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#3.真珠-1-
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『弱い。情けない。醜い。』
そんなオメガが大嫌いだ。
そんな生き物存在しなくても良い。自分も含めて、オメガなんて滅べばいいと思う。
なのに皮肉にも、俺が愛した人は"オメガ"だった。
悠透の母親は女性のオメガ、父親は男性のアルファで番関係にあった。
悠透が十歳を迎えた数日後、性別検査を受けるとオメガだと分かった。
まだ幼かった悠透は、性別に関してあまり理解しておらず、自分がオメガであることに対して何の感情も湧かなかった。
ただ、父親も母親も残念そうにしていることだけは、幼いながらに気づいていた。
悠透には二歳離れた弟がいて、弟も十歳になった時、同じく検査を受けた。結果はアルファだったらしい。
その数日後、父は弟を連れて家を出て行った。
アルファの出生率は、アルファとオメガの組み合わせが非常に高く、アルファの子供が確実に欲しかった父は、オメガである母と番った。
そしてアルファの子供が産まれたことを理由に、オメガの母と悠透を捨てたのだ。
まあ、最低だとは思った。自分の子供を、番った相手を簡単に捨てていったんだから。
だけどそれよりも、置いてかれて泣き喚く母の姿を見て、
『醜い』
悠透はそう強く思った。
その時に理解した。オメガは醜く情けない生き物なのだと。
中学生のいつ頃だったかは忘れたが、気がつけば母親も悠透の前から姿を消していて、それからは祖父母に育ててもらっていた。
母親がいなくなって悲しさや寂しさなどはなく、むしろ少し心が軽くなったのを覚えている。
父がいなくなってからはいつも情緒不安定で、泣いたり怒って八つ当たりされたり、存在そのものを苛立たしく思っていた。
親の惨めな姿を見なくて済むのなら、いなくなってよかったとすら思った。
両親に少しも感謝などないが、まだ幼い俺に、オメガの立場を突きつけてくれたのはいい事だったのかもしれない。
そのおかげで、オメガだと思われぬよう、必死になることができたのだから。
父が出て行った次の年には悠透は中学生で、その頃からずっと、アルファだと偽って過ごしてきた。
必死に勉強をし、中学高校では成績上位を獲り続け、一位を獲ることも度々あった。加えて背も高く、顔も周りからチヤホヤされるくらいには良いと自覚している。
周囲の人間からは、当然のようにアルファとして扱われた。
もちろん、人前で発情したことは一度もない。
しかし他のオメガはそうもいかない。高校生で初めての発情期でもないのに、人前で発情してしまう人に対し、悠透は軽蔑の視線を向けていた。
悠透はそんなオメガとは、絶対に同じになりたくないと思った。そこらへんで馬鹿みたいに発情するオメガなんかと、同じ生き物だと思いたくなかった。
きっとオメガのほとんどが、
「オメガだから仕方ない」
「オメガは可哀想なんだ」
と、自らを諦めている。
人前で発情しているオメガを目の当たりにして、それがよくわかった。
しかしそんなものはただの言い訳である。
発情して犯されてるオメガなんて自業自得で、自分の管理が甘いからそうなる。
オメガ自身が変わろうとしなければ、いつまで経ってもオメガは馬鹿にされる。底辺で踏み潰され続けるんだ。
諦めきれない悠透からしてみれば、こうやってオメガを侮辱する他なかった。
大学生になれば一人でいる人も多く、誰かと行動する必要などはなかったし、悠透自身もその方が楽だと思っていた。
それなのに、どうしてもアルファの人たちと群れになって行動してしまう。
周りを見る限り、アルファの人はアルファ同士で群がる傾向にあった。
理由はたったそれだけのことだった。
俺はアルファなんだと、周りに認識させる為。この、まだ残る劣等感を拭う為。
わかってはいたが、アルファと一緒にいるからといって、アルファになれるわけではない。
周りのアルファは大体恋人がいて充実しているのに、悠透はそうもいかない。
アルファだと思われている為、女子に告白されることも多々あったが、もちろん全て断った。
隠して付き合ったところで、いずれはオメガだとバレるだろう。
それに相手が女のベータなら、子供を作れないから将来性がない。アルファだとしたらナメられる気がするし、自分が挿れられる側だと想像しただけで気に食わない。女のオメガなら、自分が挿れる側で子供を作れるが、オメガ同士なんて悠透からしてみれば地獄でしかなかった。
とにかくどの性別とも付き合うなんてことは考えられず、自分は一生一人で生きていくんだろうなと思った。
どんなに努力したって結局、自分はアルファでもベータでもなくて、他の奴らみたいに普通の幸せを手に入れることはできない。
劣等感を無くす為にアルファと一緒にいたはずが、待っていたのは現実だけを突きつけられる日々だった。
悠透はアルファに執着していて、アルファにはなりたいが、決して尊敬しているわけではない。
羨ましいのは立場だけで、人間性など魅力のかけらもない人で溢れかえっている。
ヒエラルキーがトップのくせして、ひとりでは何もできなかったり、ただ吠えて性別という武器でねじ伏せることしかできない奴らばかりだ。
悠透とよく一緒にいる人達も、性別を抜いてしまえば何も残らないような人間だった。
悠透の目にはアルファでさえもどこか醜く映り始め、この世界に少し失望した。
しかし、そんな悠透に気になる人ができた。
それは大学の学食に行くとたまに見かける、金髪の男だった。
たまに見かける人も、金髪の男もそれなりにいるのだが、その男だけが印象に残っていた。
金髪で、ガタイが良くて、少しキツめの顔立ちをしている。遠くだから正確には分からないが、背も結構高いと思う。
男はいつも一人でいるが、誰よりも堂々としていた。
偽りのアルファの俺なんかとは違う。俺の周りにいる、群れてるアルファとも全然違う。
誰もが憧れるアルファって、こういう奴のことを言うのだと思った。
周りからの印象なんて気にせず、好きなように生きているように見えて、この空間で一番輝いて見えた。
そんなオメガが大嫌いだ。
そんな生き物存在しなくても良い。自分も含めて、オメガなんて滅べばいいと思う。
なのに皮肉にも、俺が愛した人は"オメガ"だった。
悠透の母親は女性のオメガ、父親は男性のアルファで番関係にあった。
悠透が十歳を迎えた数日後、性別検査を受けるとオメガだと分かった。
まだ幼かった悠透は、性別に関してあまり理解しておらず、自分がオメガであることに対して何の感情も湧かなかった。
ただ、父親も母親も残念そうにしていることだけは、幼いながらに気づいていた。
悠透には二歳離れた弟がいて、弟も十歳になった時、同じく検査を受けた。結果はアルファだったらしい。
その数日後、父は弟を連れて家を出て行った。
アルファの出生率は、アルファとオメガの組み合わせが非常に高く、アルファの子供が確実に欲しかった父は、オメガである母と番った。
そしてアルファの子供が産まれたことを理由に、オメガの母と悠透を捨てたのだ。
まあ、最低だとは思った。自分の子供を、番った相手を簡単に捨てていったんだから。
だけどそれよりも、置いてかれて泣き喚く母の姿を見て、
『醜い』
悠透はそう強く思った。
その時に理解した。オメガは醜く情けない生き物なのだと。
中学生のいつ頃だったかは忘れたが、気がつけば母親も悠透の前から姿を消していて、それからは祖父母に育ててもらっていた。
母親がいなくなって悲しさや寂しさなどはなく、むしろ少し心が軽くなったのを覚えている。
父がいなくなってからはいつも情緒不安定で、泣いたり怒って八つ当たりされたり、存在そのものを苛立たしく思っていた。
親の惨めな姿を見なくて済むのなら、いなくなってよかったとすら思った。
両親に少しも感謝などないが、まだ幼い俺に、オメガの立場を突きつけてくれたのはいい事だったのかもしれない。
そのおかげで、オメガだと思われぬよう、必死になることができたのだから。
父が出て行った次の年には悠透は中学生で、その頃からずっと、アルファだと偽って過ごしてきた。
必死に勉強をし、中学高校では成績上位を獲り続け、一位を獲ることも度々あった。加えて背も高く、顔も周りからチヤホヤされるくらいには良いと自覚している。
周囲の人間からは、当然のようにアルファとして扱われた。
もちろん、人前で発情したことは一度もない。
しかし他のオメガはそうもいかない。高校生で初めての発情期でもないのに、人前で発情してしまう人に対し、悠透は軽蔑の視線を向けていた。
悠透はそんなオメガとは、絶対に同じになりたくないと思った。そこらへんで馬鹿みたいに発情するオメガなんかと、同じ生き物だと思いたくなかった。
きっとオメガのほとんどが、
「オメガだから仕方ない」
「オメガは可哀想なんだ」
と、自らを諦めている。
人前で発情しているオメガを目の当たりにして、それがよくわかった。
しかしそんなものはただの言い訳である。
発情して犯されてるオメガなんて自業自得で、自分の管理が甘いからそうなる。
オメガ自身が変わろうとしなければ、いつまで経ってもオメガは馬鹿にされる。底辺で踏み潰され続けるんだ。
諦めきれない悠透からしてみれば、こうやってオメガを侮辱する他なかった。
大学生になれば一人でいる人も多く、誰かと行動する必要などはなかったし、悠透自身もその方が楽だと思っていた。
それなのに、どうしてもアルファの人たちと群れになって行動してしまう。
周りを見る限り、アルファの人はアルファ同士で群がる傾向にあった。
理由はたったそれだけのことだった。
俺はアルファなんだと、周りに認識させる為。この、まだ残る劣等感を拭う為。
わかってはいたが、アルファと一緒にいるからといって、アルファになれるわけではない。
周りのアルファは大体恋人がいて充実しているのに、悠透はそうもいかない。
アルファだと思われている為、女子に告白されることも多々あったが、もちろん全て断った。
隠して付き合ったところで、いずれはオメガだとバレるだろう。
それに相手が女のベータなら、子供を作れないから将来性がない。アルファだとしたらナメられる気がするし、自分が挿れられる側だと想像しただけで気に食わない。女のオメガなら、自分が挿れる側で子供を作れるが、オメガ同士なんて悠透からしてみれば地獄でしかなかった。
とにかくどの性別とも付き合うなんてことは考えられず、自分は一生一人で生きていくんだろうなと思った。
どんなに努力したって結局、自分はアルファでもベータでもなくて、他の奴らみたいに普通の幸せを手に入れることはできない。
劣等感を無くす為にアルファと一緒にいたはずが、待っていたのは現実だけを突きつけられる日々だった。
悠透はアルファに執着していて、アルファにはなりたいが、決して尊敬しているわけではない。
羨ましいのは立場だけで、人間性など魅力のかけらもない人で溢れかえっている。
ヒエラルキーがトップのくせして、ひとりでは何もできなかったり、ただ吠えて性別という武器でねじ伏せることしかできない奴らばかりだ。
悠透とよく一緒にいる人達も、性別を抜いてしまえば何も残らないような人間だった。
悠透の目にはアルファでさえもどこか醜く映り始め、この世界に少し失望した。
しかし、そんな悠透に気になる人ができた。
それは大学の学食に行くとたまに見かける、金髪の男だった。
たまに見かける人も、金髪の男もそれなりにいるのだが、その男だけが印象に残っていた。
金髪で、ガタイが良くて、少しキツめの顔立ちをしている。遠くだから正確には分からないが、背も結構高いと思う。
男はいつも一人でいるが、誰よりも堂々としていた。
偽りのアルファの俺なんかとは違う。俺の周りにいる、群れてるアルファとも全然違う。
誰もが憧れるアルファって、こういう奴のことを言うのだと思った。
周りからの印象なんて気にせず、好きなように生きているように見えて、この空間で一番輝いて見えた。
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