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3話 森と少女
5.歓迎
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しばし歩くとやがて森を抜け、ネリの村が見えてきた。
村の入口には、数人の大人が立っている。なにやら、森の中に入るか否かで揉めているようだ。
「あ…お父さん、お母さん…!」
背中でネリが声を上げ身じろぎしたため、セノンは彼女を地面に下ろす。
いつの間にか足に力も戻っていたようで、両親の元へ駆けていく。
揉めていたのがネリの両親だと分かり、すぐに揉めていた原因をセノンは察した。娘を探しに森に入ろうとしていたのだろう。
両親はすぐに彼女に気づき、叱りの言葉をかけながらも身の無事を喜んでいる。
「ダメだろう、魔獣が増えているのに森に入ったら…!」
「ごめんなさい…でも、でもね、『希望の勇者』様が助けてくれたの!」
娘の言葉に、両親は驚く。
そしてゆっくり近づいてきていたカイオとセノンに気が付いた。
「こんにちは。今回の討伐依頼を受けて参りました、カイオ・エミトと申します。こちらは私のお仕えするセノン・ラグウェルです」
カイオの紹介に合わせ、セノンは頭を下げる。今のところ、このような折衝はカイオの役目だ。
「あなた方が、あの有名な…」
「村に寄る予定はなかったのですが、諸事情により寄らせていただきました。少し、このあたりの土地や最近のことについて伺いたいのですが」
「しょ、少々お待ちください。長を呼んできます」
「ああいいです、私を連れて行って下さい。…セノン様、少し休んでいて下さい」
カイオはそうセノンに言い残すと、ネリの両親と共に村の奥に歩いていく。
セノンは自分から案内を申し出たネリに連れられ、村の寄り合い所のようなところへ案内された。
だがセノンたちのことを聞きつけたらしく、多くの村人が途中で何度もセノンの前に姿を見せ、声を掛けてきた。
内容は「会えて光栄です」「魔獣討伐頑張ってください」「どうか村を助けてください」といった短い応援や懇願がほとんどだったが、十数人に繰り返し言われ、そのたびに簡単な反応を返していれば幾らかの手間にはなる。
ようやく寄り合い所に辿り着いたセノンは、思わずふうと息を吐く。
「ごめんなさい…みんな、勇者様に会えたのが嬉しいみたいで…でもやっぱり、人気者ですね」
申し訳なさそうに、でもどこか嬉しそうにネリは謝る。
「まあ、あのくらいなら嫌ではないけど…」
ある程度大きな街であれば、そこまでセノンたちは騒がれたりもしない。
有名で人気があるとはいえ一介の討伐者に過ぎず、過剰に持てはやされるほどではない。
だが今回のような、小さく、常に魔獣の危機に晒されているような村では、それこそセノンはちょっとした英雄のような扱いを受けることが多い。
普段の町中でも感じることで、「勇者」として応援されることに嬉しさと感謝の気持ちはあるが、正直言ってその「期待」が重荷になることも多々ある。
それに大抵において、彼らは「自分たちが利を得るためにセノンが苦労することを期待する」だけなのだ。
応援するといっても、彼らはセノンに何かしてくれるわけではない。
たまにちょっとしたサービスはしてもらえることはあるが、それだけだ。
自分は自分と故郷のために魔獣を狩りお金を稼いでいるだけで、彼らがそれに勝手に期待を抱いているだけだと理解はしていても、時々嫌になる瞬間がある。
「ちょっとわたし、飲み物取ってきますね」
「あー…ごめん、出来れば少し一緒にいてくれないかな。周りの人がちょっと…」
ネリが寄り合い所から離れようとしたところで、セノンが引き止めた。
寄り合い所は東屋のように周囲からは丸見えになっており、少し離れた周囲には多くの人が集まりつつある。
物珍しさから遠巻きにセノンを見ているが、今一人にされるとまた質問やら期待の声やらで押しつぶされてしまいそうな気がして、セノンは辟易していた。
「わ、わたしでよければ…!」
それにネリは嬉しそうに答え、顔をほころばせる。そこからはたわいのない話で時間をつぶした。
やがて、たいした時間も経たぬうちにカイオが戻ってきた。
「どうだった?カイオ」
自然と割れた人の間を抜け、寄り合い所に辿り着いたカイオへ、セノンは前置きもそこそこに尋ねた。出来ればさっさとこの場を離れたい。
「そこまで細かな情報はありませんでしたが、魔獣目撃地点の情報などは教えてもらえました。思ったより数がいるようですね」
「ふぅん…じゃあ、これからまた狩りに行く?」
セノンの問いかけに対し、しかしカイオは首を横に振る。
「いえ、どうもこの森は暗くなるのが早いらしいので、やめておきましょう。今から魔獣出没ポイントまで行ってもあっという間に暗くなって、大した成果も得られずとんぼ返りするのがオチです」
まだ日が弱くなり始めた程度の時間だが、カイオはそう答えた。
得た情報から、今日は切り上げるべきと判断したようだ。
その判断にセノンは異を唱えない。カイオの判断に間違いはないと信じていた。
「じゃあ、これからどうする?町まで戻るの?」
「ここに泊めてもらいます。村に宿はないようですが、村長が寝床を手配してくれるということでしたので、ご厚意に甘えましょう。町に戻るより朝ここから出る方が手間が省けますので、今日は早めに休んで明日早朝から再開します」
丁寧な説明に、セノンは反論もなく頷いた。その話を聞いて、大層喜んだのは他でもないネリだ。
「やった!わたし、みんなのお手伝いしてきます!」
幼い少女は体全体から喜びを溢れさせ、表情を弾ませる。
言葉と共に、居ても立っても居られないといった様子で、ネリは勢い良く飛び出していった。
「随分と懐かれたようですね。まあ、元気になったのは良いことです」
「うん、まあ…そうだね…」
カイオの言葉に、セノンはきまり悪く言葉を濁す。
妹が出来たようで悪い気持ちではなかったが、改めて第三者から指摘されるとちょっと恥ずかしい。
少しの間お茶を貰って二人で休んでいると、寝床の準備が出来たと声を掛けられる。
案内されて足を運ぶと、そこは今は使われていない小さな倉庫小屋だった。
三軒並ぶうち真ん中の一軒だけは現在も使用しているらしく、両脇の二軒が二人に貸し与えられた。
久々に一人で部屋が使えるのと、カイオと少し距離が離れているのをこっそりセノンは喜んだ。
すぐ隣とかだと、下手するとカイオが忍び込んで来かねない。
「じゃあカイオ、またあとで」
「はい」
夕食も振舞ってもらえるということで、少なくともその時にはまた顔を合わせる。
言葉と共にセノンはカイオと一旦別れ、与えられた小屋に入った。
「これ…下手すると、その辺の安い宿屋より快適かも…」
小屋に入って荷物を下ろしながら、セノンは思わずそう呟く。
小屋は比較的しっかりした作りな上に、定期的に手入れがされているらしく中は小奇麗だ。
住民たちが運び込んだらしく、簡素なベッドや敷物、小さなテーブル、ちょっとした果物まで置いてある。
小さい小屋といっても安い部屋よりはだいぶ広く、一晩を明かす分には十分すぎる。
(さて、どうしようかな…久々にカイオと稽古でもするか…?)
カイオと別れ小屋に一人になって、セノンは思案する。
寝てしまおうとすれば寝られるが、さすがに時間が早い。
とりあえず装備の点検でもしようかと思い、装備を外して荷物を整理する。
そこにノックの音が聞こえ、返事をするとネリが入ってきた。
村の入口には、数人の大人が立っている。なにやら、森の中に入るか否かで揉めているようだ。
「あ…お父さん、お母さん…!」
背中でネリが声を上げ身じろぎしたため、セノンは彼女を地面に下ろす。
いつの間にか足に力も戻っていたようで、両親の元へ駆けていく。
揉めていたのがネリの両親だと分かり、すぐに揉めていた原因をセノンは察した。娘を探しに森に入ろうとしていたのだろう。
両親はすぐに彼女に気づき、叱りの言葉をかけながらも身の無事を喜んでいる。
「ダメだろう、魔獣が増えているのに森に入ったら…!」
「ごめんなさい…でも、でもね、『希望の勇者』様が助けてくれたの!」
娘の言葉に、両親は驚く。
そしてゆっくり近づいてきていたカイオとセノンに気が付いた。
「こんにちは。今回の討伐依頼を受けて参りました、カイオ・エミトと申します。こちらは私のお仕えするセノン・ラグウェルです」
カイオの紹介に合わせ、セノンは頭を下げる。今のところ、このような折衝はカイオの役目だ。
「あなた方が、あの有名な…」
「村に寄る予定はなかったのですが、諸事情により寄らせていただきました。少し、このあたりの土地や最近のことについて伺いたいのですが」
「しょ、少々お待ちください。長を呼んできます」
「ああいいです、私を連れて行って下さい。…セノン様、少し休んでいて下さい」
カイオはそうセノンに言い残すと、ネリの両親と共に村の奥に歩いていく。
セノンは自分から案内を申し出たネリに連れられ、村の寄り合い所のようなところへ案内された。
だがセノンたちのことを聞きつけたらしく、多くの村人が途中で何度もセノンの前に姿を見せ、声を掛けてきた。
内容は「会えて光栄です」「魔獣討伐頑張ってください」「どうか村を助けてください」といった短い応援や懇願がほとんどだったが、十数人に繰り返し言われ、そのたびに簡単な反応を返していれば幾らかの手間にはなる。
ようやく寄り合い所に辿り着いたセノンは、思わずふうと息を吐く。
「ごめんなさい…みんな、勇者様に会えたのが嬉しいみたいで…でもやっぱり、人気者ですね」
申し訳なさそうに、でもどこか嬉しそうにネリは謝る。
「まあ、あのくらいなら嫌ではないけど…」
ある程度大きな街であれば、そこまでセノンたちは騒がれたりもしない。
有名で人気があるとはいえ一介の討伐者に過ぎず、過剰に持てはやされるほどではない。
だが今回のような、小さく、常に魔獣の危機に晒されているような村では、それこそセノンはちょっとした英雄のような扱いを受けることが多い。
普段の町中でも感じることで、「勇者」として応援されることに嬉しさと感謝の気持ちはあるが、正直言ってその「期待」が重荷になることも多々ある。
それに大抵において、彼らは「自分たちが利を得るためにセノンが苦労することを期待する」だけなのだ。
応援するといっても、彼らはセノンに何かしてくれるわけではない。
たまにちょっとしたサービスはしてもらえることはあるが、それだけだ。
自分は自分と故郷のために魔獣を狩りお金を稼いでいるだけで、彼らがそれに勝手に期待を抱いているだけだと理解はしていても、時々嫌になる瞬間がある。
「ちょっとわたし、飲み物取ってきますね」
「あー…ごめん、出来れば少し一緒にいてくれないかな。周りの人がちょっと…」
ネリが寄り合い所から離れようとしたところで、セノンが引き止めた。
寄り合い所は東屋のように周囲からは丸見えになっており、少し離れた周囲には多くの人が集まりつつある。
物珍しさから遠巻きにセノンを見ているが、今一人にされるとまた質問やら期待の声やらで押しつぶされてしまいそうな気がして、セノンは辟易していた。
「わ、わたしでよければ…!」
それにネリは嬉しそうに答え、顔をほころばせる。そこからはたわいのない話で時間をつぶした。
やがて、たいした時間も経たぬうちにカイオが戻ってきた。
「どうだった?カイオ」
自然と割れた人の間を抜け、寄り合い所に辿り着いたカイオへ、セノンは前置きもそこそこに尋ねた。出来ればさっさとこの場を離れたい。
「そこまで細かな情報はありませんでしたが、魔獣目撃地点の情報などは教えてもらえました。思ったより数がいるようですね」
「ふぅん…じゃあ、これからまた狩りに行く?」
セノンの問いかけに対し、しかしカイオは首を横に振る。
「いえ、どうもこの森は暗くなるのが早いらしいので、やめておきましょう。今から魔獣出没ポイントまで行ってもあっという間に暗くなって、大した成果も得られずとんぼ返りするのがオチです」
まだ日が弱くなり始めた程度の時間だが、カイオはそう答えた。
得た情報から、今日は切り上げるべきと判断したようだ。
その判断にセノンは異を唱えない。カイオの判断に間違いはないと信じていた。
「じゃあ、これからどうする?町まで戻るの?」
「ここに泊めてもらいます。村に宿はないようですが、村長が寝床を手配してくれるということでしたので、ご厚意に甘えましょう。町に戻るより朝ここから出る方が手間が省けますので、今日は早めに休んで明日早朝から再開します」
丁寧な説明に、セノンは反論もなく頷いた。その話を聞いて、大層喜んだのは他でもないネリだ。
「やった!わたし、みんなのお手伝いしてきます!」
幼い少女は体全体から喜びを溢れさせ、表情を弾ませる。
言葉と共に、居ても立っても居られないといった様子で、ネリは勢い良く飛び出していった。
「随分と懐かれたようですね。まあ、元気になったのは良いことです」
「うん、まあ…そうだね…」
カイオの言葉に、セノンはきまり悪く言葉を濁す。
妹が出来たようで悪い気持ちではなかったが、改めて第三者から指摘されるとちょっと恥ずかしい。
少しの間お茶を貰って二人で休んでいると、寝床の準備が出来たと声を掛けられる。
案内されて足を運ぶと、そこは今は使われていない小さな倉庫小屋だった。
三軒並ぶうち真ん中の一軒だけは現在も使用しているらしく、両脇の二軒が二人に貸し与えられた。
久々に一人で部屋が使えるのと、カイオと少し距離が離れているのをこっそりセノンは喜んだ。
すぐ隣とかだと、下手するとカイオが忍び込んで来かねない。
「じゃあカイオ、またあとで」
「はい」
夕食も振舞ってもらえるということで、少なくともその時にはまた顔を合わせる。
言葉と共にセノンはカイオと一旦別れ、与えられた小屋に入った。
「これ…下手すると、その辺の安い宿屋より快適かも…」
小屋に入って荷物を下ろしながら、セノンは思わずそう呟く。
小屋は比較的しっかりした作りな上に、定期的に手入れがされているらしく中は小奇麗だ。
住民たちが運び込んだらしく、簡素なベッドや敷物、小さなテーブル、ちょっとした果物まで置いてある。
小さい小屋といっても安い部屋よりはだいぶ広く、一晩を明かす分には十分すぎる。
(さて、どうしようかな…久々にカイオと稽古でもするか…?)
カイオと別れ小屋に一人になって、セノンは思案する。
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