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3話 森と少女
9.判断
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鮮血の飛び散る光景に、一人は顔を険しくし、一人は顔を青ざめさせる。
「セノン様!」
「うそ、そんな、勇者様…」
カイオはその間に、セノンの魔力と動きに気を取られた重量型魔獣に対し、上手く幻惑魔法をかけて時間を稼いでいた。
そのまま魔獣を放置し、セノンに駆け寄ってくる。
ネリはセノンの血しぶきを間近で服に浴び、目を見開き呆然としていた。
「っぐ、大丈夫、致命傷じゃない…このくらいなら、治せる…!」
セノンは胸に手を当て、回復魔法に魔力を集中させ始めた。
その様子に、カイオはひとまず安堵する。
直前で強化魔法の出力を引き上げていたため、肉体の頑強さが向上していたことが幸いした。
一方でセノンは、自分のミスに腹を立てていた。
鬼人と人間は足音が似ており、ここに鬼人はいないという思い込みから不自然な足音に警戒が足りなかった。
あの森には鬼人も多少住んでいるものの、敵対しあう重量級の魔獣がより村に近いエリアに生息しているため、村に接近することはなかったと聞いていた。
それがおそらく、重量級魔獣と同様に何らかの要因で村に引き寄せられたのだろう。
傷の痛みにセノンは顔をしかめる。
治せるとはいえ、結構深い傷のため少し時間がかかりそうだ。
「ごめん、ちょっとしばらく動けそうにない…カイオ、悪いけど…二匹目は、あっちから来るから…」
もう少し時間が経てば、すぐにもう一匹魔獣が現れる。
二対一の危機的な戦いを強いられるカイオに対し、セノンは二匹目の方向を指し示したあと、手を伸ばした。
「…仕方ありませんね。お任せ下さい」
カイオが伸ばされた手を掴むと、セノンは強化魔法を一気にカイオの体に流し込んだ。
次の瞬間、これまでとは比べ物にならないスピードでカイオは一匹目の魔獣に肉薄し、幻惑魔法の影響が抜けきる前にその首を洋剣でなで斬りにした。
強化された腕力で振るわれた斬撃は、目にも止まらぬ鋭さを持っていた。
「グエッ…?」
一匹目を仕留め、素早く新手の二匹目へ向かう。
民家の陰から顔を出した魔獣に対し、接近を気取られる前に素早くその首に洋剣を突き刺した。
しかしあと一歩で仕留めきれず、怒り狂った魔獣が暴れる。
「む…やはり厄介な硬さですね…おや」
カイオは洋剣が刺さったまま抜けなくなったことに気づき、剣から手を放し飛びずさった。
剣身の比較的薄いカイオの洋剣は、扱い方を誤ると折れやすい。
「カイオ!これ!」
声に振り向くと、状況を察したセノンが自分の剣を放り投げていた。
カイオはそれをキャッチすると一瞬足を止め、魔獣に幻惑魔法をかける。
そして隙を晒した魔獣に対して強化された脚力で素早く近づき、首を両断した。
強力な強化魔法により高い機動力と魔獣の肉体を切り裂ける腕力を得れば、カイオにとってはこんな一人二役も容易い。
「セノン様の剣は、私にはやはり少し重すぎますね…っと」
魔獣に近づき、洋剣を器用に引き抜きながらそう嘯く。
強化魔法の効力は既に切れていた。
セノンが普段使用するものより効果は低いが、持続時間は二分もない。
他者を相手取ったセノンの強化魔法は、なにより持続時間が短くなることがネックだ。
戦闘中に何度も触れてかけ直すわけにもいかない。
「ごめんカイオ、助かった…」
「傷はもういいのですか?」
「うん、治った。大丈夫」
セノンが立ち上がり、ネリの手を引いて近づいてくる。
大量の魔力と血液を同時に失ったせいで、言葉とは裏腹にやや顔色が悪い。
だがカイオは、気を張って虚勢でも口にできるうちは大丈夫だろうと判断した。
気持ちが体に与える影響は思う以上に強く、指摘してその気持ちを萎えさせるべきではない。
一方のネリは、あまりの衝撃に立て続けに晒されたせいか、ぽろぽろと涙をこぼし半ば放心して立っていた。
「カイオ、やっぱりカイオにも強化魔法かけよう。どうやら鬼人も少し入り込んでいるみたいだし、急いで殲滅したい」
セノンはカイオから剣を受け取り、魔獣の気配の方へ走りながらそう提案した。
カイオは走りながら少し思案する。
「…たしかにこの状況なら、悪くないとは思います。ただ素早い殲滅には効果的ですが、それ以上にセノン様の魔力消費が激しい。この後の住民の治療、それにひょっとしたらその後もセノン様の白魔法は必要になるかもしれません。極々弱くで構いません、魔力はなるべく温存するように」
セノンの様子から多少戦闘力が落ちることを想定し、カイオはそう意見を述べる。
セノンが動けなくなる分は、カイオが動くしかない。
「でも、その温存とか慎重策のせいで人が亡くなったら…!」
「魔獣や鬼人の動きはどうですか?」
問われ、セノンは離れた足音に意識を集中させる。
重量型の魔獣はすぐに判り、残り三匹とも住人を追うのをやめこちらに向かってきていると判断できる。
次いで鬼人の足音。
鬼人の足音は人に似ているが、集中すれば聞き分けられないこともない。
…というか、すぐに判った。
村の住人はまとまって村の外に避難し、重量型魔獣を挟んでセノンたちの反対側に固まっている。
それに対し、鬼人たちはそれに気づかず無人の民家を破壊し漁っていた。
全部で十匹程度だが、どれも避難先の人に向かいそうな様子はなく、近くに孤立し迷った人もいない。
「…確かに、このままなら大丈夫そうだ。カイオの言う通り、魔法を温存しながらなるべく急ごう」
「了解です」
冷静なカイオの判断に感謝しつつ、セノンは迅る気持ちを抑えて魔獣を目指した。
一方でカイオは、放心し手を握り込む少女を一瞥し、すぐ視線を前方に戻した。
「セノン様!」
「うそ、そんな、勇者様…」
カイオはその間に、セノンの魔力と動きに気を取られた重量型魔獣に対し、上手く幻惑魔法をかけて時間を稼いでいた。
そのまま魔獣を放置し、セノンに駆け寄ってくる。
ネリはセノンの血しぶきを間近で服に浴び、目を見開き呆然としていた。
「っぐ、大丈夫、致命傷じゃない…このくらいなら、治せる…!」
セノンは胸に手を当て、回復魔法に魔力を集中させ始めた。
その様子に、カイオはひとまず安堵する。
直前で強化魔法の出力を引き上げていたため、肉体の頑強さが向上していたことが幸いした。
一方でセノンは、自分のミスに腹を立てていた。
鬼人と人間は足音が似ており、ここに鬼人はいないという思い込みから不自然な足音に警戒が足りなかった。
あの森には鬼人も多少住んでいるものの、敵対しあう重量級の魔獣がより村に近いエリアに生息しているため、村に接近することはなかったと聞いていた。
それがおそらく、重量級魔獣と同様に何らかの要因で村に引き寄せられたのだろう。
傷の痛みにセノンは顔をしかめる。
治せるとはいえ、結構深い傷のため少し時間がかかりそうだ。
「ごめん、ちょっとしばらく動けそうにない…カイオ、悪いけど…二匹目は、あっちから来るから…」
もう少し時間が経てば、すぐにもう一匹魔獣が現れる。
二対一の危機的な戦いを強いられるカイオに対し、セノンは二匹目の方向を指し示したあと、手を伸ばした。
「…仕方ありませんね。お任せ下さい」
カイオが伸ばされた手を掴むと、セノンは強化魔法を一気にカイオの体に流し込んだ。
次の瞬間、これまでとは比べ物にならないスピードでカイオは一匹目の魔獣に肉薄し、幻惑魔法の影響が抜けきる前にその首を洋剣でなで斬りにした。
強化された腕力で振るわれた斬撃は、目にも止まらぬ鋭さを持っていた。
「グエッ…?」
一匹目を仕留め、素早く新手の二匹目へ向かう。
民家の陰から顔を出した魔獣に対し、接近を気取られる前に素早くその首に洋剣を突き刺した。
しかしあと一歩で仕留めきれず、怒り狂った魔獣が暴れる。
「む…やはり厄介な硬さですね…おや」
カイオは洋剣が刺さったまま抜けなくなったことに気づき、剣から手を放し飛びずさった。
剣身の比較的薄いカイオの洋剣は、扱い方を誤ると折れやすい。
「カイオ!これ!」
声に振り向くと、状況を察したセノンが自分の剣を放り投げていた。
カイオはそれをキャッチすると一瞬足を止め、魔獣に幻惑魔法をかける。
そして隙を晒した魔獣に対して強化された脚力で素早く近づき、首を両断した。
強力な強化魔法により高い機動力と魔獣の肉体を切り裂ける腕力を得れば、カイオにとってはこんな一人二役も容易い。
「セノン様の剣は、私にはやはり少し重すぎますね…っと」
魔獣に近づき、洋剣を器用に引き抜きながらそう嘯く。
強化魔法の効力は既に切れていた。
セノンが普段使用するものより効果は低いが、持続時間は二分もない。
他者を相手取ったセノンの強化魔法は、なにより持続時間が短くなることがネックだ。
戦闘中に何度も触れてかけ直すわけにもいかない。
「ごめんカイオ、助かった…」
「傷はもういいのですか?」
「うん、治った。大丈夫」
セノンが立ち上がり、ネリの手を引いて近づいてくる。
大量の魔力と血液を同時に失ったせいで、言葉とは裏腹にやや顔色が悪い。
だがカイオは、気を張って虚勢でも口にできるうちは大丈夫だろうと判断した。
気持ちが体に与える影響は思う以上に強く、指摘してその気持ちを萎えさせるべきではない。
一方のネリは、あまりの衝撃に立て続けに晒されたせいか、ぽろぽろと涙をこぼし半ば放心して立っていた。
「カイオ、やっぱりカイオにも強化魔法かけよう。どうやら鬼人も少し入り込んでいるみたいだし、急いで殲滅したい」
セノンはカイオから剣を受け取り、魔獣の気配の方へ走りながらそう提案した。
カイオは走りながら少し思案する。
「…たしかにこの状況なら、悪くないとは思います。ただ素早い殲滅には効果的ですが、それ以上にセノン様の魔力消費が激しい。この後の住民の治療、それにひょっとしたらその後もセノン様の白魔法は必要になるかもしれません。極々弱くで構いません、魔力はなるべく温存するように」
セノンの様子から多少戦闘力が落ちることを想定し、カイオはそう意見を述べる。
セノンが動けなくなる分は、カイオが動くしかない。
「でも、その温存とか慎重策のせいで人が亡くなったら…!」
「魔獣や鬼人の動きはどうですか?」
問われ、セノンは離れた足音に意識を集中させる。
重量型の魔獣はすぐに判り、残り三匹とも住人を追うのをやめこちらに向かってきていると判断できる。
次いで鬼人の足音。
鬼人の足音は人に似ているが、集中すれば聞き分けられないこともない。
…というか、すぐに判った。
村の住人はまとまって村の外に避難し、重量型魔獣を挟んでセノンたちの反対側に固まっている。
それに対し、鬼人たちはそれに気づかず無人の民家を破壊し漁っていた。
全部で十匹程度だが、どれも避難先の人に向かいそうな様子はなく、近くに孤立し迷った人もいない。
「…確かに、このままなら大丈夫そうだ。カイオの言う通り、魔法を温存しながらなるべく急ごう」
「了解です」
冷静なカイオの判断に感謝しつつ、セノンは迅る気持ちを抑えて魔獣を目指した。
一方でカイオは、放心し手を握り込む少女を一瞥し、すぐ視線を前方に戻した。
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