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東海家は、最初は小さなデパートを細々と経営する一家だった。しかし、志野の父・志朗が跡を継いでからはそれが一変。周りの小さな店を取り込んで傘下にし、どんどん店を大きくしていった、らしい。志野はまだ生まれていないときの話なので、人から聞いた話なのだが。
まあとにかく、志野の父の活躍により、東海家は一代で大きく成長し、有数の資産を所持する大富豪になったというわけである。そして志野は、その東海家の長男、つまり跡継ぎだった。
志野は現在十五歳。まだまだ遊びたい盛りなので、後継ぎとしての教育はほぼ受けていないに等しい。大学に入ると同時にどんどん詰め込んでいくらしい、作法とか経営に関する知識とかとにかく必要なものを。ちなみに教育が始まったら嫌でも厳しくしなければいけないから今のうちにと、志野は両親に思いきり溺愛されていた。
それを思い返して、志野は大きく溜め息をつく。気分は悪くないけれど、なんとなく憂鬱なのだ。理由は今日見た夢のせいで思い出した、前世の記憶である。
前世の志野は、”朝隈詩乃”という名前の少女であった。そう、”少女”だったのである。名前が漢字は違うけれど同じというそこそこ重大なこと以上にその記憶は衝撃的だった。なにせ、これまで男として生きてきたのに急に少女としての記憶が入ってきたのである。…仕草が、どことなくお淑やかになった。小柄な方とはいえ男が女子っぽい仕草をするのは、はっきり言って気持ち悪かった、自分だけど。自分だけど。
そして、さらに衝撃的なことがもう一つ。詩乃であったときに自分には、好きな人がいた。いやまあそれは大学生だしお年頃なので、あまりおかしなことではない。ないのだが、その相手が悪かった。
…詩乃と同じ、”少女”であったのである。その、好きな相手というのが。つまりは同性愛者。あまりの衝撃に、志野は叫び声すらも出せずに静かに天を仰いだ。アーメン。
その”恋心”までもを思い出してしまった今、その彼女が愛しいという気持ちがどんどん湧き上がってくる。え? 会ったことないのにって?
(これが、いるんだよなぁ──!! ”彼女”の生まれ変わりが!!)
”彼女”は、志野の幼馴染みで、変わらず少女だった。ちなみに容姿もほぼほぼ変わっていなかったので記憶さえ思い出せばすぐに解った、解ってしまった。これで”彼女”がいなければ諦めることができたのに。
”彼女”の名前は藤堂佳乃。志野の住むマンションの隣の部屋に住む幼馴染みであり──志野と血の繋がった、従兄妹であった。なお、名前すらも(苗字以外は)全く同じである。それが判明したとき志野は泣いた。部屋に遊びに来た母親がぎょっとしてものすごく心配されて恥ずかしすぎた。しにたい。
けれど、絶望したと同時に、志野は僅かな希望を抱いた。それは、「今の自分は男なのだから、普通に付き合えるのでは?」というものである。その思考に辿り着くまで一週間はかかったけれど、よくよく考えれば前世より希望はあるのである。なにせ異性なので。意識させやすいし、なにより世間から冷たい目で見られることもないであろう。
けれど、そんなに簡単にいくはずもなく。告白する勇気がないというのもそうだが、大富豪の跡継ぎということで、志野にはいるのだ。”婚約者”が。
(せっかくまた会えたのに…! 世間体も人の目も気にせずアタックできるようになったのに…!! なんでこうもうまくいかないかなぁ?!)
イライラしすぎて壁を殴ったけれど、完璧な防音設備が整った高級マンションでは隣に響くこともなくただ手が痛くなっただけだった。考えなしの馬鹿か自分はと志野は自分を責めた。が、余計につらくなったのでやめた。
まあ、とにかく。
そんな思考をするようになってしまったので、”東海志野は藤堂佳乃に恋をしている”という事実だけは、志野は渋々ながらも認めるしかなかったのである。
まあとにかく、志野の父の活躍により、東海家は一代で大きく成長し、有数の資産を所持する大富豪になったというわけである。そして志野は、その東海家の長男、つまり跡継ぎだった。
志野は現在十五歳。まだまだ遊びたい盛りなので、後継ぎとしての教育はほぼ受けていないに等しい。大学に入ると同時にどんどん詰め込んでいくらしい、作法とか経営に関する知識とかとにかく必要なものを。ちなみに教育が始まったら嫌でも厳しくしなければいけないから今のうちにと、志野は両親に思いきり溺愛されていた。
それを思い返して、志野は大きく溜め息をつく。気分は悪くないけれど、なんとなく憂鬱なのだ。理由は今日見た夢のせいで思い出した、前世の記憶である。
前世の志野は、”朝隈詩乃”という名前の少女であった。そう、”少女”だったのである。名前が漢字は違うけれど同じというそこそこ重大なこと以上にその記憶は衝撃的だった。なにせ、これまで男として生きてきたのに急に少女としての記憶が入ってきたのである。…仕草が、どことなくお淑やかになった。小柄な方とはいえ男が女子っぽい仕草をするのは、はっきり言って気持ち悪かった、自分だけど。自分だけど。
そして、さらに衝撃的なことがもう一つ。詩乃であったときに自分には、好きな人がいた。いやまあそれは大学生だしお年頃なので、あまりおかしなことではない。ないのだが、その相手が悪かった。
…詩乃と同じ、”少女”であったのである。その、好きな相手というのが。つまりは同性愛者。あまりの衝撃に、志野は叫び声すらも出せずに静かに天を仰いだ。アーメン。
その”恋心”までもを思い出してしまった今、その彼女が愛しいという気持ちがどんどん湧き上がってくる。え? 会ったことないのにって?
(これが、いるんだよなぁ──!! ”彼女”の生まれ変わりが!!)
”彼女”は、志野の幼馴染みで、変わらず少女だった。ちなみに容姿もほぼほぼ変わっていなかったので記憶さえ思い出せばすぐに解った、解ってしまった。これで”彼女”がいなければ諦めることができたのに。
”彼女”の名前は藤堂佳乃。志野の住むマンションの隣の部屋に住む幼馴染みであり──志野と血の繋がった、従兄妹であった。なお、名前すらも(苗字以外は)全く同じである。それが判明したとき志野は泣いた。部屋に遊びに来た母親がぎょっとしてものすごく心配されて恥ずかしすぎた。しにたい。
けれど、絶望したと同時に、志野は僅かな希望を抱いた。それは、「今の自分は男なのだから、普通に付き合えるのでは?」というものである。その思考に辿り着くまで一週間はかかったけれど、よくよく考えれば前世より希望はあるのである。なにせ異性なので。意識させやすいし、なにより世間から冷たい目で見られることもないであろう。
けれど、そんなに簡単にいくはずもなく。告白する勇気がないというのもそうだが、大富豪の跡継ぎということで、志野にはいるのだ。”婚約者”が。
(せっかくまた会えたのに…! 世間体も人の目も気にせずアタックできるようになったのに…!! なんでこうもうまくいかないかなぁ?!)
イライラしすぎて壁を殴ったけれど、完璧な防音設備が整った高級マンションでは隣に響くこともなくただ手が痛くなっただけだった。考えなしの馬鹿か自分はと志野は自分を責めた。が、余計につらくなったのでやめた。
まあ、とにかく。
そんな思考をするようになってしまったので、”東海志野は藤堂佳乃に恋をしている”という事実だけは、志野は渋々ながらも認めるしかなかったのである。
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