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ジョアン兄さんとの再会
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ジョアン兄さんはたしか王国騎士団に入ったはずだ。それが何でここに?そのわけはすぐにわかった。
団長のお引きがあったんだ。まあ優秀な兄さんだ。確か誘いがあったって言ってたもんな。でも王宮騎士団だなんて、えらい出世じゃないか。
「大きくなったな。背も伸びた」
「あたりまえだよ。もうぼくは十三だし」
「そうか、あれから三年も経っちまったか」
「兄さん元気そうで嬉しいよ」
「ああ俺もさ。今日はどうして?あれ?なんでラフレシアさまと?しかも一緒に馬に?信じられん。あの鉄の処女に?」
なにそれ恐いあだ名。もうキャラクター設定固定でいいね。
「なんだ、あんたたち知り合い?」
「はい、ラフレシアさま。こいつはわたくしの弟です」
「ああ、なんだそうなの。ざーんねん」
「なにが残念なんですか?」
そうだ。よくぞ聞いてくれた、愛する兄上。
「暇だから拷問でもして根掘り葉掘りいろいろ聞き出そうと思ったのよ」
聞かないでほしかったそういうことは!
「ま、まさか」
「冗談よ、ジョアン。こいつ、ダルメシアの兵十数人をひとりで倒しちゃったのよ。お礼かたがた話を聞こうと」
いや数人だ。盛りすぎだよそいつは。
「まさか!い、いや、ありえるかも…」
ジョアン兄さんはぼくを見て、なにやら納得してしまった。まあそうだけどね。兄さんの想像どおりですよ。いけませんか?
「そんなに強そうには見えないんだけど」
「いえ、デリアは小さいころから文武に秀でて」
「まああんたがそう言うんならそうなんでしょうね」
兄さんすげえ。きっとここではさぞかしいい地位に…。
「じゃ馬お願い」
「かしこまりました」
おいおい、いい地位じゃないのか?
「あんたはこっち。そうかー、準男爵の家のやつかー」
なんか楽しそうです。きっと召使でも見つけた気になってんでしょうね。でもぼくは働きませんよ。ニートなんですからね。あんたたちが騎士道なら、こっちは由緒正しいニート道まっしぐらですから!
でかいテントだった。中は広く、明るかった。なぜかそこら中にぬいぐるみや花が飾られていた。まるで女の子の部屋に迷い込んでしまったようだ。気恥ずかしくていたたまれない。帰りたい。
「そこに座んなさいよ」
「は?どこに?」
椅子なんかないじゃないか。ベッドがあるだけで。地面に座れってか?まるで犬扱いだな。
「何言ってんのよ。そこの寝台しかないじゃない。バカなの?」
「バカって言うな」
「あ、ごめん。本当にバカそうだったから」
「ケンカ売ってる?ねえ、ぼくに」
「冗談よ。なんか飲む?水しかないけど」
「い、いただきます」
振り向くと甲冑を脱ぐところが見えた。おいおい、こんなところで着替えるか普通。
「あ、あの!」
「座ってて。いえ、ねえちょっとここ外して。背中の留め金」
「は、はい?」
「前に肩に矢傷を負って、そこまで手が届かないのよ」
「あ、ああ」
ぼくはドキドキしながら甲冑を脱ぐのを手伝った。ますますいい匂いがぼくの鼻の奥まで襲いかかってきた。
「ありがと。助かったわ。ちょっと着替えるから後ろ向いてて。見たら殺すわよ」
「は、はい!」
衣擦れってやつですか?その音はぼくの想像をかき乱して余りある音でした。ぼくは振り向きたい衝動をかろうじて抑えることに成功した。ああ命拾いした。
「今日はありがとう」
そう言って彼女は銀の盃を渡してくれた。
「い、いえ、な、成り行きでああなってしまって…」
「あんたもうちょっと自慢とか誇るとかしないと、誰も目に止めてくれないわよ。いくら強くても」
「い、いえ、誰の目にも止まらないのがぼくの信条でして」
「変わった信条ね?」
「親父の遺言で」
「あれ?いつあんたのお父さん亡くなったのよ?」
「え?」
「あたしはラフレシア・リエゼ・オーウェン。聞いたことないかしら」
「オーウェン?」
オーウェン…オーウェン伯爵家か!隣の大領主じゃないか!その娘、なのか…?
「た、大変失礼しました!伯爵家のご令嬢だとはつゆ知らず」
「みんな知ってるけどね」
「い、いえわけあって家とかはなれてたので、その…」
「あんたでしょ。いま気がついた」
「なにが、でございますですか?」
「そのいい加減な敬語やめない?」
「すいません」
ぼくの何を気づいたんだ?伯爵家とは何の接触もないぞ?
「ミントンの大奇跡よ」
「はい?」
「知らない者はいないわ、この国じゃ、ね」
「なんですか、それ」
「とぼけたって駄目。この情報仕入れるのにうちの伯爵家はどれだけお金使ったか、あんた想像できないでしょ?」
そりゃそうだけど、言ってくれりゃあタダで教えたのに。
「収穫量を十倍にし、住民を増やし、超栄えさせた。いまじゃ伝説よ」
収穫量は十倍じゃない。二十倍だ。それに伝説ってなんだ。まだそんなに日数経ってないぞ。
「そのときの代官があんた」
ゲ、知ってんのか!
「そういう噂もありますが、それはぼくじゃありません。ヨン・ヘルゲンスという人とジョセフというひとがやりました」
ヨン爺にはここで罪を背負ってもらおう。ジョセフは…まあいいか。
「バカね。さっきも言ったでしょ?大金出したって。すっかり調査済みってこと。集団見合いには笑ったけどね。あとワインとビール…さあまだなにか?」
こりゃ逃げ場はないってことだね。まいったなあ。まああの化学肥料のプラントのことはわからないんだろう。まだ稼働前だしね。このまま知らないでもらいたいもんだ。じゃないと歴史が変わるからね。
「まいったなあ。そこまで知ってんのか」
「ウフフ。ねえ、あたし今の気分、わかる?」
「いえぜんぜん」
「超ラッキーってやつよ」
「なぜですか?」
「おかしいわね。あんたの価値よ。わかんないかなあ?」
「わかるわけないじゃないですか。『金もダイアも自らの価値を知らず、ただ輝くのみ』、ってやつです」
「なにそれ」
今作りました。
「とにかくあんたの価値。強くて頭がよくて行動力がある。これは秀逸なる人材よね?」
「いやそんな買いかぶらないで」
ニートがぼくの目標なんです!なんですか仕事いっぱいしそうなそれは。真逆です。まったくぼくの真逆野郎ですそれ!
「とりあえずあんたにはこの騎士団に入ってもらうわ。いいわね?」
「いやといったら?」
冗談じゃない!マジにニートと真逆世界だ。やってられっか。
「あんたの兄さんがうちに帰されるだけ。つまりクビ」
「なんですとー!」
兄さんは関係ないだろ、ってロジックは通用しないんだろうな。ああ、こんなところで人質取られるとは不覚だ。まあいいさ。いいよいいよ。どうせ明日にはぼくは自由だからな。なんせスキル『一日一願』があるんだから。いっひっひ。
「さあどうすんのよ!」
ぼくはがっくりと首を垂れた、ふりをした。一応演技しておかないとね。
「わかりました。お言葉に従います」
「フフフ、そう来なくっちゃ。じゃあ乾杯しましょ、水だけど。誓いの盃ってやつよ」
「はあ」
この子の思惑がどこにあるのかは知らない。だが明日にはなかったことになる。ちょっと気が引けたが、ぼくのニート道の障害にはなる。情けは要らない。ここは冷徹になるんだ!
その夜は、ぼくは兄さんたちのテントで寝た。みんな根掘り葉掘り聞いてきた。みんなが感心した。そしてみんなが寝静まったころ、ぼくはテントの外の、空いっぱいに広がる星を見ていた。
「眠れないのかい?」
「兄さん」
「俺のために騎士団に入ったんだろ?無理しなくていいのに」
「ぼくは兄さんにどれだけ迷惑をかけて、そして世話になったか。こんなんじゃ、お返しにもならないよ」
「そんなことはないよ。もう充分だ。な、あの力使うんだろ?」
「えへへへ、ばれた?兄さんには迷惑かけないからね」
「ちゃっかりしてるな。でもお前はおまえの好きな生き方をすればいい。俺はそれが一番嬉しいんだ」
ああ、兄さんありがとう。まったくアダムス兄さんとほんとに兄弟なのか?まったく信じられん!
星がひとつ、流れた…。
「招集っ!全員集まれっ!敵の襲来だ!」
でかい声で誰か叫んでいた。みな大騒ぎで甲冑を着こんでいた。
「デリア!ちょっと来なさいよ!」
ラフレシアがテントの中から叫んでいた。なんじゃ?
「なんですかー」
ぼくはテントの外から声をかけた。もういいかげんぼくはスキルを発動してここからおさらばしなきゃならんのですけど。
「いいから入って!それで後ろとめて!」
それか。まったく、いままでどうしてたんだよ。
「入るよ」
「はよはよ。敵が来ちゃうわよ」
下着の上から甲冑って着るのか。知らなかった。
「どこ見てんのよ!早く後ろとめて」
「はいはい」
ぼくはいやいやながら甲冑を着せた。まあ、いい匂いはしっかり嗅いだけど。ご褒美だ。
「剣と兜」
「はいはい」
「あんたは?」
「え?」
「あんたの甲冑は?」
「そんなもん持ってません」
「呆れた。そんなんで戦場に出ようなんて」
知らんがな!いきなり言われても困るよね。だいたい甲冑ってどこで売ってるんだよ。
「仕方ないな。アリア!」
「ご用ですか、姫」
「あたしの予備の甲冑を」
「お言葉ながら姫の予備の甲冑は、殿方には無理かと。その…サイズが」
そう言われてラフレシアはまじまじと俺の身体を見て、ちょっと顔を赤らめた、なんで?
「そ、そうね…」
「では騎士団の予備をお持ちしますか?」
「そうして頂戴。でも時間がないから早くね」
「ぼくが行くよ。その方が早いからね」
「わかった。砦の広場にいるわ。早くね。それと武器も忘れずに」
「ぼくがそんな間抜けに見える?」
「うーん、なんだか知らないけど、そんな気がしただけ」
ご明察だ。ぼくも今まで気がつかなかった。聞いてよかった。
「さ、こちらです」
きっとこの子も騎士なんだろう。凛々しい甲冑姿だ。いつもこの子に背中の留め金を留めさせているのかな?まあ、今度からはまたこの子の担当だね。
武器庫のようだった。槍や剣があった。弓もある。銃とかはないとこ見ると、ここはやはり中世なんだな。
「そこにあるので適当に」
いっぱいあった。どれも形や色がちがう。どれでもいいのかな?おお、なんか真っ白いかっちょいいのがあった。
「じゃこれ」
「はあ?」
「どうしたの?」
「そ、それは儀礼用のやつで…」
「そうなの?真っ白くてかっちょいいな」
「かっちょ…?い、いえ、それは戦場であまりにも目立ちます!つまり多くの敵、しかも弓矢までひきつけます」
「そうなの。目立つってことね」
「そういうことです。ですからそれはやめた方が」
別にスキル発動しておさらばするんだから少し目立ったってかまわないよね?どうせ誰も覚えていないだろうし。ぼくのことなんか。うっひゃっひゃ。
「もうこれにするって決めたんだからこれでいいよ。あ、武器適当に選んどいて」
「はあ…」
もう知らないって顔してた。まあいいじゃない。ほんとに知らないってなるんだからね、もうすぐ。
「その甲冑にはこの弓とこの剣…」
「どうかした?」
「いえその。なんというか、かっちょいい…」
は?何言ってんのこの子?
広場に向かうとみんなジロジロ見た。そんなにおかしいか?白い甲冑。まあみんな銀色だしね。団長かな、あれ。真っ黒な甲冑だ。カッコいいな。その真っ黒甲冑が近づいてきた。
「おまえがジョアンの弟のデリアか。よく来た。そしてわが戦場にようこそ。さすがうわさに聞く男だな。戦場でも伝説を創りたいとは、こりゃあ頼もしい」
けっしてそういうつもりじゃないんです、おじさん。
「わたしの名はドレイク。王宮騎士団団長だ」
「よろしくでーす」
「うむ、さすがだ。緊張のひとつもしておらんとは」
だってすぐにいなくなっちゃうからでーす。
「では乗馬!敵はすぐ来る。みな手柄を!」
「おお!」
みなはそれぞれ乗馬をはじめた。
「デリア、馬は大丈夫なの?」
「まあ、昨日のでコツはつかめた」
「そう、すごいのね」
「きみのおかげだよ」
「そ、そんなことは知ってるわ!」
なに照れてんだ、こいつ?
「ア、アリア!行くわよ!」
「はい、姫さま!」
凛々しい二人の女騎士はみんなのあとに続いた。さあぼくもみんなと混じって…隙を見てスキル発動だ。いっひっひ。さらば、兄さん!さようなら、お姫さま!
団長のお引きがあったんだ。まあ優秀な兄さんだ。確か誘いがあったって言ってたもんな。でも王宮騎士団だなんて、えらい出世じゃないか。
「大きくなったな。背も伸びた」
「あたりまえだよ。もうぼくは十三だし」
「そうか、あれから三年も経っちまったか」
「兄さん元気そうで嬉しいよ」
「ああ俺もさ。今日はどうして?あれ?なんでラフレシアさまと?しかも一緒に馬に?信じられん。あの鉄の処女に?」
なにそれ恐いあだ名。もうキャラクター設定固定でいいね。
「なんだ、あんたたち知り合い?」
「はい、ラフレシアさま。こいつはわたくしの弟です」
「ああ、なんだそうなの。ざーんねん」
「なにが残念なんですか?」
そうだ。よくぞ聞いてくれた、愛する兄上。
「暇だから拷問でもして根掘り葉掘りいろいろ聞き出そうと思ったのよ」
聞かないでほしかったそういうことは!
「ま、まさか」
「冗談よ、ジョアン。こいつ、ダルメシアの兵十数人をひとりで倒しちゃったのよ。お礼かたがた話を聞こうと」
いや数人だ。盛りすぎだよそいつは。
「まさか!い、いや、ありえるかも…」
ジョアン兄さんはぼくを見て、なにやら納得してしまった。まあそうだけどね。兄さんの想像どおりですよ。いけませんか?
「そんなに強そうには見えないんだけど」
「いえ、デリアは小さいころから文武に秀でて」
「まああんたがそう言うんならそうなんでしょうね」
兄さんすげえ。きっとここではさぞかしいい地位に…。
「じゃ馬お願い」
「かしこまりました」
おいおい、いい地位じゃないのか?
「あんたはこっち。そうかー、準男爵の家のやつかー」
なんか楽しそうです。きっと召使でも見つけた気になってんでしょうね。でもぼくは働きませんよ。ニートなんですからね。あんたたちが騎士道なら、こっちは由緒正しいニート道まっしぐらですから!
でかいテントだった。中は広く、明るかった。なぜかそこら中にぬいぐるみや花が飾られていた。まるで女の子の部屋に迷い込んでしまったようだ。気恥ずかしくていたたまれない。帰りたい。
「そこに座んなさいよ」
「は?どこに?」
椅子なんかないじゃないか。ベッドがあるだけで。地面に座れってか?まるで犬扱いだな。
「何言ってんのよ。そこの寝台しかないじゃない。バカなの?」
「バカって言うな」
「あ、ごめん。本当にバカそうだったから」
「ケンカ売ってる?ねえ、ぼくに」
「冗談よ。なんか飲む?水しかないけど」
「い、いただきます」
振り向くと甲冑を脱ぐところが見えた。おいおい、こんなところで着替えるか普通。
「あ、あの!」
「座ってて。いえ、ねえちょっとここ外して。背中の留め金」
「は、はい?」
「前に肩に矢傷を負って、そこまで手が届かないのよ」
「あ、ああ」
ぼくはドキドキしながら甲冑を脱ぐのを手伝った。ますますいい匂いがぼくの鼻の奥まで襲いかかってきた。
「ありがと。助かったわ。ちょっと着替えるから後ろ向いてて。見たら殺すわよ」
「は、はい!」
衣擦れってやつですか?その音はぼくの想像をかき乱して余りある音でした。ぼくは振り向きたい衝動をかろうじて抑えることに成功した。ああ命拾いした。
「今日はありがとう」
そう言って彼女は銀の盃を渡してくれた。
「い、いえ、な、成り行きでああなってしまって…」
「あんたもうちょっと自慢とか誇るとかしないと、誰も目に止めてくれないわよ。いくら強くても」
「い、いえ、誰の目にも止まらないのがぼくの信条でして」
「変わった信条ね?」
「親父の遺言で」
「あれ?いつあんたのお父さん亡くなったのよ?」
「え?」
「あたしはラフレシア・リエゼ・オーウェン。聞いたことないかしら」
「オーウェン?」
オーウェン…オーウェン伯爵家か!隣の大領主じゃないか!その娘、なのか…?
「た、大変失礼しました!伯爵家のご令嬢だとはつゆ知らず」
「みんな知ってるけどね」
「い、いえわけあって家とかはなれてたので、その…」
「あんたでしょ。いま気がついた」
「なにが、でございますですか?」
「そのいい加減な敬語やめない?」
「すいません」
ぼくの何を気づいたんだ?伯爵家とは何の接触もないぞ?
「ミントンの大奇跡よ」
「はい?」
「知らない者はいないわ、この国じゃ、ね」
「なんですか、それ」
「とぼけたって駄目。この情報仕入れるのにうちの伯爵家はどれだけお金使ったか、あんた想像できないでしょ?」
そりゃそうだけど、言ってくれりゃあタダで教えたのに。
「収穫量を十倍にし、住民を増やし、超栄えさせた。いまじゃ伝説よ」
収穫量は十倍じゃない。二十倍だ。それに伝説ってなんだ。まだそんなに日数経ってないぞ。
「そのときの代官があんた」
ゲ、知ってんのか!
「そういう噂もありますが、それはぼくじゃありません。ヨン・ヘルゲンスという人とジョセフというひとがやりました」
ヨン爺にはここで罪を背負ってもらおう。ジョセフは…まあいいか。
「バカね。さっきも言ったでしょ?大金出したって。すっかり調査済みってこと。集団見合いには笑ったけどね。あとワインとビール…さあまだなにか?」
こりゃ逃げ場はないってことだね。まいったなあ。まああの化学肥料のプラントのことはわからないんだろう。まだ稼働前だしね。このまま知らないでもらいたいもんだ。じゃないと歴史が変わるからね。
「まいったなあ。そこまで知ってんのか」
「ウフフ。ねえ、あたし今の気分、わかる?」
「いえぜんぜん」
「超ラッキーってやつよ」
「なぜですか?」
「おかしいわね。あんたの価値よ。わかんないかなあ?」
「わかるわけないじゃないですか。『金もダイアも自らの価値を知らず、ただ輝くのみ』、ってやつです」
「なにそれ」
今作りました。
「とにかくあんたの価値。強くて頭がよくて行動力がある。これは秀逸なる人材よね?」
「いやそんな買いかぶらないで」
ニートがぼくの目標なんです!なんですか仕事いっぱいしそうなそれは。真逆です。まったくぼくの真逆野郎ですそれ!
「とりあえずあんたにはこの騎士団に入ってもらうわ。いいわね?」
「いやといったら?」
冗談じゃない!マジにニートと真逆世界だ。やってられっか。
「あんたの兄さんがうちに帰されるだけ。つまりクビ」
「なんですとー!」
兄さんは関係ないだろ、ってロジックは通用しないんだろうな。ああ、こんなところで人質取られるとは不覚だ。まあいいさ。いいよいいよ。どうせ明日にはぼくは自由だからな。なんせスキル『一日一願』があるんだから。いっひっひ。
「さあどうすんのよ!」
ぼくはがっくりと首を垂れた、ふりをした。一応演技しておかないとね。
「わかりました。お言葉に従います」
「フフフ、そう来なくっちゃ。じゃあ乾杯しましょ、水だけど。誓いの盃ってやつよ」
「はあ」
この子の思惑がどこにあるのかは知らない。だが明日にはなかったことになる。ちょっと気が引けたが、ぼくのニート道の障害にはなる。情けは要らない。ここは冷徹になるんだ!
その夜は、ぼくは兄さんたちのテントで寝た。みんな根掘り葉掘り聞いてきた。みんなが感心した。そしてみんなが寝静まったころ、ぼくはテントの外の、空いっぱいに広がる星を見ていた。
「眠れないのかい?」
「兄さん」
「俺のために騎士団に入ったんだろ?無理しなくていいのに」
「ぼくは兄さんにどれだけ迷惑をかけて、そして世話になったか。こんなんじゃ、お返しにもならないよ」
「そんなことはないよ。もう充分だ。な、あの力使うんだろ?」
「えへへへ、ばれた?兄さんには迷惑かけないからね」
「ちゃっかりしてるな。でもお前はおまえの好きな生き方をすればいい。俺はそれが一番嬉しいんだ」
ああ、兄さんありがとう。まったくアダムス兄さんとほんとに兄弟なのか?まったく信じられん!
星がひとつ、流れた…。
「招集っ!全員集まれっ!敵の襲来だ!」
でかい声で誰か叫んでいた。みな大騒ぎで甲冑を着こんでいた。
「デリア!ちょっと来なさいよ!」
ラフレシアがテントの中から叫んでいた。なんじゃ?
「なんですかー」
ぼくはテントの外から声をかけた。もういいかげんぼくはスキルを発動してここからおさらばしなきゃならんのですけど。
「いいから入って!それで後ろとめて!」
それか。まったく、いままでどうしてたんだよ。
「入るよ」
「はよはよ。敵が来ちゃうわよ」
下着の上から甲冑って着るのか。知らなかった。
「どこ見てんのよ!早く後ろとめて」
「はいはい」
ぼくはいやいやながら甲冑を着せた。まあ、いい匂いはしっかり嗅いだけど。ご褒美だ。
「剣と兜」
「はいはい」
「あんたは?」
「え?」
「あんたの甲冑は?」
「そんなもん持ってません」
「呆れた。そんなんで戦場に出ようなんて」
知らんがな!いきなり言われても困るよね。だいたい甲冑ってどこで売ってるんだよ。
「仕方ないな。アリア!」
「ご用ですか、姫」
「あたしの予備の甲冑を」
「お言葉ながら姫の予備の甲冑は、殿方には無理かと。その…サイズが」
そう言われてラフレシアはまじまじと俺の身体を見て、ちょっと顔を赤らめた、なんで?
「そ、そうね…」
「では騎士団の予備をお持ちしますか?」
「そうして頂戴。でも時間がないから早くね」
「ぼくが行くよ。その方が早いからね」
「わかった。砦の広場にいるわ。早くね。それと武器も忘れずに」
「ぼくがそんな間抜けに見える?」
「うーん、なんだか知らないけど、そんな気がしただけ」
ご明察だ。ぼくも今まで気がつかなかった。聞いてよかった。
「さ、こちらです」
きっとこの子も騎士なんだろう。凛々しい甲冑姿だ。いつもこの子に背中の留め金を留めさせているのかな?まあ、今度からはまたこの子の担当だね。
武器庫のようだった。槍や剣があった。弓もある。銃とかはないとこ見ると、ここはやはり中世なんだな。
「そこにあるので適当に」
いっぱいあった。どれも形や色がちがう。どれでもいいのかな?おお、なんか真っ白いかっちょいいのがあった。
「じゃこれ」
「はあ?」
「どうしたの?」
「そ、それは儀礼用のやつで…」
「そうなの?真っ白くてかっちょいいな」
「かっちょ…?い、いえ、それは戦場であまりにも目立ちます!つまり多くの敵、しかも弓矢までひきつけます」
「そうなの。目立つってことね」
「そういうことです。ですからそれはやめた方が」
別にスキル発動しておさらばするんだから少し目立ったってかまわないよね?どうせ誰も覚えていないだろうし。ぼくのことなんか。うっひゃっひゃ。
「もうこれにするって決めたんだからこれでいいよ。あ、武器適当に選んどいて」
「はあ…」
もう知らないって顔してた。まあいいじゃない。ほんとに知らないってなるんだからね、もうすぐ。
「その甲冑にはこの弓とこの剣…」
「どうかした?」
「いえその。なんというか、かっちょいい…」
は?何言ってんのこの子?
広場に向かうとみんなジロジロ見た。そんなにおかしいか?白い甲冑。まあみんな銀色だしね。団長かな、あれ。真っ黒な甲冑だ。カッコいいな。その真っ黒甲冑が近づいてきた。
「おまえがジョアンの弟のデリアか。よく来た。そしてわが戦場にようこそ。さすがうわさに聞く男だな。戦場でも伝説を創りたいとは、こりゃあ頼もしい」
けっしてそういうつもりじゃないんです、おじさん。
「わたしの名はドレイク。王宮騎士団団長だ」
「よろしくでーす」
「うむ、さすがだ。緊張のひとつもしておらんとは」
だってすぐにいなくなっちゃうからでーす。
「では乗馬!敵はすぐ来る。みな手柄を!」
「おお!」
みなはそれぞれ乗馬をはじめた。
「デリア、馬は大丈夫なの?」
「まあ、昨日のでコツはつかめた」
「そう、すごいのね」
「きみのおかげだよ」
「そ、そんなことは知ってるわ!」
なに照れてんだ、こいつ?
「ア、アリア!行くわよ!」
「はい、姫さま!」
凛々しい二人の女騎士はみんなのあとに続いた。さあぼくもみんなと混じって…隙を見てスキル発動だ。いっひっひ。さらば、兄さん!さようなら、お姫さま!
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