女に嫌われている。実家が破産したのち私を助けてくれたお館様は病気がちだし、これ以上迷惑をかけられない。
堅物で真面目、潔癖とささやかれる私の周りには、友と呼べるものはいなかった。男性すら寄ってこない。
「一人は、さみしいものだわ」
ささやけば、鳥がパタパタと羽根を広げた。まるで私を励ましてくれるような行為に、苦笑が浮かぶ。
「ありがとう、優しいのね」
鳥に笑っても、どこか虚しくなる。
ひとりぼっちに慣れたわけじゃない、と鏡の中の私が、何度も訴えている気がした。
◆ ◆ ◆
「ん、ぅ……っ」
エルザ様の誕生日会――当日の夜。
とんでもない失態で、私は熱を出してうなされていた。それでもパーティは開催され、遠くの本館から、かしましい声ばかりが聞こえてくる。
――体中が熱い。シュミーズドレスにこすれる肌部分が、ゾクゾクした未知の感覚を伝えてきている。
「おかしいわ……これ、私……」
寝返りを打てば、毛布の毛にすれた部分が気持ちいい。
体の異変がいやで、上半身を起こして毛布を払うと、今度は初夏のすきま風に肌が触れた。
「あん……」
びくりと体がうごめく。変な声も出る。いや、こんな声はまるで――エルザ様と勇士様の……そう、交わりのときと同じ。
以前、偶然にも見た光景は、脳裏に焼きついてしまっていた。大股を開け、腰を揺らして、心地よさそうに唇を開くエルザ様たちの姿。
「いやっ……助けて……」
部屋の中で苦悶し、潤んだ視界で助けを求める。でも、ここには誰もいない。私以外には誰も――
「美しいな、ジュネリーヌ」
「……え?」
知らない、男性の声がした。声のした方を、鳥籠の方を見てみる。月の光も届かない奥、部屋の隅に誰か、いた。
「普段の姿も美しいが、今の君も素晴らしく奇麗だ」
「だれ……?」
羽毛が舞う。金色の羽毛が。その中でコツンと軍靴を鳴らし、マントを広げたのは。
「愛らしい姿をもっと見せてくれ」
褐色の肌と黒い双眸、金の長髪を持った一人の男性だった。
切れ目の黒目はうっとりと蕩けているも、唇や鼻梁といったパーツが恐ろしいほど整っている。はっきりいって、怖いくらいの美形だ。
「あなたは、誰?」
「人に発音できる言葉で言うなら、そうだな、クルーシェ」
「クルーシェ……」
知らない男性にあられもない姿を見せていることに気づき、慌てて背筋を正した瞬間、腹部の熱がより増した。「あ」と吐息が漏れてしまう。
その声に、クルーシェと名乗った男はまた一歩、目をすがめてこちらに近づいてきた。
「淫欲の印は少し、君には辛かったかもしれない」
「いん、よく? あなたが私に何かしたの?」
「そのとおり。時間はかかったがな。俺の術にここまで対抗できたのは、君の気高さゆえか」
何を言われているのかわからなかった。何が起きているのかさえも。私はただ、男に恐ろしいものを感じて身を丸めることしかできない。
だが、彼はそんなことに構わず私の近くに跪いた。
「あのかんしゃく娘に捕らわれたときはどうなるか、と思ったものの……ジーン、君に会えたことは僥倖だ」
「捕らわれた、って。まさか、あの鳥……」
「魔王ともなれば、姿形を変えることなどたやすいのだよ」
クルーシェの言葉に、呆けた。私は、呆けることしかできなかった。
「魔王……」
「七大魔王が一人、欲情熱のクルーシェとは俺のことだ、ジーン」
金髪をくゆらせて、彼が手を伸ばしてくる。壊れ物を扱うような優しい所作だ。だが――
「んあっ」
頬を撫でられた刹那、背筋から汗が噴き出すほどの快感を覚えてしまう。
頭の中では恐怖して、体は悦楽に翻弄され、私は混乱した。
「愛らしい」
「さわら、ないで……!」
「人間にこのような美しいものが存在するとは……滅ぼさずにいて、よかった」
魔王と自称する男が優しく笑うものだから、ますます呆気にとられる。
しかし次の瞬間。
「あ、ッ?」
体を押し倒された。両腕が自然と頭上に上がり、まるで磔にされたかのように動かなくなる。クルーシェは笑う。シュミーズドレスが切り裂かれる。
「いやっ」
「淫欲の印は君に似合うな、ジーン。見てみろ、自らの腹を」
乳房が外気に触れて、否応なしに官能が高まることに恐怖した。だが、気になるのは彼の言葉だ。
「印……? えっ……」
首だけをかろうじて動かし確認すれば、裸体の中心――腹部より少し下程度に、複雑な紋様が輝いているのが見える。私が声を喘がせるたび、クルーシェの手が脇腹をなぞるつど……得体の知れない悦楽に反応し、奇妙な模様は明滅していた。
「と、とって。今すぐ……!」
「さあ、もっと麗しい声を聞かせてくれ、ジーン」
微笑み、浮いた声音の彼の手が乳房へと伸びてくることが怖くて、私は目をつむる。
知らない感覚に呑まれることが、恐ろしいから。
◆ ◆ ◆
脇をなぞられた。耳たぶを食べられた。指先で、乳暈を円を描くように触れられた。
「っ、あ、ふあ、ああ……!」
そのつど私の頭はぼうっとしてくる。変な声は出てきっぱなしで、股の奥から熱いものがこぼれていく感触がした。
「可愛いな、ジーン。愛おしくてたまらない。もっと触ってほしいか?」
「ち、が、んぁっ」
耳穴を舐められた感覚は奇妙なもので、ほてった体に気持ちよかった。彼は小さく笑いつつ、そのまま首筋を強く、きつく吸ってくる。
「安心しろ、痛みも快楽に変わる印だ。だが、よく慣らしておきたいのでね」
「いや、もう……やめ、て」
「気丈なところも俺は好きだ。いつも凜然としている君もいいが、蕩けた顔もたまらない」
「~っ! っ、ふぅっ」
太ももの内側を手で揉まれた直後、言い表せない感覚に頭が真っ白になる。
「まだ、足りないな。君にはもっといけないことを教えたい」
クルーシェはそのまま、そっと私の両膝を立てた。指の腹で膝から股関節までを一気にこすり上げ、笑む。
苦しい、だけど気持ちいい――気持ちいいけど、これはきっと、悪いこと――けれど、もう……。
「だ、めぇ……」
和毛近くの恥骨を、指でトントンと響かせるように叩かれた瞬間、全身が痺れた感覚を抱く。自分から出る体液が、シーツを濡らしていて冷たかった。
「君はいつでも凜々しく、優しく、笑顔が素敵な女性だ」
「ひあ、っ」
光る紋様を手のひらで押さえられた瞬間、四肢を駆け巡る官能に背筋がのけ反る。
「自分に厳しいところもたまらない。部屋で一人泣いている君を、俺がどれほどの間、連れ去りたいと思ったか」
快楽の荒波に耐える私を、彼はじっと黒い目で射貫いてきた。
「わ、たしは」
「うん?」
「……そんな、奇麗な、人間じゃありません……」
息も絶え絶えに、それだけを言うのがやっとだ。
涙が溢れる。恥辱にでもそうだが、クルーシェの言う言葉があまりにも美しすぎて。
「わ、私っ……いつも、堅苦しいとか、真面目すぎて、つまらないとか言われてます……」
彼は答えない。一体どんな顔をしているのだろう、涙で見えなかった。
「人にばっかり厳しくて。なんの努力もしないで、誰かに愛されたいとか、さみしいとか思う……欲深い、浅ましい女なんです」
息も絶え絶えに続ければ、クルーシェが静かに、頬に張りついた赤毛を取り去ってくれる。
「君はそう思っているのかもしれない」
「実際、そうです……」
「それらは人から見て悪徳かもしれないが、俺にとっては最高の美徳だよ、ジーン」
彼が、私の頬に優しく唇を落とす。ぞくりとした。その冷たさと、相反する悦楽の熱に。
「ジーン。好きだ、ジーン」
「わ、私が好かれる価値なんて」
「そういう卑屈さすらも愛らしいと思う。俺に愛される覚悟を決めてくれ。共に生涯を誓う仲になってほしい」
――誰かにここまで、求められることがあっただろうか。
鼻をすすりつつ、彼の熱い言葉にぼんやりと思う。
確かに仕事の出来は認められていた。でも、それはしょせん代わりがある状態でのことだ。現にエルザ様は私をいらないものと見ている。
幼いときも両親は不仲で、いつも罵り合いをしていた。だからこそ私は思っていたのだ。一人で生きられるようにならねば、と。
でもそれは、あまりにも辛すぎた。苦しい道のりだった。
真面目にすれば、正しくあれば、いつか誰かに受け入れられると思っていた。けれど事実、今は孤独だ。
「一人、は、いや」
「知っている。君と離れたくないのは俺も同じだ。だからこうして正体を明かした」
「……私なんかで、いいのですか……」
完全に呑まれた――彼の手に堕ちた、と感じた瞬間、クルーシェが私の頬を両手で包みこんでくれる。
「君だからこそだ。君以外の人間を滅ぼしても構わない。どう言えば、この焦がれる思いを伝えられるのだろうな」
温かい手のひらだった。恐ろしいほどに甘い笑顔だ。
返事をしてしまえば、もう戻れない。
(ただの群衆だもの、私は)
もう一人の自分がささやく。
(……堕ちても、構わない)
それがたとえ――人と違う魔族が相手でも、いい。
「あなたのことを、もっと、知りたいです……」
口から出たのはあどけないほど純粋な答えだった。今引き出せる、精一杯の誠意。
「ああ」とクルーシェが息を漏らし、首筋を指でなぞってくる。
腕が動くことに私は気づいた。いつの間にか拘束が解けていたらしい。
思わず胸を隠す私に微笑んだクルーシェが、後頭部を持って全身で抱きしめてくれた。
「愛しいジーン。美しいジーン。……その、口づけをしても?」
わざわざ口に出して問う彼は、意外と誠実なのかもしれない、と思った。堂々とした風格に似合わず、真剣な眼差しでたずねてくる様子はどこか、可愛い。
私は頬を朱に染め、小さくうなずいた。
頬を持ち上げられる。目を閉じた刹那、唇に優しい感触がした。
優しく、熱く、食まれるように舌で輪郭をなぞられれば、再び喜悦の波が押し寄せる。
「んあ、む……」
思わず打ち震える私は、少し苦しくて口を開けた。途端、舌が絡んでくる。舌同士が繋がり、蛇のようにのたうち、くちゅくちゅといやらしい音が室内にこだまする。
「んん、くあ……っん、ふ、ぅ」
知らない安心感と、快楽。腹の紋様から立ち上る熱に、唇同士の熱さに、私はただ彼の胸板に手を当てるだけだ。
私の頭の位置を変え、舌を巧みに転がし、吸い、操るクルーシェに貪られ――それでもいい気がした。
頭がくらくらし、まるで全身の毛穴までが開く感覚。
満たされていると感じた。彼が自分の足りない穴を埋めてくれる気がした。
求められて愛されるということ、その喜びを、私はこの歳でようやく知ったのだ。
「ジーン……」
愛おしげに名を呼んでくれる彼が、顔を外す。自らのシャツのボタンに手をかけているのを見て、私は思わず手を重ねていた。
「あの」
「なんだろうか」
これから行われることを想像し、ますます顔がほてる。それでもなけなしの勇気を振り絞り、私はうつむき加減にささやいた。
「ここでは、その、恥ずかしい……です」
少なくともこの館と部屋は、私という個人を置く場所ではない――そう感じて。
「我が妻はなんとも愛らしいな」
不敵に笑った彼が、マントで私の身を包む。
「では案内しよう、我が城へ。これから共に永住する常闇の魔城へと」
クルーシェの言葉に次いで、私の意識はあっという間に混濁した。
◆ ◆ ◆
気づけば、私は柔らかいベッドの上にいた。裸体のクルーシェが隣にはいて、均整の取れた体に一瞬、見惚れる。だが中心にある男根は大きく反り返っており、言い表せない恐怖に目線を逸らした。
「あ、あの」
「大丈夫だ。言ったはずだろう? 慣らしておきたいと」
「え……あ、っ」
体を優しく押し倒される。肌と肌が触れ合う感覚に、またぞくぞくしたものが込み上げてきた。
「いい香りだ。甘い」
「そんな、ことは……ひっ」
音を立て、うなじから鎖骨までを吸われた。その度に私の体は勝手に反応する。敏感になる。
「ん、んんっ!」
彼の手が私の乳房へと伸びた。そのまま優しく、乳頭と全体を捏ねくり回された。指の間で挟まれ、コリコリとなぶられれば、明滅するような感覚が脳を揺らす。吐息と喘ぎ。身悶えすることしか私にはできない。
「柔らかい……こんなに触り心地がいいものはないな。君の肌は、どこも手に吸いついてくるようだ」
「はあッ、あ、ああ……ん……や、あ」
静止の意味の「いや」なのか、それとも別の意味をなすのか、もうわからなかった。
私に覆い被さった彼は声を無視して胸を蹂躙しつつ、片手で脇腹からお腹、光る印をなぞり、そして。
「んああ……ッ!」
和毛の奥――普段、風呂でしか触らない秘芽をなぞられた刹那、法悦に私の意識が真っ白に飛んだ。全身がガクガクと痙攣する。
「達したな、ジーン。もっと触らせてほしい」
「ひぅっ! いあ、やあっ」
肉芽をつままれ、撫でられ、先ほどと同じ悦楽の渦に呑まれて体を魚のように跳ねさせた。知らない興奮とときめき。心臓が今にも飛び出しそうで、それ以上に四肢から伝わる熱と法悦が、自分を壊していくのがわかる。
「そんなに煽る顔をして……ああ、とてもそそられる」
「だめ、です……これ以上、はぁ……」
享楽の波にさらわれ、喘ぐだけの私をよそに、クルーシェは止まらない。鎖骨や首筋をいじめていた舌と唇が、胸へと降りた。音を立て、豪快に胸の尖りをしゃぶられた刹那、私は快感に目を見開く。
「だめ、ああ!」
雌芯を大切に愛撫されつつ、相反して乳頭を荒ぶるように扱われ、また何度も法悦に達した。
「ゆ、るして、ああ……! も、だめ」
「もっと身を委ねてくれ。まだまだ夜は長いのだから。一晩中、君の全てを愛し尽くそう」
紋様が熱い。恥じらう暇もないまま彼の手に蹂躙される。指や爪先までも性感の痺れを覚え、外気に晒されるだけで跳ねてしまう始末だ。
恥ずかしい――気持ちがいい、満たされていく――もっと、ほしい。
「君はやはり、どこも美しいな」
めまぐるしく渦を巻く思考の中、彼が放つ言葉に、嬉しさか別の何かで涙がこぼれた。
クルーシェが魔王だから、魔族だからとか、そんなことはどうでもよかった。鳥の姿といえど、側にいて励ましてくれた唯一の存在。自分を見つけてくれた優しい人。
「だめ、わた、し……っ! また、またっ」
「何度でも達するといい。愛らしい姿を俺に見せてくれ」
この人になら、何をされてもいい――
「あ、あああ……ッ!」
そう感じた瞬間、快楽が全身を巻きこんで、思考が爆ぜた。
「とても可愛いな。愛おしくてたまらないんだ、君が」
荒い呼気を繰り返し、四肢がふわふわした状態の中、私はどんな顔をしているのだろう。わからないが、なぜか何か足りない、と思う。
そんなこともわかっている、というように、微笑むクルーシェが私の両膝を立てた。
「蜜が、ほしい」
耳元でささやかれるつど、私のお腹が熱くなる。
少し間を置いたのち、彼が不意に体を離した。離れていく熱にさびしさを覚え、手を浮かせた直後だ。
クルーシェの顔が股間へ近づいていたことに気づき、カッと頬が熱くなる。
「何、を……ひっ」
唇で雌芯を食まれた刹那、痛烈な――今までにない気持ちよさに体がうごめく。ふるりと胸が揺れ、思わず腰を彼の顔へと押しつけてしまった。
「や、やっ、ああ、そんな……ぁっ」
舌で愛芯をねぶられ、びくびくと全身がわななく。シーツを掴んで耐える。こらえ切れそうにない快楽が、またもや思考も、恥辱も、全てを壊していく。
全身から汗が噴き出た。逃れようと腰を戻すべく躍起になるが、両手で固定されて動けない。
音を立てて愛液を吸われ、ついには秘路へと、長い指が挿入される。
「んあ、ああ……ッ、やあ、や、んっ」
「少し辛いと思うが我慢してくれ」
「ふあっ、んん、あ、い、や……っ、んああ!」
圧迫感とそれ以上の狂悦に、私は返事もできなかった。悲鳴を上げるだけの人形になった。
二本の指が私の中でうごめき、優しくほどかれていく感触。秘芽と共に隘路をいじくり回され、何度も知らない絶頂に達する。
何度、何回、彼の手で身悶えたことだろう。意識が遠のきそうだ。
「ジーン」
名前を呼ばれた。とうに解けた私の赤毛を優しく梳かしつつ、クルーシェが頭を撫でてくる。
「な、まえ」
「名前?」
「ジュネリーヌ……と、呼んで、ください……」
ジーンという愛称は好きではないから。
私がぎこちない笑みを浮かべてささやくと、彼は黒い瞳を安堵の光で満たした。
「君が望むのならば。俺の愛しの君、ジュネリーヌ」
蕩けた顔で額にキスをされ、私の体に、甘い痺れが流れていく。
「……ジュネリーヌ」
どこか、何かを求めている辛そうなおもてが、私を見ている。
この人が欲しているのは『私』なのだと直感で思い、軽くうなずきつつ微笑んだ。
◆ ◆ ◆
再び口づけをした。舌は強引ではなく、あくまでも優しく、柔らかく私の口腔を犯してくる。
足を広げた秘部へと熱い塊が押しつけられていることを感じ、私は口を離して身を重ねようとするクルーシェを両腕を開いて招いた。
「来て、下さい」
泣き笑いのような笑顔を、彼は浮かべる。心から安堵したかのような笑みは切実で、誠実で、愛おしい。
そのままクルーシェは私の片膝を掴み、滾った肉竿を私の中へ押しこんだ。
「――ッ!」
刹那、訪れたのは生半可ではない悦楽。
苦しさもある。圧迫感ももちろん覚えた。だが痛みはなく、代わりに全身が甘く痺れて呼吸が一瞬、止まる。
「一度に奥まで入れてしまったが……辛いか、ジュネリーヌ」
「あ、ああ……」
返事もできない私の手を握り、指同士を絡めて彼はもう一度、私の名を耳でささやく。
「ジュネリーヌ。君は俺のものだ。俺もまた、君のものとなった」
「……は、い」
絶え絶えに答えると、彼は笑みの形を変えた。
美しく、優しくも見えるが、これからのことを期待し胸を膨らませる魔性の笑み――雄としての顔。
思わず見とれた私に、彼は喜悦交じりに己の唇を舐めて――
「動くぞ」
「ふぁぁっ!」
ぱちゅ、とまたいやらしい水音と共に、ぐりぐりと肉槍の先で奥をつつかれた。脳天までがビリビリと痺れる。
「んあ、ああ! お、なかっ、あつ、いの!」
「締めつけ、が、凄い。くそ、持っていかれる」
いよいよもって、本格的に彼は私を穿ちはじめた。ふるふると胸が揺れ、胸板と乳首がこすれることすら気持ちがいい。
最奥を狙われた私は喘いだ。痛みなど微塵も感じず、伝わってくるのはただの狂悦だった。
「ふ、ふあ、っ、あ、い……あ、やあ!」
ベッドが軋む。私の体は激しく動く。腰を軽く回しながら、ゴリゴリと奥を突かれるつど目の前に閃光が走り、意識が飛びそうだった。
パン、パン、パン、と肉がぶつかる打擲音。それに混ざって、ぐちゅぐちゅと粘着質な水音が響く。
「ひっ、んああ! くあ、ああっ、んあ、い、ああっ」
耳からでもいやらしさを覚え、全身からも享楽を感じ、私は壊れた。
――この人をもっと感じたい。気持ちよくなりたい。この人と。
気づけば私の両腕は、クルーシェの背中に回っていた。たくましい背中は熱く、私と同じで汗を掻いている。
「ああ……さい、こうだ。気持ちがいい、ジュネリーヌ」
「ふっ、んっ、あっ! や、んっ、ああっ……きも、ち、いいっ」
蜜壺を穿つ巨根は隘路をくまなく満たし、先端と男竿の筋にも、自分の肉路がぴくぴくと反応しているのがわかった。
「君を離さない。誰にもくれてやるものかっ」
「ん、んんぅ! お、く、ああっ……」
「愛している。愛しているんだ、ジュネリーヌっ」
こすり上げられ、突かれ、目を閉じて悦楽を味わう。腰が痺れる。全身がおかしくなる。何度も、何度も、どこか知らない場所へと導かれる。
「ジュネリーヌ、ああ……一度、出す、から。一緒に」
「ひうんっ! んあ、あああ! き、てっ……来て、下さい、クルーシェさま……ッ」
私がより深く、官能のるつぼに叩きこまれそうになったとき、いっそうクルーシェの動きが速くなった。チカチカする。目の前がクラクラ、チカチカと明滅する。
「く、っ!」
「――っ、ひ、あああああああっ!」
腰を持ち、彼が胎の奥へと熱い飛沫を吐き出した刹那、その奔流のすさまじさに、私も今まで以上の法悦へと叩きつけられた。
「く、そ……なんだこの体は……っ」
息が苦しい。悪態をつく彼の頬に、それでもおずおずと手を当てる。
「ク、ルーシェ、様……?」
「可愛くて奇麗な上に、俺の精をこんなに早く搾り取るとは……、な」
彼は笑った。褐色の肌に、金糸のように長髪がまとわりついている。その姿は恐ろしいほど美しい。
クルーシェが頬にキスをしてくれる。そのまま耳元へ唇が移動し、吐息が耳朶を叩いた。
「まだまだこれからだ。欲情熱の魔王の力、見くびるなよ」
「は、はい……」
私はそっと、自分の腹部を見てみた。
淫欲の印はまだ、消えていない。
◆ ◆ ◆
私がクルーシェ様の城――魔界とやらで過ごすこととなり、何日が過ぎたのだろう。
「ジュネリーヌ、今日は君の好きそうな宝石を持ってきた」
「まあ……持ってきた、だなんて、また何か無茶をなさったのではないですか?」
「そんなことはない。それにこのルビーは、君の目の色と髪の色に近いんだ。気に入ると思ったから」
人と魔族が仲良くなることはないのかもしれないし、逆もあるだろう。
「奇麗、ですね」
「君の方が美しいが?」
「も、もう。おせじを言っても何も出ませんよ」
これからのことは私にはわからない。けれど、一つだけはっきりしていることがある。
「……クルーシェ様」
「どうした」
私に植えつけられた淫欲の印は、未だ輝いているのだ。
「また、していただいても……いいですか?」
「好きなだけ。君が望むままに、ジュネリーヌ」
私はただの群衆で、光り輝く舞台に躍り出ることはないけれど。
――彼の温もりが幸せを運んでくれる気がする。
◆ ◆ ◆
俺がジュネリーヌを見初めたのは何も、同情からだけではない。
凛然とした瞳の中にある諦観の念、一人部屋の中で嗚咽を堪えるときにあふれ出ていた絶望感――人間でいうところの『負の感情』に当初は興味を抱いたからだ。
魔族が好むそれらは、とても甘美なものだった。
あの聖女とかいう娘に水をかけられ、物をぶつけられ、周囲から助けも得られない状態は、知らぬ間に魔王たる俺の気持ちすら揺るがす闇の思いを漂わせていたから。
「ジュネリーヌ」
「はい、クルーシェ様」
だが今は、ジュネリーヌの柔らかい笑顔が俺の中に眠っていた『優しさ』をくすぐる。
同時に、手がつけられないほどの欲情も。
「ジュネリーヌ、愛している」
彼女の細い顎を持ち上げてささやけば、ルビーにも似た深い瞳が潤む。
ジュネリーヌが好む黄金の花畑の中、俺はためらうことなく彼女と唇を重ねた。
最初はゆっくり、全体を食むように吸い、閉じられた部分を舌で何度も愛撫する。
「ふ、む……んん、むっ、あ……」
頬を紅潮させたジュネリーヌは甘い吐息を漏らし、どこか恥じらいつつ、俺の胸板に手を添えてきた。これは「待って」の合図だと知っている。
しかし俺は構わず、彼女の後頭部を手で引き寄せた。降ろした髪の滑らかなことといったら、品のいいシルクにも勝る。
そのまま、自然と開いた口の中へ舌をねじこんだ。舌先を吸い、歯列をなぞり、口腔内を丁寧になぶっていけば、ジュネリーヌは肩を震わせる。
「そと……」
「どうした?」
一瞬、顔を外したときのつぶやきを、俺は聞き漏らさない。答えはわかっているものの、少しいじめたくなってくる。
「こ、ここは、外……です。誰かが来たら」
「見せつけてやればいい」
「はず、かしい、の」
顔を真っ赤にしてかぶりを振る彼女の愛らしさは、やはり何物にも代えがたい。
確かにこの花畑と四阿は、ジュネリーヌのために作ったものだ。廊下や部屋の近くにあり、部下たちの往来も盛んだった。
「ならば場所を変えるか」
俺の言葉に、彼女は照れ臭そうにうなずく。
何も「寝室に」とは言っていないのだが――と内心でほくそ笑みつつ、俺はジュネリーヌの体をマントで包んだ。
◆ ◆ ◆
「ふぁ、あ! んっ、ん、あ、ひぅっ!」
四阿のベンチの上で――俺はジュネリーヌの痴態を心ゆくまで堪能していた。
めくれたスカートと腰が上下するたび、白い肌と腹部の淫紋が薄暗がりに光る。明滅する淫欲の印は精液を待ちわびて、彼女へより強い熱を与えていることだろう。
コルセットで押し上げられた胸を吸い、赤いあざをつければ、俺の肉楔をしごく蜜路が一層狭まる。
「や、あんっ! ひあ、ふ、あ、あ!」
「気持ちいいな、ジュネリーヌ」
ごりごりと中の肉を穿つつど、淫筒がきゅうきゅうに締まり、俺へ堪えがたい興奮と淫悦を伝えてきた。ほぐれた隘路は男槍へよくなじみ、溢れ出る愛蜜が互いの叢を濡らす。
「や、らぁ……! だ、めっ……そ、こ、っ」
ジュネリーヌは対面で俺の肩に手をかけ、涙と涎を垂れ流している。どうやら下から胎をほじられる感覚に、何度も法悦を覚えているようだ。
俺は微笑みつつまろび出た尻を掴み、柔らかく揉んでやる。途端びくりとうごめく肢体に、蜜壺が収縮する感覚。愉悦に蕩けた顔と、恥じらいと喜悦に揺れ動く気持ち。それらを見て感じとった俺すら興奮してくる。
「あついの、体……! お腹、きゅうって、する……ッ」
「欲しいんだろう? 俺の、子種が」
「んあぁ、言えない、っ……! そんなの、ダメ……!」
子どもがするように首を振り、俺へ抱きつくジュネリーヌは淫美で、誰よりも可愛いらしかった。
淫欲の印は俺が丹念に精を注ぎ、子が無事に産まれるまで――完全に彼女が『魔族』になるまで消えることはない。ただ、人を同族に堕とすのは難しく、定期的に欲を与えなければ効果が消えてしまう。
しかしこの様子だと、ジュネリーヌは予想より早く、俺の同胞になるはずだ。
「君の好きな部分は、もうわかっている」
「ひ、あんっ! 奥……だめ、だめ、突か、ないで……っ!」
響き渡る嬌声に笑み、俺は尻と腰を掴んで逃げられないよう捕らえた。
最奥近く、彼女がより感じる部分を肉槍の先でつついてやれば、ジュネリーヌは喉をのけぞらせて悶える。
陰茎から伝わる熱と心地よさは最高の快楽だ。痺れるような射精感が背筋を伝い、俺はその刺激に、たまらず彼女へと激しく腰を打ちこむ。
「何、が、欲しい? ジュネリーヌ」
「あっ、あ! ひあ、ん、んー!」
「言わないとやめてしまうが」
少しペースを落とすと、物足りなさを覚えたのか――四肢をわななかせながら、ジュネリーヌは俺の体に抱きついてきた。
「……子種……クルーシェさまの、精液、欲しい、です」
ささやかれた言葉のいやらしさに、俺は唇をつりあげる。
「ああ……ジュネリーヌ。よく言えたな」
「ふ、ああ!」
頭を撫でつつ、再び最奥を穿つ。肉筒を抉って蹂躙するつど、激しく胸を震わせて涙する彼女が愛おしく、ますます魅了された。
「わ、たしっ! も、ダメ……くる、くるの、おっきいの……!」
「出す、ぞ。受け止めて、くれ」
こくこくとジュネリーヌはうなずく。両方の尻を掴んで淫竿を何度も奥へと抽送させた直後、耐えがたいほどの法悦が俺を包んだ。
「ク、うっ……!」
「んん、んあ、ひあ! あー……ッ!!」
甘い絶叫とより強い収斂に、ただただ精を放つ。
数回こすり上げ、吐精の残りすら肉筒の奥――子宮へと注ぎこみ、俺は大きな息をついた。
崩れる彼女の体を抱き留めれば、同時に、結合部からこぷりと白濁した液体が漏れたのがわかる。
「大丈夫か?」
「……」
ジュネリーヌの頬に手を触れて聞いたものの、彼女から返事はない。
「ジュネリーヌ?」
「寝室で、その、するものだと思いましたのに」
「いやそれは」
「それは?」
君の色香に当てられて、とつぶやいて視線を逸らす。
「気持ち……よかった、です」
クスッと笑った彼女が、頬の手に頬擦りしてきた。愛おしい所作に俺の胸は熱くなる。どうしようもなく満たされた気持ちになる。
「愛している、ジュネリーヌ」
「わたしも……クルーシェ様を愛しております」
疲れ切った笑顔が、それでもとてもまぶしく見えた。
三百年以上の時を過ごし、ようやく心満たす存在が現れた事実に俺も微笑む。
この変えがたい、離せない温もりのことを――人は幸せと呼ぶのかもしれない。
【完】
「あたりまえのこと言わないでよ! ジーン、あなたに何がわかるっていうのっ!?」
お茶と菓子をワゴンで運んでいったわたしが言うと、彼女はいつものようにヒステリックにわめき散らしてきた。
「申しわけありません。ですが、わたしたち庶民では知れない苦労があったと存じます」
動じずにこうべを垂れれば、団子髪に結った頭へ柔らかなクッションが投げつけられる。痛くはない。いつものことだ。
「ホント、あなたって可愛くないわ。『鉄仮面のジーン』の異名は伊達じゃないわね」
「……ザウィール産のお茶をご用意しています。部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
「そのくらい察しなさいよ、メイドなら」
許可が下り、わたしは内心の痛みに耐えつつおもてを正す。
絢爛なシャンデリアに風よけのタペストリー、天蓋つきのベッド。絨毯からシーツまで、彼女にとってふさわしいものが用意された室内は、豪華だ。わたしにはまぶしすぎる。
「そろそろクロー王子と結婚できるわね。今回は魔族の獅子王を退治してきたけど、その功績もたたえられるんじゃないかしら」
「喜ばしいことですね」
お湯でカップを温めたりするわたしを、彼女はいやな光をたたえた碧眼でねめつけてきた。
「何人かはこの館から連れていくつもりなの。侍女として」
「さようでございますか」
「でも、あなたはいらない。お父様の友人の娘、だかなんだか知らないけど、没落貴族の娘なんて連れて行けやしないわ」
「覚悟はできております」
「強がってるわね、相変わらず。ま、いいわ。どうせ男へ股を開く毎日になるんでしょうし……かわいそうに、ジュネリーヌってば」
一瞬、本名で揶揄され、私の指が震えたのを彼女は見たのだろうか。せせら笑ってくるエルザ様へ、それでも冷静を努めてカップを渡した。
「それより今度の誕生日会が楽しみ! 聖女のアタシを見に、いろんな方が来るのよ」
「はい。準備は万全にと考えておりますので、ご安心下さい」
「そうだ、あの鳥はおもてに出さないでね。金色で奇麗だけど気味が悪いし、なつかないし」
私はうなずく。ナッツなどをはじめとした菓子をテーブルに置き、背筋を正した。
「なぁに? とっとと行きなさいよ。何かあれば呼ぶから」
「……失礼しました」
一礼し、軽くなったワゴンを押して外に出る。扉を閉めたのち、軽いため息を出してしまい、慌てて周囲へ視線をやった。部屋の近くには誰もいない。
「聖女エルザと勇者ご一行、か」
ぽつりとつぶやく。
このゼレンターグ王国に住むものならば、誰もが知る名前。魔族と戦う立派な勇士と、癒やしの力を持つ聖女――私の主人エルザ様。
七名の魔王と部下たる魔族とのいさかいが続く中、傷を癒やせる聖女は貴重だ。
彼らにとって私は、私たち女中や小間使いは、単なる群衆に過ぎない。有象無象に生きている蟻と同じ。
光り輝く舞台に躍り出ることは、どうあがいてもできないのだ。
◆ ◆ ◆
「今日はパン屑しかないの、ごめんなさい」
私の部屋には珍客がいる。金色の、ハチドリにも似た美しい鳥だ。鳥は立派な冠羽と輝く羽毛をくゆらせ、なんでもないというようにうなずいてみせる。
「やっぱりあなたは賢いのね。人の言葉がわかっているのかしら」
私は微笑み、鳥籠の中へ粗末な硬いパン屑を皿のまま差し出した。
メイドは基本的に相部屋だが、私の相方は先日結婚をし、館から出て行った。今のところ、部屋には私と鳥しかいない。
この鳥は、以前、旅の道中でエルザ様が見つけてきたものだ。最初は飼う、とわめいていたエルザ様だけれど、どうしてもなつかず今は私が面倒を見ている。
「……私がここを出ることになっても、あなたが幸せになれるように配慮するわ」
刹那、パンを食べていた鳥の黒い目が、私をじっと見つめた気がした。
気のせいよね、とつぶやいてケープにくるまる。床に置いた壊れた鏡に自分の容姿が映る。
つり目がちな赤い瞳に同色の髪の毛。肌だけは二十歳のわりには一丁前に白く、しかし浮かべた笑顔はかなり硬い。心の底から笑えたことなど、もう十年以上昔のことだ。
今日は一日『男へ股を開く毎日になる』というエルザ様の言葉が、頭から離れなかった。
本来なら、主人に紹介状を書いてもらえれば、次の奉公先も見つかるだろう。でも私は彼女に嫌われている。実家が破産したのち私を助けてくれたお館様は病気がちだし、これ以上迷惑をかけられない。
堅物で真面目、潔癖とささやかれる私の周りには、友と呼べるものはいなかった。男性すら寄ってこない。
「一人は、さみしいものだわ」
ささやけば、鳥がパタパタと羽根を広げた。まるで私を励ましてくれるような行為に、苦笑が浮かぶ。
「ありがとう、優しいのね」
鳥に笑っても、どこか虚しくなる。
ひとりぼっちに慣れたわけじゃない、と鏡の中の私が、何度も訴えている気がした。
◆ ◆ ◆
「ん、ぅ……っ」
エルザ様の誕生日会――当日の夜。
とんでもない失態で、私は熱を出してうなされていた。それでもパーティは開催され、遠くの本館から、かしましい声ばかりが聞こえてくる。
――体中が熱い。シュミーズドレスにこすれる肌部分が、ゾクゾクした未知の感覚を伝えてきている。
「おかしいわ……これ、私……」
寝返りを打てば、毛布の毛にすれた部分が気持ちいい。
体の異変がいやで、上半身を起こして毛布を払うと、今度は初夏のすきま風に肌が触れた。
「あん……」
びくりと体がうごめく。変な声も出る。いや、こんな声はまるで――エルザ様と勇士様の……そう、交わりのときと同じ。
以前、偶然にも見た光景は、脳裏に焼きついてしまっていた。大股を開け、腰を揺らして、心地よさそうに唇を開くエルザ様たちの姿。
「いやっ……助けて……」
部屋の中で苦悶し、潤んだ視界で助けを求める。でも、ここには誰もいない。私以外には誰も――
「美しいな、ジュネリーヌ」
「……え?」
知らない、男性の声がした。声のした方を、鳥籠の方を見てみる。月の光も届かない奥、部屋の隅に誰か、いた。
「普段の姿も美しいが、今の君も素晴らしく奇麗だ」
「だれ……?」
羽毛が舞う。金色の羽毛が。その中でコツンと軍靴を鳴らし、マントを広げたのは。
「愛らしい姿をもっと見せてくれ」
褐色の肌と黒い双眸、金の長髪を持った一人の男性だった。
切れ目の黒目はうっとりと蕩けているも、唇や鼻梁といったパーツが恐ろしいほど整っている。はっきりいって、怖いくらいの美形だ。
「あなたは、誰?」
「人に発音できる言葉で言うなら、そうだな、クルーシェ」
「クルーシェ……」
知らない男性にあられもない姿を見せていることに気づき、慌てて背筋を正した瞬間、腹部の熱がより増した。「あ」と吐息が漏れてしまう。
その声に、クルーシェと名乗った男はまた一歩、目をすがめてこちらに近づいてきた。
「淫欲の印は少し、君には辛かったかもしれない」
「いん、よく? あなたが私に何かしたの?」
「そのとおり。時間はかかったがな。俺の術にここまで対抗できたのは、君の気高さゆえか」
何を言われているのかわからなかった。何が起きているのかさえも。私はただ、男に恐ろしいものを感じて身を丸めることしかできない。
だが、彼はそんなことに構わず私の近くに跪いた。
「あのかんしゃく娘に捕らわれたときはどうなるか、と思ったものの……ジーン、君に会えたことは僥倖だ」
「捕らわれた、って。まさか、あの鳥……」
「魔王ともなれば、姿形を変えることなどたやすいのだよ」
クルーシェの言葉に、呆けた。私は、呆けることしかできなかった。
「魔王……」
「七大魔王が一人、欲情熱のクルーシェとは俺のことだ、ジーン」
金髪をくゆらせて、彼が手を伸ばしてくる。壊れ物を扱うような優しい所作だ。だが――
「んあっ」
頬を撫でられた刹那、背筋から汗が噴き出すほどの快感を覚えてしまう。
頭の中では恐怖して、体は悦楽に翻弄され、私は混乱した。
「愛らしい」
「さわら、ないで……!」
「人間にこのような美しいものが存在するとは……滅ぼさずにいて、よかった」
魔王と自称する男が優しく笑うものだから、ますます呆気にとられる。
しかし次の瞬間。
「あ、ッ?」
体を押し倒された。両腕が自然と頭上に上がり、まるで磔にされたかのように動かなくなる。クルーシェは笑う。シュミーズドレスが切り裂かれる。
「いやっ」
「淫欲の印は君に似合うな、ジーン。見てみろ、自らの腹を」
乳房が外気に触れて、否応なしに官能が高まることに恐怖した。だが、気になるのは彼の言葉だ。
「印……? えっ……」
首だけをかろうじて動かし確認すれば、裸体の中心――腹部より少し下程度に、複雑な紋様が輝いているのが見える。私が声を喘がせるたび、クルーシェの手が脇腹をなぞるつど……得体の知れない悦楽に反応し、奇妙な模様は明滅していた。
「と、とって。今すぐ……!」
「さあ、もっと麗しい声を聞かせてくれ、ジーン」
微笑み、浮いた声音の彼の手が乳房へと伸びてくることが怖くて、私は目をつむる。
知らない感覚に呑まれることが、恐ろしいから。
◆ ◆ ◆
脇をなぞられた。耳たぶを食べられた。指先で、乳暈を円を描くように触れられた。
「っ、あ、ふあ、ああ……!」
そのつど私の頭はぼうっとしてくる。変な声は出てきっぱなしで、股の奥から熱いものがこぼれていく感触がした。
「可愛いな、ジーン。愛おしくてたまらない。もっと触ってほしいか?」
「ち、が、んぁっ」
耳穴を舐められた感覚は奇妙なもので、ほてった体に気持ちよかった。彼は小さく笑いつつ、そのまま首筋を強く、きつく吸ってくる。
「安心しろ、痛みも快楽に変わる印だ。だが、よく慣らしておきたいのでね」
「いや、もう……やめ、て」
「気丈なところも俺は好きだ。いつも凜然としている君もいいが、蕩けた顔もたまらない」
「~っ! っ、ふぅっ」
太ももの内側を手で揉まれた直後、言い表せない感覚に頭が真っ白になる。
「まだ、足りないな。君にはもっといけないことを教えたい」
クルーシェはそのまま、そっと私の両膝を立てた。指の腹で膝から股関節までを一気にこすり上げ、笑む。
苦しい、だけど気持ちいい――気持ちいいけど、これはきっと、悪いこと――けれど、もう……。
「だ、めぇ……」
和毛近くの恥骨を、指でトントンと響かせるように叩かれた瞬間、全身が痺れた感覚を抱く。自分から出る体液が、シーツを濡らしていて冷たかった。
「君はいつでも凜々しく、優しく、笑顔が素敵な女性だ」
「ひあ、っ」
光る紋様を手のひらで押さえられた瞬間、四肢を駆け巡る官能に背筋がのけ反る。
「自分に厳しいところもたまらない。部屋で一人泣いている君を、俺がどれほどの間、連れ去りたいと思ったか」
快楽の荒波に耐える私を、彼はじっと黒い目で射貫いてきた。
「わ、たしは」
「うん?」
「……そんな、奇麗な、人間じゃありません……」
息も絶え絶えに、それだけを言うのがやっとだ。
涙が溢れる。恥辱にでもそうだが、クルーシェの言う言葉があまりにも美しすぎて。
「わ、私っ……いつも、堅苦しいとか、真面目すぎて、つまらないとか言われてます……」
彼は答えない。一体どんな顔をしているのだろう、涙で見えなかった。
「人にばっかり厳しくて。なんの努力もしないで、誰かに愛されたいとか、さみしいとか思う……欲深い、浅ましい女なんです」
息も絶え絶えに続ければ、クルーシェが静かに、頬に張りついた赤毛を取り去ってくれる。
「君はそう思っているのかもしれない」
「実際、そうです……」
「それらは人から見て悪徳かもしれないが、俺にとっては最高の美徳だよ、ジーン」
彼が、私の頬に優しく唇を落とす。ぞくりとした。その冷たさと、相反する悦楽の熱に。
「ジーン。好きだ、ジーン」
「わ、私が好かれる価値なんて」
「そういう卑屈さすらも愛らしいと思う。俺に愛される覚悟を決めてくれ。共に生涯を誓う仲になってほしい」
――誰かにここまで、求められることがあっただろうか。
鼻をすすりつつ、彼の熱い言葉にぼんやりと思う。
確かに仕事の出来は認められていた。でも、それはしょせん代わりがある状態でのことだ。現にエルザ様は私をいらないものと見ている。
幼いときも両親は不仲で、いつも罵り合いをしていた。だからこそ私は思っていたのだ。一人で生きられるようにならねば、と。
でもそれは、あまりにも辛すぎた。苦しい道のりだった。
真面目にすれば、正しくあれば、いつか誰かに受け入れられると思っていた。けれど事実、今は孤独だ。
「一人、は、いや」
「知っている。君と離れたくないのは俺も同じだ。だからこうして正体を明かした」
「……私なんかで、いいのですか……」
完全に呑まれた――彼の手に堕ちた、と感じた瞬間、クルーシェが私の頬を両手で包みこんでくれる。
「君だからこそだ。君以外の人間を滅ぼしても構わない。どう言えば、この焦がれる思いを伝えられるのだろうな」
温かい手のひらだった。恐ろしいほどに甘い笑顔だ。
返事をしてしまえば、もう戻れない。
(ただの群衆だもの、私は)
もう一人の自分がささやく。
(……堕ちても、構わない)
それがたとえ――人と違う魔族が相手でも、いい。
「あなたのことを、もっと、知りたいです……」
口から出たのはあどけないほど純粋な答えだった。今引き出せる、精一杯の誠意。
「ああ」とクルーシェが息を漏らし、首筋を指でなぞってくる。
腕が動くことに私は気づいた。いつの間にか拘束が解けていたらしい。
思わず胸を隠す私に微笑んだクルーシェが、後頭部を持って全身で抱きしめてくれた。
「愛しいジーン。美しいジーン。……その、口づけをしても?」
わざわざ口に出して問う彼は、意外と誠実なのかもしれない、と思った。堂々とした風格に似合わず、真剣な眼差しでたずねてくる様子はどこか、可愛い。
私は頬を朱に染め、小さくうなずいた。
頬を持ち上げられる。目を閉じた刹那、唇に優しい感触がした。
優しく、熱く、食まれるように舌で輪郭をなぞられれば、再び喜悦の波が押し寄せる。
「んあ、む……」
思わず打ち震える私は、少し苦しくて口を開けた。途端、舌が絡んでくる。舌同士が繋がり、蛇のようにのたうち、くちゅくちゅといやらしい音が室内にこだまする。
「んん、くあ……っん、ふ、ぅ」
知らない安心感と、快楽。腹の紋様から立ち上る熱に、唇同士の熱さに、私はただ彼の胸板に手を当てるだけだ。
私の頭の位置を変え、舌を巧みに転がし、吸い、操るクルーシェに貪られ――それでもいい気がした。
頭がくらくらし、まるで全身の毛穴までが開く感覚。
満たされていると感じた。彼が自分の足りない穴を埋めてくれる気がした。
求められて愛されるということ、その喜びを、私はこの歳でようやく知ったのだ。
「ジーン……」
愛おしげに名を呼んでくれる彼が、顔を外す。自らのシャツのボタンに手をかけているのを見て、私は思わず手を重ねていた。
「あの」
「なんだろうか」
これから行われることを想像し、ますます顔がほてる。それでもなけなしの勇気を振り絞り、私はうつむき加減にささやいた。
「ここでは、その、恥ずかしい……です」
少なくともこの館と部屋は、私という個人を置く場所ではない――そう感じて。
「我が妻はなんとも愛らしいな」
不敵に笑った彼が、マントで私の身を包む。
「では案内しよう、我が城へ。これから共に永住する常闇の魔城へと」
クルーシェの言葉に次いで、私の意識はあっという間に混濁した。
◆ ◆ ◆
気づけば、私は柔らかいベッドの上にいた。裸体のクルーシェが隣にはいて、均整の取れた体に一瞬、見惚れる。だが中心にある男根は大きく反り返っており、言い表せない恐怖に目線を逸らした。
「あ、あの」
「大丈夫だ。言ったはずだろう? 慣らしておきたいと」
「え……あ、っ」
体を優しく押し倒される。肌と肌が触れ合う感覚に、またぞくぞくしたものが込み上げてきた。
「いい香りだ。甘い」
「そんな、ことは……ひっ」
音を立て、うなじから鎖骨までを吸われた。その度に私の体は勝手に反応する。敏感になる。
「ん、んんっ!」
彼の手が私の乳房へと伸びた。そのまま優しく、乳頭と全体を捏ねくり回された。指の間で挟まれ、コリコリとなぶられれば、明滅するような感覚が脳を揺らす。吐息と喘ぎ。身悶えすることしか私にはできない。
「柔らかい……こんなに触り心地がいいものはないな。君の肌は、どこも手に吸いついてくるようだ」
「はあッ、あ、ああ……ん……や、あ」
静止の意味の「いや」なのか、それとも別の意味をなすのか、もうわからなかった。
私に覆い被さった彼は声を無視して胸を蹂躙しつつ、片手で脇腹からお腹、光る印をなぞり、そして。
「んああ……ッ!」
和毛の奥――普段、風呂でしか触らない秘芽をなぞられた刹那、法悦に私の意識が真っ白に飛んだ。全身がガクガクと痙攣する。
「達したな、ジーン。もっと触らせてほしい」
「ひぅっ! いあ、やあっ」
肉芽をつままれ、撫でられ、先ほどと同じ悦楽の渦に呑まれて体を魚のように跳ねさせた。知らない興奮とときめき。心臓が今にも飛び出しそうで、それ以上に四肢から伝わる熱と法悦が、自分を壊していくのがわかる。
「そんなに煽る顔をして……ああ、とてもそそられる」
「だめ、です……これ以上、はぁ……」
享楽の波にさらわれ、喘ぐだけの私をよそに、クルーシェは止まらない。鎖骨や首筋をいじめていた舌と唇が、胸へと降りた。音を立て、豪快に胸の尖りをしゃぶられた刹那、私は快感に目を見開く。
「だめ、ああ!」
雌芯を大切に愛撫されつつ、相反して乳頭を荒ぶるように扱われ、また何度も法悦に達した。
「ゆ、るして、ああ……! も、だめ」
「もっと身を委ねてくれ。まだまだ夜は長いのだから。一晩中、君の全てを愛し尽くそう」
紋様が熱い。恥じらう暇もないまま彼の手に蹂躙される。指や爪先までも性感の痺れを覚え、外気に晒されるだけで跳ねてしまう始末だ。
恥ずかしい――気持ちがいい、満たされていく――もっと、ほしい。
「君はやはり、どこも美しいな」
めまぐるしく渦を巻く思考の中、彼が放つ言葉に、嬉しさか別の何かで涙がこぼれた。
クルーシェが魔王だから、魔族だからとか、そんなことはどうでもよかった。鳥の姿といえど、側にいて励ましてくれた唯一の存在。自分を見つけてくれた優しい人。
「だめ、わた、し……っ! また、またっ」
「何度でも達するといい。愛らしい姿を俺に見せてくれ」
この人になら、何をされてもいい――
「あ、あああ……ッ!」
そう感じた瞬間、快楽が全身を巻きこんで、思考が爆ぜた。
「とても可愛いな。愛おしくてたまらないんだ、君が」
荒い呼気を繰り返し、四肢がふわふわした状態の中、私はどんな顔をしているのだろう。わからないが、なぜか何か足りない、と思う。
そんなこともわかっている、というように、微笑むクルーシェが私の両膝を立てた。
「蜜が、ほしい」
耳元でささやかれるつど、私のお腹が熱くなる。
少し間を置いたのち、彼が不意に体を離した。離れていく熱にさびしさを覚え、手を浮かせた直後だ。
クルーシェの顔が股間へ近づいていたことに気づき、カッと頬が熱くなる。
「何、を……ひっ」
唇で雌芯を食まれた刹那、痛烈な――今までにない気持ちよさに体がうごめく。ふるりと胸が揺れ、思わず腰を彼の顔へと押しつけてしまった。
「や、やっ、ああ、そんな……ぁっ」
舌で愛芯をねぶられ、びくびくと全身がわななく。シーツを掴んで耐える。こらえ切れそうにない快楽が、またもや思考も、恥辱も、全てを壊していく。
全身から汗が噴き出た。逃れようと腰を戻すべく躍起になるが、両手で固定されて動けない。
音を立てて愛液を吸われ、ついには秘路へと、長い指が挿入される。
「んあ、ああ……ッ、やあ、や、んっ」
「少し辛いと思うが我慢してくれ」
「ふあっ、んん、あ、い、や……っ、んああ!」
圧迫感とそれ以上の狂悦に、私は返事もできなかった。悲鳴を上げるだけの人形になった。
二本の指が私の中でうごめき、優しくほどかれていく感触。秘芽と共に隘路をいじくり回され、何度も知らない絶頂に達する。
何度、何回、彼の手で身悶えたことだろう。意識が遠のきそうだ。
「ジーン」
名前を呼ばれた。とうに解けた私の赤毛を優しく梳かしつつ、クルーシェが頭を撫でてくる。
「な、まえ」
「名前?」
「ジュネリーヌ……と、呼んで、ください……」
ジーンという愛称は好きではないから。
私がぎこちない笑みを浮かべてささやくと、彼は黒い瞳を安堵の光で満たした。
「君が望むのならば。俺の愛しの君、ジュネリーヌ」
蕩けた顔で額にキスをされ、私の体に、甘い痺れが流れていく。
「……ジュネリーヌ」
どこか、何かを求めている辛そうなおもてが、私を見ている。
この人が欲しているのは『私』なのだと直感で思い、軽くうなずきつつ微笑んだ。
◆ ◆ ◆
再び口づけをした。舌は強引ではなく、あくまでも優しく、柔らかく私の口腔を犯してくる。
足を広げた秘部へと熱い塊が押しつけられていることを感じ、私は口を離して身を重ねようとするクルーシェを両腕を開いて招いた。
「来て、下さい」
泣き笑いのような笑顔を、彼は浮かべる。心から安堵したかのような笑みは切実で、誠実で、愛おしい。
そのままクルーシェは私の片膝を掴み、滾った肉竿を私の中へ押しこんだ。
「――ッ!」
刹那、訪れたのは生半可ではない悦楽。
苦しさもある。圧迫感ももちろん覚えた。だが痛みはなく、代わりに全身が甘く痺れて呼吸が一瞬、止まる。
「一度に奥まで入れてしまったが……辛いか、ジュネリーヌ」
「あ、ああ……」
返事もできない私の手を握り、指同士を絡めて彼はもう一度、私の名を耳でささやく。
「ジュネリーヌ。君は俺のものだ。俺もまた、君のものとなった」
「……は、い」
絶え絶えに答えると、彼は笑みの形を変えた。
美しく、優しくも見えるが、これからのことを期待し胸を膨らませる魔性の笑み――雄としての顔。
思わず見とれた私に、彼は喜悦交じりに己の唇を舐めて――
「動くぞ」
「ふぁぁっ!」
ぱちゅ、とまたいやらしい水音と共に、ぐりぐりと肉槍の先で奥をつつかれた。脳天までがビリビリと痺れる。
「んあ、ああ! お、なかっ、あつ、いの!」
「締めつけ、が、凄い。くそ、持っていかれる」
いよいよもって、本格的に彼は私を穿ちはじめた。ふるふると胸が揺れ、胸板と乳首がこすれることすら気持ちがいい。
最奥を狙われた私は喘いだ。痛みなど微塵も感じず、伝わってくるのはただの狂悦だった。
「ふ、ふあ、っ、あ、い……あ、やあ!」
ベッドが軋む。私の体は激しく動く。腰を軽く回しながら、ゴリゴリと奥を突かれるつど目の前に閃光が走り、意識が飛びそうだった。
パン、パン、パン、と肉がぶつかる打擲音。それに混ざって、ぐちゅぐちゅと粘着質な水音が響く。
「ひっ、んああ! くあ、ああっ、んあ、い、ああっ」
耳からでもいやらしさを覚え、全身からも享楽を感じ、私は壊れた。
――この人をもっと感じたい。気持ちよくなりたい。この人と。
気づけば私の両腕は、クルーシェの背中に回っていた。たくましい背中は熱く、私と同じで汗を掻いている。
「ああ……さい、こうだ。気持ちがいい、ジュネリーヌ」
「ふっ、んっ、あっ! や、んっ、ああっ……きも、ち、いいっ」
蜜壺を穿つ巨根は隘路をくまなく満たし、先端と男竿の筋にも、自分の肉路がぴくぴくと反応しているのがわかった。
「君を離さない。誰にもくれてやるものかっ」
「ん、んんぅ! お、く、ああっ……」
「愛している。愛しているんだ、ジュネリーヌっ」
こすり上げられ、突かれ、目を閉じて悦楽を味わう。腰が痺れる。全身がおかしくなる。何度も、何度も、どこか知らない場所へと導かれる。
「ジュネリーヌ、ああ……一度、出す、から。一緒に」
「ひうんっ! んあ、あああ! き、てっ……来て、下さい、クルーシェさま……ッ」
私がより深く、官能のるつぼに叩きこまれそうになったとき、いっそうクルーシェの動きが速くなった。チカチカする。目の前がクラクラ、チカチカと明滅する。
「く、っ!」
「――っ、ひ、あああああああっ!」
腰を持ち、彼が胎の奥へと熱い飛沫を吐き出した刹那、その奔流のすさまじさに、私も今まで以上の法悦へと叩きつけられた。
「く、そ……なんだこの体は……っ」
息が苦しい。悪態をつく彼の頬に、それでもおずおずと手を当てる。
「ク、ルーシェ、様……?」
「可愛くて奇麗な上に、俺の精をこんなに早く搾り取るとは……、な」
彼は笑った。褐色の肌に、金糸のように長髪がまとわりついている。その姿は恐ろしいほど美しい。
クルーシェが頬にキスをしてくれる。そのまま耳元へ唇が移動し、吐息が耳朶を叩いた。
「まだまだこれからだ。欲情熱の魔王の力、見くびるなよ」
「は、はい……」
私はそっと、自分の腹部を見てみた。
淫欲の印はまだ、消えていない。
◆ ◆ ◆
私がクルーシェ様の城――魔界とやらで過ごすこととなり、何日が過ぎたのだろう。
「ジュネリーヌ、今日は君の好きそうな宝石を持ってきた」
「まあ……持ってきた、だなんて、また何か無茶をなさったのではないですか?」
「そんなことはない。それにこのルビーは、君の目の色と髪の色に近いんだ。気に入ると思ったから」
人と魔族が仲良くなることはないのかもしれないし、逆もあるだろう。
「奇麗、ですね」
「君の方が美しいが?」
「も、もう。おせじを言っても何も出ませんよ」
これからのことは私にはわからない。けれど、一つだけはっきりしていることがある。
「……クルーシェ様」
「どうした」
私に植えつけられた淫欲の印は、未だ輝いているのだ。
「また、していただいても……いいですか?」
「好きなだけ。君が望むままに、ジュネリーヌ」
私はただの群衆で、光り輝く舞台に躍り出ることはないけれど。
――彼の温もりが幸せを運んでくれる気がする。
◆ ◆ ◆
俺がジュネリーヌを見初めたのは何も、同情からだけではない。
凛然とした瞳の中にある諦観の念、一人部屋の中で嗚咽を堪えるときにあふれ出ていた絶望感――人間でいうところの『負の感情』に当初は興味を抱いたからだ。
魔族が好むそれらは、とても甘美なものだった。
あの聖女とかいう娘に水をかけられ、物をぶつけられ、周囲から助けも得られない状態は、知らぬ間に魔王たる俺の気持ちすら揺るがす闇の思いを漂わせていたから。
「ジュネリーヌ」
「はい、クルーシェ様」
だが今は、ジュネリーヌの柔らかい笑顔が俺の中に眠っていた『優しさ』をくすぐる。
同時に、手がつけられないほどの欲情も。
「ジュネリーヌ、愛している」
彼女の細い顎を持ち上げてささやけば、ルビーにも似た深い瞳が潤む。
ジュネリーヌが好む黄金の花畑の中、俺はためらうことなく彼女と唇を重ねた。
最初はゆっくり、全体を食むように吸い、閉じられた部分を舌で何度も愛撫する。
「ふ、む……んん、むっ、あ……」
頬を紅潮させたジュネリーヌは甘い吐息を漏らし、どこか恥じらいつつ、俺の胸板に手を添えてきた。これは「待って」の合図だと知っている。
しかし俺は構わず、彼女の後頭部を手で引き寄せた。降ろした髪の滑らかなことといったら、品のいいシルクにも勝る。
そのまま、自然と開いた口の中へ舌をねじこんだ。舌先を吸い、歯列をなぞり、口腔内を丁寧になぶっていけば、ジュネリーヌは肩を震わせる。
「そと……」
「どうした?」
一瞬、顔を外したときのつぶやきを、俺は聞き漏らさない。答えはわかっているものの、少しいじめたくなってくる。
「こ、ここは、外……です。誰かが来たら」
「見せつけてやればいい」
「はず、かしい、の」
顔を真っ赤にしてかぶりを振る彼女の愛らしさは、やはり何物にも代えがたい。
確かにこの花畑と四阿は、ジュネリーヌのために作ったものだ。廊下や部屋の近くにあり、部下たちの往来も盛んだった。
「ならば場所を変えるか」
俺の言葉に、彼女は照れ臭そうにうなずく。
何も「寝室に」とは言っていないのだが――と内心でほくそ笑みつつ、俺はジュネリーヌの体をマントで包んだ。
◆ ◆ ◆
「ふぁ、あ! んっ、ん、あ、ひぅっ!」
四阿のベンチの上で――俺はジュネリーヌの痴態を心ゆくまで堪能していた。
めくれたスカートと腰が上下するたび、白い肌と腹部の淫紋が薄暗がりに光る。明滅する淫欲の印は精液を待ちわびて、彼女へより強い熱を与えていることだろう。
コルセットで押し上げられた胸を吸い、赤いあざをつければ、俺の肉楔をしごく蜜路が一層狭まる。
「や、あんっ! ひあ、ふ、あ、あ!」
「気持ちいいな、ジュネリーヌ」
ごりごりと中の肉を穿つつど、淫筒がきゅうきゅうに締まり、俺へ堪えがたい興奮と淫悦を伝えてきた。ほぐれた隘路は男槍へよくなじみ、溢れ出る愛蜜が互いの叢を濡らす。
「や、らぁ……! だ、めっ……そ、こ、っ」
ジュネリーヌは対面で俺の肩に手をかけ、涙と涎を垂れ流している。どうやら下から胎をほじられる感覚に、何度も法悦を覚えているようだ。
俺は微笑みつつまろび出た尻を掴み、柔らかく揉んでやる。途端びくりとうごめく肢体に、蜜壺が収縮する感覚。愉悦に蕩けた顔と、恥じらいと喜悦に揺れ動く気持ち。それらを見て感じとった俺すら興奮してくる。
「あついの、体……! お腹、きゅうって、する……ッ」
「欲しいんだろう? 俺の、子種が」
「んあぁ、言えない、っ……! そんなの、ダメ……!」
子どもがするように首を振り、俺へ抱きつくジュネリーヌは淫美で、誰よりも可愛いらしかった。
淫欲の印は俺が丹念に精を注ぎ、子が無事に産まれるまで――完全に彼女が『魔族』になるまで消えることはない。ただ、人を同族に堕とすのは難しく、定期的に欲を与えなければ効果が消えてしまう。
しかしこの様子だと、ジュネリーヌは予想より早く、俺の同胞になるはずだ。
「君の好きな部分は、もうわかっている」
「ひ、あんっ! 奥……だめ、だめ、突か、ないで……っ!」
響き渡る嬌声に笑み、俺は尻と腰を掴んで逃げられないよう捕らえた。
最奥近く、彼女がより感じる部分を肉槍の先でつついてやれば、ジュネリーヌは喉をのけぞらせて悶える。
陰茎から伝わる熱と心地よさは最高の快楽だ。痺れるような射精感が背筋を伝い、俺はその刺激に、たまらず彼女へと激しく腰を打ちこむ。
「何、が、欲しい? ジュネリーヌ」
「あっ、あ! ひあ、ん、んー!」
「言わないとやめてしまうが」
少しペースを落とすと、物足りなさを覚えたのか――四肢をわななかせながら、ジュネリーヌは俺の体に抱きついてきた。
「……子種……クルーシェさまの、精液、欲しい、です」
ささやかれた言葉のいやらしさに、俺は唇をつりあげる。
「ああ……ジュネリーヌ。よく言えたな」
「ふ、ああ!」
頭を撫でつつ、再び最奥を穿つ。肉筒を抉って蹂躙するつど、激しく胸を震わせて涙する彼女が愛おしく、ますます魅了された。
「わ、たしっ! も、ダメ……くる、くるの、おっきいの……!」
「出す、ぞ。受け止めて、くれ」
こくこくとジュネリーヌはうなずく。両方の尻を掴んで淫竿を何度も奥へと抽送させた直後、耐えがたいほどの法悦が俺を包んだ。
「ク、うっ……!」
「んん、んあ、ひあ! あー……ッ!!」
甘い絶叫とより強い収斂に、ただただ精を放つ。
数回こすり上げ、吐精の残りすら肉筒の奥――子宮へと注ぎこみ、俺は大きな息をついた。
崩れる彼女の体を抱き留めれば、同時に、結合部からこぷりと白濁した液体が漏れたのがわかる。
「大丈夫か?」
「……」
ジュネリーヌの頬に手を触れて聞いたものの、彼女から返事はない。
「ジュネリーヌ?」
「寝室で、その、するものだと思いましたのに」
「いやそれは」
「それは?」
君の色香に当てられて、とつぶやいて視線を逸らす。
「気持ち……よかった、です」
クスッと笑った彼女が、頬の手に頬擦りしてきた。愛おしい所作に俺の胸は熱くなる。どうしようもなく満たされた気持ちになる。
「愛している、ジュネリーヌ」
「わたしも……クルーシェ様を愛しております」
疲れ切った笑顔が、それでもとてもまぶしく見えた。
三百年以上の時を過ごし、ようやく心満たす存在が現れた事実に俺も微笑む。
この変えがたい、離せない温もりのことを――人は幸せと呼ぶのかもしれない。
【完】
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