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第二部 第八章 推しがまさかの恋人に
推しがまさかの恋人に
玄奘宅から帰ってきて間もなく、インスタライブの打ち合わせ、雑誌やテレビのインタビュー応対に追われる。太上が会社名義で玄奘引退報道を否定したが、磁路も対応に追われている。
深夜になっても仕事は終わらない。
「今日は23時30分から新曲のカウントダウンインスタライブじゃ」
配信のためにスタジオへ向かう。夕食をとる時間もなかったので、食事をとりながらの配信が始まった。
八戒は用意された回鍋肉、青椒肉絲、小籠包、海老チリ、酢豚、ニラ玉などを次々に平らげていく。
悟空は火鍋の鍋奉行と化している。具材の煮立ちを見極めながら、鍋内の位置取りを調整している。適度に煮られた具を玄奘と悟浄の皿にも取り分けてやる。
八戒は放っておいても食べるので取りすぎないよう注意するのみである。
「こんな時間に食べては……とは思いますが、さすがに空腹ですね」
「空きっ腹に急に辛いものを入れては良くないでしょう。別のものからどうぞ」
あらかじめ八戒のものと分けてある他三人の食事から、悟空はライチを取って皮を剥く。そしてごく自然に玄奘の前に差し出す。
玄奘は悟空の手に持ったライチをそっとかじる。果汁が悟空の手に滴る。玄奘が食べ終えると、悟空は手を拭く前に自分の親指をぺろっと舐めた。
「極上、無自覚いちゃつきありがとうございます」「御苦情、なんで指舐めた」などとコメントが流れていく。
PCに表示されるコメントを読み上げるのは悟浄の役目である。取捨選択し、必要なコメントを選択する。
「Genjyo引退するの?とたくさん聞かれておる」
「はは……しませんよ。先程、会社から声明を出した通りです。絶対しません」
玄奘は朗らかに笑いながら答える。右手はそっと悟空の手を探す。クッションの下に隠れるようにして手を繋いだ。
今朝仲間が助けに来てくれるまではもう二度と戻れまいと思っていた自分の居場所。玄奘はここに座っていられることに安堵と感謝で満たされていた。
玄奘の手を悟空はぎゅっと握りかえす。
「Gokujoの手がどこいった、だって?おいおい、兄貴たち、隠れてんじゃねえよお」
八戒がクッションを取り上げる。二人が手を繋いでいることが丸見えになる。
配信画面ではちょうど手の位置が手前のテーブルに隠されており、「手ほんとにつないでる?」「はっきり見せて」というコメントが次々に流れていく。
スクショで連写して、ちらっと映った二人の手つなぎを拡大してタイムラインに載せる猛者もいる。
「ちょっと……おい、バカッ」
「恥ずかしいです」
「いいじゃん、二人は仲良しなんだろ?ほら、手をつないでたら飯食えないじゃん。いいから食べなって」
八戒は回鍋肉を皿ごと抱え込みながら言った。
出来上がった火鍋を皆で囲みながらわいわい話しているうちに0時となり、MVが配信解禁となった。
ジャニ西もファンと一緒に改めて観ることとなる。新曲への歓喜と興奮あふれる殉教者たちのコメントが流れていく。
「Genjyo、乗馬慣れてそう」というコメントには、玄奘が「いえ、初めてだったのです。一度落馬しそうになったのですが、悟空が助けてくれました」と答えてから悟空と目を合わせて二人で微笑んだ。極上推しの殉教者から言葉にならない呻き声のようなコメントが押し寄せる。
「chan-Buta牛丼うまかった?」というコメントには、「うまかった。他にもいろんな食い物あって良い場所だった」と八戒が答え、悟浄がそつなく「今まで競馬場に足を運んだことがない者も遊びに行ってみるといい」とキャンペーンソングとして適切な誘導を行う。
MVが終わった瞬間、待ち構えていたように八戒は言った。
「これさ、俺気づいちまったんだけどさ、有金すっちまったソングとして聴いてみてよ。最後の涅槃の境地が、全部すっちまったけどまあ仕方ねえか~って思えるから」
(言っちゃった……)と八戒以外の三人は思う。
殉教者たちの受け取り方は様々で「たしかにそう聞こえるかも」という声もあれば、「もっと高尚な曲に聞こえるよ」という提案もある。
突然玄奘のスマホが鳴り、それを預かっていた磁路が澄ました顔でそそくさと画角内に出て行って玄奘に手渡す。
顔の良い磁路マネージャーにも一定のファンがついているため「マネきた。すぐ去るw」、「いつもお美しい」と反応するコメントが流れる。
玄奘は怪訝な顔で通話に出る。
「あの、配信中なのですが……、え?玉竜?」
電話の向こうの玉竜は怒り狂って電話をしてきたようだった。
「八戒に代われと言ってます」
「わりーわりー、言うの我慢しようとは思ってたんだぜ?でもやっぱりMV見ちゃうと我慢できなくなってさ」
スマホを玄奘から手渡された八戒は蛙の面に水である。謝る様子もない。
「ん?なんだって?お前の言う言葉を俺が繰り返して配信に乗せればいいんだな?そのくらい言ってやるよ」
八戒は玉竜の言葉を聞きながら一言ずつ繰り返していく。
「この曲は、天才の、玉竜様が、書いた、すばらしい、曲です。すばらしい曲というのは、解釈がさまざまに、分かれるものです。ですが、この豚の解釈が合っている、と思う方は、脳味噌が豚レベルです。……ひでえ言いようだな」
「この曲はとても良い曲だよ。ありがとう、玉竜のおかげだ。殉教者の皆さんにもきっと伝わっているから安心して良いよ」
玄奘が画面の向こうにいる玉竜に話しかける。
玄奘と玉竜は学生時代からの友人である。普段聞けないラフな話し方の玄奘に殉教者たちは自分に話しかけられたようで歓喜して興奮のコメントを投げている。にこにこと自分に笑いかけてくるような玄奘はGenjyo推しでなくてもぐっとくるものがあった。あっという間に配信は終了した。
「では、見てくださった皆さん、ありがとうございます。明日、というか今日は音楽番組で新曲も披露しますのでそちらもチェックしていただけると嬉しいです」
ジャニ西は皆で手を振った。
締めの挨拶をしたものの、PC画面はまだ流れていることに気付いた悟浄は磁路を見るが、当のマネージャーはウインクをして平然としている。
磁路はメンバーに声をかけた。
「さあ、朝も早いのですぐに休んだ方が良い」
「こんなに食べたばかりですぐ寝れっかなあ」
八戒は腹をさすりながら言う。
「オメーはいつも食っちゃ寝してるじゃねえか。さすがに寝る前に歯ぐらい磨けよ」
ジャニ西にとってはいつものやりとりだが、「あれ?配信切り忘れてる?」、「素のジャニ西見れて嬉しいけど大丈夫かな」とコメントが流れていく。
磁路はわざと配信を切り忘れた演出をしているらしい、と理解した悟浄は黙ってPCを見つめている。あまりにもマズいことを八戒が口にすればその瞬間に配信を切れるよう、マウスに手をかけたままにしておく。
深夜になっても仕事は終わらない。
「今日は23時30分から新曲のカウントダウンインスタライブじゃ」
配信のためにスタジオへ向かう。夕食をとる時間もなかったので、食事をとりながらの配信が始まった。
八戒は用意された回鍋肉、青椒肉絲、小籠包、海老チリ、酢豚、ニラ玉などを次々に平らげていく。
悟空は火鍋の鍋奉行と化している。具材の煮立ちを見極めながら、鍋内の位置取りを調整している。適度に煮られた具を玄奘と悟浄の皿にも取り分けてやる。
八戒は放っておいても食べるので取りすぎないよう注意するのみである。
「こんな時間に食べては……とは思いますが、さすがに空腹ですね」
「空きっ腹に急に辛いものを入れては良くないでしょう。別のものからどうぞ」
あらかじめ八戒のものと分けてある他三人の食事から、悟空はライチを取って皮を剥く。そしてごく自然に玄奘の前に差し出す。
玄奘は悟空の手に持ったライチをそっとかじる。果汁が悟空の手に滴る。玄奘が食べ終えると、悟空は手を拭く前に自分の親指をぺろっと舐めた。
「極上、無自覚いちゃつきありがとうございます」「御苦情、なんで指舐めた」などとコメントが流れていく。
PCに表示されるコメントを読み上げるのは悟浄の役目である。取捨選択し、必要なコメントを選択する。
「Genjyo引退するの?とたくさん聞かれておる」
「はは……しませんよ。先程、会社から声明を出した通りです。絶対しません」
玄奘は朗らかに笑いながら答える。右手はそっと悟空の手を探す。クッションの下に隠れるようにして手を繋いだ。
今朝仲間が助けに来てくれるまではもう二度と戻れまいと思っていた自分の居場所。玄奘はここに座っていられることに安堵と感謝で満たされていた。
玄奘の手を悟空はぎゅっと握りかえす。
「Gokujoの手がどこいった、だって?おいおい、兄貴たち、隠れてんじゃねえよお」
八戒がクッションを取り上げる。二人が手を繋いでいることが丸見えになる。
配信画面ではちょうど手の位置が手前のテーブルに隠されており、「手ほんとにつないでる?」「はっきり見せて」というコメントが次々に流れていく。
スクショで連写して、ちらっと映った二人の手つなぎを拡大してタイムラインに載せる猛者もいる。
「ちょっと……おい、バカッ」
「恥ずかしいです」
「いいじゃん、二人は仲良しなんだろ?ほら、手をつないでたら飯食えないじゃん。いいから食べなって」
八戒は回鍋肉を皿ごと抱え込みながら言った。
出来上がった火鍋を皆で囲みながらわいわい話しているうちに0時となり、MVが配信解禁となった。
ジャニ西もファンと一緒に改めて観ることとなる。新曲への歓喜と興奮あふれる殉教者たちのコメントが流れていく。
「Genjyo、乗馬慣れてそう」というコメントには、玄奘が「いえ、初めてだったのです。一度落馬しそうになったのですが、悟空が助けてくれました」と答えてから悟空と目を合わせて二人で微笑んだ。極上推しの殉教者から言葉にならない呻き声のようなコメントが押し寄せる。
「chan-Buta牛丼うまかった?」というコメントには、「うまかった。他にもいろんな食い物あって良い場所だった」と八戒が答え、悟浄がそつなく「今まで競馬場に足を運んだことがない者も遊びに行ってみるといい」とキャンペーンソングとして適切な誘導を行う。
MVが終わった瞬間、待ち構えていたように八戒は言った。
「これさ、俺気づいちまったんだけどさ、有金すっちまったソングとして聴いてみてよ。最後の涅槃の境地が、全部すっちまったけどまあ仕方ねえか~って思えるから」
(言っちゃった……)と八戒以外の三人は思う。
殉教者たちの受け取り方は様々で「たしかにそう聞こえるかも」という声もあれば、「もっと高尚な曲に聞こえるよ」という提案もある。
突然玄奘のスマホが鳴り、それを預かっていた磁路が澄ました顔でそそくさと画角内に出て行って玄奘に手渡す。
顔の良い磁路マネージャーにも一定のファンがついているため「マネきた。すぐ去るw」、「いつもお美しい」と反応するコメントが流れる。
玄奘は怪訝な顔で通話に出る。
「あの、配信中なのですが……、え?玉竜?」
電話の向こうの玉竜は怒り狂って電話をしてきたようだった。
「八戒に代われと言ってます」
「わりーわりー、言うの我慢しようとは思ってたんだぜ?でもやっぱりMV見ちゃうと我慢できなくなってさ」
スマホを玄奘から手渡された八戒は蛙の面に水である。謝る様子もない。
「ん?なんだって?お前の言う言葉を俺が繰り返して配信に乗せればいいんだな?そのくらい言ってやるよ」
八戒は玉竜の言葉を聞きながら一言ずつ繰り返していく。
「この曲は、天才の、玉竜様が、書いた、すばらしい、曲です。すばらしい曲というのは、解釈がさまざまに、分かれるものです。ですが、この豚の解釈が合っている、と思う方は、脳味噌が豚レベルです。……ひでえ言いようだな」
「この曲はとても良い曲だよ。ありがとう、玉竜のおかげだ。殉教者の皆さんにもきっと伝わっているから安心して良いよ」
玄奘が画面の向こうにいる玉竜に話しかける。
玄奘と玉竜は学生時代からの友人である。普段聞けないラフな話し方の玄奘に殉教者たちは自分に話しかけられたようで歓喜して興奮のコメントを投げている。にこにこと自分に笑いかけてくるような玄奘はGenjyo推しでなくてもぐっとくるものがあった。あっという間に配信は終了した。
「では、見てくださった皆さん、ありがとうございます。明日、というか今日は音楽番組で新曲も披露しますのでそちらもチェックしていただけると嬉しいです」
ジャニ西は皆で手を振った。
締めの挨拶をしたものの、PC画面はまだ流れていることに気付いた悟浄は磁路を見るが、当のマネージャーはウインクをして平然としている。
磁路はメンバーに声をかけた。
「さあ、朝も早いのですぐに休んだ方が良い」
「こんなに食べたばかりですぐ寝れっかなあ」
八戒は腹をさすりながら言う。
「オメーはいつも食っちゃ寝してるじゃねえか。さすがに寝る前に歯ぐらい磨けよ」
ジャニ西にとってはいつものやりとりだが、「あれ?配信切り忘れてる?」、「素のジャニ西見れて嬉しいけど大丈夫かな」とコメントが流れていく。
磁路はわざと配信を切り忘れた演出をしているらしい、と理解した悟浄は黙ってPCを見つめている。あまりにもマズいことを八戒が口にすればその瞬間に配信を切れるよう、マウスに手をかけたままにしておく。
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