悩める勇者と偽り従者

無糖黒

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2話 鬼と色

6.過ち

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 女性たちに何度も話しかけられると、根は真面目なのでなし崩し的に会話に答えてしまう。 


「ねえ、魔獣ってどのくらいの大きさまでのがいるの?」 


 隣に座る、最初にセノンに気づいた女性がまた別のことをセノンに問いかける。 

 彼女はローザと名乗った。
 鮮やかな赤毛にウェーブをかけ、豊かな胸元を惜しげもなく晒す綺麗な女性だ。

 おそらく年はセノンより幾らか年上で、十代後半から二十代前半くらいだろうか。 


「うーん…僕は見たことないですけど、竜は体長十メートルを超えたり…」 
「セノン君が見たことある中だと?」 
「えっと…見たことあるのは、身長四メートルちょっとの牛頭の魔獣です」 
「四メートル!?それ、戦ったの?まさか、倒したの!?」 
「一応…二人がかりでですけど…」 
「ええ!?すごい!!」 


 セノンが答えると、ローザを中心に女性たちが姦しく盛り上がる。

 先ほどから会話の中心はローザとセノンで、他の女性はそれに追従する形だ。
 雰囲気を見る限り、普段から中心的な人物らしい。 


 その後もローザはどうやって凶悪な魔獣を倒したのかとか、セノンがどんなことが出来るのか等を聞きたがった。
 頭の良い女性らしく、会話を盛り上げ、女性慣れしていないセノン相手でもうまく喋らせた。

 セノンは気が付かなかったが、さりげなく話題を誘導されたり、言葉尻をフォローされたりしていた。 


(なんか、思った以上に盛り上がってる…?) 


 楽しそうにこちらの話を聞いてくれる女性たち相手に、少しずつセノンは気分が良くなってきた。

 自分がしたことをすごいすごいと褒めてくれるし、楽しそうに話を聞いてくれる。
 時折肩や手に触れてくるのも最初はびっくりして緊張してしまったが、なんだかそれにも慣れてきた。 

 正直、ちょっと楽しくなっていた。カイオのことを一切聞かれないのも嬉しい。 


(そんなに、悪いところじゃないのかも) 


 場が盛り上がると、次第にローザだけでなく他の女性と話したり、女性同士が話す時間も増える。

 そして、ふとした拍子にセノンは気付く。

 ローザは自身が会話の中心から外れセノンが別の女性と話し始めると、必ず女性ではなくセノンの顔をじっと見つめる。

 その時の表情は話しているときの楽しそうな顔とは違い、妙に色っぽい、熱のこもったトロンとした目でセノンのことを見ている。 

 それに気づいて視線をやると目が合い、花が咲くように笑いかけられてしまった。思わす顔を逸らし、伏せてしまう。 


(どうしよう、また恥ずかしくなってきた…) 


 そこで改めて、すぐ隣に座る女性が非常に魅力的で、扇情的な姿をしているのを思い出す。
 
 同時に、彼女の仕事も思い出す。
 すっかり忘れていたが、彼女は夜のお店で働く女性なのだ。 

 妙に胸がどきどきし、頭が熱っぽくなる。 


(あれ…なんか…?) 


 いつの間にか、頭がぼんやりし思考が纏まらなくなっているのを感じ、セノンは呻いた。 


「うぅん…?」 
「どうかした?眠たくなっちゃった?」 


 心配そうなローザの声に、セノンは半ば無意識ながらもゆるゆると首を振った。 

 そこまで眠い訳ではない。
 一応意識はある。
 このふわふわとして、夢の中にいるような感覚は、覚えがあるような… 


「ねえ、大丈夫…きゃっ!?」 


 ローザが心配してセノンの腕に手をやると、セノンの体はそのままローザに向かってもたれかかってきた。
 思わずセノンの頭を胸で受け止め、抱きとめる。 


「あーっ、セノン君がローザに甘えてる!可愛い!」 
「いいなー!うらやましい!」 
「甘えん坊ね!」 
「もう、そんなこと…あら?」 


 そこでローザはセノンの飲んでいたコップに気づく。
 いつのまにか、最初に飲んでいた果実水とは違うものを飲んでいる。そして理解した。 


「この子…間違ってお酒飲んじゃってる」 


 セノンは誤って、他の女性のために運ばれたものを飲んでいた。

 今この席にいる女性は甘くアルコールの弱いものしか飲んでいなかったので、違いに気付けなくても無理はない。 

 彼女たちにとってはジュース同然の飲み物でも、十四歳の少年にとってはアルコールだった。 
 酩酊したセノンに対し、しかし周囲の女性たちは慌てた様子もない。


「ええっ、酔っぱらっちゃったの?」 
「ほんとに子供なんだねー」 
「いいじゃん、今のうちに襲っちゃいなよ」 
「奥の部屋まだ空いてるはずだよー?やっちゃえやっちゃえ」 


 セノンが静かになったのをいいことに、他の女性たちがはやし立てる。
 だがセノンの耳にはろくに聞こえておらず、反応もない。 


「好き勝手言って…大丈夫?気分悪くない?」 
「ぅん…ふぁいじょふ…」 


 もはやセノンの口からはまともな言葉が出てこない。
 ローザが抱きとめながら優しく背中や頭を撫でると、セノンは気持ちよさそうにむき出しの肌に頬や額をこすりつけてくる。 

 それを、ローザは愛おしげな、扇情的な表情で受け入れた。

 他の女性の目につかないテーブルの下に手を伸ばすと、今まで触っていなかったセノンの太ももや腹のあたりを撫で始めた。
 途端に、セノンの体が強張る。 


「んっ…」 
「ああ、この子もうダメだわ。静かなところに連れて行って、介抱してあげないと」 
「えーもう終わりー?」 
「ほら、いいから解散解散。マスター、部屋借りるわね」 


 言葉で他の女性を席から立たせながら、ローザはするりと掌をセノンの服の裾から中に潜り込ませる。

 その様子は相変わらず他の女性からは見えないが、異様に慣れた手つきで艶めかしくセノンの腰回りを撫で、舌先で愛撫するかの如く少年の素肌を蹂躙した。 


「う…!」 
「あら、苦しそうね…今、楽にしてあげるからね。まずは服を緩めないと…」 


 言いながら、もう片方の手でセノンの服のボタンを手早く外していく。

 討伐者にしては細身の胸板が、少しづつ外気に晒されていく。
 露わになった胸板を、優しく指先でなぞる。 

 他の女性たちはその様子をもはや気にも留めず、「客捕まえに行かなきゃー」などと言いながら帰り支度をテキパキと進めている。 


「…さっさと奥連れてけよ。こんなところで手を出すな」 
「もう、分かってるわよ。あんまり可愛いからちょっとだけ…」 


 テーブルを片付けようと近づいたマスターが、小声でローザに話しかける。
 ローザが悪びれることなく小声で返事を返すと、マスターは呆れたように片付けもそこそこに離れていく。 


「う…」 
「ねぇ、可愛い勇者様。天国に連れて行ってあげる…見返りなんていらないわ。私を愛してくれれば…」 


 肌を撫でられ次第に息が荒くなるセノンに対し、ローザはうっとりと話しかけ…セノンの穿いているズボンのベルトに、手を掛けた。 


「セノン様、ここですか?」 


 しかしその瞬間、店の扉が開き端正な顔立ちの青年――カイオが店に入ってきた。
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