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4話 討伐者と美女
2.チャンス
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その美女を見た瞬間、思わずラケイルは息を呑んだ。
美女は細身のすらりとしたスタイルで、スカートから除く足が美しい。
涼し気な美貌は控えめだが程よく華やかな化粧で彩られ、なんとも言えない妖艶さを生み出している。
ラケイルとしてはもう少し胸がデカい方が好みだが、それを補って余りある美しい女性だ。
美女が黙って酒場の奥に向かって歩くと、周囲の男性客が歩みに合わせてざわざわと騒いだ。口笛を吹いたり、美女に向かって声をかけたり、下品な冗談や下卑た野次を飛ばす。
だが美女はそれらの一切を無視した。
颯爽とした迷いのない歩みだったこともあり、誰にも捕まらず店の奥までやってくる。
そしてそのままラケイルも座っているカウンター席に辿り着き…空いていた、ラケイルの隣の席に腰かけた。
容貌通りの透明感のある心地よい声で酒場の店主に酒を注文すると、店主は数秒呆けたように放心していた。
だがやがて慌てて注文された酒を美女に振舞う。
酒が出てくると、美女はなかなか強い酒を景気よく飲み始めた。
またとないチャンスが立て続けに転がり込んできたことにラケイルは内心で歓喜し、しかしそれを表情には出さない。
他の連中が寄ってくる前に、何気ない調子を装って隣の美女に声を掛けた。
「お姉さん、いい飲みっぷりだね。良かったら奢らせてくれない?」
「あら、本当ですか?嬉しいです。でも、変なお薬とかは混ぜないでくださいね?」
「そんなことしないさ」
ラケイルが声を掛けたことで、遠巻きに見ていた他の連中は舌打ちとともに大人しくなる。
それを横目に、にこやかに微笑みながら店主に酒を注文する。
奮発して、かなりいい酒を頼んだ。
この美女にちょっとでもお近づきになれるなら安いものだ。
それにこの酒は味はいいが、飲みやすさに反し実はアルコールがかなり強い。
「ありがとうございます。…おいしいですね」
「だろう?オレのオススメさ!どんどん飲んで!」
美女は出された酒を気に入ったようで、かぱかぱ飲む。
するとすぐに、わずかに頬に赤みがさすようになる。
悪くない反応に、ラケイルは内心でほくそ笑んだ。
その後もラケイルがにこやかに話しかけると、拒絶もされずそこそこに相手をされる。
手応えは悪くないが、いざ踏み込もうとするとのらりくらりとかわされる。
魚を捕まえようとすると、手からするりと抜け出されるのと似た感覚をラケイルは味わっていた。
美女の飲酒量が増えてきても流れは変わりそうにない。
恐ろしく酒を飲む女だ。
やがて高い酒代で手持ちの金が寂しくなってきたところで、やむなくラケイルは勝負を仕掛けることにした。
「お姉さん、楽しい人だね。気に入った!良かったらどこか違う店で、二人で飲み直さない?」
「ええ?どこにつれていくつもりですか?」
「決して変なところじゃないよ。ここ以外にも、いい酒を出す馴染みの店があるんだ」
ラケイルは思い切ってそう誘う。
他の顔なじみの店で、ツケやら女を囲うのに協力的な店がある。
そこに連れ込めれば、成功率はだいぶ高くなると踏んでいた。
「そんなこと言って、私に変なことするつもりでしょう?」
美女は意味ありげに薄く微笑みながら、そんなことを言う。
意を決して誘ってみたが、言葉とは裏腹に思ったより嫌な顔はされていない。
言った瞬間断られて席を立たれることも覚悟していたので、そのまま誘いを続ける。
「絶対にそんなことしないさ。きっと楽しめるよ」
「そうですね…どうしましょうかね…」
美女はまた酒を一口飲み、考え込むような仕草を見せる。
押すべきタイミングだと判断し、ラケイルは言葉を続ける。
「なぁどうだい?悪いようにはしないさ。きっと楽しいよ」
「分かりました。まあ、いいですよ」
思いがけない了承の返事に、ラケイルは思わず歓喜の雄たけびを挙げそうになる。
正直、ダメもとで誘ってみたのだが運が良かった。
背後の妬みの視線が一気に殺意を滾らせたものばかりになるが、それもとにかく気分がいい。
内心の興奮をひた隠し、紳士的に振舞おうとする。
最終的に宿に引っ張り込むまで、焦っては駄目だ。
「それじゃ…」
「ただし、条件があります」
喜び勇んで席を立ちあがりかけたラケイルを、美女の声が引き止めた。
「私、強い人が好みなんです。あなたがどれだけ強いのか、私に見せてみて下さい。それが出来たら、あなたの宿なりどこへだって、喜んでついていきますよ」
提示された条件を、ラケイルは内心でせせら笑った。
自分にとってはあってないような条件だ。
「なんだ、そんなこと!俺はこの町で一番強い男だぜ!?どんな野郎だろうと魔獣だろうと、あんたの為ならぶっ飛ばしてやるさ!」
思わず興奮して、意気揚々と宣言する。
クリアしたも同然の条件なため、もうすぐこの女に好き放題できるのかと思うと興奮してたまらなかった。
「へえ、町で一番強いんですか。…私、この町にいま噂の『希望の勇者』が訪れてるって聞いてるんですけど、彼より強いんですか?」
「ははっ、あんな小僧なんて!今日実際に会って話をしたんだが、ただのチビなガキだったぜ?俺の方が圧倒的に強いね!!」
ラケイルは美女の問いかけに、鼻で笑って答える。
どいつを女の目の前でぶっ倒すか考え、酒場を見渡した。
その姿を、美女は全く酒に酔っていない様子で、どこか冷ややかにじっと見ている。
「…そうですか。では、見せてもらいましょうかね」
美女は一部の隙も無い薄い笑みを浮かべながら、ポツリと呟いた。
その声は先ほどまでと比べ一段低くなり、どことなく女性らしくない。
しかし、興奮しきったラケイルの耳にはまるで聴こえていなかった。
美女は細身のすらりとしたスタイルで、スカートから除く足が美しい。
涼し気な美貌は控えめだが程よく華やかな化粧で彩られ、なんとも言えない妖艶さを生み出している。
ラケイルとしてはもう少し胸がデカい方が好みだが、それを補って余りある美しい女性だ。
美女が黙って酒場の奥に向かって歩くと、周囲の男性客が歩みに合わせてざわざわと騒いだ。口笛を吹いたり、美女に向かって声をかけたり、下品な冗談や下卑た野次を飛ばす。
だが美女はそれらの一切を無視した。
颯爽とした迷いのない歩みだったこともあり、誰にも捕まらず店の奥までやってくる。
そしてそのままラケイルも座っているカウンター席に辿り着き…空いていた、ラケイルの隣の席に腰かけた。
容貌通りの透明感のある心地よい声で酒場の店主に酒を注文すると、店主は数秒呆けたように放心していた。
だがやがて慌てて注文された酒を美女に振舞う。
酒が出てくると、美女はなかなか強い酒を景気よく飲み始めた。
またとないチャンスが立て続けに転がり込んできたことにラケイルは内心で歓喜し、しかしそれを表情には出さない。
他の連中が寄ってくる前に、何気ない調子を装って隣の美女に声を掛けた。
「お姉さん、いい飲みっぷりだね。良かったら奢らせてくれない?」
「あら、本当ですか?嬉しいです。でも、変なお薬とかは混ぜないでくださいね?」
「そんなことしないさ」
ラケイルが声を掛けたことで、遠巻きに見ていた他の連中は舌打ちとともに大人しくなる。
それを横目に、にこやかに微笑みながら店主に酒を注文する。
奮発して、かなりいい酒を頼んだ。
この美女にちょっとでもお近づきになれるなら安いものだ。
それにこの酒は味はいいが、飲みやすさに反し実はアルコールがかなり強い。
「ありがとうございます。…おいしいですね」
「だろう?オレのオススメさ!どんどん飲んで!」
美女は出された酒を気に入ったようで、かぱかぱ飲む。
するとすぐに、わずかに頬に赤みがさすようになる。
悪くない反応に、ラケイルは内心でほくそ笑んだ。
その後もラケイルがにこやかに話しかけると、拒絶もされずそこそこに相手をされる。
手応えは悪くないが、いざ踏み込もうとするとのらりくらりとかわされる。
魚を捕まえようとすると、手からするりと抜け出されるのと似た感覚をラケイルは味わっていた。
美女の飲酒量が増えてきても流れは変わりそうにない。
恐ろしく酒を飲む女だ。
やがて高い酒代で手持ちの金が寂しくなってきたところで、やむなくラケイルは勝負を仕掛けることにした。
「お姉さん、楽しい人だね。気に入った!良かったらどこか違う店で、二人で飲み直さない?」
「ええ?どこにつれていくつもりですか?」
「決して変なところじゃないよ。ここ以外にも、いい酒を出す馴染みの店があるんだ」
ラケイルは思い切ってそう誘う。
他の顔なじみの店で、ツケやら女を囲うのに協力的な店がある。
そこに連れ込めれば、成功率はだいぶ高くなると踏んでいた。
「そんなこと言って、私に変なことするつもりでしょう?」
美女は意味ありげに薄く微笑みながら、そんなことを言う。
意を決して誘ってみたが、言葉とは裏腹に思ったより嫌な顔はされていない。
言った瞬間断られて席を立たれることも覚悟していたので、そのまま誘いを続ける。
「絶対にそんなことしないさ。きっと楽しめるよ」
「そうですね…どうしましょうかね…」
美女はまた酒を一口飲み、考え込むような仕草を見せる。
押すべきタイミングだと判断し、ラケイルは言葉を続ける。
「なぁどうだい?悪いようにはしないさ。きっと楽しいよ」
「分かりました。まあ、いいですよ」
思いがけない了承の返事に、ラケイルは思わず歓喜の雄たけびを挙げそうになる。
正直、ダメもとで誘ってみたのだが運が良かった。
背後の妬みの視線が一気に殺意を滾らせたものばかりになるが、それもとにかく気分がいい。
内心の興奮をひた隠し、紳士的に振舞おうとする。
最終的に宿に引っ張り込むまで、焦っては駄目だ。
「それじゃ…」
「ただし、条件があります」
喜び勇んで席を立ちあがりかけたラケイルを、美女の声が引き止めた。
「私、強い人が好みなんです。あなたがどれだけ強いのか、私に見せてみて下さい。それが出来たら、あなたの宿なりどこへだって、喜んでついていきますよ」
提示された条件を、ラケイルは内心でせせら笑った。
自分にとってはあってないような条件だ。
「なんだ、そんなこと!俺はこの町で一番強い男だぜ!?どんな野郎だろうと魔獣だろうと、あんたの為ならぶっ飛ばしてやるさ!」
思わず興奮して、意気揚々と宣言する。
クリアしたも同然の条件なため、もうすぐこの女に好き放題できるのかと思うと興奮してたまらなかった。
「へえ、町で一番強いんですか。…私、この町にいま噂の『希望の勇者』が訪れてるって聞いてるんですけど、彼より強いんですか?」
「ははっ、あんな小僧なんて!今日実際に会って話をしたんだが、ただのチビなガキだったぜ?俺の方が圧倒的に強いね!!」
ラケイルは美女の問いかけに、鼻で笑って答える。
どいつを女の目の前でぶっ倒すか考え、酒場を見渡した。
その姿を、美女は全く酒に酔っていない様子で、どこか冷ややかにじっと見ている。
「…そうですか。では、見せてもらいましょうかね」
美女は一部の隙も無い薄い笑みを浮かべながら、ポツリと呟いた。
その声は先ほどまでと比べ一段低くなり、どことなく女性らしくない。
しかし、興奮しきったラケイルの耳にはまるで聴こえていなかった。
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