深夜の常連客がまさかの推しだった 短編集

中島焔

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極上 クリスマス編「欲しいものはきっと」 

11 す

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 数万人が既にオンラインで待機していることを悟浄が実況してくれる。メンバーはとうとうインスタライブ会場となる会議室に入る。扉を悟空が開け、一番に部屋に入った玄奘は部屋の様子を見るなり感嘆の声を上げた。

 なんと会議室の片隅に華麗な別空間が生じていた。ラグソファとミニテーブル、ツリーやオーナメントに至るまで綺麗に飾り付けられており、スタイリッシュなクリスマスのオープンセットになっている。そしてよく見ればクッションやソファカバーには見たことのある柄が描かれていた。何よりも全体のテイストに既知感がある。

 玄奘はうっとりとしながら近寄り、そっとクッションにふれてみた。しっとりと肌に寄り添うその生地の感覚。

「これは……もしや」

 メンバーの一番後ろから悠々とした足取りで磁路が部屋に入ってきた。スーツ姿だが、丈高い頭にいつのまにかサンタ帽を被っている。盛り上げようとする意欲は買うが、残念なことにサンタ帽は東洋風の美しい顔立ちには全く不釣り合いで滑稽さしか生まれていない。

「この前の衣装合わせの時に、Petite féeのブランドを玄奘がいたく気に入っておったようだったから、そちらの商品を使用したディスプレイデザインを依頼したのだ。もちろんここに置いてあるアイテムはすべて、インライ後は持ち帰ってもらってかまわぬ。私からのクリスマスプレゼントだ」

「ありがとうございます。すごく素敵な上に、私の好みまで配慮してくれたことが嬉しいです。磁路さん」

 玄奘は磁路の手を握って感謝を伝えた。

 八戒はこっそりと悟空に耳打ちする。
「あ~あ、玄奘めちゃくちゃ喜んじゃってるぞ。磁路のやつ、あんなサプライズとか余計なことしてくれたよな」 
 
 悟空はポケットに手を突っ込んだまま答えた。

「別にいいだろ」

「だって兄貴は玄奘の恋人なんだぞ?あの喜びを越えないといけないっていうプレッシャーに勝てるか?兄貴、何かプレゼントは用意してんのかよ」

「プレゼント……?」

 眉をしかめた悟空に、八戒は思わず憐憫と軽蔑の入り混じった表情で叫んだ。

「用意してねえのかよ⁉︎兄貴、マジかよ。信じらんねえ。そりゃどいつにもこいつにもすぐフラれるわけだよ」

 悟空は慌てて八戒を部屋の外に連れ出した。声がデカすぎる。

「ちょっと待て。別に用意してないわけじゃなくて、元々今日はオフの予定だったろ?だから一緒に出掛けて何か良いもの選ぼうと思ってただけでっ、それが急にインライの予定が入っちまったから買いに出る暇もなかったんだよ。……下手なもん、差し上げるわけにもいかねえだろ?」

 説明という体の言い訳を聞いてもまったく表情を変えない八戒に、悟空は柄にもなく非常に焦り始めている。もしかしてとんでもない間違いを犯してしまったのではなかろうか、と悟空の心臓は早鐘を打ち始める。

「時間なくたって通販でも磁路に買わせに行くでもなんでもできただろ?イマイチなものでもさあ、何にも用意してないよりかはマシだよ。兄貴は恋人なんだぜ?自覚足りねえんじゃねえの?」

 があああん、と悟空の脳天で銅鑼が鳴り響いた。たしかに八戒の言うのが道理のような気がしてくる。悟空にとって本当に好きになって交際した恋人は玄奘が初めてである。言うなれば恋愛初心者だ。何事にも先達の教えを乞うべきであろう。

「お、おれ、今すぐなんか買ってくる」

 そのまま飛び出していこうとした悟空の襟首を磁路がとっ捕まえた。

「インスタライブ、もう始まるぞ」

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