深夜の常連客がまさかの推しだった 短編集

中島焔

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自創作キャラに言わせたい絵文字をつけてもらってSSを書く

匠の技 もっと見たい 美少年 帰りたい帰りたい帰りたい…

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 テーブルの上には四枚の写真が置かれた。玄奘と八戒が身を乗り出すようにして、写真を覗きこむ。

「悟空……、ふふ、可愛い」

 玄奘が手に取ったのは悟空の写真だ。背景から見るに施設の裏庭で撮影したものだ。枯草を踏みしめながら口をへの字に曲げて、一人で写っている。たぶん施設に使用する書類用に撮ったのだろう。

「兄貴、こんなちっちぇえ時からいっちょ前にカメラ睨んでんのな」

「う、うるせえな」

 磁路から、雑誌に載せるために幼少時の写真を持ってくるよう言われたのだ。普段使わない引き出しの奥から数枚の写真を引っ張り出し、それでも写りのマシなやつを選んできたのだが。

「ダルダルのTシャツと短パン着て、鼻水垂らした痕がついててさ。うわTシャツにwanpaku manって書いてるよ。時代を感じるよねえ。一人だけ昭和生まれみたいじゃん。兄貴、実は年齢サバ読んでんじゃないの?」 

 玄奘の肩越しに写真をのぞきながら失礼なことを言う八戒におれは拳骨を落とす。

「バカ言え、オメーと同い年だっつーの」 

「でも、この頃から悟空の意志の強さが表れているようだよ」 

 恋人に甘い玄奘は、クソみたいな写真にでも長所を見つけ出してくれる。

「……っす。ありがとう……ございます」

「悟空と玄奘の写真は、対照的でござるな」

 悟浄が悟空の写真の横に幼い玄奘の写真を並べた。こちらは明らかに写真館で撮ったもので、小さな体をスーツに包み、父母の間に緊張した面持ちで立っている。幼い玄奘は、目がくりりと大きく、無垢さが際立ってひどく可愛らしい。

「すげえよなあ、……玄奘の母ちゃん、立ってるだけでエロい」

 八戒がずれた感想を述べる。悟浄は嘆息したせいで垂れたおくれ毛を耳にかきあげながら尋ねた。

「八戒、注目するのはそっちではない。玄奘はかなりかしこまった様子だが、これは七五三か?」

「いや、たぶん違うかな。父さんの挨拶状とかに使うために毎年撮ってたから、これはもう小学生だと思うなあ」 

 玄奘の父は国会議員である。地元の有力者や議員仲間に幼い玄奘の写真を配り、挨拶を行うと同時に将来を見越して根回しをしていたのだろう。

「玄奘、もっとないんですか写真。おれ、です。できれば動画で見たいです」

 きっとこの幼い玄奘が笑えば天使のようだろう、と悟空は見たこともない恋人の幼少期を妄想しながらせっつく。

「うーん、……実家に戻ればあると思うけど、……」 

「きっとまだ帰りにくかろう」

 悟浄が優しく玄奘の肩をたたき、玄奘はほっとしたように頷いた。

 芸能活動に反対している玄奘の父親との確執は一応解消されたものの、まだわだかまりは残っているのだ。悟浄は悟空にこそっと呟く。

(拙者が玄奘の幼少期の写真などいくらでも手に入れてやる) 

 デビュー前の悟浄は神レベルのハッカーとして活動していたため、玄奘の個人情報など瞬く間に収集できるのだ。悟空は目を見張った。

(報酬は?)

(出来高でいい)

(お遊戯会とか、運動会とか普段と違う格好してるのも忘れるなよ) 

(もう既に収集済みだ)

(何勝手にそんなの集めてんだよ、この変態が)

 ささやき声でできる精一杯で悟空はどなりつけるが、悟浄はどこ吹く風だ。

(筋金入りの変態玄奘オタクに言われたくなどない)

「ねえみんな、俺の写真も見てよ、見てよ」

 八戒が写真をぴらぴら振っている。近所の女友達と水遊びしているところらしい。水鉄砲を発射しながら変顔をしている八戒を、水着姿のニ、三人の女子が囲んで笑っている。

「これ……雑誌の規制に引っかかるからやめておけよ。今時、水着姿の女児の写真は卑猥だぞ」 

 悟空が冷たい声音を出す。

「そおんなことないでしょう。これを卑猥だと判断するほうが卑猥だよ。それよりも注目すべきは俺のモテモテ具合でしょうよ」

 鼻息荒く反論する八戒を玄奘がとりなす。

「かわいいし、このときの八戒が無邪気なのは認める、認めるよ」

 が、悟空と悟浄はため息をつくしかない。

「この頃から節操なしにモテようとしてたんだな、三つ子の魂百までとは言うが」

「もはや……というレベルでござる」

「うわっ」

 玄奘が急に大きな声を出した。テーブル上に残っていた最後の写真の前で動きを止めている。

 かと思ったら、口元に両手をあてて小さな声で呻いた。

……」

 どかどかっと悟空と八戒が近付いてくる。幼いころの悟浄が写っている。

 一目見た瞬間、悟空と八戒も息を呑み、今の悟浄を見てから再び写真に目を落とした。 

「どこで間違った……」

「遺伝子レベルで突然変異でもしちゃったんじゃないの」

 ピアノのコンクールだろうか。花束を両手で抱えた少年がはにかんでいる。白皙の肌、艶のある黒髪、優し気な目元に上気した頬。本物の美少年がそこにいた。この整った造形は神様が丹精を込めて大理石から彫りだしたのだろう、と夢想するほどだ。 

「なんかの妖精みたいだよ、この世に存在していいのか疑うレベルでかわいい」

 八戒が太鼓判を押す。隣で玄奘も何度も頷きながら言う。

「悟浄はイケメンだと思っていたけど、これほどとは……」

「オメー、たっぷり寝てクマをとれば、今でももう少しなんとかなるんじゃねえのか」

 玄奘の肩に腕を載せながら、悟空は適当に提案する。いくら美しくても、悟空は玄奘以外の男の外見にあまり興味はないのだ。

「なんとかとはどういう意味か。拙者は今の見てくれに満足しておる」

 当然のごとく悟浄は一蹴する。

 八戒は納得したように伸びをしながら言った。

「へえ……、まあたしかにあんな美しい顔じゃあ、モテるどころか高根の花すぎて誰も近寄ってこねえかもなあ」

「誰しも八戒のようにモテだけを考えて生きておるわけではない」

「……わからねえなぁ。おれがもし小さい頃の悟浄の顔だったら、ハーレム作っちゃうけどね。それ以外に活かしようのない顔だもんね」

「ああもう、うるさいのぅ」

 悟浄は耳を塞ぐが、八戒は諦めない。

「ねえ、どういうケアしたらあんな肌になんの?ちっさい頃使ってたシャンプーはどんなやつ?やっぱ日焼け止めも重要なんだよな?ねえ、教えろよ、なあ、ケチんなよ」

 八戒に肩を揺らされながら、悟浄は腕組みをしながら目を閉じた。

(ああ、面倒だ。……)
 
 
 
 
 


 磁路がやってきた。
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