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冒険者ポーリン
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オッサンはぼくたちを町のはずれまで連れて行った。小さな雑貨店のようなものがあった。『ポーリンの店』って書いてある。
「馬車を裏にまわせ。ここで預かってもらう」
「大丈夫なの?」
「まあ心配ない。古い仲間だ」
オッサンはそう言って目を細めた。懐かしいみたいだった。
「『馬』くん、留守番だ。食べ過ぎるなよ」
ブヒヒン
そう『馬』は鳴いてぼくに鼻をこすりつけてきた。
「こっちだ」
オッサンはぼくたちをその粗末なつくりの店に引き入れた。
「御免よ、ポーリンはいるかい?」
店内は暗かった。何本かのろうそくの明かりで、そこが雑貨屋だとわかる程度だった。
「ジーク!なんだい、どうしたっていうんだ!どうしてここに?」
店の奥から女の人が飛んできた。オッサンに抱きついている。オッサンの知り合いなんだろうか?
「痛てえよポーリン、もっと優しくしろ」
「何言ってんだよこの男は!ろくに便りも寄こしやがらないで」
「仕方ねえだろ、任務なんだから」
はあ、と大きくため息をついて、そのポーリンと呼ぶ女の人はオッサンを放した。
「まだリスタリアで?」
「ああ、そういうことだ」
「あんたがスカウトされてリスタリアのために働いているのは知っていた。あたしをこんなとこに置いて行っちまってね」
「仕方ないだろ、仕事なんだから」
「それにしたって…」
「もうわかった。それより武器と防具をそろえたい。むかしのやつは残ってるか?」
「いつでも使えるようにしてあるが…まさかダンジョンに?」
驚いたように女の人はオッサンを見た。
「ああ、今度はマジだ」
「こいつらは?まさかこんな子供をダンジョンに?」
「そうだ。それが俺の今回の仕事さ」
「まさか…あんた正気で言ってんのかい!あのダンジョンがどれだけ恐ろしいか知っていたんじゃないのかい!」
やはりオッサンはこのダンジョンのことを知っている。しかも相当詳しいようだ。
「俺は正気さ。だがこの話を受けたときは正直もう終わったと思った。まさかあの悪夢に引き戻されるとはな、と思ったさ」
「だったらなぜ?」
「こいつらだよ」
「この子供たちがどうした?焼きがまわっちまったのかい?こんな子供に何ができるんだ。仲間はみんな帰ってこなかった。唯一あんたは帰ってきた。恐怖を背負ってね」
帰ってきた?それじゃあオッサンは生還したって言うのか?誰も帰って来れないんじゃあ…。
「帰って来たんじゃねえ。引き返しただけだ。第二階層までなら可能だ。それも仲間をみな失い、命からがらな。あそこは虚無だ。取り込まれたら終りだ。半死半生で外に転がり出たとき、もう二度と行くまいと思った。だがそれじゃあ納得できねえ。俺んなかでもやもやしてたもんが俺を常に苛んだ。そんなときこいつが現れた。こいつはわけわからねえ何かを持っているやつだ。こいつとならあるいは…いや、ぜったいケリをつけられる、そう思ったんだ」
「どうやら本気みたいだね…まあいいよ。あんたのことだ…言い出したら聞かないからね」
「すまん、ポーリン」
「謝るのはあとだ。支度をする」
「支度?なんのだ」
「あたしも行く」
「ま、まさか、冗談はやめろ」
「冗談じゃない。あんときあたしが第一階層で罠に引っかかって負傷さえしなかったら、あんたと一緒に行けたんだ。あんたを手助けできたんだ。みんなを失わずに済んだんだ。だからその借りを返しに行く。止めても無駄よ」
そう言ってポーリンは店の奥に入って行った。
「ポーリン…」
オッサンとポーリンがどういう関係かは知らない。ただ、同じ冒険者だったということはわかった。そして辛い気持ちも…わかった気がした。だからこのダンジョンが思ったよりも恐ろしいということも…。
「みんな聞いて」
ぼくは四人の女の子たちに向かって静かに言った。
「ここからはこのジークさんたちと一緒に行く。きみたちはここで待っていてくれ。しばらくしてぼくが帰らなかったら、みんなそれぞれあるべきところに戻ってくれ。これはお願いじゃない。命令だ」
まあ素直に言うことを聞く連中じゃないのはわかっている。だからここはあのスキルを使わせてもらう。みんなを危険な目にあわせたくないんだ。ここでお別れだよ。
「ふん、この精霊女王のあたしに命令?なにトチ狂ってるのかと思えば…ふうん、何か力を使おうとしてるわね?あんたの頭んなかはお見通しよ?なによ、みんな幸せになれる場所って?へえ、そこに強制的に?これは驚いた。あんたまさか…」
「みんな幸せにね」
スキル…「一日一回、どんな願いもかなう」発動。ごめんね、みんな。そしてありがとう。さようなら…。
「バカだとは思ってたけど、本当にバカねあんた」
え?なんで発動しない?力は感じた。確かにスキルは発動したんだけど?
「考えは悪くなかった」
ネクロ、なに?
「デリアのそのスキルは強大過ぎる。そして絶対だ。誰も逆らえぬ。その力の正体はわからないが、おそらく神が関与していることだけは理解した。デリアがわたしたちに、もといたところに、と望めばそうなった。わたしたちはこの場から消えていた」
スキルは発動した?じゃあなんで?
「パパはあたしたちの幸せを望んだんでしょ?そこに行けば幸せになると。その場所に」
「あっ!」
「やっとわかったの?バカねー」
「ミローネ、バカにバカと言っては失礼」
「パパはバカなのか?ネクロ」
「ああそうよ。だからあたしたちがいなきゃなんないの」
おまえらの幸せになる場所って…おいおい、マジかよ。
「なんだかわかんないけど、剣術も下手くそなあんたよ?あたしがいなけりゃ秒で死ぬわ。ありがたく思いなさい」
「ラフレシア…」
ぼくはまた間違いました。ぜんぜんダメです。そしてこのスキルは恐ろしいぶっ壊れスキル、です。願いが全然かなわない、何でも願いがかなうスキルなんですから。
ダンジョンへ!なぜこんなことになったかはわかりません。それにぼくはこの中で一番弱いんです。一番に死んじゃうでしょう。まあニートだから、しょうがないです。割に合わないのも、ニートなんですから。
「馬車を裏にまわせ。ここで預かってもらう」
「大丈夫なの?」
「まあ心配ない。古い仲間だ」
オッサンはそう言って目を細めた。懐かしいみたいだった。
「『馬』くん、留守番だ。食べ過ぎるなよ」
ブヒヒン
そう『馬』は鳴いてぼくに鼻をこすりつけてきた。
「こっちだ」
オッサンはぼくたちをその粗末なつくりの店に引き入れた。
「御免よ、ポーリンはいるかい?」
店内は暗かった。何本かのろうそくの明かりで、そこが雑貨屋だとわかる程度だった。
「ジーク!なんだい、どうしたっていうんだ!どうしてここに?」
店の奥から女の人が飛んできた。オッサンに抱きついている。オッサンの知り合いなんだろうか?
「痛てえよポーリン、もっと優しくしろ」
「何言ってんだよこの男は!ろくに便りも寄こしやがらないで」
「仕方ねえだろ、任務なんだから」
はあ、と大きくため息をついて、そのポーリンと呼ぶ女の人はオッサンを放した。
「まだリスタリアで?」
「ああ、そういうことだ」
「あんたがスカウトされてリスタリアのために働いているのは知っていた。あたしをこんなとこに置いて行っちまってね」
「仕方ないだろ、仕事なんだから」
「それにしたって…」
「もうわかった。それより武器と防具をそろえたい。むかしのやつは残ってるか?」
「いつでも使えるようにしてあるが…まさかダンジョンに?」
驚いたように女の人はオッサンを見た。
「ああ、今度はマジだ」
「こいつらは?まさかこんな子供をダンジョンに?」
「そうだ。それが俺の今回の仕事さ」
「まさか…あんた正気で言ってんのかい!あのダンジョンがどれだけ恐ろしいか知っていたんじゃないのかい!」
やはりオッサンはこのダンジョンのことを知っている。しかも相当詳しいようだ。
「俺は正気さ。だがこの話を受けたときは正直もう終わったと思った。まさかあの悪夢に引き戻されるとはな、と思ったさ」
「だったらなぜ?」
「こいつらだよ」
「この子供たちがどうした?焼きがまわっちまったのかい?こんな子供に何ができるんだ。仲間はみんな帰ってこなかった。唯一あんたは帰ってきた。恐怖を背負ってね」
帰ってきた?それじゃあオッサンは生還したって言うのか?誰も帰って来れないんじゃあ…。
「帰って来たんじゃねえ。引き返しただけだ。第二階層までなら可能だ。それも仲間をみな失い、命からがらな。あそこは虚無だ。取り込まれたら終りだ。半死半生で外に転がり出たとき、もう二度と行くまいと思った。だがそれじゃあ納得できねえ。俺んなかでもやもやしてたもんが俺を常に苛んだ。そんなときこいつが現れた。こいつはわけわからねえ何かを持っているやつだ。こいつとならあるいは…いや、ぜったいケリをつけられる、そう思ったんだ」
「どうやら本気みたいだね…まあいいよ。あんたのことだ…言い出したら聞かないからね」
「すまん、ポーリン」
「謝るのはあとだ。支度をする」
「支度?なんのだ」
「あたしも行く」
「ま、まさか、冗談はやめろ」
「冗談じゃない。あんときあたしが第一階層で罠に引っかかって負傷さえしなかったら、あんたと一緒に行けたんだ。あんたを手助けできたんだ。みんなを失わずに済んだんだ。だからその借りを返しに行く。止めても無駄よ」
そう言ってポーリンは店の奥に入って行った。
「ポーリン…」
オッサンとポーリンがどういう関係かは知らない。ただ、同じ冒険者だったということはわかった。そして辛い気持ちも…わかった気がした。だからこのダンジョンが思ったよりも恐ろしいということも…。
「みんな聞いて」
ぼくは四人の女の子たちに向かって静かに言った。
「ここからはこのジークさんたちと一緒に行く。きみたちはここで待っていてくれ。しばらくしてぼくが帰らなかったら、みんなそれぞれあるべきところに戻ってくれ。これはお願いじゃない。命令だ」
まあ素直に言うことを聞く連中じゃないのはわかっている。だからここはあのスキルを使わせてもらう。みんなを危険な目にあわせたくないんだ。ここでお別れだよ。
「ふん、この精霊女王のあたしに命令?なにトチ狂ってるのかと思えば…ふうん、何か力を使おうとしてるわね?あんたの頭んなかはお見通しよ?なによ、みんな幸せになれる場所って?へえ、そこに強制的に?これは驚いた。あんたまさか…」
「みんな幸せにね」
スキル…「一日一回、どんな願いもかなう」発動。ごめんね、みんな。そしてありがとう。さようなら…。
「バカだとは思ってたけど、本当にバカねあんた」
え?なんで発動しない?力は感じた。確かにスキルは発動したんだけど?
「考えは悪くなかった」
ネクロ、なに?
「デリアのそのスキルは強大過ぎる。そして絶対だ。誰も逆らえぬ。その力の正体はわからないが、おそらく神が関与していることだけは理解した。デリアがわたしたちに、もといたところに、と望めばそうなった。わたしたちはこの場から消えていた」
スキルは発動した?じゃあなんで?
「パパはあたしたちの幸せを望んだんでしょ?そこに行けば幸せになると。その場所に」
「あっ!」
「やっとわかったの?バカねー」
「ミローネ、バカにバカと言っては失礼」
「パパはバカなのか?ネクロ」
「ああそうよ。だからあたしたちがいなきゃなんないの」
おまえらの幸せになる場所って…おいおい、マジかよ。
「なんだかわかんないけど、剣術も下手くそなあんたよ?あたしがいなけりゃ秒で死ぬわ。ありがたく思いなさい」
「ラフレシア…」
ぼくはまた間違いました。ぜんぜんダメです。そしてこのスキルは恐ろしいぶっ壊れスキル、です。願いが全然かなわない、何でも願いがかなうスキルなんですから。
ダンジョンへ!なぜこんなことになったかはわかりません。それにぼくはこの中で一番弱いんです。一番に死んじゃうでしょう。まあニートだから、しょうがないです。割に合わないのも、ニートなんですから。
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