2 / 3
1-1
しおりを挟む
東海家は、最初は小さなデパートを細々と経営する一家だった。しかし、志野の父・志朗が跡を継いでからはそれが一変。周りの小さな店を取り込んで傘下にし、どんどん店を大きくしていった、らしい。志野はまだ生まれていないときの話なので、人から聞いた話なのだが。
まあとにかく、志野の父の活躍により、東海家は一代で大きく成長し、有数の資産を所持する大富豪になったというわけである。そして志野は、その東海家の長男、つまり跡継ぎだった。
志野は現在十五歳。まだまだ遊びたい盛りなので、後継ぎとしての教育はほぼ受けていないに等しい。大学に入ると同時にどんどん詰め込んでいくらしい、作法とか経営に関する知識とかとにかく必要なものを。ちなみに教育が始まったら嫌でも厳しくしなければいけないから今のうちにと、志野は両親に思いきり溺愛されていた。
それを思い返して、志野は大きく溜め息をつく。気分は悪くないけれど、なんとなく憂鬱なのだ。理由は今日見た夢のせいで思い出した、前世の記憶である。
前世の志野は、”朝隈詩乃”という名前の少女であった。そう、”少女”だったのである。名前が漢字は違うけれど同じというそこそこ重大なこと以上にその記憶は衝撃的だった。なにせ、これまで男として生きてきたのに急に少女としての記憶が入ってきたのである。…仕草が、どことなくお淑やかになった。小柄な方とはいえ男が女子っぽい仕草をするのは、はっきり言って気持ち悪かった、自分だけど。自分だけど。
そして、さらに衝撃的なことがもう一つ。詩乃であったときに自分には、好きな人がいた。いやまあそれは大学生だしお年頃なので、あまりおかしなことではない。ないのだが、その相手が悪かった。
…詩乃と同じ、”少女”であったのである。その、好きな相手というのが。つまりは同性愛者。あまりの衝撃に、志野は叫び声すらも出せずに静かに天を仰いだ。アーメン。
その”恋心”までもを思い出してしまった今、その彼女が愛しいという気持ちがどんどん湧き上がってくる。え? 会ったことないのにって?
(これが、いるんだよなぁ──!! ”彼女”の生まれ変わりが!!)
”彼女”は、志野の幼馴染みで、変わらず少女だった。ちなみに容姿もほぼほぼ変わっていなかったので記憶さえ思い出せばすぐに解った、解ってしまった。これで”彼女”がいなければ諦めることができたのに。
”彼女”の名前は藤堂佳乃。志野の住むマンションの隣の部屋に住む幼馴染みであり──志野と血の繋がった、従兄妹であった。なお、名前すらも(苗字以外は)全く同じである。それが判明したとき志野は泣いた。部屋に遊びに来た母親がぎょっとしてものすごく心配されて恥ずかしすぎた。しにたい。
けれど、絶望したと同時に、志野は僅かな希望を抱いた。それは、「今の自分は男なのだから、普通に付き合えるのでは?」というものである。その思考に辿り着くまで一週間はかかったけれど、よくよく考えれば前世より希望はあるのである。なにせ異性なので。意識させやすいし、なにより世間から冷たい目で見られることもないであろう。
けれど、そんなに簡単にいくはずもなく。告白する勇気がないというのもそうだが、大富豪の跡継ぎということで、志野にはいるのだ。”婚約者”が。
(せっかくまた会えたのに…! 世間体も人の目も気にせずアタックできるようになったのに…!! なんでこうもうまくいかないかなぁ?!)
イライラしすぎて壁を殴ったけれど、完璧な防音設備が整った高級マンションでは隣に響くこともなくただ手が痛くなっただけだった。考えなしの馬鹿か自分はと志野は自分を責めた。が、余計につらくなったのでやめた。
まあ、とにかく。
そんな思考をするようになってしまったので、”東海志野は藤堂佳乃に恋をしている”という事実だけは、志野は渋々ながらも認めるしかなかったのである。
まあとにかく、志野の父の活躍により、東海家は一代で大きく成長し、有数の資産を所持する大富豪になったというわけである。そして志野は、その東海家の長男、つまり跡継ぎだった。
志野は現在十五歳。まだまだ遊びたい盛りなので、後継ぎとしての教育はほぼ受けていないに等しい。大学に入ると同時にどんどん詰め込んでいくらしい、作法とか経営に関する知識とかとにかく必要なものを。ちなみに教育が始まったら嫌でも厳しくしなければいけないから今のうちにと、志野は両親に思いきり溺愛されていた。
それを思い返して、志野は大きく溜め息をつく。気分は悪くないけれど、なんとなく憂鬱なのだ。理由は今日見た夢のせいで思い出した、前世の記憶である。
前世の志野は、”朝隈詩乃”という名前の少女であった。そう、”少女”だったのである。名前が漢字は違うけれど同じというそこそこ重大なこと以上にその記憶は衝撃的だった。なにせ、これまで男として生きてきたのに急に少女としての記憶が入ってきたのである。…仕草が、どことなくお淑やかになった。小柄な方とはいえ男が女子っぽい仕草をするのは、はっきり言って気持ち悪かった、自分だけど。自分だけど。
そして、さらに衝撃的なことがもう一つ。詩乃であったときに自分には、好きな人がいた。いやまあそれは大学生だしお年頃なので、あまりおかしなことではない。ないのだが、その相手が悪かった。
…詩乃と同じ、”少女”であったのである。その、好きな相手というのが。つまりは同性愛者。あまりの衝撃に、志野は叫び声すらも出せずに静かに天を仰いだ。アーメン。
その”恋心”までもを思い出してしまった今、その彼女が愛しいという気持ちがどんどん湧き上がってくる。え? 会ったことないのにって?
(これが、いるんだよなぁ──!! ”彼女”の生まれ変わりが!!)
”彼女”は、志野の幼馴染みで、変わらず少女だった。ちなみに容姿もほぼほぼ変わっていなかったので記憶さえ思い出せばすぐに解った、解ってしまった。これで”彼女”がいなければ諦めることができたのに。
”彼女”の名前は藤堂佳乃。志野の住むマンションの隣の部屋に住む幼馴染みであり──志野と血の繋がった、従兄妹であった。なお、名前すらも(苗字以外は)全く同じである。それが判明したとき志野は泣いた。部屋に遊びに来た母親がぎょっとしてものすごく心配されて恥ずかしすぎた。しにたい。
けれど、絶望したと同時に、志野は僅かな希望を抱いた。それは、「今の自分は男なのだから、普通に付き合えるのでは?」というものである。その思考に辿り着くまで一週間はかかったけれど、よくよく考えれば前世より希望はあるのである。なにせ異性なので。意識させやすいし、なにより世間から冷たい目で見られることもないであろう。
けれど、そんなに簡単にいくはずもなく。告白する勇気がないというのもそうだが、大富豪の跡継ぎということで、志野にはいるのだ。”婚約者”が。
(せっかくまた会えたのに…! 世間体も人の目も気にせずアタックできるようになったのに…!! なんでこうもうまくいかないかなぁ?!)
イライラしすぎて壁を殴ったけれど、完璧な防音設備が整った高級マンションでは隣に響くこともなくただ手が痛くなっただけだった。考えなしの馬鹿か自分はと志野は自分を責めた。が、余計につらくなったのでやめた。
まあ、とにかく。
そんな思考をするようになってしまったので、”東海志野は藤堂佳乃に恋をしている”という事実だけは、志野は渋々ながらも認めるしかなかったのである。
0
あなたにおすすめの小説
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる