春節の助っ人

Atokobuta

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春節の助っ人

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 この前の春節で親父の店の前に湯円の出店してさ、結構儲かった。宣伝方法が良かったんだろうな。うん、聞きたいかそうだろう。

 妹と二人で店やってたんだけど案の定、酔っ払いに絡まれてな。「俺と一緒に花燈見に行こう。」とか妹は腕掴まれて困ってんだけど、俺も注文を捌かなきゃならんし、客相手に強い態度にも出られなくて、どうしようかと思ってたんだよ。

 そしたら「嫌がってるじゃないか、やめたまえ。」っていうデカい声がしてな、見れば押し出しの良い男だよ。

 ちょっと軽そうなやつだけどまあ助かったなーと思ってたら、その男が急に変化してさ、なんと二本足で立つ豚の姿に。「やっぱりイケメンの姿は二分が限界だな。」とか喋るんだよ。

 そうなんだよ、妖怪だったんだよ。みればそいつの隣にいるのは猿みたいな男と、耳の尖った性悪坊主でさ、たぶん全員妖怪なんだな。みんな驚いて、周りにいた客連中もみんな逃げるようにいなくなっちまってさ。俺も逃げなきゃと思ったんだけど、妹が「私を助けてくれたんだから良い妖怪に決まってる。」って言いはるんだよな。

 なんか妙だなと思ったら、妹は異様な三人の妖怪の後ろに隠れてた坊主に釘付けなんだよ。違う違う、性悪坊主とは別人で、坊主がもう一人いたんだ、結局男だけの四人組でさ。うん、そいつが水も滴る良い男ってのはこれかと思うくらいの美坊主なんだ。こんな田舎ではそうそうお目にかかれないぜ、あんなん。

 で、妹はほら、あいつ面食いだからなあ。「これお礼です。うちの湯円は絶品ですからぜひどうぞ。」って美坊主に湯円を渡そうとしたんだけど、「ありがとなー。嬢ちゃんはこの湯円みたいにぷくぷくして可愛い顔してるなあ。」って豚にとりあげられちまってな。豚は器を受け取った瞬間全部口の中に入れちまってさ、一瞬で食っちまいやがんの。

「これは本当に美味いな。この店の名は?王 凯の店か。もう少したくさんくれれば一口食うごとに『王 凯の店の湯円は最高だ』って宣伝しながら練り歩いてやってもいいぞ。」とか言ってくるのさ。出家がそんな商売をしてはいけないって美坊主は諭してたけど、見るからに食い道楽の権化みたいな豚に宣伝してもらえばこちらだってしめたものだろう?湯円五十杯タダにする代わりに、大通りへ繰り出して宣伝してもらう手筈にしたんだ。

 それでさ、大量の湯円の椀を大通りまで運ばなきゃならねえんだけど、それが猿顔と凶悪坊主が揃って頭、肩、腕、肘、手首に載せたんだよ。両掌には6つくらい持ってさ。二人で五十杯運ぶんだ。まるで大道芸だよ。

 大通りまで練り歩くだけで、さっきの妖怪騒ぎでいなくなってた人達がやんややんやと寄ってきてさ、そんで大通りであの豚が椀を次々かっ食らってくんだけどそれも手妻のようだよ。すごい人だかりでさ、押すな押すなの大騒ぎさ。

 その中心であの豚が次々に椀が空にして、そのたびに「王 凯の店の湯円は美味い美味い」って大声で叫んでくれるんだよ。おかげで、あの豚が言ってた美味い店はここかいって俺達のところに次から次へと客が来るんだ。おかげでめでたく売り切れた。大繁盛さ。

 すごい宣伝効果だったから、金子でも払おうかと思ったんだけど美坊主が断るんだよ、出家の身には不要だってさ。豚は「じゃあ、その代わりに可愛い妹ちゃんと一晩。」とかほざいてたけど黙殺してやったよ。仕方ねえから家にあった爆竹をお礼に渡しといたんだ。

 どうやらおれが見たところ、あいつら三人の妖怪は美坊主を師と仰いでるみたいだった。凶悪そうな顔の妖怪三人を引き連れた美男子ってすごく怪しいだろう。絶対妖怪の親玉じゃないか。変化解いたらたぶん一番禍々しい姿になるやつだよ。

 そいつがさ、爆竹を持った猿と話してるんだよ。これすごい音がするんですよ、お師匠様泣いちゃうかもしれませんよ、とか猿がからかうんだ。私だって赤ん坊じゃないのだから爆竹で泣いたりするはずがなかろう、とか言い返してるんだけど、なんか二人でこそこそ話してるせいか怪しいんだよ。

 内容は普通の会話なんだぜ、だけどなんつーの、空気が甘いっつーかお互いを見る目が潤んでるっつーか。あぁ、これはアレだな、デキてんなって確信したわ。だって坊主だし。坊主を見たら生臭と思えってよく言うだろ?たぶん真の姿は禍々しくて残忍冷酷な坊主が、猿を下僕にしてピンク色のことを好き放題やってんだろ。どうせさ。

 そういや、そいつらが帰る時にな、「妹ちゃーん。」って叫ぶ豚を凶悪坊主が引きずっていったんだけど、俺の横を通る時に「めでたい正月に騒ぎ立てして申し訳ない。」ってそっと囁いて謝られたんだよな。なんかそれがちょっと低い声でぞくっとしたというか。俺そういうの嫌いじゃねえなって思ったつーか。いや、いやいやいや。俺は妹とはちげーから。あんな面食いの惚れっぽいアホとはちげーから。別に凶悪坊主の顔はイケメンでもなんでもなかったよ、まあ、苦みが走ったいい男と言えなくもないっつーか。いや、まあそんなことはどうでもいいんだ。

 ん?そうだな、来年もあいつら来てくれるといいよなあ。また儲かるのにな。


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