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第八話

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 そんな事を考えていると「おーい!」と言う元気な男子の声が聞こえる。
蒼太くんだ!

「蒼太くん、おはよう。司くんも」
蒼太くんは相変わらず活発な感じだが司くんは元気が無さそうだ。

「陽太くん、居なくなったんだってね。見つかりそう?」
私は司くんに元気を出して欲しくて声を掛ける。

「いいや、全然見つかりそうに無い。そもそもこの島に居るかどうかも……」
司くんは顔を伏せる。
どうやら私が帰って元気を無くしてしまった様だね。

「やっぱりあの陽太なら泳いでどこかの島に行ったんじゃないか?」
蒼太くんはどうやら軽く考えているようだ。
そんな蒼太くんに司くんは強く反応する。

「陽太に限ってそんな事、絶対有り得ない! 僕に黙って居なくなるなんて……誰かに誘拐されたとかっ……」
うーん、この島で誰か誘拐出来るのかなぁ。そもそも何で誘拐を?

「誰が誘拐するんだよ! 絶対自分からどっか行ったんだって」
蒼太くんも反抗する。司くんからしてみればキツイご回答。

「まぁまぁ、創ちゃんも交えて話し合いをしたらどうかなぁ?」
私は蒼太くんを抑え込ませて落ち着かせる。
どうしても創ちゃんは自分から動かないらしいからね。

「なら本田さんの所へ連れて行ってもらおうか」
司くんは頭を抱えながらもきちんと落ち着いているようだ。

 私は蒼太くんと司くんを引き連れて創ちゃんの元へ向かった。
ん? あそこに居るのは創ちゃんかなぁ? ヤシの木の下で蹲っている。

「おーい、本田!」
蒼太くんは創ちゃんを大声で呼ぶ。

「どうやら本田さんは泣いているみたいだね。あの様子を見る限り」
司くんは私にひっそりと言って来る。

 うん、どう見ても泣いてる。あんなの、まるでアニメ見たい。
でもどーして泣いてんだろ~?
あ、まさか私のせいとか……?

「創ちゃん、大丈夫?」
私は創ちゃんを心配している風に話す。
風じゃ無かった。
私は創ちゃんを心配して話し掛ける。

「世衣加ちゃん?」
創ちゃんは顔を上げ、私の名前を呼ぶ。
その目には大粒の涙が今にも零れ落ちそうな位沢山溜まっている。

「創ちゃん、どうして泣いてたの?」
私は幼稚園の先生に成った気分で問いかける。

「この島でぇ、皆居なくなっててぇ、世衣加ちゃんも居なくなって私も一人になったからぁ、消えちゃうんじゃないかって思ってぇ……」
段々と創ちゃんの顔は閉ざされていく。

「そんな風に思ってたんだ。私、創ちゃんの事も考えないで陽太くんを探しに行くって暴走しちゃってごめんね」
私は浅く頭を下げて謝る。

「泣いてる所、悪いんだけどね。実はまだ陽太くん見つかって無いのよ。だからちょっと皆で話し合いしようかなって」
創ちゃんはコクっと頷き、私の手に引かれて起き上がる。

「ところで今って何時なのぉ?」
涙を手で拭いながら創ちゃんが聞いてくる。

「うーん、私はいつも絶対七時に起きるからそれから約二時間経ったとすれば九時位かなぁ」

 私がそう言うと創ちゃんは地面にバタッと崩れ倒れる。
「どうしたの!? どこか痛いの!?」
私は先に司くん達の方へ向かって行ったが創ちゃんの方へ駆け戻る。
すると創ちゃんは手を地面に付けたまま首をブンブン振る。

「いつも見てるドラマがぁ……最終回だったのぉ。……なのに見過ごしちゃったぁ……」
跡切れ跡切れに創ちゃんは声を絞り出している。

「朝七時半からのいつものドラマ……」
私も見てた……。こんな事で見過ごすなんて悲しい……。

「まぁまぁ、元気を取り戻して!」
私は創ちゃんを励ます。
私が言って励ませる様な子じゃ無いけど。
……それにここまでショックを受けてるし。
「うん、頑張るぅ~……」

 ていうか頑張るって何を? と思いつつ創ちゃんの手を引く。
「遅いぞ!」という蒼太くんの声が聞こえてくる。
もー、こっちにも色々事情があるんですから。

 
「さぁ、メンバーが揃った所で話し合いを早速」
司くんは気が早い。

「何を話し合うのよぉ」
創ちゃんは大きな丸太に座る。

「えっとね、今後についてとSOSと食料に関する問題とか?」
私は司くんに提案する。

「そうだな! 食べ物が欲しいぞ!」
まぁ食べるのが生き甲斐の人には到底信じられない出来事でしょうね。
でも十分お腹が空いている。お腹が空き過ぎてお腹が痛い気がする。
それと脱水症状がかなり厳しいかなぁって思ってたけどそうでも無いかも。

「お腹空いててるけどぉ、全然飲み物は摂取したいと思ってないわよねぇ」

「そうだね。どうやら水分はそこまで補給は急がないで良さそうだ。だがいつ脱水症状に成ってもおかしくはない。食べ物と一緒に補給方法を考えないと」

 司くんは手で顔を扇いでいる。
「相変わらず暑いなぁ」

 私も司くんのマネをして風をと手で顔を扇ぐ。
でも顔を手で扇いでも涼しいとは感じないね。
ん? 扇いでも涼しくない?
そもそもそこまで暑くない気がする。
もともと快適で涼しくて暑くないんじゃぁ……。
ここでは食べた物を食べたと思っても食べてないし水も飲んだと思っても飲めてない……。
じゃあ暑いと思ってても暑くないんじゃぁ……。

「皆、私、とっても重大な事実について分かった気がするの」
何だ何だと皆は私の方を見る。大注目! 的な。

「皆、今、暑い?」
皆がそりゃそうだろと言わんばかりにうんうん頷く。

「でも、本当に暑いの? 手で風を扇いでみて」
皆が手を出して風を扇ぐ。

「やっぱり手で風を扇いでみた方が涼しくないか?」
司くんは扇ぎ続けながら言う。

 だが私はそれに対して「ううん」と続ける。
「皆そう思ってるだけ。食べ物の時と同じ。涼しくなったと思ってるだけ」
皆は食べ物の事実を知った時と同じ様に驚く。

「そんな事あるのかなぁ?」
私は皆に問う。

「だって体はクーラーに当たった時の様に涼しい気がするよ。暑くないと念じてみてよ」
皆は目を閉じて暫く静かにする。

「本当だ。そんなに暑くない。むしろ学校より涼しい」
司くんは驚いて目を開く。

「ね? だから私はここは本当に存在するのかって考えてるのよ」

「本当に存在しているのかってぇ、痛いから夢でも無いでしょ~? じゃあ何だってのよぉ」
創ちゃんは不思議そうだ。
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